前回の日記で「「何回もクリックされてる」というのは、いったいどうやって調べるというのだろう? 」と書いたが、Mac OS Xでは開いた日が記録されていると、はてなブックマークのコメントで教えて頂いた。
それは「Spotlight」の検索用インデックス内に記録されている。「最後に開いた日」の条件で検索できることは知っていたが、その他に、デフォルト設定ではメニューにない「使用日」という隠れた検索属性が用意されていることを知った。検索属性の指定で「その他」を選ぶと、たくさんの属性が用意されていて、その中に「使用日」という属性がある(図1)。
この「使用日」のチェックボックスをオンにすると、「使用日」で検索できるようになる。「使用日」とは、ファイルを開いたことのある日が記録されたもので、「最後に開いた日」より過去の開いた日も記録されている。
たとえば、図2は、2009年6月1日*1に私が開いた画像ファイルの検索結果である。
これの日付を変えながら検索していくと、毎日どんな画像を開いていたかがわかる。とてもわかりやすい……。
「mdls」コマンドで検索インデックスの内容を調べると、日々の閲覧状況が一目瞭然となる。以下は、指定のファイルが、6月2日(JST)、3日、15日、28日、7月1日に開かれていたことを示している。
この日付は、Finderからダブルクリックでファイルを開いたときや、アプリケーションの「開く」から開いたときなどに記録されるようで、「Quick Look」でチラ見したときには記録されないようだ。(また、OSのファイルシステムの最終読み出し時刻とは違い、ファイルを単にコピーしたときなどには変更されない。)
Spotlightの設定を変更することで、この記録を止めることはできる。以下は、Spotlightのプライバシー設定で、「Spotlightの検索から除外する場所」に「ダウンロード」フォルダを追加した場合である。
この設定をすると、直ちに検索インデックスの再構築が開始され、しばらくした後に「mdls」コマンドで確認すると、検索インデックスから削除されていることを確認できる(図4)。*2
さて、Windowsではどうなっているだろうか? 同様の機能があるのだろうか。そのへんのところは、「教えて君.net」あたりが血眼になって調べてくれるに違いない。
なお、マルウェア感染によって、検索インデックス内の「使用日」記録を捏造されることの危険性についても、知っておく必要がある。
先日の衆議院法務委員会の件を改めて振り返ると、冤罪がないと仮定した場合でも、法解釈上の論点として次の疑問がわいた。
大量の大人ポルノを保管する電磁的記録媒体で、一部に児童ポルノが混入してるかもと認識しつつ気付かず放置したという、所持についての未必の故意が認められる事案(改正6条の2に觝触、罰則なし)において、全体の保管目的が自己の性的好奇心を満たす目的の場合、改正7条1項の罰則は適用されるの?
法律家の方々から解説を頂きたかったけれど反応が得られなかったので、自力で考えてみる。
まず、与党案が成立した場合、改正児童ポルノ処罰法は次のようになる。
(児童ポルノ所持等の禁止)
第六条の二 何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管してはならない。
(児童ポルノ所持、提供等)
第七条 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者も、同様とする。
2 児童ポルノを提供した者は、(以下略)
つまり、「自己の性的好奇心を満たす目的」によるものでなければ、単純所持は違法であるけれども罰則がないので処罰されないという構成になっている。
処罰の対象がこの目的で限定されているのは、単に正当な目的によるものを除外するためというわけではないようで、与党案提出者は先日の法務委員会で次のように答弁していた。
○葉梨議員(与党案提出者) 枝野委員、もしかしたら事務所に持っていらっしゃるかもわかりませんね。でも、あなたの性的好奇心を満たす目的じゃありません。私も、児童ポルノをたしか中央教育審議会か何かで回覧したことがあります。これは正当目的です。みだりにもならないんじゃないかなというふうに思うぐらいですけれども、少なくとも、自己の性的好奇心を満たす目的、これにはならないです。
それで、大家捜しをしなきゃいけないとかいう話もありましたが、例えば「サンタフェ」であれば、あれだけ有名なものであれば、未必の故意という話もありますが、大体、具体的に、それが一体十七歳なのか十八歳なのか、そこら辺のところはいろいろなところでまた問い合わせをしていただければいいし、それぐらいのサービスは政府の方もやってくれるんじゃないかというふうに思います。そして、児童ポルノであるかどうかということについて、児童ポルノかもわからないなというような意識のあるものについてはやはり廃棄をしていただくということが当たり前だと私は思う。
ただし、それは、昔、うちの蔵の中に、蔵なんて私のうちはありませんけれども、旧家であれば蔵もあるんでしょう、蔵の中に、何百年か前の児童ポルノがあるかもわかりませんよ。そこまで家捜ししようという話じゃないので、これはあくまで、罰則がありますのは、自己の性的好奇心を満たす目的で所持、保管するという故意犯、これを罰しているわけです。そして、みだりに児童ポルノを所持し保管しちゃいかぬ、みだりにですから。それで、たまたま地震で蔵が壊れた、そういうものがあったといったときは、それはちゃんと廃棄してくれればいい、そういうことじゃないかと思います。
第171回国会衆議院法務委員会第12号 議事録, 2009年6月26日
このように、この法案は、どこにあるかわからなくなっている昔の雑誌などを、蔵などで(わからないまま)所持した状態にある人について、それを処罰しようとするものではなく、気付いた時点で廃棄すればよいという想定で作られたようだ。
つまり、昔はそういう雑誌がまかり通っていたけれど、そういうのはもうやめにしようというのが、この法の趣旨で、この点についてはおそらく国民の多くが賛同するのだろうと私は思う。
単純所持の違法化といえば、ちょうど今日で経過措置の期限が切れた改正銃砲刀剣類所持等取締法と比較できる。ダガーナイフなど、従来は所持が合法だった(刃渡り5.5センチ以上15センチ未満の)剣が(同法の除外規定に該当する場合を除いて)所持禁止となり、7月5日になった時点で処罰対象となる。
それに比べると、児童ポルノ処罰法改正案(与党案)では、「自己の性的好奇心を満たす目的」でなければ処罰されないのであるし、「みだりに」所持しているわけでなければ違法ですらない。つまり、銃砲刀剣類と同じように児童ポルノを取り締まるというのは現実的でないという配慮のうえ、このように改正案が作られたのだと思う。だからこそ、国民の支持が得られ得るのだと思う。
では、何を処罰しようとしているのかというと、与党案提出者は次のように答弁していた。
○葉梨議員(与党案提出者) (略)ですから、そういった意味では、みだりに児童ポルノを所持すること自体を罰則をもって禁止するべきだという意見もあるんですけれども、基本的にこの法律というのは、ペドファイル、小児性愛者との戦いということでございますから、自己の性的好奇心を満たす目的で所持をしているというような場合を罰則をもって禁止しているというわけなんです。
(略)ですから、一般的な禁止規定を置きながら、ペドファイルの方々が自己の性的好奇心を満たす目的でこれを所持するというものについてはやはり罰則をもって対処するという、それぐらいのところまでは、我々としても、日本の子供あるいは世界の子供、これを守るために踏み込んでいかなきゃいけないんじゃないかというふうに考えています。
