8月14日の日記を書いた翌週のこと、なんとなく「hiromichu」でググってみたところ、以下のページが見つかり、魂消た。
このページで「トロフィー」のところをクリックすると、なんと、私がどんなゲームで遊んでいたかまで表示されてしまう。URLの「OnlineID=」のところに任意のIDを指定することで、全ての人のゲームプレイ状況を閲覧できてしまう。(このサイトにログインしていなくても。)
プレステ3を買ってPlayStation Networkを使い始めてかれこれ何年にもなるが、これまで、全くこのことに気付かないまま、いくつかのゲームをプレイしていた。
こんなことになているとは知らず、私は8月14日の日記で、自分のPlayStation NetworkでのID(「オンラインID」と呼ぶらしい)を公開してしまった。
このことをTwitterでつぶやくと、自分も知らなかったという声が相次いだ。そのときの様子は以下で閲覧できる。
どうやら、設定で公開を止めることもできないし、事前の警告もなかったようだ。
先ほど、念のため、ソニー・コンピュータエンタテインメント インフォメーションセンターに電話で問い合わせてみた。
まず、電話対応者もこのような機能があることを知らなかったとのこと。「どうやってこのページを見つけたか」と尋ねられたので、playstationhome.jpのトップページから、「オフィシャルBBSの書き込み」のところに出ているどれか一つのオンラインIDのところをクリックしてみるよう伝え、そのときのアドレスバーのURL中の「OnlineID=」のところを他に変えてみるよう伝えて、事態を理解できたようだった。
「これは意図した仕様なのか、それとも不具合による事故なのか」を質問したところ、「仕様である」との回答を得た。さらに、「設定で公開を止めることはできるか」を尋ねたところ、「止める方法はない」との回答が得られた。
では、プレステ3を購入した人が、PlayStation Networkにアカウントを作成して、サインインし、いずれかのゲームをプレイするまでの間に、プレイ履歴が公開状態になる旨の説明を見る機会はあっただろうか。プレステに新しい「ユーザー」を作成し、新しいPlayStation Networkアカウントを作成して、このことを確かめてみた。(2011年11月3日の時点での最新バージョンで確認。)
たとえば、ゲームの「グランツーリスモ5」を初めて起動すると、最初に以下の画面が出る。
ここで「はい」を押すと、「PlayStation Networkにサインアップする必要があります」と出るので、一旦ゲームを中止して「PlayStation Networkにサインアップ」の機能に移動したとする。すると、以下の画面が現れる。
ここで、「新しいアカウントの作成」を選ぶと、画面は以下のように進む。
ここまで、「お預かりする個人情報はプライバシーポリシーにもとづき保有および利用されます。」*1との説明の下、生年月日の入力を求められる。
利用規約は読んだとして、次に進むと、以下のようになる。
ここで、唯一説明があるのは、「オンラインIDはPlayStation Network上に公開されます。個人情報は記載しないでください。」という部分。しかし、これは、「オンラインID」が公開されるから、その文字列を決めるに際して、「リアルな氏名等を含めないようにせよ」という意味と普通は受け取るだろう。(IDが公開されることと、IDによって紐付けられたプレイ履歴が公開されることとは、全く別である。)
そして次の画面に進めると、以下のように、氏名と住所の入力を促された後、確認画面があって登録完了である。
ここまでに、何の情報が公開状態になるかの説明はない。(「オンラインID」が公開されることしか言及されていない。)
では、「利用規約」や「プライバシーポリシー」に、そのことが書かれているのだろうか。詳細を読んでみると、関係ありそうな部分は以下のところであった。
利用規約に「10.情報公開」という節があり、「お客様のゲームプレイに関係した情報を他のPSNユーザーに提供することがあります。」という記述がある。
しかし、「ゲームプレイに関係した情報」では何のことだかわからないし、そもそもこの部分は、よく読むと、何を開示するかをユーザーに伝える目的の文章ではなく、「当該目的のために、仕様、配信、複製、表示、出版等する権利」という、SCE側の権利についての記述である。
さらに言えば、「お客様のゲームプレイに関係した情報を他のPSNユーザーに提供することがあります」というが、実際にはPSNユーザーでない全ての人に対して公開状態になるのであるから、事実の説明としても誤っている。
続いて、「プライバシーポリシー」では以下が関係しそうな部分である。
この説明は、基本的に、SCEが何を収集するかを書いているのであって、何が公開状態になるのかの説明ではない。
ただ、以下の記述がある。
「お客様がPSNを通じて他のお客様と共有する情報(例: PSNのプロフィール、ランキング、フレンドリスト、ブロックリスト、ステータスなど。)ゲームタイトルの仕様によっては、ハードディスクへの録画機能またはインターネット上の動画サイト(第三者が運営するサイト)へのアップロード機能を備えている場合があります。この場合、他のプレイヤーが、お客様のオンラインIDやチャット内容などを含めたオンラインプレイの様子を録画し、その録画映像を動画サイトにアップロードすることができます。チャットなどでやりとりする内容については十分にご注意ください。
しかし、これも、「ゲームタイトルの仕様によっては(略)アップロード機能を備えている場合」の話であって、一般的なゲームのプレイ履歴が公開状態になる話の説明とは読めない。
というわけで、やはり、ゲームのプレイ履歴が公開状態になることは、説明されていない。
