ここ数日、テレビのワイドショーで連日取り上げられている「カレログ」だが、以下の話はまだマスメディアでは取り上げられていないようだ。
カレログのサービスが開始されたのは8月29日だったが、9月1日にリイド社から「GALAXY S2 裏活用バイブル」というエロ本*1が出版されていた。この本の企画・編集を担当したのは、有限会社マニュスクリプトであり、カレログのサービス提供者と同一であることが判明している。
この本の表紙には以下のように、「スクープ!! (秘)アプリで彼女の動きをGPSでリアルにチェック!」と書かれている。
何のことかというと、まさに「カレログ」の紹介記事である。
「禁断! ギリギリ裏アプリ徹底研究」という最終章に掲載されており、以下のように、「大事な彼女の行動を追跡チェック!」、「悪用厳禁! 究極のストーキングアプリ!」、「パートナーを気遣って!?追跡 天使のアプリor悪魔のアプリ」と紹介している。(ちなみに、見開き隣のページには「エロロイド」なるアダルトアプリ紹介サイトが掲載されている。)
本文中では、以下のように紹介されており、無断でインストールするのを当然の前提として書かれている。
もともとは女性向けに開発された「男性の行動チェック」アプリで、スマートフォンのGPS機能を活用した位置情報通知サービス。これが抜群の効果を上げているという噂を聞き、今度は逆に女性にもと考えたのが、S氏(34歳)。
『カレログ』の機能は相手の現在位置が分かるだけにとどまらない。バックグラウンドで操作を行うので、どのタイミングで情報を取得しているか相手には分からない。相手のその日の行動そのものが丸わかりになってしまう。しかもアプリアイコンが表示されないのでアプリが作動している事も悟られないのだ。(略)
プラチナ会員になれば相手の通話記録までリアルタイムに入手可能で、浮気チェックに絶大な効果だ。
男性ながらも『カレログ』を、いち早く利用しているのがSさん。彼は半年前から6歳年下の彼女と付き合いを始めたのだが、「僕が出張とか(略)そこで『カレログ』を試してみました」
それからS氏は仕事の合間に彼女の行動をチェック。すると続々と、不審な行動が浮き彫りになってきた……。
「頻繁に誰かと長電話してるし、僕に報告した場所とは違ったところに出かけていることも多いんです。そしたら(略)」
「GALAXY S2 裏活用バイブル」p.90
「抜群の効果を上げているという噂を聞き」とあるが、カレログ公開前に編集された本であり、捏造ストーリであることは言うまでもない。
私がこの本の存在に気付いたのは、(たまたま休暇をとっていた)9月6日の午後、有限会社マニュスクリプトの「制作実績」のページを見ていたときだった。そこには、以下のように、「カレログ」の隣に「裏アプリ」なるものが並べられていた。
「裏アプリって何だ?」とクリックしてみたところ、空白ページになっていた*2。不審に思い、空白ページの更新時刻を調べてみたところ、8月31日 10:21:24 となっていた。つまり、「カレログ」の件が炎上し始めた翌日朝、不正指令電磁的記録作成・提供罪に問われる可能性もあるのではないかと議論が始まり出した、その直後に更新されている。
調べてみると、この「裏アプリ」というのは、「GALAXY S2 裏活用バイブル」で「本誌連動アプリ」として紹介されているものだった。本ではこの「裏アプリ」が以下のように1ページ目で紹介されている。
この「裏アプリ」をダウンロードして起動してみたところ、以下のように「カレログ」も紹介されていた。その紹介文は「大事な彼女の行動を追跡チェック!」となっている。
このことがTwitterで話題になると、マニュスクリプト社の社長は「ご批判のムックについては、色々事情もあり、多くはここでは語れません。批判は甘んじて受けます。しかるべき説明はしかるべき場所でしてきます。」といったツイート(2011/09/06 21:42:55)をなさっていた。*3
その翌7日朝、タレコミにより、Facebookの有限会社マニュスクリプトのウォールからも、肝心の情報が削除されていたことが明らかになった。8月31日 14:35:37 時点では、「GALAXY S2 裏活用バイブル」と「裏アプリ」の紹介が掲載されていたのが、いつの時点からか削除されていた。
ここには、有限会社マニュスクリプトによる記述として、「9月1日発売「GALAXY SII裏活用バイブル」(リイド社・定価1050円)の企画・編集を担当しました。」とある。
なぜこれを削除したのか。
このことがTwitterで話題になる*4 と、「カレログ」のサイトに以下の「お詫び」が掲載されるという展開になった。
曰く、「弊社提供資料を元に、該当編集(アンチウィル'S)編集による創作記事とは言え、あからさまな不適切利用を推奨するかのような文言がありました。」という。
この本の奥付には「編集・企画 アンチウィル'S」とある。この「アンチウィル'S」がどういう人たちで構成されていたのかは未だ明らかになっていない。
マニュスクリプト社の社長は、こうした削除が表沙汰になる前の、9月6日の朝の時点では、次のツイートをなさっていた。
また、本の存在が明らかになった直後、Facebookでの削除が表沙汰になる前の段階では、社長は次のようにツイートなさっていた。
「初期パブリシティの依頼から失敗」なのだという。
なお、「カレログ」の当初の宣伝では以下のように書かれていた。
