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2021年12月26日

スマホ覗き見の反復で迷惑防止条例違反の犯罪に?改正ストーカー規制法の位置情報規定に不具合か

先々週、警視庁生活安全部が、東京都の迷惑防止条例(正式名称「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)の改正を目指しているとのことで、改正概要をパブコメにかけていた。どういうわけかその説明ページが消滅している *1のだが、先ほど締め切りだったので、急いで書いて意見提出した。

意見募集の説明を見てすぐに強い違和感を覚えたのは、「規制対象となる行為類型の追加」に示されている「相手方の承諾を得ないで、その所持するGPS機器等の位置情報を一定の方法により取得する行為」の「位置情報を取得する行為の例」に「相手方のスマートフォンを一時的に操作して、当該スマートフォンの画面上に位置情報を表示させて盗み見る行為」が挙げられていたことだ。

最初に抱いた疑問は、「相手方のスマートフォンを一時的に操作して」(遠隔操作ではなく物理操作を指すようだ)位置情報を見るというと、その場で現在地を見るということだろうか?という点。現場にいるなら現在地はその場なのだから何の意味もない。どうやらこれは、過去の位置履歴を閲覧することを指しているようだ。たしかに、例えば、iPhoneであれば、「設定」→「プライバシー」→「位置情報サービス」→(一番下までスクロール)→「システムサービス」→(下の方)→「利用頻度の高い場所」という長い長い操作の深い深い先に、過去に滞在していた場所がその時間帯とともにズバリ表示される機能がある。こういった操作をして閲覧することを言うのであろうか。

iPhoneの画面キャプチャ iPhoneの画面キャプチャ
図1: 昨日私がJILISに行った後に四川飯店で誰かと会食していたことがバレバレである様子

警視庁の本件パブコメ担当係に電話して確認したところ、やはり相手方の端末を直接手で操作して過去の位置情報を画面表示させて閲覧するケースを想定している様子だった。しかも、これは、今年のストーカー規制法改正で新たに追加された規制対象行為「位置情報無償取得等」をそのまま真似て、迷惑防止条例に同じものを入れる趣旨のものだから、何の問題もありませんが?とでも言いたげな口ぶりだった。

たしかに、ストーカー事案で、GPS端末装着による位置情報的監視行為がストーカー規制法の「つきまとい等」に該当しないとする最高裁判決(令和2年7月30日)があったことから、同法を改正して明示的に規制行為に加えるという話になっていた。それ自体は悪くない話であるし、問題のある改正になり得るとは心配していなかった。国家公安委員会で(前内閣法制局長官だった)横畠委員から「GPSを利用した位置情報の取得等という、新たな類型の行為を追加するに当たっては、今後の更なる法改正の可能性を踏まえ、そもそもこの法律が何を規制しようとしているのか、既存の規制行為の類型との関係等について考え方をよく整理しておくことが重要である」旨の発言があったようで、「そうだそうだ」と頷いていたところだった。

それがまさか、「相手方のスマートフォンを一時的に操作して、当該スマートフォンの画面上に位置情報を表示させて盗み見る行為」まで対象になるとは思いも寄らなかったので、今回の警視庁の条例改正案を見て魂消たのであった。

そこで、昨年からストーカー規制法の改正に向けての検討がなされていた、警察庁の「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」の資料と議事要旨を確認したところ、やはりそんな話は出ていなかったように見える。

しかし、改正後のストーカー規制法の条文を見ると、たしかに、2条3項で「位置情報無承諾取得等」が定義され、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で、「当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者」に対し、「その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(……)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること」(1号)と、「その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること。」(2号)が対象とされていて*2、今回の事例が該当してしまうように見える。

問題は、これら、法2条3項1号の取得する行為と、2号の取り付ける行為とが、完全に独立になっていて、どちらか一方だけで違法行為に該当するように規定されてしまったことだ。なぜこうなったのか。有識者検討会の資料を読むと、以下の指摘があったようで、この理由で、別々の違法行為として規定されたようだ。

○ 装置を取り付けたりアプリを入れたりするというところと、位置情報を取得するというところを切り離しておかないと、別のタイミングで別の人がやったとか、アプリを入れたのは別の人でとか、そういうことがあり得るので、二つの行為を分けておく必要があると思う。

ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書

分けた趣旨は理解できるが、それでは、元から位置情報が記録されているところを閲覧するだけでも該当してしまうではないか。それは本当に規制したいことだったのか?

警視庁のパブコメ担当係に聞いたところでは、「相手方のスマートフォンを一時的に操作して、当該スマートフォンの画面上に位置情報を表示させて盗み見る行為」は、ストーカー規制法の警視庁における運用においても該当するものとしているとのことだった。本当なのかは不確かであるが……。

というわけで、以下の意見を提出した。


意見

規制対象となる行為類型「位置情報を取得する行為の例」に列挙されている、「相手方のスマートフォンを一時的に操作して、当該スマートフォンの画面上に位置情報を表示させて盗み見る行為」は、規制の対象とすべきでない。

理由

迷惑防止条例がストーカー規制法の改正に合わせて、GPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得等を規制の対象に加えようとすること、それ自体について反対するものではないが、ストーカー規制法がそのように改正された趣旨は、行為者が相手方にGPS機器等を取り付けるなど、本来ならば記録されないはずの位置情報を記録させるようにする行為を経て、行為者が位置情報を取得する場合を想定したものであったはずである。

それに対して、「相手方のスマートフォンを一時的に操作して、当該スマートフォンの画面上に位置情報を表示させて盗み見る行為」というのは、相手方のスマートフォン(相手方が所有し管理しているスマートフォン)自体を「GPS機器」とみなして、相手方の管理下において元よりスマートフォンが自動的に記録していた位置情報(例えば、iPhoneにおける「利用頻度の高い場所」機能のように、スマートフォンのOSが初期設定において自動的に記録している位置情報)を、行為者が単に閲覧するだけの行為までもが対象となるように見受けられる。

