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高木浩光@自宅の日記

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2019年03月19日

検察官は解説書の文章を読み違えていたことが判明(なぜ不正指令電磁的記録に該当しないのか その3)

先月の「Coinhive事件、なぜ不正指令電磁的記録に該当しないのか その2」の続きである。

検察官の論告に対する世間と国会の反応

Coinhive事件の公判は、2月18日に結審を迎え、検察官から論告・求刑があった。その模様は報道と傍聴者のレポートで伝えられた。

このうち、モッチー氏のツイートに「社会的に認められていないことを試すのが罪になると、日本のITは世界的に認められたことしか出来なくなり、IT分野で世界に後れをとることになります。」というものがあったが、これは、そのように受け取られて仕方ないようなことを検察官が論告で述べたからであった。その後、国会でも3月8日の衆議院法務委員会でCoinhive事件についての質疑があり、以下のように質問されるに至った。

○葉梨委員長 これより会議を開きます。裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。(略)質疑の申出がありますので、順次これを許します。松平浩一君。

○松平委員 (略)きょうは、コインハイブ事件、それからネット上の名誉毀損についてお伺いしたいなと思っています。まず、コインハイブ事件についてお伺いいたします。

(略)

罪刑法定主義、踏まえているとはっきりおっしゃっていただきました。とすると、私、この罪刑法定主義に照らすと、無断でPCのCPUを使う動画広告はよくて、なぜこちらがだめなのか、なぜ今回は構成要件に該当して、動画広告の場合は構成要件に該当しないのか、これは該当性がやはり不明確であって、この罪の条文、改善の必要性があるというふうに思っているんですが、これはいかがでしょうか。

○小山政府参考人(法務省刑事局長) お答えをいたします。お尋ねは、特定の事案を念頭に置いて構成要件該当性をお尋ねになっておりまして、犯罪の成否は捜査機関に収集された証拠に基づき個別に判断されるべき事項でございまして、お答えはできないところでございます。なお、一般論で申しますと、刑法第168条の2、不正指令電磁的記録作成等の罪及び刑法第168条の3、不正指令電磁的記録取得等の罪についてでございますが、この電磁的記録の意義につきましては、委員も資料に掲示されております条文にございますように、この電磁的記録について、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」等とされているところでございまして、これらの構成要件は、通常の判断能力を有する一般人において、その意義を十分に理解し得るものであって、明確性の点で問題はなく、罪刑法定主義に反するものではないと事務当局としては考えております。

○松平委員 今、明確性の点で問題ないというふうにおっしゃっていただきました。この不正指令電磁的記録作成、保管、供用罪について、今言及の方はなかったんですが、この解釈について、法務省さんは資料を出されていらっしゃいます。(略)これは法務省ホームページに記載されておりまして、タイトルが「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」という資料です。そこでは、何が不正に当たるかは、(略)その機能を踏まえ、社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断というふうに解釈していらっしゃいます。

私、この社会的に許容し得るものであるかどうかという部分の解釈なんですけれども、社会的に許容しているかどうか。コインハイブは新しい技術、新しい仕組みなので、判断できる材料がそもそもないというふうに思っているんです。新しい技術というのは、新しいので周りが理解できないので、時がたつにつれて評価も変わってくるんじゃないかなと。なので、社会的に許容されるかどうかなんてわからない場合もあると思いますし、往々にして、もしかすると、新しい技術というのは理解されない場合も多いんじゃないか新しい技術というのは理解されないので許容されないところから始まる場合も多いんじゃないのかな、過去、そういうことも往々にしてあったんじゃないかなというふうに思っているんです。この点、いかがでしょうか。

(略)

こういった、社会的に許容し得るものかどうかという、新しい技術をもしかしたら否定させてしまう根拠となるような解釈をさせる、そういうもととなる規範をホームページ上に掲載するというのは、これはいかがなものかなというふうに思っているんです。

第198回国会衆議院法務委員会会議録第2号(平成31年3月8日)

このように、すっかり、不正指令電磁的記録の該当性それ自体が、「その機能を踏まえ社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断」されるものであるかのように語られているわけだが、2月18日の公判で、私も傍聴していて、検察官の論告を聞いていたが、確かに検察官はそのような言い草だった。

しかし、傍聴していて気になったのは、検察官がその辺りを読み上げているとき、「ああ、『大コンメンタール刑法』(青林書院)に書いてある解説をそのまま引き写しているんだな」と思ったものの、「あれれ?ちょっと違うことを言っているぞ?」と気づいたところがあったのだ。

検察官の論告は大コンメンタール刑法の解説を読み違えている

聞き違いがあってはいけないので、後日、弁護人に検察官の「論告要旨」を閲覧させて頂いたところ、論告要旨のその部分は、以下の文章になっていたことを確認できた。

3 本件プログラムコードが不正指令電磁的記録に該当すること

(1) 閲覧者の意図に反していること

ア 不正指令電磁的記録に関する罪は、電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼を保護法益とするものであるところ、閲覧者の意図に反するプログラムは、当然、その保護法益を侵害するものといえる。そして、閲覧者の意図に反するか否かについては、個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能につき一般に認識されていると考えられるところを基準として判断するべきである(大コンメンタール刑法第8巻第3版345頁)。

(略)

(2) 「不正」なものであること

ア 「不正」なものであるか否かについては、社会的に許容し得るものか否かの観点から判断されることとなるところ、以下のとおり、本件プログラムコードは、社会的に許容されるものではないことは明らかで、「不正」なものと認められる。

