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高木浩光@自宅の日記

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2010年02月13日

なぜGoogleストリートビューカメラ問題は嘘がまかりとおるのか

先月、日本弁護士連合会(日弁連)が、ストリートビューに関する意見書を発表しており、これについての記者会見が先日あったようで、ちらほら報道があった。

  • 多数の人物・家屋等を映し出すインターネット上の地図検索 システムに関する意見書, 日本弁護士連合会, 2010年1月22日

    第1 意見の趣旨

    1 (略)行政機関から独立した第三者機関によるプライバシー影響評価手続を経ることがない現状において,新たな地域への拡大は控えられるべきである。すでに公開されている地域においては,当該自治体の個人情報保護審議会において,下記の2(2)と同様の事後調査がなされるべきであり,その判断は尊重されるべきである。

    2 個人情報保護法,個人情報保護条例において,以下の改正がなされるべきであり,その改正までの間も,以下の運用改善がなされるべきである。

    (1) プライバシー保護の状況を調査監督し,プライバシー侵害のおそれのある行為については,当該行為者に対して是正勧告ができる,行政機関から独立性を持った第三者機関を設置すること。

    (2) 地図検索システムと連動させ,公表することを前提として,公道などの公共の場所において一定数以上の多数の人物の肖像や家屋等を網羅的に撮影しようとする者は,事前に第三者機関の意見を求めることとし,このような申請を受けた第三者機関は,プライバシー影響評価手続を実施し,肖像権・プライバシー権の制約の程度よりも,撮影・公表行為の必要性・社会的有用性の方が大きいかどうかについて事前に調査すること。

    (3) 第三者機関が設置されるまでの間,国が設置する消費者委員会や,地方自治体が設置する個人情報保護審議会等において,本件について対処すること。

    第2 意見の理由

    (略)

これについてどんな反応が出ているだろうかと、Twitter検索してみたところ、あまり反応がないなかで、以下の発言が目立っていた。

これは、密室でコントロールしたいということだろうか。

今回の日弁連の意見書の内容が、「開かれた公正な機関と手続きによってプライバシー影響評価を行うべき」という趣旨のものであるところ、それを真っ向から否定して、「日弁連に適うようコントロールするのが政策面でも有効」という。

この発言には続きがあり、

という。なるほど、たしかに、日弁連コンピュータ委員会が2008年の段階でグーグル株式会社に対して聴き取り調査をしたというのは、私もあるルートから耳にしていた。

しかし、日弁連コンピュータ委員会は、その聞き取り調査の結果を公表していないし、聞き取り調査を行った事実さえ表沙汰にしていない。やむを得ず内容を公表できない理由があったなら、その理由を公表すればよいはずなのに、それができないのだろうか。

「削除要請の対応状況とか……ちゃんと聞かないと」と言うけれども、実態を把握するうえで最も重要な、削除要請の件数と削除した件数、これさえいまだに明らかにされていないわけだけども、コンピュータ委員会では、それを内々に把握して問題なしと判断したというのだろうか。日弁連コンピュータ委員会が判断すれば国民に知らせる必要はないと?

続いて、もうひとつ似たような発言があった。

ハァ? 解像度を下げた? そんな発表はされていないし、私の見た限りでも解像度は下げられていない。

それどころか、以下の写真にあるように、昨年5月以降の新たな撮影では、欧州で使用されたのと同型のカメラで、これまでより数段高い解像度の写真が撮影されている*1。近々、このカメラで撮影された写真が掲載され始めるわけだが、どんな写真になるのかも公表されていない。

画面キャプチャ
この車にピンときたら・・・・・・, 王子印刷ブログ, 2009年9月17日

「グーグルは総務省の要請を受けて解像度を下げた」と、いったいどういう人が言っているのかとよく見ると、その総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の第一次提言で、ストリートビュー関係をとりまとめた「インターネット地図情報サービスWG」主査の森亮二弁護士だった。*2

インターネット地図情報サービスWG 構成員一覧

主査 森 亮二 英知法律事務所 弁護士
主査代理 上沼 紫野 虎ノ門南法律事務所 弁護士
構成員 石井 夏生利 情報セキュリティ大学院大学准教授
構成員 藤田 一夫 グーグル株式会社 ポリシーカウンシル
構成員 楠 正憲 マイクロソフト株式会社
構成員 島本 学 NTTレゾナント株式会社 企画部法務考査部門長
構成員 中川 譲 一般社団法人インターネットユーザー協会 理事

ということは、この新型カメラで撮影された写真は、解像度を下げて掲載することが秘密裏に約束されているのだろうか?