では、PlayStation Networkに対応したゲームを起動したときに、ゲームの画面の方で説明が出るようになっているかどうか。
以下は、ナムコミュージアムを初めて起動し、1回プレイしたときの様子である。
「遊んだ履歴をフレンドと共有」とあるが、この時点で、以下のようにプレイの様子はWebサイトで公開状態となっており、「フレンド」以外とも共有されてしまっている。
実際、私は、こうした情報は「フレンド」にのみ閲覧され得ると思っていた。*2
他方、マイクロソフトのXboxではちゃんと説明されているという。Twitterで呼びかけて、Xboxの利用者の方々に調べていただいた。
これによると、パスワード、秘密の答え、生年月日を入力し、「登録内容の確認画面」が出て「続ける」を押したところで、「現在のプライバシー設定」の画面が出るそうだ。
ここに、ちゃんと「ゲームの記録の公開」が「許可」と書かれている。
さらに、「設定を変更するには」と書かれていて、非公開に設定できることが説明されている。設定変更の画面は以下のようになっているとのこと。
さすが米国の会社マイクロソフトだと言わざるを得ない。一方のソニーは、典型的な日本企業と同様に、これっぽちも消費者の立場で説明をしようという意思が見られない。
このことは前回の日記「心から利用者に説明する気なぞ微塵もない日本の事業者たち」でも書いた。それに対して、「そんなこと言ったって、詳しく書いたって誰も読まないじゃん」みたいなことを言う人がいたが、上のPlayStationとXboxの違いから明らかなように、大事なこと(説明しないと初めての利用者には普通わからないこと)は利用規約やプライバシーポリシーとは別扱いで個別に示せばいいわけで、簡単なことであるはずだ。
同様に、AppleのiOSの例を見てみる。先日、iPod touchをiOS 5にアップデートした際、以下の画面が現れた。(おそらく、購入直後でもこのような画面が出るのであろう。)
位置情報について(と、この後に出てくる「診断/使用状況」について)だけは、利用規約やプライバシーポリシーとは別扱いで、このように確認画面が出る。
ここで「“位置情報サービス”とは?」をタップすると、以下のように、(利用規約やプライバシーポリシーとは違って)大きな文字で説明が出る。
なぜ、位置情報機能を「オン」にする際にこのような説明がわざわざあるかというと、「クラウドソース*3の公衆Wi-Fi」のために、位置情報をアップルに送信するからである。
そのことは、「位置情報サービスとプライバシーについて」をタップすると、説明が出てくる。
以下のように書かれている。
“位置情報サービス”がオンの場合、iPod touchは、この公衆Wi-Fiアクセスポイントと携帯電話通信網の基地局の位置情報のクラウドソースデータベースを補強するために、近くの公衆Wi-Fiアクセスポイントと携帯電話通信網の基地局のジオタグ付きの位置情報を、匿名の暗号化された形式でAppleに送信します。
説明すべきことをちゃんと説明している。*4
どうして日本の会社にはこういうことができないのか。じつに嘆かわしい。
*1 この時点で既におかしい。「保有および利用されます」と言うが、主語は誰なのか。
*2 今気付いてみると、PlayStation Homeでパブリックなラウンジに行った場合、ラウンジで出会った人からは、その場でプレイ履歴を閲覧される機能があった。(説明は見当たらないが、その機能を使ってみると気付く。)
*3 ここでちょっと残念なのは、日本語への翻訳で、「crowdsourcing」が「クラウドソース」とカタカナにされてしまったこと。これでは、「iCloudの機能?」と勘違いしてしまう人が続出しているのではないかと思うが、crowdsourcingのcrowdは群衆のことであり、「現在地は(略)クラウドソースの公衆Wi-Fiアクセスポイント(略)を使って判断」というのは、PlaceEngineと同様の方法で(GPSがなくても)WiFiで位置を測定するサービスのことを指している。
*4 とはいえ、つっこみどころは多々ある。Appleが今回このような説明を出すようにしたのは、これまでこうした説明なしに(利用規約にひっそりと書いただけで)やってきたことに対する批判があったからであり、韓国では位置情報保護法違反で罰金処分(「韓国当局、アップルに罰金 - iPhone位置情報取得問題で2855ドルの支払い命令」等参照)となるなど、他にも集団訴訟があったからであろう。また、今回のアップデートで、新たに「クラウドソースの道路交通情報データベースを構築するため」にも、各iPhoneの物理的な移動の状況を収集するとしている。同意をとっているとはいえ、ちょっとやりすぎな感がある。嫌な人は「位置情報サービス」をオフにするしかなく、位置情報サービスを使えなくなってしまう。「クラウドソースのWiFi位置情報」や「クラウドソースの道路交通情報」は、なにも全員参加である必要はないのではないか。「診断/使用状況」と同様に、crowdsourcingに協力しないで位置情報サービスを利用する選択が与えられてもいいように思う。また、「匿名で暗号化された形式でAppleに送信」とあるが、本当に「匿名」と言える方法なのか疑わしい。この種の目的では、永久に固定のIDで収集する必要はなく、数時間や数日程度の短時間で変わるIDで収集すれば目的は達成できるはずで、ちゃんとそういった対策がとられているか、とられていないとすれば、今後、欧米諸国で問題視されるかもしれない。
ツイートしようと思ってたことだけど長くなりすぎたのでこっちにまとめました。(初めてのはてなダイアリー)なお、本当はプライバシー権全体についてを使ってまとめようと思ったのですが、うまくいかなかったので古典的プライバシー権だけ。 前提 高木浩光@自宅の日記 ..