第171回国会衆議院法務委員会第12号 議事録, 2009年6月26日
この点、つまり、小児性愛者が所持することを処罰対象とすることについても、やはり、国民の多くが賛同するところだろうと私は思う。
では、小児性愛者でない人がこの法改正によって処罰の対象となることはないのかどうか。もちろん、提供したり、その目的で所持したり製造したりすることは、これまでも、小児性愛者でない人でも処罰対象であったわけだが、単純所持ではどうか。
ここで、具体的な想定で検討してみる。
「25歳の会社員Aさんは、小児性愛性向がなく、ごく健康的な性愛性向の男性である。Aさんは自宅に成人のポルノを所持しており、特に、パソコンのハードディスクに相当数の成人ポルノのファイル(電磁的記録)を保管している。その中に、明らかに児童ポルノに該当する(たとえば13歳以下の児童が被写体の)ファイルがいくつか含まれているのだが、Aさんは、そのファイルを一度も開いたことなく、その存在を把握していない。しかし、Aさんは、従来から(改正法施行前から)、成人ポルノの収集にあたってとくに注意を払っていなかったため、もしかしたら保管ファイルの中に児童ポルノが含まれているかもしれないと思いつつ、その状況を認容し、含まれていないか検査するといったことはしていなかった。」
この場合、まず、少なくとも、保管の状況に未必の故意が認められれば、「みだりに保管している」ことに該当し、改正第6条の2に抵触して違法だろう。それだけなら罰則はない。このことは、与党案提出者が言うところの「蔵でほこりをかぶって眠っている昔の雑誌」のケースに相当する。見つけしだい廃棄すればよいことだろう。このことについても、国民の多くがやむを得ないことと認識しているのではないだろうか。
ところが、ここで、Aさんが保管していた目的が何かということが問題となる。Aさんが保管していた目的が「自己の性的好奇心を満たす目的」とみなされ、改正第7条第1項で処罰の対象とされるのではないか。先日の衆議院法務委員会では、与党案提出者が次のように発言していた。
○葉梨議員(与党案提出者)(略)また、自己の性的好奇心を満たす目的でというのを、それは自白に頼らざるを得ないというふうに言われますけれども、例えば、殺人の故意というのは、私は殺すつもりはなかったんです、殺すつもりはなかったんですと言ったって、けん銃を持って相手をぼんと撃てば、どんな自白が、否認をしていたって、殺人の故意というのは客観的にやはり認められるわけです。
ですから、自分の性的好奇心を満たす目的というのは、たとえその自白がなかったにしたって、うちに大量の児童ポルノを持っている、その横に大人のポルノもたくさん持っているというようなうちで、児童ポルノを持っている方が、私は自分の性的好奇心を満たす目的じゃございませんと言ったところで、それは裁判所では多分通らない話になってくるだろう。ですから、自白だけに頼るということじゃなくて、やはり客観的な証拠に基づいて捜査というのはできるんだろうというふうに私は確信をしています。
第171回国会衆議院法務委員会第12号 議事録, 2009年6月26日
Aさんは健康的な性愛性向の男性で、小児性愛性向がなく、明らかな児童ポルノを目にした場合には「何だこんなおぞましい映像はといって、ごみ箱に捨てる」*1ような人で、そのファイルで「自己の性的好奇心を満たす」ことがあり得ないような性向の人だとしても、Aさんは何の目的でそのファイルを保管していたのかということになる。
客観的事実としてAさんはそのファイルを一度も開いたことがないのだから、そのファイルで「自己の性的好奇心を満たす」ことがあったわけではない。しかし、ファイルを保管していたのは客観的に事実であり、それが児童ポルノに該当するものであるかは確認していなかったけれども、未必の故意が認められる程度にそれが存在し得る状況を認容していた。そのような意味での保管について、Aさんの目的は何かと言えば、一緒に保管している他の相当数の成人ポルノの保管目的と同じということになりはしないか。つまり、成人ポルノを保管する目的は通常、「自己の性的好奇心を満たす目的」であるのだから、「自己の性的好奇心を満たす目的」で児童ポルノを(未必の故意で)保管していたことになるのではないか。
このような事態は、国民の多くは納得していないのではないだろうか。Aさんのケースに該当する国民は、おそらく数百万人くらいいるのではないか。
有体物を想定している限りこのような事態の可能性に思い至らないというのは頷ける。有体物の写真等であれば、成人ポルノの一部に児童ポルノが混入している場合に、そのうちの成人ポルノを「自己の性的好奇心を満たす目的」で閲覧している人は、それなりにそれら有体物の全体に目を通すはずであるから、児童ポルノが含まれていることに気付かないということは起こりにくい。しかし、電磁的記録の場合では、その量によっては、全体に目を通すことが困難となりやすい一方、成人ポルノの部分を「自己の性的好奇心を満たす目的」で閲覧することは(電磁的記録のランダムアクセス性から)容易であるため、気付かないままにしてしまうことが起こりやすい。
それなのに、先日の衆議院法務委員会では、どの議員もこの点に触れていない。このケースを処罰するつもりで立法しているのか、そのつもりはなく法解釈上「自己の性的好奇心を満たす目的」に当たらないのが明らかだからなのか、それとも想定が及んでいないのか、不明だ。
もしかして上記の私の法解釈は間違っているのだろうか。故意に保管しているわけではない場合(たとえば、Webサイトから知らぬ間に自動ダウンロードしてバックアップしてしまった場合など)には、客観的事実として保管しているのであっても、その目的はそもそも問われない。それはわかる。(ここでは冤罪がないことを仮定しているので。)
それに対して、存在を把握してはいないが未必の故意が認められる程度に存在可能性を認容している保管についてどうなのか。Aさんのケースについて、どういう法解釈をすれば、「自己の性的好奇心を満たす目的」でないと解釈し得るのか。
よく考えてみると、この解釈のブレは、現行法にも同様に存在する。つまり、提供目的所持について、成人ポルノを提供するつもりが、その目的で所持していたものの中に児童ポルノが混入していたという場合である。
合法に成人ポルノを提供する際に、中身を(児童ポルノが含まれていないか)厳重に確認する義務があるのは当然であるから、未必の故意であっても児童ポルノが混入したポルノを提供する行為が処罰されるのは理解できる。
しかし、提供目的所持の場合はどうか。提供は(合法な)成人ポルノについてしか行われていなかったが、提供する目的で(まだ提供しないで)所持していたポルノの中に児童ポルノが含まれている(把握はしていないが未必の故意が認められる程度に存在可能性を認容している)ときに、現行法の提供目的所持罪に問われるのだろうか。
報道で知る限りでは、提供目的所持で摘発されている案件はどれも、児童ポルノの提供が行われていたケースばかりのようだが、どうなんだろうか。
ここまでの考察で、私には理解できなくなった。そもそも、提供罪とは別に提供目的所持罪が用意されている意味からして理解できていない。その構成に合わせるなら、今回の改正も「性的好奇心充足罪」と「性的好奇心充足目的所持罪」という構成でよさそうなものだが、そうはなっていない。なぜなっていないのか。そうなっているのとなっていないのとで違いはあるだろうか。
だめだ、わからない。Aさんのケースを処罰するつもりなのか、そうでないのか、そうでないとすればどういう法解釈をすればよいのか。