イ 電子計算機の使用者の意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき指令を与えるプログラムであれば、通常、それだけで、その指令の内容を問わず、プログラムに対する社会の信頼を害するものとして、その作成、供用等の行為に当罰性があると考えられる。ただ、ソフトウェアの制作会社が不具合を修正するプログラムをユーザーの電子計算機に無断でインストールした場合における当該修正プログラムなど社会的に許容し得るものが例外的に含まれることがあり得るため、不正性の要件が設けられたものであり、不正性の要件に該当しないとして構成要件該当性が否定されるのは、そのようなプログラムの中で例外的なものに過ぎない大コンメンタール刑法第8巻第3版346頁)。

ウ そもそもマイニング自体が社会に広く知られ、許容されているわけではない状況であったことは公知の事実であって、ウェブサイトを閲覧しただけで、閲覧者が知らない間に自己の電子計算機の中央処理装置を利用され、勝手にマイニングされても構わないという社会的合意がなかったことは明らかである。

論告要旨より

強調した部分のように、検察官は、意図に反する動作をさせるプログラムであれば「それだけで」当罰性があり、「不正な」で除外されるのは「例外的なものに過ぎない」と言っている。

これを聞けば、国会での質問にもあったように、「新しいものは最初は許容されないものだから、そんなこと言ったら存在不可能になってしまう。」といった感想が出てくるのも頷けるところだ。

そして、やはり「大コンメンタール刑法第8巻第3版」が参照されているわけだが、では、参照された「大コンメンタール刑法」ではどのように書かれているだろうか。参照されたと考えられるのは以下の部分である。このように、個々の文は同一の部分もあるが、文章全体としては同一ではないことがわかる。

(3)「その意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき」

不正指令電磁的記録に関する罪は、電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼を保護法益とするものであるから、あるプログラムが使用者の「意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる」(略)ものであるか否かが問題となる場合における、その「意図」についても、そのような信頼を害するものであるか否かという観点から規範的に判断されるべきであると考えらえる。

すなわち、その「意図」については、個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として規範的に判断することとなる。

(中略)

(4)「不正な指令を与える電磁的記録」 (a)「不正な」指令に限定することとされたのは、電子計算機の使用者の「意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる」べき指令を与えるプログラムであれば、多くの場合、それだけで、その指令の内容を問わず、プログラムに対する社会の信頼を害するものとして、その作成、供用等の行為に当罰性があるようにも考えられるものの、そのような指令を与えるプログラムの中には、社会的に許容し得るものが例外的に含まれることから、このようなプログラムを処罰対象から除外するためである。

したがって、あるプログラムによる指令が「不正な」ものであるか否かは、その機能を踏まえ、社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断することとなる。

このように、電子計算機使用者の「意図に反する」ものに当たり得るものの、不正ではない指令を与える電磁的記録としては、例えば、ソフトウェアの製作会社が不具合を修正するプログラムをユーザーの電子計算機に無断でインストールした場合における当該修正プログラムがこれに当たると考えられる「意図に反する」か否かは規範的に判断するため、同じく規範的な要件である「不正な」に当たるか否かの判断と重なるようにも思われるが、前者は、あくまで、電子計算機の使用者にとって認識し得べきものであるか否かという観点からなされるのに対し、「不正」か否かの判断は、電子計算機の使用者の認識という観点ではなく、そのプログラムが社会的に許容し得るものであるか否かという観点からなされることとなる。例えば、ソフトウェアの製作会社が修正プログラムをユーザーの電子計算機に無断でインストールした場合、当該修正プログラムによる動作は、その「意図に反する」ものには当たり得るが、それでもなお、このようなプログラムは、社会的に許容し得るものであり、「不正」には当たらないと考えられる。このように、「意図に反する」か否かの判断と「不正」か否かの判断は、個別の観点からなされるものであり、両者は必ずしも完全に重複するものではない)

吉田雅之「第19章の2 不正指令電磁的記録に関する罪」『大コンメンタール刑法第8巻第3版』(青林書院、2015)340頁以下、345頁、346頁

両者を比較してみると、まず、紫色で強調した文「社会的に許容し得るものが例外的に含まれることがあり得るため、不正性の要件が設けられたもの」のところは、同じ内容だ。ピンク色で強調した文「(意図に反する動作をさせるプログラム)であれば、(略)、それだけで、その指令の内容を問わず、プログラムに対する社会の信頼を害するものとして、その作成、供用等の行為に当罰性がある」という部分も、ほぼ同一だ。

しかし、決定的に異なるのは、大コンメンタール刑法に書かれている緑色で強調の部分が、検察官の論告には欠けていることである。

緑色で強調の部分が言っていることは、「あるプログラムが使用者の「意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる」ものであるか否か」は、この罪の保護法益であるところの「電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼」について「そのような信頼を害するものであるか否かという観点から規範的に判断されるべき」ものとされている。

「規範的に判断」というのは、「意図に反する」という文が、単に字面通りに(該当するか否か)解釈されるのではなく、一定の規範に基づいて判断される(それは裁判官が判断する)ものである(したがって、字面上は「意図に反する」と言えても、規範的には「意図に反する」とは言えない場合が存在する)ことを意味しており(「規範的構成要件要素」と呼ばれる。)、本件の場合、その規範は、保護法益であるところの「電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼」を害するほどまでに「意図に反する」のかという観点から判断されるものであるわけである。