そういう約束を取り付けることができたとすれば、それは功績だと思うけれども、そういう交渉事を国民の前で行うのでなしに、密室で行い、公表もしないというのは、日弁連のいまどきの方向性とは真逆なのではないか?

今回の日弁連の意見書が提唱する、法に基づいたプライバシー影響評価手続きが、日本にも存在していたなら、事前に防げたことはあっただろうし、未だGoogleが回答を拒否して明らかにしていない、いくつもの点*3について開示させることもできたのではないか。

実際、東京都の個人情報保護審議会の席で講演したグーグル株式会社の藤田一夫ポリシーカウンシルは、諸外国のプライバシー(あるいはデータ)コミッショナーの一覧表をスライドに出して、「日本にはプライバシーコミッショナーが無いので事前調整しなかった」と発言している(2009年2月4日の日記)。

2008年にストリートビューがスタートし、2ちゃんねる掲示板等で不満の声が爆発したころ、グーグル社員は次のようにうそぶいていたという。

プライバシーに対するグーグル的感覚とは

ところで、高木さんが怒っているのは、(中略)この問題に関してグーグルの側がきちんと説明せず、まともな広報対応もおこなっていないことだ。(中略)

実際、私がグーグル社内の何人かの知人に聞いてみると、彼ら彼女らはこんなふうに話した。「プライバシーの感覚は、時代や国や世代によってどんどん変わっていくでしょう?」「たぶん今は受け入れられなくても、ストリートビューの利便性は絶対に受け入れられるし、現在の批判は一過性のもの」

プライバシー侵害?便利ツール?賛否両論のグーグル「ストリートビュー」, 佐々木俊尚のITインサイド・レポート, サイゾー 2008年10月号

グーグル株式会社は2008年夏、このケースであきらかに配慮を欠きすぎていた。初めから一定の配慮をしていればこんなことにはならなかったろう。

日本はいつも「全否定 vs 全肯定」のような言い合いしかしない。問題とされているのはどこなのか、事実を見ることもしないで、「否定する奴がおかしい」のような圧力をかけて全肯定する輩が湧いてくる

たしかにプライバシーの問題は難しい。明確に法で定めてしまえば融通のきかない規制になってしまいかねない。どこに妥当な落とし所があるか、個別の事案ごとに検討するしかないのかもしれない。だからこそ、法に基づいた権限でもって妥協点を探っていけるようにするべきで、それは国民に開かれた手順ですることではないのか。

今ではストリートビューに対して不満の声が少なくなっているが、これは、新たに公開された地域について問題のある写真があまり発見されなかったためだと思う。おそらく、掲載前に手作業でまずい写真を探して取り除いたのではないか*4。また、昨年9月に掲載開始された名古屋と新潟を見たところでは、東京や横浜と違って、非常に狭い道の写真は掲載しないように配慮されているように見受けられた。

日本社会は、今回もまた、結果オーライでよしとするのか。今後ふたたび別のことで同様の事態が起きるかもしれないのに。

昨日参加した教育関係の研究会で、帰りがけに参加者の一人から次のように話しかけられた。「ストリートビュー、ナンバープレートが見えている画像を削除要請しているのに、何回やっても処置してくれません。」

私は、「そういうことはちゃんと表沙汰にしてください」と答えた。弁護士の人らはこういう事実をちゃんと把握しているのだろうか。

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追記(20日)森亮二弁護士は解説記事でも言っていることがおかしい

「森亮二 ストリートビュー」でWeb検索したところ、昨年11月に書かれた次の記事が出てきた。

5ページに渡って書かれたこの記事、最終ページの結びの言葉は以下のようになっている。

このような状況で、ストリートビューのサービス全体を止めてしまうことが正しい選択とは到底いえないであろう。もちろん第一次提案にもあるとおり、道路周辺映像サービス事業者には、今後も社会に受け入れるための努力が求められる。法的に見て、それほど問題があるわけではないこのサービスが、これほどの大きな議論を呼んだのは、事前の説明が少し不足していたからかもしれない。

(終)

グーグル・ストリートビューの法的問題を考える, p.5, 森亮二, Computerworld.jp

事前の説明が不足していたから? 少し? 事前の説明さえあれば大きな議論にならなかったというのか? それはどんな説明のことか? 言っていることが全くおかしい。ストリートビューの問題点は、この記事自身が、2ページ目、4ページ目でちゃんと以下のように指摘している。

