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高木浩光@自宅の日記

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2012年06月08日

カレログ様のものでストーカー行為、不正指令電磁的記録供用罪の適用が現実に

「カレログ*1」がテレビのワイドショーを騒がせていた昨秋、人のスマホに勝手にインストールする行為が、はたして、改正されたばかりの刑法、第168条の2第2項の不正指令電磁的記録供用罪に当たるのか否かが焦点となっていた。理論上の話としては、先日の「法務省担当官にウイルス罪について質問してきたパート2」に書いたように、考え方としては有り得るとのことだったが、6月5日の毎日新聞神奈川版によると、現実に事件となったようだ。

  • 不正指令電磁的記録供用:パソコンの操作記録を自動送信、無断でプログラム入れた容疑で再逮捕, 毎日新聞/神奈川, 2012年6月5日

    元交際相手のパソコンにキーボードで打ち込んだ内容を記録して自動送信するプログラムを無断で入れたとして(略)被告(略)=ストーカー規制法違反で起訴=を不正指令電磁的記録供用容疑で再逮捕した。

    (略)昨年10月29日(略)女性(略)のノートパソコンに「キーロガー」などのプログラムを勝手に入れ、キーボードで打った内容を記録し、そのままインターネット上のサーバーに自動送信するよう設定したとしている。

    (略)女性のスマートフォンの位置情報をこれらのプログラムを使って入手し、本人らに居場所を知っていることを伝えるメールを送るなどしたとして、ストーカー規制法違反容疑で逮捕、起訴された。

まさにこういうことがいずれ起きるのではと言われていたが、ずいぶん早く現実になったものだ。

しかしこの記事はちょっと解せない。ノートパソコンにキーロガーを入れたとあるのに、スマホの位置情報を入手していたという。どういうことだろうか。よく見ると「キーロガーなどの」「これらのプログラムを使って」と書かれている。考えられる可能性は以下などだろうか。

  • 可能性A: ノートパソコンに入れたというのは誤報で、スマホに入れた。入れたのは、キーロガー機能の他に位置情報を送信できる機能も持つ総合監視ソフト(「Kidlogger」等)だった。
    (当該ソフトがどういうものか一般的な説明を受けた記者が、そのような行為があったものと混同した可能性。)

  • 可能性B: ノートパソコンにキーロガーを入れたというのは誤りではなく、これによって、GoogleアカウントのIDとパスワードを盗み出し、このID・パスワードを用いてGoogle Play(Android Market)を操作し、位置情報を送信できるアプリ(「カレログ」等)をスマホにリモートでインストールした。

  • 可能性C: ノートパソコンにキーロガーを入れたというのは誤りではなく、これによって、iTunesストアのパスワードを盗み出し、このID・パスワードを用いて「iPhoneを探す」を用いて位置情報を得ていた。

  • 可能性D: ノートパソコンにキーロガーを入れたうえ、スマホに位置情報を送信できるアプリ(「カレログ」等)を入れた。位置情報を入手したことにキーロガーは無関係。

可能性BとCは、不正アクセス禁止法第3条違反も犯したことになるが、そうは報道されていない。この件を伝える報道はこの記事以外に見当たらず、真相は不明である。*2

昨秋の時点では、不正指令電磁的記録の罪に当たらないとする指摘として、「位置情報を取得するといったスマホにある機能を使い、アプリの機能も説明されている。記録を取られることを本人が知らなかったとしても、犯罪には当たらない」*3、「事前に説明されているアプリの目的と違った動作をするわけではなく、ウイルスとまでは言えない」*4といった意見が出ていた(詳細は4月21日の日記「法務省担当官にウイルス罪について質問してきたパート2」参照)が、今回の事件で使われたソフトが、一般に流通している監視ソフトであるなら、そういったものは「子供や老人を見守るため」とか「紛失した自分のスマホを捜索するため」など、正当な用途を掲げて作成・配布されていることが多いので、その場合には、この意見の法解釈の下では不正指令電磁的記録の罪には問えないことになる。

そこを今回、神奈川県警が供用罪で立件したわけである。*5

法務省担当官にウイルス罪について質問してきたパート2」では、供用罪に当たり得るとする考え方が示されたものの、法務省担当官は、「ご質問のソフトをたとえば、ヤクザ、闇金をやっているヤクザが、債務者、高金利で貸している債務者が逃げられないようにするために、その携帯電話に勝手に入れ込んだ」という例を挙げ、「誰が考えても悪いという例」で説明されていた。そのため、「元交際相手の女性に」という程度の事案で、条文にある「不正な」の要件を満たすのかは不明であった。

今回、その点について、ストーカー規制法違反との牽連犯か併合罪のケースではあるものの、逮捕という段階まで進んだ。この後、追起訴に至るのか、裁判でどう判断されるのか、興味深い。

ここはぜひ弁護人には上記の該当しないとする理由を掲げて争って頂いて、明確な判例が残されるのを待ちたい。

*1 「カレログ」は、8月末に登場した当初のバージョンと、後に仕様変更されて改名された「カレログ2」とでは趣が異なる。初期バージョンでは、人のスマホにインストールすることを基本コンセプトとしており、アイコンとアプリ名を偽装し、「どのタイミングで情報取得しているかは彼氏の端末では一切わかりません。またアプリアイコンもGPSの設定画面になっています」として、スマホの使用者に気付かれにくくする細工が施されていた(詳しくは2011年9月11日の日記「話題の「カレログ」、しかしてその実態は。」参照)が、その後、このコンセプトが廃止され、自分で自分のスマホにインストールするのを前提とした「カレログ2」に生まれ変わり、ステルス性も排除された(稼働中はカレログが実行中である旨を常時画面に表示するように改善され、アイコンの偽装も取りやめられた)。今回述べることは、改善される前の初代「カレログ」を前提としたものである。

*2 神奈川県警に、実際はどうなのか教えてもらえないかと電話で尋ねてみたが、教えてもらえなかった。

*3 日経産業新聞2011年9月13日「行動把握アプリ、波紋広がる—「彼」追跡、やり過ぎの声」より。

*4 読売新聞2011年9月16日夕刊「彼のスマホに入れて行動追跡 「カレログ」抗議殺到 アプリ、一部機能中止」より。

*5 位置情報を送信するアプリが対象外で、キーロガーだけが対象とされている可能性も残るが。


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