昨年あたりから、児童ポルノ法の見直しをめぐって、単純所持の処罰化を求める団体の発言や、それを援護する新聞のキャンペーン報道が活発になっていたわけだが、それを見ていてずっと疑問に思っていたことがある。「日本は児童ポルノ大国だから」と、規制強化の必要性を訴えるわけだけども、いつも、その根拠となる数字なり調査結果なりが示されることはなかった。そのため、違法化を嫌がる人達が、イタリアの児童保護団体がまとめた国際比較統計などを示して、日本の児童ポルノ掲載サイトの数は世界的に見て非常に少ないのであり、5年前に比べても大きく減少しているのだと、そもそも問題は存在しないかのように語ってきた。
しかし、それはどうだろう? 日本には、Winny*1という日本特有のP2P型ファイル共有ネットワークが定着してしまっている。児童ポルノを欲している人達は、Winnyでそれを入手できることで満足しており、その結果として、Webサイトが少なくなっているだけではないのか。Winnyに児童ポルノが流通しているらしいことは、Winnyを使ったことのある人なら*2気づいているはずだ。
それなのに、規制強化を求める団体も、キャンペーン記事を流す新聞も、そのことに全く触れてこなかった。日本の「児童ポルノ大国」ぶりを実証できる題材なのに、誰もそれをしない。これはいったいなぜなんだろうか。
陰謀論的な見方をする人からすれば、「官憲が児童ポルノを口実に『Webのブロッキング』を実現しようとしている」「そのうち、体制に不都合な言論もブロックされるようになるだろう」という憶測が出てくる。たしかに、まだ児童ポルノ法の改正が決まってもいないうちから「児童ポルノ流通防止協議会」が発足し、「ISPによるブロッキング、検索エンジンにおける元データからの削除等」の実現が模索されようとしており、この動向が肯定的に報道されてきた。この協議会は、Winny等での児童ポルノ流通を阻止する必要性について触れていないし、この動向を伝えるマスコミ報道もそのことに触れない。もはや、Webサイトのブロッキングありきで事が進んでいるように見える。
このことが気になった私は、白浜シンポジウムやその他の場で、いろいろな方にその疑問を投げかけてみた。「何か狙いがあってわざと言わないようにしてるんですかね?」と。ある人からは「いや、実態を知らないだけなのでは?」と、別の方からは「めんどくさいことは後にして、簡単なことからやるって話なのでは?」との反応があった。*3
もしかして、規制強化要望団体もそれを援護する新聞も、本当にWinnyでの実態を知らないのだろうか。であるなら、実態が明らかにされて、広く周知されるべきであろう。
というわけで、3年前から稼働させているWinnyネットワーク観測システムの記録データ(流通しているファイルの名前等を示すキー情報)を基に、その実態を調べてみた。
当初、どうやってファイル名から児童ポルノらしきものを見分けて抽出すればよいか、面倒だなと調べるのが億劫だったのだが、とりあえず「ロリ」と「洋炉」の文字列を含むものを抽出してみたところ、意外にも整然とファイル名が付けられており、その他に「和炉」「亜炉」があるほか、英語圏の小児性愛者らの間で通用する隠語と思しき英字の略語が使われていた。
他に「loli」を含めた計6つの語について、それがファイル名に含まれる*4ものを、2009年7月1日の24時間に流通していたキーから抽出したところ、70,665個(種類*5)のファイルが見つかった。これには、児童ポルノに該当しないものも含まれているだろうから、ランダムに選んだ300個について、ファイル名を目視で判断して仕分け、その割合を推定したところ以下のようになった。
概ね4割くらいが該当するよう*6なので、2009年7月1日の24時間で、約2万8000個ほどの児童ポルノファイルが共有状態にあるのが観測されたということになる。
では、1週間ではどのくらいが観測されるか。2009年7月1日から7日までに観測されたキーから集計したところ、94,705個だった。そのうちの4割が該当するとすると、約3万8000個である。
過去はどうだったのか。2006年9月1日から2009年4月1日まで(1か月おきの)1日あたりの観測数をグラフにしたところ、図2のようになった。*7
ほとんど変化していない(ノード数は半減しているのに)。3年前の時点で既に大量の児童ポルノが流通しており、おそらく同じものがずっと流れ続けているのだろう。2009年7月1日に観測されたファイルのうちの何個が、グラフ中の各月(の1日)で常に観測されていたかを調べたところ、11,683個がそれに該当した。半分ほどは常に確実に共有されているということだ。
では、これらのファイルはどのくらいダウンロードされ、どのくらいの人達の間で共有されているのだろうか。図3は、Winnyがファイル毎に記録する「被参照量」のデータから、ファイルの延べダウンロード回数*8を求め、その多い順に表示したものである*9(2009年7月1日の観測データから)。
Winnyでは「被参照量」に上限が設定されているのか、10,000回を超えた分はカウントできていなかった。図3のように、上限に達してしまった(殿堂入りした)ファイルはたくさんある。いくつあるか数えてみたところ、1,961個のファイルが殿堂入りしたものだった。
図3の左端の数値は、その日にそのファイルがいくつのノード(何台のパソコン)で共有されていたかを(概ね)表す値であり、500人前後の人が、児童ポルノファイルを共有状態にしたままWinnyを稼働させているらしいことがわかる。
まとめると、「少なくとも3年以上前から、数万個の児童ポルノファイルがWinnyネットワークで流通しており、その半分ほどは常時共有状態にあり、数千個のファイルが1万回以上ダウンロードされており、毎日500人くらいの人がそれらを共有状態にしている」ということだ。
現行の児童ポルノ法でも、公然陳列や提供する行為、またそれを目的とした所持は処罰の対象となっているわけで、実際、今年の2月には、ファイル交換ソフト等を用いた児童ポルノ公然陳列犯が相次いで検挙されていた*10。しかし、その摘発内容をよく見てみると、「eMule」(非Winny型のファイル交換ソフト)で海外とファイル交換(おそらく)していた犯人を摘発したときに、偶然、犯人が「Winnyp」(Winny型のファイル共有ソフト)も使ってファイル共有していたため、それも摘発対象としたというものであったり、「Share」(Winny型のファイル共有ソフト)で放流していた(おそらく)犯人を摘発したというものになっている。
つまり、非Winny型のファイル交換ソフト(LimeWireやWinMX、eMule等)での提供犯か、Winny型のファイル共有ソフトでの放流者(共有ネットワークに最初にファイルを流した人)を摘発の対象としているようで、図3に出ているような、(自分で放流したわけでなく)ダウンロードしたものを漫然と共有状態のまま放置しているような人々は、まだ摘発されていないと記憶している。
このことは、Winnyが登場した当初から言われてきたように、著作権侵害ファイルの場合でも同じであり、放流者は逮捕できるけれども、放流者でない共有者は逮捕が難しいという話がある。
実際、著作権侵害事件として、放流者でない共有者の摘発が明るみになったのは、福岡県警が2008年3月にゼンリンの住宅地図ソフトをWinnyでダウンロードして共有状態にしていた者(兵庫県警の巡査と福岡市内の会社員)を書類送検したという事案しかなく、この件では、逮捕という報道はなく氏名も非公表であったし、書類送検はされたけれども、結局、起訴猶予処分となっている。この事件では、共同通信の記事にあるように、「自分のパソコンからネットを通じ、他人に取り出されることは知っていた」と供述していたにもかかわらず、公衆送信可能な状態にした行為の故意性を立証することが(なぜか)困難だったのだろう。