道路周辺映像サービスでは、公道周辺の建物や風景を撮影することが目的であり、人物はその“前景”として写り込んでいるにすぎない。もっとも、画像を大量に撮影していくうえでは、自宅内でくつろぐ人の姿が塀越しに写ってしまうようなこともあるだろうし、その場合は肖像権侵害に当たるおそれもある。だが、それは全体のごく一部であり、それほどひんぱんに生じるわけではない。したがって、これを理由にサービスを全面的にやめさせるほどのことではないものと考えられる。

グーグル・ストリートビューの法的問題を考える, p.2, 森亮二, Computerworld.jp

表札や車のナンバープレート、塀越しに見える屋内の様子などもプライバシー権の対象となりうる。屋内の様子については、一般的な大人の目線よりも高い位置から撮影されたものについては問題が大きい。「他人に見られることはない」という期待があるものを公開されることのほうが苦痛は大きく、プライバシー権侵害の度合いも高くなる。(略)

道路周辺映像サービス事業によって、プライバシー権を侵害する画像が公開されてしまう危険性は否定しがたい。その場合、プライバシー権を侵害された人は、事業者に対してその画像の非表示化の要請と損害賠償請求ができる。だが、サービス提供そのものをやめさせる必要があるほど、プライバシー権侵害が頻発しているとは思われない。

グーグル・ストリートビューの法的問題を考える, p.4, 森亮二, Computerworld.jp

「サービスを全面的にやめさせるほどではない」と言いたいのはわかるが、問題点は確実に存在していたわけで、それを示しておきながら「事前の説明が少し不足していただけ」というのは、いったいどういう理屈なんだ?

さらに言えば、以下の部分のロジックもそうとうおかしい。

例えば、深夜にこっそりと風俗店などから出てくる自分の姿を撮影され、公開されたならば、プライバシー権侵害を主張することが可能だろう。(略)

逆に言えば(略)(c)撮影時間も日中に限定すれば、そうそう頻繁にプライバシー権の侵害が起こるわけではないはずだ。(略)

(c)については日中、公道で立ち小便やキスをしている姿を公開され、抗議したとしても、「何も昼日中から天下の公道でそんなことしなくても……」と感じる人が多いだろう。裁判所とて同じだ。

グーグル・ストリートビューの法的問題を考える, p.4, 森亮二, Computerworld.jp

最も問題になったのは、昼間のラブホテルに出入りするカップルが暴露されたことだ。私が把握しているだけで4件あった。なぜそこに触れずに、「深夜にこっそり風俗店」という話にすげ替えるの? (いくらなんでも知らなかったわけがないので、わざとやっているとしか思えない。)

この弁護士のロジックは、「深夜だと問題」⇒「日中に撮影すればよい」⇒「日中に路上で小便やキスしている方が悪い」というのだが、昼間にラブホテルに入るのが悪いというの? 昼間にラブホテルに入る人はその瞬間を撮影されて無断公開される可能性を踏まえないといけないと? 日本はそういう社会なんですか?

まだある。この弁護士の記事は一貫して「公道から撮影されている」ことを前提にしているが、実際のグーグル株式会社のストリートビューでは、道ですらない私有地に入って撮影された写真が大量に公開されていた。このことについてのグーグル株式会社からの説明が、今現在に至っても、全くない。

その点に全く触れずに、「事前の説明が少し不足していたから」という。

どう見てもこの弁護士は客観的な立場で仕事をしていない。困ったことだ。*5

*1 昨年5月に、カメラの高さを40センチ下げるとグーグル株式会社が発表したときは、以下の写真を示して、従来の解像度の低いカメラを使うかのような発表をしていたが、それは違う。

画面キャプチャ

*2 Twitter発言が単なる書き間違いだとすれば、頭がバイアスで充満しているのではないか。

*3 削除要請件数の他にも、たとえば、私有地には入らないと言いながら私有地に入っていた件について、その後どのように対処しているのかが明らかにされていない。

*4 昨年2月の東京都個人情報保護審議会に二人のグーグル担当者が出席した際、NHKニュースでグーグル社広報部長のコメントが放送されており、その発言は次のものだった。「プライバシーに対して懸念があるという意見は真摯に受けとめなければいけないと思っています。技術的に解決できるものは技術的に解決して、それからまた、人手で解決できるようなものは人手でやっていきたい。」これが実行されたのではないか。しかし、何が実行されたのかは明らかにされていない。

*5 弁護士という職業が、日ごろから、依頼人のためならどんな虚構のロジックであってもそれを作り上げるのが仕事なんだというのはわかるけれども、官庁のWGの仕事においてまでそうやり方をするのはやめてもらいたい。何のための専門家なのか。

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