それにもかかわらず、検察官の論告では、赤で強調した部分の通り、「不正指令電磁的記録に関する罪は、電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼を保護法益とするものであるところ、閲覧者の意図に反するプログラムは、当然、その保護法益を侵害するものといえる。」などと言ってしまっている。規範的構成要件要素であるにもかかわらず、それを無視し、字面解釈で「閲覧者の意図に反するプログラム」に該当すれば「当然、その保護法益を侵害するもの」などと、大コンメンタール刑法とは逆さまのこと*1を言ってしまっているのである。

これは驚きであったのと同時に、「なるほど、解説書の文章をこのように読み違えたから、Coinhive有罪と思えてしまったのか!」と腹落ちしたのであった。(傍聴を終えた日のツイート

この読み違えは、結果として、不正指令電磁的記録の罪の対象範囲が大幅に異なるものとなる。これをベン図で示すと以下の図1のようになる。

ベン図
図1: 大コンメンタール刑法の解説 vs 検察官の論告での解釈

右の検察官の解釈では、「同意なく実行されるプログラム」はそれ自体がほとんどイコールで*2「意図に反する動作をさせるプログラム」(赤の部分)であり、そのうち「社会的に許容し得るもの」が「不正でない」ものとしてホワイトリスト的に除かれ、「広告」などのWebで動いているものの大半がそこ(内側の青の部分)に入るという解釈になっている。

これに対し、大コンメンタール刑法の解説では、「同意なく実行されるプログラム」のうち、「プログラムに対する社会一般の信頼を害する」程度に「規範的な」意味で「意図に反する動作をさせる」ものだけがブラックリスト的に該当する(「広告などのWebで動いているものの大半はその外側の青の部分に入る)というもので、「不正な」の要件で除外されるのはあまり重要でないオマケ程度のもの(これについては後述する。)ということになる。

Coinhiveがどこに入るかは、図のように、大コンメンタール刑法の解説の解釈では(筆者の見解ではあるが)青の部分に、検察官の論告での解釈では赤の部分に入る。

しかし、改めてこうして分析してみると、検察官は解説書を誤読したというよりも、わかっていながら有罪とするために、あえて解説書と違うことを論告で言わざるを得なかったのかもしれない*3と思えてきた。そのことは、以下の両者の文章の比較から窺える。

左が大コンメンタール刑法の元の文章、右がこれを引き写したはずの論告要旨の文章である。これは、上の引用で、ピンク色で強調した文だが、微妙に変更されているのがわかる。

電子計算機の使用者の意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき指令を与えるプログラムであれば、多くの場合、それだけで、その指令の内容を問わず、プログラムに対する社会の信頼を害するものとして、その作成、供用等の行為に当罰性があるようにも考えられるものの

大コンメンタール刑法第8巻第3版 345頁

電子計算機の使用者の意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき指令を与えるプログラムであれば、通常、それだけで、その指令の内容を問わず、プログラムに対する社会の信頼を害するものとして、その作成、供用等の行為に当罰性があると考えられる。

論告要旨より

変更点を強調表示したが、このようにほぼ同一の文であるにも関わらず、「多くの場合」をわざわざ「通常」に変更しており、これは意識しなければ起きないことであるから、「多くの場合」では都合が悪かったのであろうと推察できよう。

なお、ここで、左の「……意図に反する……であれば、それだけで、……の信頼を害するものとして当罰性がある」の文は、前提として「信頼を害するもの」だけが「意図に反する」と解釈することにしているから当然に「であればそれだけで当罰性がある」となるわけだが、右の同じ文は、その前提を欠いているために、同じ文でありながら「「意図に反する」ものは信頼を害する」という別の意味になってしまっている。

そしてもう一箇所、次の箇所(上では強調表示しなかった部分にある)も興味深い変更が施されている。

すなわち、その「意図」については、個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として規範的に判断することとなる

大コンメンタール刑法第8巻第3版 345頁

閲覧者の意図に反するか否かについては、個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく、当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能につき一般に認識されていると考えられるところを基準として判断するべきである

論告要旨より

ここも、ほぼ同一の文であるにも関わらず、「すべき」がわざわざ「されている」に変更されているのがわかる。

元の文の「その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準」がどういう意味かと言えば、「意図に反する」といっても、その「意図」というのは字面通りの個々の利用者の意図のことではなく、保護法益を害するほどまでに「意図に反する」と言えるほどの、「利用者が当然に想定すべき意図」を超えた「反する」ものであるか否かという文脈の中での「一般に認識すべきと考えられる」「意図」のことを説明しているのであり、「意図に反する」の「意図」自体も規範的に判断されるものだと解説されているわけである。

それに対して、検察官の論告が、「認識すべき」を「認識されている」に変更したのは、「その機能につき一般に認識すべき」とそのまま引き写してしまうと、規範的構成要件要素であるニュアンスが出てしまうので、そこを避けて、あたかも多数決あるいは現実の実態状況で決まるかの如き「その機能につき一般に認識されていると考えられるところ」との表現に変更したということではないか。最後の「規範的に」も削除されている。

Coinhiveの事例に当てはめて言えば、見ず知らずのWebサイトを訪れれば、そこで断りもなくCPUを使われてしまうことは、「Webとは元々そういうものである」という閲覧者の理解が「一般に認識すべきと考えられる意図」であり、Coinhiveはそのような意味での「意図」に反していないと言うべきであろう。このことは、現実に多くの人々が「Webとは元々そういうものである」ということを知らなかったとしても、規範的に「Webとは元々そういうものである」と認識していて然るべきというのが、規範的構成要件要素であるところの「意図に反する」の「意図」なのであり、だからこそ「一般に認識すべきと考えられる」と解説されるのである。(なお、「考えられる」とは裁判官が判断する規範のことである。)