児童ポルノの場合にはどうかというと、テレビアニメ作品やコミックのケースと違って、特定のタイミングで次々と新作が放流されるということは、おそらくないのであろうから、放流者を摘発することも難しくなっている(著作権侵害事件に比べて)と思われる。
日本の著作権法は、諸外国に比べて厳しいと言われるように、「送信可能化権」という概念を確立させており、ファイルを実際に送信していなくても、自動公衆送信し得る状態(もし誰かからのアクセスがあれば送信してしまう状態)にしただけで権利侵害となるので、それが立証できれば立件できる。それでも、非放流者である共有者の起訴が難しいという。
児童ポルノ法ではどうなのか。現行法では、次のように規定されている。
(児童ポルノ提供等)
第七条 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、(略)
3 (略)
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、(略)
6 (略)
第1項について見ると、有体物であれ電磁的記録であれ、「提供した者」とあるので、実際に提供行為があった事実を立証しないと摘発ができないのではないだろうか。つまり、捜査員が犯人から実際に提供を受ける捜査まで行う必要が生じているように思える。これが、著作権侵害ファイルの場合なら、(非Winny型の)ファイル交換ソフトの共有フォルダにファイルが入っていて、ソフトが稼働していたことさえ立証すれば送信可能化権侵害罪として起訴できるわけで、著作権侵害事案でさえ起訴が困難なところ、児童ポルノではさらに困難になっているように思える。*11
第4項については、「不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者」とあり、提供だけでなく公然陳列も罰するとされている。もし「公然陳列」という概念が、著作権法の「自動公衆送信し得るようにする」行為に相当するものであるなら、立件の困難さは少し解消されるのかもしれないが、法文をよく見ると、公然陳列については有体物の児童ポルノについてだけで、電磁的記録については「電気通信回線を通じ……不特定又は多数の者に提供した者」と規定されており、第1項と同様に、提供行為が行われた事実の立証が必要となっているように思える。
ちょうど先日、Y-BBSという掲示板サイトの、「動画保管庫板」という掲示板(それ自体は合法なアダルト動画の共有を目的としたもののように見える)で、児童ポルノ専用としたスレッドが立てられ、「YourFileHost」(米国のWeb式の汎用ファイル共有サイト)に保管された個別の児童ポルノファイルを示すURLを掲示板に書き込んだ人が、逮捕されるという事件が表沙汰になった*12が、おそらくこの事案では、掲示板サイトの運営者が捜査に協力的で、当該スレッドへのアクセス記録を捜査機関に開示しているのだろう(そのため事件を伝える報道でも、何件のアクセスがあったかという情報が出ている)。そのような場合には、アクセス記録から、実際に「不特定又は多数の者に提供」があったと推定されるだけの立証が可能なのだろう。それに対し、P2P型のファイル交換・共有ソフト(の大半)では、あえてログを記録しないように作られているため、その立証ができなくなっているということではないか。
昨今の児童ポルノ法改正の方向性をめぐる議論では、「宮沢りえのSanta Feは児童ポルノに該当するのか」といった論点が目立つが、上の図3を見ると、ファイル名を見るだけでも陰鬱な気持ちになってくる、惨たらしく搾取する真性の子供ポルノが、日本で大量に「共有」されている実態が見えてくる。欧米で製造され、欧米で厳しく取り締まられているであろう子供ポルノも多くの割合を占めており、欧米諸国に日本のこの実態が知られれば、「児童ポルノ大国」との誹りを免れないのも理解できる。
はたして欧米諸国はその実態に気づいているのだろうか。気づいているからこそ「単純所持を処罰化せよ」との外圧をかけてきているのだという憶測も可能だが、それにしては、キャンペーン報道でもこの実態について全く触れられないことが解せない。
気づいていないという可能性もある。欧米諸国では、P2P型ファイル交換ソフトでの児童ポルノ交換の事案は頻繁に摘発されているようだけども、それは、Gnutella系(LimiWire等)のファイル交換ソフトや、BitTorrentを用いた個別のファイル共有の事案であり、これらはWinny等と違って、ファイルを公開状態にしている事実を隠さない仕組みになっているので、実態が容易に発覚するし、立証も容易なのだろうと思われる。それに対し、日本のWinny等の場合は、まず、使用されている言語が日本語(操作方法の説明や流通するファイルのファイル名が)であることから、欧米の人達からは実態の理解が容易でないのかもしれない。
日本独自の特性を持つP2P型ファイル共有ソフトであるWinny等は、その利用者もほとんど日本の人に限られているという特徴も明らかになっている(INTERNET Watchの記事参照)が、僅かながら海外からも使用されている。私の観測でも、mit.edu や indiana.edu など米国の大学内から継続的に使用されている(実験ではない様子)ケースがあることを把握している。海外に滞在中の日本国民が使用している可能性もあるが、日本からしか得られないファイルを求める外国人が、手探りながら日本語を使ってファイルを収集している人達もいるのではないか。
もちろん、それは、日本のアニメ作品を集めようとしている海外の人達である可能性も高いが、なかには、欧米諸国で重罪とされる児童ポルノを摘発を免れながら収集するためにWinnyを使用している人達もいるのではないか。Gnutella等とは違って、Winnyのプロトコルは海外では広く知られていないことから、摘発が免れられると考えられているのかもしれない。
そのような実態が欧米諸国に把握されてしまったら、それこそ日本に対する風当たりは強くなるのだろう。たとえば、日本国民が虐待された児童ポルノ(や、その他の人権侵害ファイル)が「YourFileHost」のような米国の(汎用)ファイル共有Webサイトに掲載されているときに、米国の法執行機関に対処を求めても、「日本もWinny等を野放しにしているじゃないか」という理由で、協力してもらえないということが起き得るのではないか。
そういう状況の中で、児童ポルノ法に単純所持の処罰を導入することは、(推進している人達の思惑がどうであれ結果として)現行法でのWinny等の摘発の困難性をひとっ飛びに乗り越え、摘発を容易なものにして、一挙に問題解決するものであるかのように思われる。
だから私は、捜査機関の現場の人々は、密かにその効果に期待して、単純所持の規制法が成立するまで、あえて現行法で摘発する努力をしてこなかったのではないかと(去年までは*13)思っていた。
しかし、多くの人が指摘するように、情報の単純所持(保管)罪という、これまでの日本の法体系上、存在してこなかった*14新しい罪の概念は、あまりにも強力であるが故に、冤罪の発生や、捜査権の乱用が心配されているところである。私も、これまでに何回か書いてきた*15ように、その点で心配するところがあるので、Winnyでの実態についてことさらに言うことを避けてきた面があるのは否めない。
そして、今どうなっているかというと、与党案提出者と民主党案提出者が落とし所を協議しているというのだが、昨日の報道によると、「単純所持禁止に関連し、改正法施行前に入手した場合は罰則の対象としない方向で検討が進んでいる」という。
処罰の条件を厳格にするのはよいが、その落とし所を選択した場合に、Winnyでの定常的共有者達をちゃんと摘発できるのだろうか?