「どのタイミングで情報取得しているかは彼氏の端末では一切わかりません。またアプリアイコンもGPSの設定画面になっています。」と、アプリアイコンを偽装している点について、その正当性を、「彼氏が彼氏の友達に見られても大丈夫。男のメンツも守ってあげなきゃね♪」と説明していた。(つまりこれは、「オマエ、カノジョにカレログなんか入れられちゃってんのかよw」という事態の想定なのだろう。)
世間には「カレログ」のことを技術革新かのように見る人が少なからずいるようだが、「カレログ」には何ら技術的な革新性はない*5し、「認知症のお年寄りや、幼い子供の安全のために使えばいいのに」と言う声も出るが、そういった製品・サービスは5年以上前から既にあったし、友達同士で現在地を確認し合うアプリとしては、Google Latitudeなどが無料で提供されており、これはAndroidに最初からインストールされている。
そういう状況で、「カレログ」の革新性がどこにあったかと言えば、こうした機能のアプリでアイコンを偽装することを正当化する謳い文句として、「彼氏が彼氏の友達に見られても大丈夫。男のメンツも守ってあげなきゃね♪」というフレーズを発明したことに尽きる*6と思う。
その後、今回の騒動によって、「カレログ」は修正が加えられることとなり、アイコンは「カレログ」のネコの絵に変更され、稼働中は常時アイコンが表示されるようになるなど、こうしたステルス性は排除された。
また、トップページの謳い文句も、当初は「今ドコで何してるの? 彼氏追跡アプリ 4つの機能でカレシの行動まるわかり」だったのが、現在は「はなれていても安心 れんあい支援アプリ パートナーとの情報共有はじめよう」とマイルドに変更されている。これらの変更状況については、以下のサイトで詳しくまとめられている。
また、現在では、「カレログ」サイトのトップページに以下の注意書きがされている。
「サービスの利用に当たってのお願い」として、「親しい仲でも、了承を得ないで使用するAndroid端末への無断インストールは不正指令電磁的記録供用罪等が適用される可能性があります。」と、同意なしのインストールをしないよう、警告している。
JPRSから以下のプレスリリースが出ていた。
内容を見て仰天。都道府県ドメインに第3レベルでの登録を認める「都道府県型JPドメイン名」を新設するという。そこで以下の公開質問状を送った。
株式会社日本レジストリサービス御中
都道府県型JPドメイン名新設に係る公開質問
東京都〓〓区〓〓〓〓〓 高木 浩光
2011年9月27日貴社2011年9月26日報道発表の「JPRSが、地域に根ざした新たなドメイン名空間「都道府県型JPドメイン名」の新設を決定」について、Webのセキュリティ及び可用性の観点から、公共の利益に影響を及ぼす懸念があると思料するため、貴社に対し、以下の通り、公開を前提とした質問をするので、15営業日以内を目安とした期限でご回答頂きたい。
質問1. 当該ドメイン空間新設によるWebセキュリティへの影響についての検討状況
「都道府県型JPドメイン名」の新設によって、Webセキュリティにどのような影響を及ぼすか又は及ぼさないかについて、貴社及び貴社が本件について諮問したJPドメイン名諮問委員会並びにその作業部会である地域型JPドメイン名再構築検討部会のそれぞれが、如何なる検討を行ったか又は行わなかったか、以下の各事項にご回答頂きたい。
(a) 地域型JPドメイン名再構築検討部会における、都道府県型JPドメイン名新設に伴うWebセキュリティへの影響についての検討の有無、および検討内容
(b) JPドメイン名諮問委員会における、都道府県型JPドメイン名新設に伴うWebセキュリティへの影響についての検討の有無、および検討内容
(c) 株式会社日本レジストリサービスにおける、 都道府県型JPドメイン名新設に伴うWebセキュリティへの影響についての検討の有無、および検討内容
質問2. Public Suffix Listをどのように更新すればよいか
旧来よりドメイン名はWebセキュリティの根幹を支える重要な役割を担ってきたところであるが、今日では「Public Suffix」(別名「effective top level domain (eTLD)」) のリスト(以下、Public Suffix Listという)が作成され、複数のWebブラウザ(Mozilla Firefox、Google Chrome、Opera)等において、Public Suffix Listに基づいたセキュリティ上の各種制御(cookie発行時の有効ドメイン範囲の限定、Webブラウザのアドレスバーに表示するURLでのeTLDの強調表示等)が行われているところである。
都道府県型JPドメイン名の新設に伴い、Public Suffix Listの更新が必要となると考えられる(もし更新しないならば、都道府県型JPドメイン名を用いたWebサイト、例えば http://example.tokyo.jp/ 等において、cookieを利用できない等の障害が生ずると予想される)が、Public Suffix Listをどのように修正すれば新設される都道府県型JPドメイン名に対応できるのか、株式会社日本レジストリサービスとしての見解をお示し頂きたい。
質問3. Public Suffix List更新の実現に向けた貴社の今後の対応予定
都道府県型JPドメイン名に対応したPublic Suffix List更新の実現について、株式会社日本レジストリサービスが今後どのように取り組むのか又は取り組まないのかについて、ご回答頂きたい。
以上
何もしなければ、「都道府県型JPドメイン名」の登録が始まっても、cookieを利用できないなどの欠陥ドメイン名となることが予想される。