検察官の論告は、そのような解釈になってしまうのを嫌がり、「一般に認識されている」という別の表現を使うことで、現実に多くの人々にとって「意図に反する」という事実があれば構成要件を満たすかの如く、大コンメンタール刑法とは異なる説を唱えたようである。

裁判官は、判決に際して、論告のこの解釈をまず否定すべきである。

ところで、このような「意図に反する」の解釈への誤解は、今月から問題となっている、兵庫県警が「無限アラート」が出るだけのジョークサイトへのリンクを掲示板に掲載した行為を、不正指令電磁的記録供用未遂罪に当たるとして、複数名を家宅捜索した事案(16日の日記「しそうけいさつ化する田舎サイバー警察の驕りを誰が諌めるのか」参照)にも、共通するところである。

すなわち、「無限アラート」は、サイトを閉じるか前のページに戻れば元通りになるのであり、当該サイト内での表現行為にすぎない。「プログラムに対する社会一般の信頼を害する」程度に「規範的な」意味で「意図に反する動作をさせる」ものではない(アラートが出ることや、それが延々繰り返される事態は、見ず知らずのWebサイトを訪れるからには起き得ることとして「(Webの機能につき)一般に認識すべき」ところである)と言うべきである。*4

兵庫県警(と神戸地検の検事)が「無限アラート」を不正指令電磁的記録として扱った背景には、今回の横浜地検の検事と同様の勘違いがあるのではないか。

なぜこのような誤解が生じるのか

さて、このような誤った解釈がなぜ広まったかについて、以下、少し検討を加えておきたい。

実は、私自身も、改正法が成立して以来、「意図に反する動作をさせるプログラム」は、ほとんどのプログラムが該当してしまうが、「不正な」の要件でほとんどが落ちるという、まさに今回の横浜地検の検事と似たような発想をしていた。その考えを改めたのは、今回のCoinhive事件で、モロさんの弁護人である平野敬弁護士から相談があった際に、平野弁護士が開口一番「意図に反するに当らないのでは」とおっしゃったのを契機に、改めて調べ直したところ、次のことに気づいたのであった。

まず、度々参照されている、法務省のWebサイトに掲載されている「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」(参議院法務委員会附帯決議の「政府は周知徹底に努めること」に基づき作成・公表されたもの)を改めて読んでみると、「意図に反する動作をさせる」の解説部分で、「規範的に判断される」とは書かれていないのである。該当部分は以下の文章になっている。

あるプログラムが,使用者の「意図に沿うべき動作をさせず,又はその意図に反する動作をさせる」ものであるか否かが問題となる場合におけるその「意図」は,個別具体的な使用者の実際の認識を基準として判断するのではなく,当該プログラムの機能の内容や,機能に関する説明内容,想定される利用方法等を総合的に考慮して,その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として判断することとなる。

法務省「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」, 2011年7月

私はこれにつられてしまい、「不正な」だけが規範的構成要件要素で、「意図に反する」のところは規範的構成要件要素ではないと思ってしまっていた。(もっとも、この文書は、「不正な」の解説のところにも、規範的に判断されるものとの説明はない。)

ところが、改めて、法制審議会の刑事法部会での立案時の議事録を確認したところ、保護法益の観点から規範的に判断されるべきものと書かれていた。

本罪は,ただいま御説明いたしましたとおり,電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼を保護法益とする罪でございますので,電子計算機を使用する者の意図に反する動作であるか否かは,そのような信頼を害するものであるかどうかという観点から規範的に判断されるべきものでございます。すなわち,かかる判断は,電子計算機の使用者におけるプログラムの具体的な機能に対する現実の認識を基準とするのではなくて,使用者として認識すべきと考えられるところを基準とすべきであると考えております。

法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第3回会議 議事録, 2003年5月15日

そして、実は入手していなかった「大コンメンタール刑法」を購入して、前掲の解説文に「その「意図」についても、そのような信頼を害するものであるか否かという観点から規範的に判断されるべき」と書かれているのを知ったのであった。

改めて調べてみると、改正法成立直後(2011年)に法学雑誌に掲載された立案担当者ら(吉田雅之検事と檞清隆検事)の解説でも、いずれも、「保護法益から規範的に判断されるべき」との記述はなく、「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」とほぼ同じ説明が繰り返されていたのだが、2012年に出版された記事、杉山徳明・吉田雅之「「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」について(上)」法曹時報64巻4号(法曹会、2012年)では、「その「意図」についても、そのような信頼を害するものであるか否かという観点から規範的に判断されるべきである」と、大コンメンタール刑法(2015年出版)の前掲の引用部と同じ文章に変わっていたことがわかった。

他にも、最高裁判所事務総局刑事局による「刑事裁判資料」に掲載の記事「「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」及び「刑事訴訟規則の一部を改正する規則」の解説」刑事裁判資料第290号(最高裁判所事務総局、2013年)においても、同様に大コンメンタール刑法と同じ説明方法が採られている。

このことから、立案担当者だった吉田検事において、何らかの機会により、このように「規範的に判断される」と書く必要性に気づかされて変更されたものと思われる。それだけに、この違いは重要なところなのではなかろうか。

次に、上記で「後述する」とした、図1の「大コンメンタール刑法の解説」の方(左)の「不正でない」の枠をかなり小さく描いており、「あまり重要でないオマケ程度のもの」としたことについて。