そういう検討はちゃんとなされているのだろうか。少なくとも、国民に開かれた議論の形で、そういう論点が出てきたのを一度も見たことがない。議員立法なので、法制審議会の議事録があるわけでもない。
もしかすると、著作権法で「送信可能化権」を導入したのと同様に、児童ポルノ提供罪についても、「提供し得る状態にする行為」*16も処罰するようにすることで、Winny等での共有について従来摘発困難だったものを摘発可能にできるかもしれないと思えるが、そういう検討はされていないのだろうか。
つまり、目的が明確になれば、それにちょうど見合う必要十分な規制の方法を模索できるはずと思うのだけれども、そもそも具体的に何をどうするために「単純所持の処罰化」が推進されているのか不明だから、最大限に強力な規制の法案が出たり、あるいは、落とし所を探った結果、本来必要とされている最も優先されるべき肝心の摘発に使えない法律になっていたなどということになりかねないのではないか。
与党提出法案の附則を見ても、附則第二条で「インターネットによる閲覧の制限」に関する技術開発を促しているが、「閲覧」というのがWebサイトを想定しているようで、Winny型P2Pファイル共有ネットワークによる流通というものを具体的に想定できていないように見える。
いくらWebサイトを取り締まったところで、為政者の目には見えていない、水面下に広がる広大なWinny型ファイル共有ネットワークがその供給源となっている限り、どれだけモグラ叩きを繰り返したところで問題解決にはならない。
Winnyを使う人達も、初めて児童ポルノらしきファイル名を見つけたときに、「本当にこんなものが世の中に出回っているのか?」と興味本位で入手して視聴してみて、最初はその惨たらしさにショックを受け、世も末だと陰鬱な気持ちになる人でも、いくつか繰り返し目にすることで人権感覚が麻痺し、しまいには「撮影される方にも非があるはずだ」と合理化してしまう人も少なくないのではないか。
単純所持処罰化に反対する立場は、人それぞれに別々の理由であるためややこしい。本当に冤罪の懸念だけから反対する人もいれば、実はWinnyで児童ポルノを収集したことがあるのに「日本が児童ポルノ大国だなんて嘘だ」と平気で嘘を言う人達もいるだろう。
本来ならば、まず、Winny等における児童ポルノ流通の実態を公式な調査で明らかにしたうえで、Winny等による流通を具体的に想定し、単純所持処罰化以外の方法によるピンポイントでの規制のあり方はないのか、模索してみるべきだろう。たとえば、一定の特性を持つ特定の*17ファイル共有ソフトを使用する者にそれなりの注意義務を課すことによって、注意義務を怠った場合に処罰できるようにするなどして、児童ポルノの実質的な流通を阻止できる規制のあり方というのもあり得るのではないか。
そういった検討が行われたようには見えない。
私は陰謀論者ではないので、「将来の言論統制のためにWebのブロッキングに楔を打とうとしている」だとか、「天下りのために児童ポルノサイトのリスト作成管理団体を作ろうとしているのだ」といった発想には同調しない。単にキーパーソンが実態を知らないだけなのだと信じたい。実態を知っている現場の人々が、権限を持つ適切な人に、大事なことを伝えていないだけではないのか。
「それら5つの語がファイル名に含まれる」と書いていた部分を、「他に「loli」を含めた計6つの語について、それがファイル名に含まれる」に訂正。調査実験では「loli」を含めていたにもかかわらず、本文を書く際に間違えたもの。
*1 「Share」その他の、Winnyと同様の性質を持つ類似のものを含む。
*2 あるいは、情報流出状況を調査している人、著作権侵害状況を調査している人なら。
*3 その後、唯一、INTERNET Watchの記事が、6月18日に発表された警察庁の「児童ポルノの根絶に向けた重点プログラム」に、「ファイル共有ソフトを始めとした新たな形態の事犯の捜査手法に関する検討」が盛り込まれたことを伝えた。
*4 大文字小文字を区別せずに。
*5 Winnyのいわゆる「ハッシュ」の数。
*6 もちろん、ファイルの中身を見なければ確実なことは言えない。ファイルを実際に入手して確認する作業は、私がするべきことではないと思うので、今回行っていない。そういった調査は、調査が正当であることが明白な団体等に行ってもらいたいものだ。
*7 2009年4月下旬に観測システムを変更しており、キーの観測密度が大幅に向上しているので、その前後の数を比べることはできない。
*8 Winnyの「被参照量」は、ファイルの断片ブロック(64KB)ごとの転送回数をカウントしているものなので、それをファイルサイズから求めたブロック数で割り算することにより、おおよその「延べダウンロード回数」を求めている。
*9 目視によるカテゴリ仕分けをする前の生データ。
*10 たとえば、「P2P式ファイル共有ソフトでの児童ポルノ共有者、相次いで逮捕」参照。
*11 提供目的所持罪はどうなんだろうか。提供の予備的な意味を持つのだろうか。提供する目的の立証をどうするのか。それに比べると、著作権法の送信可能化権は、送信可能な状態にしたという客観的事実で判別でき、あとはその故意性の立証となる。
*12 「摘発された児童ポルノ掲示板開設者は何をしたのか?」参照。
*14 ウイルス罪を新設する刑法改正案(未成立国会提出法案)が、「不正指令電磁的記録」というプログラムファイルを所持(保管)することを処罰化するものであり、「情報の所持罪」という点で共通するけれども、不正指令電磁的記録の場合には、「人の電子計算機における実行の用に供する目的で」保管する場合に限定されており、目的に限定のない単純所持を違法(罰則なし)とする、今般の児童ポルノ法改正与党案は、それとは異なっている。
*15 2008年5月5日の日記、2009年6月29日の日記、2009年7月5日の日記参照。
*16 「提供し得る」というのは言葉としておかしいので、電磁的記録の電気通信回線を通じた「提供」は、「送信」の概念で整理し直す必要があるのかも。
*17 そのような特性として何が要件となり得るかについては、2006年12月12日の日記などにこれまで書いてきた。
前回の日記に対するはてなブックマークに、「ニコ動でいうところの釣り動画みたいな文化はないのだろうか?」というコメントがついていたが、近頃はWinnyがどういうものなのか全く知らない世代が出てきているようだ。最盛期から既に4、5年ほどが経過し、Winnyの家庭内使用が会社から禁止されるような世の中になった今、世代間情報格差が生じ始めているように思われる。
以下は前回の続きである。
では、Winnyでこういった児童ポルノファイルを取得しようとしている人はどのくらいいるだろうか。Winny互換プロトコルで接続を待ち受ける(だけで何も送信しない)プログラム「WinnyPot」を作成し、稼働させて調べてみた。
まず、従来から稼働させている、Winnyネットワーク巡回プログラム「WinnyWalker」に機能を追加し、接続先のノードが特定のファイル名のファイルのキーを送ってきた場合に、そのファイルの偽キーを作成して、そのノードに送り返すようにした(図1)。
具体的には、(1)ノードに接続してコマンド10(拡散キー要求)を送信した後、応答を待って、(2)コマンド13で拡散キーが送られてきたら、そのキーのファイルの中に、英語圏の小児性愛者らの間で通用する隠語と思しき英字の略語が含まれていたら、(3)同じファイルのキー(ハッシュと、ファイル名、サイズ、トリップが同じキー)を新たに作り(有効期限1500秒)*1、キーのIPアドレスとポートを「WinnyPot」のもの(172.16.xx.xx:7744)にセットして、元のノードに送り返す。
この偽キーが示す意味は、「ハッシュが %41f283XXXXXXXXXX…… のファイル名『[****]〓〓〓〓.mpg』のファイルなら「172.16.xx.xx:7743」のノードが持ってるそうだよ」というもので、これを受け取った各Winnyノードがそのように解釈する。
