前回の日記に対して、弁護士の壇俊光氏よりご当人のブログ上にて以下のご批判を頂いた。
高木浩光さんのところでこんな記事を拝見した。(略)
横浜市墓地条例の解釈としては(中略)刑事罰の予定されている条項の解釈は厳格になされなくてはならない。公道を墓地や霊堂に含むというのは無理である。
というわけで、道義的な問題や個人情報などの問題はあれどもGSVで公道から撮影する行為は条例に反しないというのが法律実務家としての結論である。
違法行為と決めつけた記述が見受けられるが、この問題は、謙虚に法律を学んだうえで論じる姿勢が望ましい。
9月26日時点での内容より
「違法行為と決めつけた」と言われているが、私は公道からの撮影に関して違法と決めつけた記述をしていない。
前回の日記で書いていることは、読めばわかるように、霊園の敷地内通路(公道でない部分、図で緑色で塗っていない部分)での行為についてだ。条例違反である旨は横浜市の担当者との電話で確認していることも書いた通りである。霊園内の公道部分について触れているのは、本題と区別してオマケとして添えた脚注1での話で、「ではないかと思う」「ではないだろうか」としか表現しておらず、これらが通常の日本語表現として「決めつけた」と言われる筋合いのものとは理解し難い。また、「刑事罰の予定されている条項の解釈は厳格に」とおっしゃるが、この条例に刑事罰は予定されていない(過料は刑事罰ではない)。
ところで、先月のMIAUの「Googleストリートビュー“問題”を考える」シンポジウム*1の様子がビデオで公開されているが、この中で気になる発言があった。
壇俊光氏: いちおう日弁連の消費者問題対策委員会をやっておりまして、
4分30秒〜4分34秒より
なるほど、たしかに壇俊光氏のプロフィールを拝見すると「日本弁護士連合会 消費者問題対策委員会幹事」とある。「専門取り扱い分野: ITにおける消費者保護」という記述もある。
日弁連はストリートビュー問題についてどういう見解なんだろうか。消費者問題対策委員会の取り扱う話題なのかといえば、ストリートビューの「被害者」はグーグルに料金を払っているわけではないし、利用者ですらない場合も多いのだから、「消費者問題」に該当しないのかもしれないが、企業対個人の問題であるという意味では消費者問題に近い側面もあるのではないか。
そもそもこの問題は、「プライバシー権」がどうのこうのと言う以前に、グーグル株式会社の法人としての姿勢の問題であり、そのことは、サービス開始から数日後の時点で既にわかる人にはわかっていたことである。私がこの日記でやってきたことは、それをわかりやすく実証的に示してきただけであって、8月10日ごろには既に囁かれていたことばかりだ。
グーグルの撮影作業員は、グーグル株式会社からどのような指示を受けて撮影車を走らせているのか。どのジャーナリストもいまだにそこを解明してくれない*2ので、私には憶測することしかできないが、おそらく、「Googleマップ上の白い道を全部くまなく走ってください」などと、それ以上の注意事項も何も指示していないのではないか。
削除を受付けるための手段を用意しながらわざと制限し、電話対応も準備しないでいるという悪質さもご覧の通りであるし、広報姿勢も嘘ばかりで取材を拒否しているし、事実として法令違反の行為が散見されるところだ。
こういう状況で、日弁連から何か言うことはできないのか。壇俊光氏は、MIAUのシンポジウムで次のように話したと報道されている。(ニコニコ動画で閲覧、はてなブックマーク経由で閲覧。4分37秒〜5分20秒)
「よちよち歩きのストリートビューには、わかりやすいメリットが見えない。しかし、ファイル共有ソフトも著作権侵害ばかりが言われていたが、いまではコンテンツデリバリーにも使われていることからも、今の段階で全否定という議論はあまり好きじゃない。将来的に良くなるには、どこを変えていけばいいのかという議論をすべき。」(壇氏)
「ストリートビュー」はどこが問題か、MIAUシンポジウムで議論, INTERNET Watch, 2008年8月28日
ファイル共有ソフトの問題をコンテンツデリバリーに重ねるのはまともな技術者からすれば詭弁にしか見えない話だし、そういう問題じゃないだろう。「将来的に良くなるには、どこを変えていけばいいのか」とおっしゃるが、被害者に対してさえコミュニケーションを断絶しているグーグル株式会社を相手に、どうやってそれができると言うのか。「議論をすべき」と言いながら議論しないじゃないか。