大コンメンタール刑法の解説によれば、前掲の通り、意図に反する動作をさせるプログラムであれば「多くの場合、それだけで」当罰性があるとされている。それは、「意図に反する動作をさせる」の解釈が、字面通りではなく、保護法益を害する程度に「意図に反する」と規範的に判断されるものとして、既に十分に限定されているからこそ、それだけでもう既に当罰性があるという意味であって、逆に言えば、当罰性があるほどまでに「意図に反する」は限定的に解釈されるべきなのだろう。

そうすると、そのようなもののうち、「不正な」の要件を満たさずに除外されるものに、いったいどんなものがあるのだろうか?という疑問が湧く。おそらく、ほとんどないのではないか。少し考えてみたが、思い当たる例がない。そのような意味で、図1の「不正でない」の枠を相当小さく描いた。

しかし、そのような、意図に反するが不正でないプログラムの例として、大コンメンタール刑法は、前掲の通り、以下のように説明しているのである。

このように、電子計算機使用者の「意図に反する」ものに当たり得るものの、不正ではない指令を与える電磁的記録としては、例えば、ソフトウェアの製作会社が不具合を修正するプログラムをユーザーの電子計算機に無断でインストールした場合における当該修正プログラムがこれに当たると考えられる(略)

吉田雅之「第19章の2 不正指令電磁的記録に関する罪」『大コンメンタール刑法第8巻第3版』(青林書院、2015)340頁以下、346頁

この例が誤解の元になっているように思える。*5

つまり、この例からすれば、自動アップデートプログラムは「意図に反する動作をさせるプログラム」ということになっている。しかし、思うに、前記の通り、「意図に反する」の意義を保護法益を害するほどのものとして「規範的に」判断されるものとして解釈すれば、今日において、自動アップデートプログラムごときは「意図に反する動作をさせるプログラム」ではないと言うべきであろう。自動アップデートプログラムが無断で作動することは「その機能につき一般に認識すべき」ものである。

それなのになぜこの例が書かれているかは、法制審議会刑事法部会で揉まれていた原案の時点から、説明に例として挙げられていたからだろう。第1回会議で事務局から以下のように説明されていた。

また,意図に反するものであっても,正当なものがあるのではないかというような御質問もあったかと思いますが,その観点からは,この要綱の案におきましては,対象とする電磁的記録を「不正な指令に係る電磁的記録」に限定しておりまして,例えば,アプリケーション・プログラムの作成会社が修正プログラムをユーザーの意図に基づかないでユーザーのコンピュータにインストールするような場合,これは,形式的には「意図に反する動作をさせる指令」に当たることがあっても,そういう社会的に許容されるような動作をするプログラムにつきましては,不正な指令に当たらないということで,構成要件的に該当しないと考えております。

法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第1回会議 議事録, 2003年4月14日

ここからして間違いだったと思うが、よく見ると「当たることがあっても」と言っていて、当たるとは言っていない仮定の話なわけである。おそらく、法制審議会にかけられるまでに原案が練られた時点で、何らかの理由で「不正な」で限定することになったものの、その具体例の捻出に困ったのだろうと推察する。結局その後もずっと、ここの説明の例として自動修正プログラムだけが挙げられている。

大コンメンタール刑法の前掲の引用部の「(略)」の部分には、括弧書きで、「(「意図に反する」か否かは規範的に判断するため、同じく規範的な要件である「不正な」に当たるか否かの判断と重なるようにも思われるが、前者は、あくまで、(略)のに対し、「不正」か否かの判断は、(略)という観点からなされることとなる。(略)このように、「意図に反する」か否かの判断と「不正」か否かの判断は、個別の観点からなされるものであり、両者は必ずしも完全に重複するものではない)」と書かれていて、これは以前の解説にはなかったものであるだけに、こんなことをわざわざ書いているのは、そこへのツッコミがどこかからあったのではないかと推察する。「不正な」で除く意義がどこにあるのかについて、どこかしらで疑問視されているのではないだろうか。

そういえば、法制審議会刑事法部会の議事録でも、「「不正」というのは余り意味がない」のでは?との問い掛けがあって、以下のように議論されていたのだった。

●その「害」というのをどういうふうにとらえるかでございましょうけれども,いずれにいたしましても,プログラムに対する信頼と申しますか,それによって,コンピュータによる情報処理が営まれるわけでございますので,保護法益との関係からまいりましても,そういう信頼というものをその意味で害することになるようなものに限られているということではございます。

●いかかでしょうか。ただいまの点に関連して何かございましたら。

●○○委員が今おっしゃった,後で議論するおつもりだったのかもしれないのですが,今のことを聞いていると,不正な指令の「不正」というのは余り意味がないということになるのですか。ちょっと言い方はおかしいのですけれども。意図に沿うべき動作をさせずということと,意図に反する動作をさせるということがあれば,そういう指令なら,不正な指令であると。だから,不正という概念が,これまた何が不正かという議論になるのでしょうけれども,正,悪というのが何か基準があって,社会的に是とされるもの,社会的に非とされるもので正,不正というのが分かれているという意味よりも,人の使用する電子計算機について,その意図に沿うか沿わないかという,そこで全部分けているというふうになると。正,不正というのは,ただ,飾り文句と言うと言葉はおかしいのですけれども,そうなるんじゃないかというふうな気がして今聞いていたのですが,そういうことでよろしいのですか。

●先ほどの○○委員の御発言もそういう趣旨ではなかったかと思うのですけれども,要するに,「意図」と「不正」とは一連のものではないかという御発言でございましたが,その辺いかがでしょうか。

