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高木浩光@自宅の日記

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2013年05月07日

年金機構から基礎年金番号の付番機能を剥奪せよ

我が目を疑うニュースが飛び込んできた。

  • 性同一性障害者に年金共通番号 一時ネット閲覧可能に, 共同通信, 2013年5月7日

    日本年金機構が、性同一性障害で性別変更した人を判別するため、昨年10月から基礎年金番号10桁のうち前半4桁に共通する固定番号の割り当てを始めていたことが7日、分かった。この4桁の番号が性同一性障害者を示すと明記した機構の内部文書が一時インターネットで確認できる状態だった。

「内部文書が一時インターネットで確認できる状態だった」というのが意味不明だなと思いつつ、Twitterを検索してみたところ、この問題と戦っている方々のツイートと、問題提起のブログが見つかった。

こちらを拝見すると、要するにこういうことらしい。

  • 性同一性障害で性別を変更した人の全てに、特定4桁から始まる基礎年金番号が再付番されるわけではなく、そのうち「年金分割記録を保有する者」(離婚により年金を分割した場合で生じる)について、そのような基礎年金番号が再付番される。
  • 再付番された場合、元の基礎年金番号と2つの基礎年金番号を持つことになる。
  • 社会保険事務所に以下の「性同一性障害者にかかる基礎年金番号付番」と書かれた用紙が用意されている。
  • 社会保険事務所の職員が、全ての性同一性障害で性別を変更した人に対して、この用紙を用いて、特定4桁から始まる基礎年金番号を再付番処理してしまっている事案がかなり発生しているもよう。
  • 日本年金機構発行の「年金相談マニュアル 来訪編」が http://gyosei-bunsyo.net/syaho.html に置かれており、第1章第3節に、「なお、「性同一性障害者の被保険者等で年金分割記録を保有する者の場合、性別変更の審判日以降の記録については、新たな 基礎年金番号xxxx−○○○○○○ が設定され、元の基礎年金番号と2つ有することになる」ため注意が必要です。」という記述があったらしいが、現在では、このPDFファイル「年金相談マニュアル 来訪編」は、6頁から8頁までの第1章第3節が丸ごと削除された状態で掲載されている。

共同通信の記事が言う、「この4桁の番号が性同一性障害者を示すと明記した機構の内部文書が一時インターネットで確認できる状態だった」というのは、この改ざんされたPDFファイルのことだろうか。しかし、こういう報道になるということは、共同通信の取材に対して日本年金機構がこのような制度になっている事実を認めなかったということなのだろうか。

前掲のブログの著者の場合は、年金分割記録がないため、社会保険事務所の職員に制度の正しい理解を促して、難を逃れることができたようだが、しかし依然として、年金分割記録のある、性同一性障害で性別変更した人には、この特定4桁から始まる基礎年金番号が付番されるわけで、重大な問題があるだろう。

特定番号によって不当な差別を受ける危険性について、ブログ著者が社会保険事務所の職員に対して問いかけたところ、職員からは「わたしたち職員くらいにしかわかりません」と言われてしまったという。この「8500」という番号を隠し通せるとでも思ったのだろうか。

「職員くらいにしかわかりません」というが、基礎年金番号は、住民票コードとは違って、勤務先に提出することもある、いわゆる「見える番号」である。「8500」が隠語として広がって*1、勤務先の会社で性同一性障害の履歴を知られる危険が生じる。

基礎年金番号の付番方法はどこで規定されているのか。日本年金機構が勝手にやっているのか、厚生労働省の省令で規定されているのか知らないが、甚だ愚かしい話だ。

その点、これから導入がされようとしている、行政手続きのための個人番号(番号法により付番される)は、そういうことにならないよう、乱数により番号が生成されることになっているはずだが、そのことは、番号法には規定されていないようだ。政令で定めるのだろう*2が、法律で定めないで大丈夫だろうか*3

と、書きながら、さらに調べたところ、こういうツイートが見つかった。

唖然。特定4桁数字を、性同一性障害の人たちは団結して秘密として胸に抱えよとでも言うのか? 年金機構、ホントにクズの集団なのか。こんなやつらに、国家による個人識別番号を付番する機能を運営させてはいけない。

いやいやまてまて。「8500番はネット等で知れ渡ってしまったため、番号を変えて新たに附番しなおす」というのは、特定4桁番号を使わない普通のランダムな番号に変えて「新たに付番」という意味なのかもしれないので、しばし成り行きを見守るべきかもしれない。

追記

詳しい記事が出ていた。

  • 年金機構、性同一性障害に共通番号 一時ネットで公開, 日本経済新聞, 2013年5月7日

    その際、「事務担当職員に2つの年金記録があることを分かってもらうため」(同機構)に、前半4桁の番号を共通にした。

    (略)マニュアルは内部文書だが、情報公開制度に基づき第三者に開示していた。機構は今年1月、外部からの指摘でネットへの掲載を確認し、3月末までに約200人の番号を変更した。新番号でも性別変更は判別できるという。