ところで、今日9月27日の朝日新聞朝刊「be on Saturday」にストリートビューのことが掲載されていた。「ストリートビュー よく知ろう」「ネットに映るわが家を確認する」「実際に見るには」と題して、まだ使ったことのない人たちに対して、使い方を詳細に図解して、自分に関する映像がないか確認しようと呼びかけている。
360度撮影できるカメラで街の様子を詳細に写し、インターネットで公開したグーグルの「ストリートビュー」が大きな反響を呼んでいる。ネットに縁遠い人には何が起きているのか理解しにくいサービスだが、そういう人ほどよく知る必要がある。自分で見なければ、画像の削除依頼すら出せないからだ。わが家の映像が世界に公開されている事態をどう考えるか。(以下略)
朝日新聞2008年9月27日朝刊, be on Saturday, b3面より
*1 津田大介氏がtwitterでつぶやいているように、私はこのシンポジウムに登壇するよう依頼されたのだが、お断りした経緯がある。お断りの際に示した理由は次の通り。
中川さんには誠に申し訳なく思うのですが、この件に関してはお引き受けしません。なぜなら、この件で私には何の専門性もないからです。今回の件に技術の話はありません。これは、このレベルのプライバシーを国民がどう選択するかの話であり、プライバシーとは何かという議論において私には何の専門性がありません。私が話せるのは、プライバシーは保護されるべきであるという前提があるときに、どのような技術が不適切であるとか、こうした技術で保護できるといった議論だけです。
自宅の日記にはいろいろ書きましたが、元々は、8月11日の時点では、「書くつもりはない」と身近な人に話していました。上に説明しましたように専門外であるし、さすがにこれほどまで問題が解り易い事例では、私が何か言うまでもなく世間は糾弾に動くと思っていたからです。ところがそうはなりませんでした。「キモイと言う奴がキモイ」という流れになり、これはまずいと思ったため日記を書きました。
日記に書いたことは、私が発見したのではありません。2ちゃんねる等に既にたくさん指摘が出ていたことです。表に出てこないから表に出す作業をやっただけです。この種の問題がやっかいなのは、困っている人が声をあげるとその人自身が不利益を被る構造であるため、匿名掲示板でしか不満の声が出ないことです。本来、ジャーナリズムがこれを適切に表に取り上げて、世間に知らしめることですが、日本にジャーナリズムはありません。しかたがないので、覚悟を決めて嫌々私が目白地域の家を訪ねて実態を表に出しました。私道に入っているという件も同じです。本来はジャーナリストの仕事でしょう。私の仕事ではありません。
今必要なのは、グーグルの日本法人が日本向けの適切なローカライズをさぼったことに対する非難と改善交渉です。プライバシーとは何かなどという一般論を議論している場合ではありません。(以下略)
*2 それに対し、海外の事例ではちゃんと撮影作業員へのインタビューとそれに対するGoogle社のコメントが報道されており対照的だ。
Press Democratの記事によれば、ソノマ郡では、Street View撮影車が100を超える私道に立ち入っているそうです。「立ち入り禁止」の看板を出していても、番犬がほえていても私道に入り込んでいるとか。
同紙の取材では、Googleの広報担当者は「ドライバーには詳細なルートを渡している」と話していますが、撮影車のドライバーは「ソノマ郡を運転して回って写真を集めるように言われた」とコメント。広報担当者はドライバーのコメントを聞いて、発言を撤回したそうです。
Google Street Viewの「私道立ち入り」批判、オーストラリアでも, ITmedia 海外速報部ログ, 2008年8月26日
日本の「メディア」はこういうのを翻訳して流すだけのただの入れ物でしかない。
The debate about Google’s new Street View service in Japan, which sparked criticisms following its launch over a perceived lack of cultural sensitivity, has come back into the spotlight with the recent visit to Tokyo by Google vice president Kent...