これを、Winnyネットワークを巡回する際に、あちこちのノードに送り込む(図2の赤い線で示したコマンド13)。すると、送り込まれたノードは、そのキーをさらに別の隣接ノードに送り込むことになる(図2の黒い線で示したコマンド13)。そうしてキーが広がっていくと、そのキーのファイルをダウンロードしようとしているノードに行き渡る。
すると、図2の灰色の線のように、そのファイルをダウンロードしようとしているノードは、指定されたIPアドレスとポート「172.16.xx.xx:7743」に対して接続し、コマンド11(ファイル送信要求)を送信してくる。
このIPアドレスとポートで「WinnyPot」を稼働させ*2、どんなコマンドが送られてくるかを観察した。(もちろん、「WinnyPot」は当該ファイルを持っていないので、要求されてもファイルを送信しない*3。)
「WinnyWalker」による偽キーの散布を、19時17分に開始し、23時41分まで続けた。この間に、Winnyネットワークを10回巡回し、14万7700個のキーを散布した。
散布開始から6分後、最初のダウンロード要求が「WinnyPot」に到着した。以下はそのときのコマンド内容である。
2009-07-18.19:24:03 pXXXX-(略).yamanashi.ocn.ne.jp: Command 97: 2009-07-18.19:24:03 pXXXX-(略).yamanashi.ocn.ne.jp: Command 0: versionNumber=12710, versionString=Winny Ver2.0b1 2009-07-18.19:24:03 pXXXX-(略).yamanashi.ocn.ne.jp: Command 1: lineBandwidth=120.0 2009-07-18.19:24:03 pXXXX-(略).yamanashi.ocn.ne.jp: Command 2: searchLink=false, transLink=true, bbsSearchLink=false, port0Mode=true, badport0Mode=false, bbsMode=false 2009-07-18.19:24:03 pXXXX-(略).yamanashi.ocn.ne.jp: Command 3: addr=/10.XXX.XXX.XXX, port=XXXX, ddnsName=, clusterWord1=〓〓〓〓〓〓, clusterWord2=〓〓〓〓, clusterWord3=〓〓〓〓〓〓〓〓〓 2009-07-18.19:24:05 pXXXX-(略).yamanashi.ocn.ne.jp: Command 11: taskID=3657, startBlock=64, numOfBlocks=32, fileid=%63a63eXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX, filesize=486XXXXXX
コマンド11には、ダウンロード要求元での要求管理番号「taskID」と、ダウンロードするファイルの開始位置「startBlock」、一度にダウンロードするブロック数「numOfBlocks」、ファイルのハッシュ「fileid」、ファイルのサイズ「filesize」が格納されている。
これにより、19時24分03秒に、pXXXX-(略).yamanashi.ocn.ne.jp のIPアドレスのWinnyノードが、ハッシュ「%63a63eXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX」のファイルをダウンロードしようとしたことがわかる。
時間が経過すると、しだいに頻繁にダウンロード要求が来るようになり、10秒に1件くらいの頻度であちこちのノードからダウンロード要求が到着するようになった。最初の約30分間の様子を図3に示す。
ダウンロード要求の到着は、24時10分まで続いた*4。この間に到着したダウンロード要求は全部で1546回で、これをノード毎に集計すると、681個のノードからダウンロード要求があった。
つまり、この4時間半ほどの間に、681人もの人が児童ポルノの疑いのある(英語圏の小児性愛者らの間で通用する隠語と思しき英字の略語がファイル名に含まれている)ファイルをダウンロードしようとしたということだ。
ただし、これは、Winnyネットワーク全域で行われているすべてのダウンロード行為を観察しきれてはいないであろうから、実際のダウンロードしている人数はこれより多いであろう。どのくらいかはまだ不明である。
では、図3のダウンロード要求で指定されたハッシュのファイルは、どんなファイルだったのだろうか。ファイル名に置き換えて示したのが図4である。
図3、4に示したダウンロード要求を出しているWinnyノードらは、私のところからは何も取得できなかったにせよ、すぐに他のノードに接続しなおして、ダウンロードを遂行したことだろう。特別な対策をとっていない限り、ダウンロードされたファイルは自動公衆送信され得る状態に置かれるのだから、そのような行為は、現行法の下でも摘発できるかのように思える。
しかし、前回も書いたように、法実務上、より摘発が容易と言われる著作権侵害事案でさえ、最初の放流者しか摘発できておらず、漫然と共有状態にしている者たちを起訴された前例が未だ存在しない。
では、今般の児童ポルノ法改正の流れで、状況は変わるだろうか。
民主党提出法案で「取得罪」を設けるという案が出ていた。上のように、偽のキーを流して得られるダウンロード要求を観測すれば、取得しようとしている者をあぶり出すことができそうに思える。日本の捜査機関はおそらく、こうしたWinny型ファイル共有ソフトの観測システムを既に持っているだろう。
しかし、偽キーなのだから、実際に取得行為があったという実行着手の証明にはならないのかもしれない。捜査機関が本物の児童ポルノを送信可能化して取得を待つというわけにはいかないだろうから、未遂罪とか、予備罪が規定されていないと、この方法だけでは摘発できないのかもしれない。ただ、Winnyの仕組み上、偽キーに対してダウンロード要求を送信してきたということは、同じファイルを持っている他のノードにも自動的にダウンロード要求を送信している蓋然性が高いと推定されることから、それによって容疑が固まり、捜索令状が出るのかもしれない(が、詳しいことはよく知らない)。
いや、そう簡単ではない。なぜなら、ダウンロード要求を出しているのは機械であり、機械(Winnyプログラム)がそのような要求を出すことになった原因であるところの、利用者の行為が何であったのかが問題となる。英語圏の小児性愛者らの間で通用する隠語と思しき英字の略語をファイル名に含むファイルが、ハッシュ指定でダウンロードされているからといって、利用者が本当にその隠語で表されるものを意識してダウンロードの設定をしたとは限らない。
やっかいなのは、Winny等に見られる、キーワード指定の自動ダウンロード機能である。Winnyでは、ダウンロードするファイルを指定するときに使う画面は、図5のようになっている。
ここで、「キーワード」欄にたとえば「動画」と入力して「追加」ボタンを押すと、ファイル名に「動画」の文字列が含まれるファイルのすべてが対象となり、該当するファイルが見つかりしだい、手当りしだいにそれぞれのファイルのダウンロードが開始されるようになっている。このとき、ダウンロード要求は(検索で得られたキー情報に基づき)ハッシュでファイルが指定される。