●基本的に,コンピュータの使用者の意図に沿わない動作をさせる,あるいは意図している動作をさせないような指令を与えるプログラムは,その指令内容を問わずに,それ自体,人のプログラムに対する信頼を害するものとして,その作成,供用等の行為には当罰性があると考えておりますが,そういうものに形式的には当たるけれども社会的に許容できるようなものが例外的にあり得ると考えられますので,これを除外することを明らかにするために,「不正な」という要件を更につけ加えているということでございます。

●いかがでしょうか。議論のあるところだと思いますが。

動作をさせないということと,その意図に反する動作をさせるということ,両方合わせまして,それだけでは限定がつけられないので,更に「不正」というものが必要であるという御意見なのですが,この点いかかでしょうか。

法制審議会刑事法(ハイテク犯罪関係)部会第3回会議 議事録, 2003年5月15日

やはり、「不正な」よりも「意図に反する」の方で、犯罪としての構成要件が絞られるのだという理解で正しいように思える。

それにもかかわらず、今回の検察官の論告でも、この自動アップデートの例が嬉々として引用され、以下のように書かれているのは、「同意なく実行されるプログラム」=「意図に反する動作をさせる」という誤解を強化してしまっているのではないだろうか。

イ 電子計算機の使用者の意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき指令を与えるプログラムであれば、通常、それだけで、その指令の内容を問わず、プログラムに対する社会の信頼を害するものとして、その作成、供用等の行為に当罰性があると考えられる。ただ、ソフトウェアの制作会社が不具合を修正するプログラムをユーザーの電子計算機に無断でインストールした場合における当該修正プログラムなど社会的に許容し得るものが例外的に含まれることがあり得るため、不正性の要件が設けられたものであり、不正性の要件に該当しないとして構成要件該当性が否定されるのは、そのようなプログラムの中で例外的なものに過ぎない(大コンメンタール刑法第8巻第3版346頁)。

論告要旨より

ここで「例外的に含まれる」の意味が、大コンメンタール刑法に記載の「例外的に含まれる」と、文は同じでありながら、前提(「意図に反する」の意味)が異なるため、違うものになってしまっている。大コンメンタール刑法では、「例外的に」は「ほとんどないが稀に」という意味であるのに対し、検察官の論告では、「例外的に」は「ホワイトリストとして」的な意味になっている。

というわけで、この悪しき自動アップデートの例を解説に使うのをやめない限り、今後もこの誤解は再生産されて続けてしまうだろう。

法案再提出時の法令協議の様子

ここで一つ参考になる資料を提供しておく。情報法制研究所(JILIS)では、Coinhive事件の把握を契機に、その妥当性を研究すべく、不正指令電磁的記録の罪の適用状況を把握するために、昨年7月に以下の文書の情報公開制度に基づく開示請求を行った。

  • 「平成22年度情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」に係る法務省との法令協議その他の協議文書

このうち、経済産業省から開示された文書(8月30日開示決定)に、経済産業省が法務省に対して、不正指令電磁的記録として何が該当し得るのかについて質問したやりとりが記載されていた。

開示資料のスキャン画像 開示資料のスキャン画像 開示資料のスキャン画像 開示資料のスキャン画像
図2: 経済産業省から法務省への法令協議での質問

2011年3月1日付の経済産業省の質問に、以下のものがある。

【問6】電子計算機を使用する人の「意図」

第168条の2第1項1号の「その意図に沿う」又は「その意図に反する」の意図とは、使用者のリテラシーに関わらず(使用者の現実の意図ではなく)、使用者として認識すべきと規範的に考えら得るところが基準となると解するが、いかがか。

このように解して差し支えない場合、以下のプログラム等は、利用者の意図に反する動作をさせる指令を与えるものと評価されるか。(作成行為、提供行為について本項の適用の有無を確認する意図ではなく、本項1号の電磁的記録に該当するか否かを問うものであって、不正な指令を与えるものか否かは問わない。)

(1) 脆弱性の検査ツールやリモートアクセスツールが、利用方法の説明不足等により、使用者のデータを破壊したり、情報漏えいを引き起こしたりする場合

(2) 利用者に無断で電話帳などの個人情報を送出する携帯電話のプログラムや、利用者に無断で位置情報を送出する同プログラム、利用者に無断で携帯電話の機体識別番号を送信する同プログラム
(cf. アプリがあなたを監視中─スマートフォン・アプリがプライバシーを侵害(ウォールストリート・ジャーナル、2010年12月)http://jp.wsj.com/IT/node_162281

(3) コピーコントロール等一定の目的に資するよう提供された複数のモジュールから構成されるソフトウエア群において、その一部に、利用者に無断でコンピュータのセキュリティ設定を脆弱にする等、ウイルス相当の機能を備えているプログラムが含まれていた場合
(cf. ソニーBMG製CD XCP問題 http://ja.wikipedia.org/wiki/ソニーBMG製CD_XCP問題

(4) 行動ターゲティング広告システム(人々のWebサイト閲覧履歴や検索語句を参照することで、ユーザー興味や関心に合致した広告を自動的に掲載する等)を実現する等一定の目的に資するよう提供される、利用者に無断で利用者のWebサイト閲覧履歴を収集するWebページ(に埋め込まれたスクリプト)やプログラム (cf. http://ja.wikipedia.org/wiki/楽天ad4U