    (略)機構の広報担当者は「今後は情報公開請求があっても、共通番号は非開示にするよう対応を改めた」としている。

  • 性同一性障害者に共通番号 年金機構、ネットで閲覧可能, 中国新聞, 2013年5月8日

    機構は(略)共通番号を割り振るのは、性別変更した人が持つ二つの年金記録を誤って一本化しないためだとしている。

    (略)機構はことし1月、外部の指摘でネット上に固定番号が掲載されていることに気付き、ことし4月までに全国の200人弱に別の番号を割り当てた年金手帳を新たに交付。対象者への通知文書では、個人を特定できる情報掲載はないとし「プライバシーに配慮し、新しい(別の)番号に変更しました」などと釈明していた。

  • 性同一性障害者に共通番号 年金機構、一時ネット閲覧可, 中国新聞, 2013年5月7日

    担当者は取材に対し「情報公開請求への開示が適切でなかった面もあると反省している」と話した。新番号でも性別変更は判別できるが、詳細は明らかにしていない。

うわあマジキチ。聳え立つ糞。こんな奴ら即刻、首をはねろ。

追記(6月29日)

その後、展開があり、国会で取り上げられていた。(この問題に取り組んでおられる方々の議員への働きかけがあったようだ。)

○谷合正明君 (略)

次に、基礎年金番号について伺います。

昨日も一部報道に上がっておりますが、十桁の基礎年金番号の冒頭四桁に性同一性障害の方と分かる特定の番号が付されているということが報道に上がりました。そこで、これがネットに情報が漏れてしまったということも明らかになりましたが、基礎年金番号から性同一性障害であることが類推される現状について、これ改善していくべきだと考えております。

まず、この点について厚生労働省の方から伺いたいと思います。

○政府参考人(高倉信行君) お答え申し上げます。

ただいま委員から御指摘いただきました問題につきまして、ごく簡単に背景も含めて御回答させていただきたいと存じます。

(略)

その上で、今御指摘いただきましたホームページ云々というところでございますが、これは昨年の七月に、年金相談マニュアル、私どもの年金事務所で使っております相談マニュアルの方の文書開示請求があった際に、性同一性障害により家裁から性別変更審判を受けた方からお申出があった場合には特定の番号を付番する対応をしているということが分かる部分を、本来であれば黒塗りすべきであったところを黒塗りせずに文書開示したことを契機に、このような情報がインターネットの個人のホームページに一時掲載されていたという経緯だったと聞いております。このように、文書開示に際しまして配慮が足りなかった部分があったことは誠に遺憾に存じております。

この問題につきまして、当面の改善の対応といたしまして、本年の四月、先月からでございますが、新たな基礎年金番号への切替えを実施していると聞いております。その番号は当然ながら非開示で、分からないようにするという対応をさせていただいております。またさらに、正確な記録管理を確保しつつ、また御本人のプライバシーにも配慮した上で、そういった特定番号を付番しないやり方が可能なのかどうか、ここのシステム改修も含めて日本年金機構において現在検討している段階でございます。

以上でございます。

第183回国会参議院内閣委員会, 2013年5月9日

これをきっかけとして、行政手続番号利用法における個人番号についても、質問がされていた。

○谷合正明君 (略)

それでは、マイナンバーについてなんですけれども、マイナンバーも番号によって性同一性障害かどうか類推されるようなおそれはないのかどうか。そういうことがあってはいけないと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(向井治紀君) 個人番号、マイナンバーにつきましては、基本的にはランダムな数字の配列であります。現在、住民票コードを変換して付番するということになってございます。

したがいまして、これを性別等の個人の属性を判別する個人番号を生成することは技術的に不可能でございます。また、政令におきましても、個人番号が無作為に作成された数字等で構成される旨明確に規定したいというふうに考えております。

第183回国会参議院内閣委員会, 2013年5月9日

というわけで、政令で定めることが確認された。

なお、番号利用法で「前項の住民票コードを変換して得られるものであること」(8条2項2号)と規定されていることから、住民票コードがランダムである以上、個人番号もランダムな番号となるのは明らかではないかとの指摘を頂いたが、「変換して得られるもの」といっても、関数で変換することを意味するわけではなく、現在の実装案では、ランダムに生成したものを変換テーブルで紐付けることを予定しているわけで、それを指して法が「変換して得られるもの」と呼ぶくらいなのだから、この条文によって8500のような付番を禁止したことにはならない。したがって、ランダムに生成することはやはり政令なりで定める必要がある。

*1 それどころか、新たな差別用語を日本年金機構が作り出すことになる危険すら冒していやしないか。

*2 番号法(案)8条2項に、「機構は、前項の規定により市町村長から個人番号とすべき番号の生成を求められたときは、政令で定めるところにより、次項の規定により設置される電子情報処理組織を使用して、次に掲げる要件に該当する番号を生成し、速やかに、当該市町村長に対し、通知するものとする。」とある。

*3 番号法(案)8条2項は、個人番号として生成する番号の要件として、「一 他のいずれの個人番号(略)とも異なること。」「二 前項の住民票コードを変換して得られるものであること。」「三 前号の住民票コードを復元することのできる規則性を備えるものでないこと。」を規定しているが、このようなレベルの要件を法律で定めるのなら、「8500」のような差別的番号の生成を許さない要件も、政令ではなく法律に入れておくのが自然な気がするがどうか。

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