そんな、欲しい物がいつ取得できるかわからないような、非効率なダウンロード設定をする人がいるのかというと、いるだろう。なぜなら、Winny等では、できるだけ沢山のファイルを共有状態にしているほど、ダウンロードの効率が向上する(他ノードへの同時接続数が増える)ように設計されているため、欲しくないものまでひっくるめて何でもかんでもダウンロードし、何日も何週間も運転し続けて放置し、ダウンロード済みのファイルの中から鑑賞したいものを探して観るという使われ方がされている。さすがに「動画」という例はいまいちであるにせよ、その他のキーワードで、それに該当するファイルをすべてという形でダウンロードしている人はかなりいるだろう。Winnyとは、はじめからそのような使い方を意図して設計された点で特徴的なファイル共有システムなのである。
そうなると、図3、4のようにファイルが指定されてダウンロードされる事実があったとして、当該ノードの利用者が本当にそのファイルを欲していたのかどうか。もしかすると、「.avi」ファイルを根こそぎダウンロードしているところ、たまたま児童ポルノもダウンロードしてしまっている状況なのかもしれない。
このことは、児童ポルノの電磁的記録取得を取り締まるにあたって、どの程度で故意性を認めるのかで、難しいトレードオフの問題となる。
つまり、自動ダウンロード機能で動画ファイルを根こそぎ児童ポルノも含めてダウンロードする者について、それを摘発しようとすれば、「自己の性的好奇心を満たす目的で」取得したわけでもない事案について「冤罪」となる可能性が高まってしまうし、逆に、その程度では故意性が認められないことにすると、この方法では摘発ができなくなってしまう。*5
そういう行為に何の注意義務も課さないとすると、そうやって無差別にダウンロードする者がいる限り、児童ポルノは大量にWinnyネットワーク上に漂い、誰でもいつでもすぐに取得できる状態が延々と続くことになる。
児童ポルノ法の改正の目的が、現存する児童ポルノを根絶することであるなら、そうした無差別ダウンロード行為に一定の注意義務を課して、それを共有状態のままにする不作為の過失責任を問えるようにするしかないと思うのだが、はたして児童ポルノ取得罪を設けるだけで、そういう効果がもたらされるのかどうか。意図せず無差別に取得した者を児童ポルノ取得罪で家宅捜索する事態が頻発すれば、「捜査権の乱用だ」と非難する人もいるかもしれない。
ならば、単純所持が罰則付きで違法化されたなら問題は解決するだろうか。
単純所持の処罰化が実現すれば、かなりの人がWinny等での児童ポルノの共有をやめてくれるかもしれないが、依然として、無差別に大量のファイルを共有している人達は残り、いつでもどこかからダウンロードできる状態は続くように思える。そういう輩を、改正児童ポルノ法の単純所持罪で摘発できるのかどうか。
今国会での与党提出法案では、「自己の性的好奇心を満たす目的」で保管した場合にだけ、罰則規定を設けている。児童ポルノに関心のない者が、無差別に大量のファイルを(不作為で)共有状態のままにしているときには、この罰則は適用できないはずだ。目的要件なしの単純所持(与党提出法案での改正第6条の2)には該当するだろうけども、これは、与党案でさえ罰則なしということになっている。
目的要件なしの単純所持を処罰化すれば問題は解決するが、それはあまりにも(Winny等利用者以外のすべての情報処理関係者に)過酷すぎる注意義務を課すことになるので、与党案でもそうはなっていないのだろう。
罰則なしで違法とされることが、こういった行為の責任にどのような影響をもたらすのか、私にはよくわからない。罰則なしでも何かしら効果があるのだろうか。*6
ちなみに、P2P型ファイル共有ソフトでも、BitTorrent等ではこんなことにはならない。BitTorrentでは、ファイル毎に個別に共有ネットワークが構築され、それに対応するトラッカーがどこかに存在する必要があるように設計されており、キーワードで無差別にトラッカーが増殖するといった機能があるわけではない。
やはり、Winny型P2Pファイル共有ソフトに固有の特性が、あまりにもどうともならない問題を生じさせているのだから、別の立法措置で規制するしかないのではないか。
*1 実験終了後に気づいたが、キーを作成する際に、被参照量を0にしていた。これを元のキーの値と同じにすれば、もう少し多くのダウンロード要求が到着したかもしれない。
*2 「WinnyWalker」と同じIPアドレスにしないのは、もし大量の接続が来ると「WinnyWalker」の巡回性能に影響を及ぼしかねないため。
*3 このような、何も送信しないIPアドレスに差し替えた偽のキーを流す手法は、権利侵害ファイルのダウンロードを阻止する妨害方法としても知られており、実際にそのようなサービスが実施されたことがあるようだが、ここでは、ダウンロードの妨害になるほどの大量の偽キー送信は行わず、少量の送信にとどめている。
*4 キーの有効期限が1500秒なので、25分後まで続く。
*5 これはWebサイトに掲載された児童ポルノの場合でも同様で、Webのcrawler(たとえば検索サービスを提供するための)やその他の自動アクセスプログラムが、根こそぎファイルを取得していくときに、児童ポルノにもアクセスしてしまうだろうけれども、それを児童ポルノ取得罪に問えるのか、どうやって見分けるのかという問題がある。(User-Agent: で区別できるわけではない。)
*6 同様に、著作権法の改正で、違法に公衆送信されているファイルをダウンロードする行為が罰則なしの違法とされたが、これも、Winny等でのこうした行為に何か影響をもたらすのだろうか。
前回までに検討したように、Winny等での児童ポルノ流通は、現行法で止めることができないだけでなく、今国会で新設が議論された児童ポルノ取得罪、あるいは性的好奇心充足目的所持罪(罰則ありの所持罪)をもってしても、流通を阻止することは困難と考える*1。その原因は、無差別に自動ダウンロードを繰り返して、共有状態を漫然と放置している者が大量にいるためであり、もし、捜査機関が、そうした輩を児童ポルノ取得罪で摘発しようとするならば、児童ポルノ取得の故意性認定のハードルをそのレベルまで下げなければならないことになり、同じ基準がWebに適用された場合に、まさにこれまでに言われてきたような、「よくわからないWebサイトをクリックしただけで児童ポルノ取得罪で摘発される」という懸念が現実のものとなってしまう。それを回避すべく捜査機関が故意性認定を慎重に行うならば、Winny等での児童ポルノ流通を止められないことになる。
そこで、Winny等の利用者に限定して、児童ポルノが共有状態になることを回避する義務を課し、その回避義務に違反した行為を過失犯として処罰する方法が考えられるのではないか。従来、電気通信回線を通じた情報の送信について過失犯を規定する法令はなく、インターネットの利用にそこまでの注意義務を課すことは妥当なのかという声もあるだろう。たとえば、一般的なProxyサーバを設置した者に対して、児童ポルノがcacheから送信されるの防止する措置を講じなかったとして過失罪に問うというのは妥当でないと思う。であれば、対象となる行為を「Winny等」の特定の性質を持つプログラムの利用時に限定すればよいのではないか。
Winny等による管理不能な永続的ファイル流通の問題は、著作権侵害ファイルについても同様に存在するが、過失による送信可能化を罰するべきとする声が出たことはなかった。それはおそらく、著作権は、過失を処罰してまで保護するべきというほどのものではないという共通認識があるためだろうと思う。しかし、Winny等には、名誉毀損等の人権侵害ファイル、個人情報保護に反する流出ファイル等も永続的に流通しており、それらの流通を阻止すべきとする考え方は、児童ポルノ流通の阻止と共通するところではないだろうか。
今般の児童ポルノ法改正の議論で、冤罪発生のリスクがあっても何らかの形での単純所持の処罰化は避けられないというほど、その流通阻止の重大性が確認されたと言えるのであれば、Winny等での流通を放置したのではその目的は達成されないのであり、過失を処罰することを検討せざるを得ないのではないか。