(5) 利用者に無断で、他のWebサイトにリダイレクトするWebページ(に埋め込まれたスクリプト)やプログラムであって、
.螢瀬ぅ譽ト先がコンピュータウイルスを自動的にダウンロード(インストール)させるサイトである場合
▲螢瀬ぅ譽ト先が顧客登録等の業務の委託先のサイトである場合
(cf. Gumblarウイルス,twitterワーム,リダイレクト機能)

(6) 利用者の意図しないアクセス要求(掲示板への書き込みや、オンラインショッピングサイトでの発注処理、個人情報登録画面での登録情報変更処理等のアクセス要求)を自動的に送らせるWebページ(に埋め込まれたスクリプト)やプログラム(cf. CSRF (Cross site request forgeries)攻撃)、Webサイト上で偽った画面上の表示を掲出する(画面上は別の機能を実行する為のボタンをクリックするようにみせかける)ことにより利用者に意図しない動作を導く操作をさせるWebページ(に埋め込まれたスクリプト)やプログラム(cf. clickjacking攻撃)

(7) 利用者に無断で広告ページを表示するWebページ(に埋め込まれたスクリプト)やプログラム

(8) コンピュータウイルスを電子メールに添付し、添付のファイルはコンピュータウイルスである旨及び動作内容を電子メールの本文中に説明して、送信した場合において、その説明どおりに動作するコンピュータウイルスのプログラム。

これに対しての法務省の同日付の回答が以下のように記載されていた。

問6について

刑法168条の2台1項第1号の「意図」について、使用者の現実の意図ではなく、使用者として認識すべきと規範的に考えられるところを基準として判断することとなるとの点については、貴見のとおり。

(1)から(8)までのいずれについても、個別具体的な事実関係に基づいて判断すべきものであるので、一概にお答えすることは困難な面もあるが、一般には、次のように考えられる。

すなわち、(1)から(8)までについては、いずれも同号の「意図に反する動作をさせるべき」指令を与えるものに該当し得るが、(1)については「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が欠ける場合があると考えられるほか、(7)については、一般的に許容されるものであれば、同号の「意図に反する動作をさせるべき」指令を与えるものに該当しないと考えられ、また、(8)については、コンピュータ・ウイルスの研究者間におけるやり取りである場合も同様と考えている。

この回答では、(4)の「行動ターゲティング広告のシステム」が該当しないものとして否定されておらず「該当し得る」との回答になっている。経済産業省は翌3月2日付で「再質問」を送っており、この問6についての再質問として、以下のことが書かれていた。

(再質問6)

【上記(2)関係】
本問、問7及び問13の(4)への回答を総合すると、利用者に無断で位置情報を送出する携帯電話のプログラムや利用者に無断で携帯電話の機体識別番号を送信するプログラムを作成、提供、実行の用に供する行為は、第168条の2の罪に該当する可能性があると評価されることになると考えられるところ、このような機能を利用者の明示的な承諾なしに提供するサービスは現在も実際に提供されており、このような解釈が行われるということであれば、それらのサービス提供事業者は、本改正法の施行に先立ち、利用者に対して確認を求めるステップを設ける等の改善策を講じることが必要となる(講ずる機会を与えられることを欲する)と考えられる。本改正法の施行は公布後20日とされており、公布後にこのような解釈が示されても、事業者には十分な改善の機会が与えられない可能性が高いことから、直ちにこのような解釈を公開した上、関係事業者やアプリケーションの開発者等に対策を講じるための十分な機会を提供すべきであると考えられる。市場に当たるインパクトも大きいと考えられるところ、このような解釈の早期公開についてどのように考えるか。

【上記(4)関係】(2)の部分と同じ趣旨
本問、問7及び問13の(4)への回答を総合すると、行動ターゲティング広告システムの一環として利用者に無断で利用者のWebサイト閲覧履歴を収集するWebページ(に埋め込まれたスクリプト)やプログラムを作成、提供、実行の用に供する行為は、第168条の2の罪に該当する可能性があると評価されることになると考えられるところ、このような機能を利用者の明示的な承諾なしに提供するサービスは現在も実際に提供されている可能性がありこのような解釈が行われるということであれば、それらのサービス提供事業者は、本改正法の施行に先立ち、利用者に対して確認を求めるステップを設ける等の改善策を講じることが必要となる(講ずる機会を与えられることを欲する)と考えられる。本改正法の施行は公布後20日とされており、公布後にこのような解釈が示されても、事業者には十分な改善の機会が与えられない可能性が高いことから、直ちにこのような解釈を公開した上、関係事業者やアプリケーションの開発者等に対策を講じるための十分な機会を提供すべきであると考えられる。市場に当たるインパクトも大きいと考えられるところ、このような解釈の早期公開についてどのように考えるか。

つまり、行動ターゲティング広告システムが履歴を無断収集することが不正指令電磁的記録供用罪に当たり得るとする法務省の回答に対して、現にそのようなことがビジネスとして行われているのに、改正法の施行が公布後20日とされているのはおかしいのではないか?と問うているわけである。

ここで私見であるが、刑法の改正法の施行期日が公布からたった20日というのは、そもそも刑法に規定された罪は、自然犯的なものであり、元より犯罪的なものを罰するものとして改めて規定されたにすぎないからこそ、周知期間は不要だということではなかろうか。それに対して、行政規制による罰則(自然犯ではなく法定犯)は、施行期日に十分な間を置いて周知期間を置くのが一般的であろう。そのことからしても、公布後20日で施行するなら、行動ターゲティング広告のケースが「意図に反する動作をさせる不正な指令」に当たり得るとする解釈の方が間違っているのではないか?という疑問が湧く。