そもそも、行為者が相手方のスマートフォンを一時的に操作できるような状況(行為者と相手方の関係性)において、スマートフォンの画面を「盗み見る行為」はごく日常的に許されている行為であって、直ちに犯罪とするべき行為とは言い難い。たしかに、迷惑防止条例の「つきまとい行為等の禁止」が規定する罪は、「専ら、特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的」を要する目的犯であり、「不安を覚えさせるような行為」に限定されるものではあるが、不安を覚えること自体は日常の人間関係においてごく普通に生じ得ることであるし、「ねたみ、恨みその他の悪意の感情」が日常の人間関係において一時的に生ずることなどごくありふれた事であるはずである。

そのような日常生活における行為の一部を犯罪化することが妥当するのは、GPS機器を相手方に無断で新たに装着して位置情報を記録させる行為や、相手方のスマートフォン(GPS機器に該当する)に位置情報を記録するアプリ等を無断で新たにインストールする行為、あるいは不正アクセス禁止法違反行為を伴って、結果が生じる場合に限られると考える。警察のGPS捜査を違法とした最高裁大法廷判決平成29年3月15日においても、「装着により個人の行動を継続的、網羅的に把握できる状態にする」ことをもって私的領域に侵入されない権利の侵害(調査官解説、ジュリスト1507号106頁以下)としたことからしても、法益侵害の核心は、本来ならば記録されないはずの位置情報を記録させるようにする行為にあるはずである。

もし、そうした行為を伴わずに閲覧するだけの行為が犯罪化されるのであれば、特別な位置情報記録システムの利用に限られず、相手方のスマートフォンの写真に付属して(Exif情報などに)記録されている位置情報を閲覧するだけの行為も該当してしまうであろう。ならば、位置情報に限らず、相手方のスマートフォンに保存されている写真を単に閲覧する行為や、カレンダーを閲覧する行為、その他のアプリの利用状況を閲覧する行為はどうなのか。これらも「ねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で」行われ、発覚時には「不安を覚えさせる」ことになることもあろう。これらが日常的に許されているなかで、なぜ位置情報に限って閲覧するだけでも犯罪とすることが妥当するのか、理由がない。

ストーカー規制法の今回改正で、記録された位置情報を取得する行為(2条3項1号)と、相手方が所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付ける行為(同項2号)とが、独立して該当行為とされており、どちらか一方でも該当する行為となっているが、その趣旨は、改正法の立案過程の議論を参照すると、取り付ける者と取得する者が同一人でない場合が想定されることによるものであって、取り付ける行為が存在しない場合まで想定したものではなかったのではないか。

改正ストーカー規制法も本件同様に、「相手方のスマートフォンを一時的に操作して、当該スマートフォンの画面上に位置情報を表示させて盗み見る行為」まで対象とするものであるかは定かでないが、仮に現行の運用においてこれを対象としているのであれば、ストーカー規制法の解釈・運用を見直し、取り付ける行為が存在しない場合まで対象としないように改めるべきである。


急いで書いたので、少し間違えた。「『不安を覚えさせるような行為』に限定されるものではあるが」と書いたが、この限定は入らない可能性が高い。警視庁の意見募集の説明ではこの限定が入るかのように見えるが、ストーカー規制法ではこの限定がないので、そのままコピーされれば、この限定は入らないだろう。

ストーカー規制法の改正でこの限定を入れなかった理由は、前掲の報告書によると、次のように結論づけられている。

GPS機器等を用いた位置情報の取得行為は、生命、身体に対する危険が生じ、相手方に不安を覚えさせる蓋然性が高いことから、「ストーカー行為」の成立に関して不安を覚えさせるような方法によることは不要とすることが適当である。

ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書, 10頁

この結論の元になった研究会委員の発言は以下のものとされている。

○ GPSは気付かないうちに取り付けられている点は、他の「つきまとい等」に当たる行為とは異なるが、他方で、他の行為と同様に、生命、身体に対する危険が生じる事態は変わらない。また、GPS機器を取り付けられた又はアプリケーションを入れられたと分かれば、不安を感じない事態は考えられないため、「不安を覚えさせる」方法による方法の限定は不要だと思う。

ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書, 9頁

このように、検討会委員はあくまでも「取り付けられる」ことを前提に話していたようである。これがいつの間にか話がねじ曲がったようだ。検討会の開催時期からすると、内閣法制局での法制的検討が同時並行で進められていたと考えられるので、法制局でねじ曲げられた可能性もある。これも情報法制の一種であるので、JILISからの情報公開請求で法律案の立案過程を分析してみようと思う。

パブコメの意見では書きそびれたが、そもそも、装着行為を伴わない、位置情報の単なる閲覧に過ぎない行為が、迷惑防止条例1条(目的)や条例の題名が言う「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等」と言えるのかという点からして疑問である。都議会での追求、さらには国会での解釈の確認が期待されるところであろう。

*1 国会図書館WARPでも閲覧できないが、Internet ArchiveのWayback Machineで閲覧できる。27日追記:冒頭に引用していた「警視庁生活安全部」のツイートも夕方になってわざわざ削除された。どういうことなのか? パブコメはなかったことにしているのか?

*2 その政令(ストーカー規制法施行令)も確認してみたが、大した限定はなく、「位置情報記録・送信装置の範囲」はスマートフォン自体も該当するし、位置情報の取得方法は「閲覧する方法」「記録媒体を取得する方法」「受信する方法」が列挙されているだけで、何でも該当する。

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