というわけで、私は法律の専門家ではないが、そのような考え方に基づいて、Winny等での流通を規制する法律の方向性を考えてみた。次のような感じでの立法はできないものだろうか。
電磁的記録自動複製流通の適正化に関する法律(私案)
(目的)
第一条 この法律は、不特定多数の者が電気通信回線を通じて互いの電子計算機の間で電磁的記録を繰り返し自動的に複製し流通させることによって当該電磁的記録の消去等の管理を困難にする特定自動複製流通プログラムが、児童ポルノその他の重大な権利侵害情報の流通を防止困難にしていることにかんがみ、特定自動複製流通プログラムの利用者および開発者に対し一定の注意義務を課すことにより電磁的記録の自動複製流通の適正化を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「自動複製流通プログラム」とは、電気通信回線に接続している電子計算機において作動するプログラムであって、他の電子計算機から電気通信回線を通じて電磁的記録を取得する機能を有し、当該電磁的記録を自動的に自動公衆送信(公衆によつて直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。以下同じ。)し得るようにする機能を有するものをいう。
2 この法律において「特定自動複製流通プログラム」とは、次の各号のいずれにも該当しない自動複製流通プログラムをいう。
一 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積しないもの。
二 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積するが、政令で定める期間を超えて蓄積しない措置が講じられているもの。
三 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積するが、公衆からの求めに応じて、当該電磁的記録を当該電磁的記録の取得元の電子計算機から再び取得することによって、電磁的記録を取得元の電子計算機の電磁的記録と同じ内容に更新する措置(取得元の電子計算機に当該電磁的記録が消滅している場合には、蓄積している当該電磁的記録を消去する措置を含む)が講じられているもの。
(利用者の責務)
第三条 特定自動複製流通プログラムの利用者は、当該プログラムを利用するに当たって、次の各号に該当する電磁的記録その他を自動公衆送信しないよう、管理しなければならない。(当該利用者が、その連絡先をインターネットの利用その他適切な方法により公表しており、求めに応じて当該電磁的記録を消去する等の措置を講じている場合、又は、当該特定自動複製流通プログラムが蓄積する電磁的記録の消去等の管理が当該利用者以外の管理者によってなされており、当該管理者がその連絡先をインターネットの利用その他適切な方法により公表しており、求めに応じて当該電磁的記録を消去する等の措置を講じている場合は、この限りでない。)
一 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第二条第3項各号のいずれかにに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録。
二 (略)
(開発者の責務)
第四条 特定自動複製流通プログラムの開発者は、当該プログラムの利用者に、当該プログラムが特定自動複製流通プログラムに該当するものである旨を説明し、電磁的記録の取得に際して当該電磁的記録が自動的に自動公衆送信し得る状態になる旨を説明するよう努めなければならない。
2 特定自動複製流通プログラムの開発者は、人に利用させる目的で当該プログラムを開発するに当たっては、当該プログラムの利用者が電磁的記録を取得するに際して、前条各号の電磁的記録その他の記録を自動公衆送信しないよう管理することを可能とすべく、適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
(罰則)
第五条 第三条の規定に違反し、過失により同条各号の電磁的記録その他の記録を自動公衆送信した者は、(略)万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。
2条1項の「自動複製流通プログラム」には、ルーターやProxyサーバなども該当するが、同条2項の「特定自動複製流通プログラム」では、それらを除外している。「特定自動複製流通プログラム」には、メーリングリストのアーカイブをWebで公開している場合や、(現状の多くの)検索エンジンにおけるクローラーから検索サーバまでの一連のシステムが該当するが、3条の管理義務の規定で、連絡先を公表して削除要請を受付けている場合を除外している。
Gnutella系のファイル交換ソフトで、ダウンロード用フォルダとアップロード用フォルダを別々に設定している場合は、「自動複製流通プログラム」に該当しない。アップロードフォルダにファイルを入れて自動公衆送信し得る状態にする行為は、その故意性が問われることになる。ダウンロード用とアップロード用フォルダを同一に設定している場合は、「自動複製流通プログラム」に該当し、たいていのファイル交換ソフトでは「特定自動複製流通プログラム」に該当することになる。
BitTorrent(通常の)は「特定自動複製流通プログラム」に該当するが、個々のファイルごとに共有状態を管理する設計になっているので、3条が規定する管理は利用者にとって容易である。管理を怠らないようにしていたにもかかわらず、ダウンロードし終えるまで児童ポルノ等かわからなかったため、それまで共有状態にしていたという場合について、罰則を適用すべきか適用しないべきか、判断のわかれるところ。これはPoenyの(ポート解放をした)利用も同じ。
P2P型のファイル共有を活用したコンテンツデリバリネットワークで、クライアントサイドでコンテンツの蓄積を行う場合、cacheの自動更新ないし自動削除機能があれば「特定自動複製流通プログラム」には該当しないし、ない場合でも、管理者がコンテンツを管理している場合は、利用者に3条の管理義務は生じない。
Winny等は「特定自動複製流通プログラム」に該当し、通常の使用方法では、3条の管理が事実上できない。結果として、使用しない(または特殊な方法で対策をとる)ようにしなければ、処罰を免れない。BitTorrentに機能を追加して「地引きダウンロード」を可能にしたプログラムでも、3条の管理が遂行できなくなると思われ、同様である。
4条で、P2P型ファイル交換・共有ソフト等を含む「特定自動複製流通プログラム」の開発者に努力義務を規定しており、罰則はない。同条2項で、利用者が3条の管理義務に違反せざるをえないようなプログラムの開発を避けるよう努めることとしている。今後Winny等の利用が実質的に不能となったときに、新たな類似プログラムの開発者が現れるかもしれないが、4条の努力規定に違反して開発したものを人に利用させれば、その結果ひき起こされる事態(児童ポルノ流通の蔓延等)に対しての責任が生ずるのではないか。
4条1項の「電磁的記録の取得に際して当該電磁的記録が自動的に自動公衆送信し得る状態になる旨を説明するよう」とは、たとえば、OperaでBitTorrentプロトコルを使用してダウンロードするときに現れる警告画面(図1)が該当する。
この法に抜け穴がないか探さないといけない。たとえば、定められた期間を超える直前に、蓄積したファイルを削除する機能の盛り込まれたWinny類似プログラムは、「特定自動複製流通プログラム」に該当しないことになるが、そのようなプログラムが広く普及したときに、はたして、流通を十分なレベルで防止できるのか。あるいは、一旦削除した後に、すぐに再取得するようなプログラムの場合にはどうか。
*1 見るからに集中的に児童ポルノに絞って共有を続けているとわかる者を摘発することはできるだろうが、それでは流通が止まらないようになっているのがWinny等の仕掛けである。