これに対しての法務省の同日付の回答が以下のように記載されていた。

4 再質問6について
【(2)関係】
御指摘のプログラムについては、個別具体的な事実関係に照らし、社会通念上、一般に許容されるものであれば、不正指令電磁的記録作成等の罪には当たらないと考えられる。

このような解釈は、今後、国会審議等を通じて明らかになるものと考えている。

なお、本法案の内容及び解釈については、前回、平成17年の法案提出時から基本的な変更はないものであることはご理解いただきたい。

【(4)関係】(2)の部分と同じ趣旨
上記(2)についての回答と同様。

回答がいずれも当日中に行われていることから、あまり熟考せず回答したものであろうが、最初は該当し得るとしていたものが、周知期間は?と問われて、「社会通念上一般に許容されるものであれば当たらない」という回答に変わっている。

ここから思うに、「意図に反する動作をさせる」というのは、自然犯的に犯罪と言えるほどまでに「プログラムに対する社会一般の信頼」を害する程度という、相当狭い範囲を指すものとして「規範的に」判断されるべきものではないだろうか。

現在の法務省の理解は大丈夫なのか

さて、最初に挙げた今年3月8日の衆議院法務委員会での質疑だが、前掲の松平委員の質問に、法務省刑事局長は以下のように答弁していた。

○松平委員(略)こういった、社会的に許容し得るものかどうかという、新しい技術をもしかしたら否定させてしまう根拠となるような解釈をさせる、そういうもととなる規範をホームページ上に掲載するというのは、これはいかがなものかなというふうに思っているんです。この点、いかがでしょうか。

○小山政府参考人(法務省刑事局長) お答えをいたします。まず、前提といたしまして、この不正指令電磁的記録に関する罪の要件である不正な指令の解釈がございました。こちらでございますが、同罪の対象を不正な指令に限定することといたしましたのは、その前提となる要件を満たす電子計算機の使用者の意図に沿うべき動作をさせず、又は意図に反する動作をさせるべき指令を与えるプログラムであれば、多くの場合、それだけで、その指令の内容を問わず、プログラムに対する社会の信頼を害するものとして、その作成、供用等の行為に当罰性があるようにも考えられてしまいますところ、そのような指令を与えるプログラムの中には、議員の問題意識にもあるかとは思いますが、社会的に許容し得るものが例外的に含まれるところでございまして、このようなプログラムを処罰対象から除外するためのものでございます

「不正な」との文言は、このような趣旨で設けられたものでございまして、あるプログラムによる指令が不正なものであるかどうかにつきましては、そのプログラムの機能を踏まえ、社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断するということになるものでございまして、それ自体、明確性を欠くものではないと我々としては考えております。

また、刑法上、構成要件に「不正な」あるいは「不正に」との文言が用いられている例はほかにも複数ございまして、その意味でも問題がないものと考えております。したがいまして、インターネット上といいますか、ホームページ上に載せているこの解説も、こういう考えに基づいて、させていただいているところでございます。

第198回国会衆議院法務委員会会議録第2号(平成31年3月8日)

これは……。この答弁は横浜地検の検事の論告と同じ間違いに陥っているように聞こえる。強調部分は、大コンメンタール刑法の解説からの引き写しのように見えるが、肝心の、前掲で緑で強調した「その「意図」についても、そのような信頼を害するものであるか否かという観点から規範的に判断されるべきである」という前提を飛ばしてしまっている。「不正な」について質問されたから、「意図に反する」について答えなかったというだけならいいのだが……。

そこを示さないから、議員の質問のような疑問が出るわけで、そこを答えなかったというのは、現在の法務省刑事局の理解が、「意図に反する」の解釈を誤っていて気付いていないのかもしれず、そうだとすれば大変深刻な事態であろう。大丈夫だろうか。

*1 大コンメンタール刑法は、保護法益を侵害するものを「意図に反する」と解釈するとしているのに対し、検察官の論告は、「意図に反する」ものは保護法益を侵害するのだと言っている。

*2 論告要旨にある「閲覧者の意図に反するプログラムは、当然、その保護法益を侵害するものといえる」との文(赤で強調した部分)が端的にそのことを表している。

*3 一般に、起訴を担当した検事とは別の検事が公判を担当するものらしい。起訴を担当した検事は、解説書をこのように誤読した理解で有罪にできると判断したところ、公判を担当する検事が、大コンメンタールを引き写ししようとした際に、その誤読に気づいたとしても、それでもなお有罪にするための理屈を組み立てなければならないから、都合の悪い部分(「意図に反する」が規範的構成要件要素であるとされる部分)をすっ飛ばしてあえて曲解した法解釈を示すしかなかった(判決で覆されてしまうとわかっていても)のかもしれない。

*4 なお、16日の日記「しそうけいさつ化する田舎サイバー警察の驕りを誰が諌めるのか」で示した、「while(1){fork();}」の事例は、Webのプログラムではなくnativeアプリのプログラムであるが故に生じ得るものであるが、「一般に認識すべきと考えられるところ」を超えると言い得るかもしれないものであり、「プログラムに対する社会一般の信頼を害する」程度に「規範的な」意味で「意図に反する動作をさせる」ものに当たり得るかもしれない。しかし、16日の日記中に書いたように、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」(すなわち供用罪や供用未遂罪を犯すような目的)がなければ、作成罪も提供罪も保管罪も構成要件からして成立しない。

*5 私もずっと(法制審議会の議事録を読んだときから)これが原因で誤解していたように思う。


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