実は、今年3月、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」からは、有識者ヒアリングとして意見を述べる機会を頂いた。ただし、私に発言の機会が与えられたのは、「ライフログWG」における検討内容のうち、「より信頼されるサービスに向けて(配慮原則の提言)」の部分についてのみで、それ以外の部分については対象外だった。
あまり重大な指摘をする余地のない部分であったが、私としては与えられた使命を全うすべく可能な限り改善点を洗い出して、意見として列挙した。
この「配慮原則の提言」は、報告書案では「ライフログ活用サービス」という表現を使っているが、実質的には、これはすべて「行動ターゲティング広告」を対象としたものになっている。「ライフログ活用サービス」というと、利用者が自ら望んで活用する話に聞こえるが、行動ターゲティング広告では、基本的に利用者に無断で行おうとするものだから、配慮が必要となるというわけである。
配慮原則案は、「(1)広報、普及・啓発活動の促進、(2)透明性の確保、(3)利用者関与の機会の確保、(4)適正な手段による取得の確保、(5)適切な安全管理の確保、(6)苦情・質問への対応体制の確保」から成っており、このうち(3)の「利用者関与の機会の確保」は意味がわかりにくい表現になっているが、ようするに、オプトアウト手続きのことを指している。
(3) 利用者関与の機会の確保
対象事業者は、その事業の特性に応じ、対象情報の取得停止や利用停止等の利用者関与の手段を提供するよう努めるものとする。
このことについて、事業者がプライバシーポリシーで「cookieは拒否できます。削除もできます。」としているケースが散見されるけども「それだけでは配慮が十分とは言えない」というようなことが書かれていたので、その問題に切り込むならもっと根本的なところに切り込むとよいと思い、以下の意見を述べた。
残念ながらこの意見は採用されることはなく、パブリックコメントにかけられた報告書案に反映されていない。まあ、これはしかたがないかと思う。現実的にcookieによるオプトアウトがまかり通っている現状において、このような意見は無理筋であることはわかっていたが、せっかくの機会なので一推しで述べてみた意見だった。
それでも、スライドで例として示した、楽天のオプトアウト用cookieが1年の有効期限になっていた件*1については、総務省で意見を述べた甲斐あってか、数日後に再確認した際には、有効期限が20年(実質無期限)に変更されていた。
ただ、ライブドア社のオプトアウト手続きについて調べてみると、現時点でもオプトアウト用cookieの有効期限は1年になっている*2。
やはり、少なくともこのような欺瞞行為を是正させる何らかの規定なり、業界の自主ガイドラインなりが必要なのではないだろうか。
しかし、今回の「利用者視点 第二次提言案」はそもそもそのレベルまで問題認識が到達しておらず、私が呼ばれたのは、報告書案公表の1か月前(WG最終回の直前)だったので、そこで何か提案しても通らないようだった。
その後調べて知ったのだが、米国では、インターネット広告事業者の業界団体「Network Advertising Initiative」が自主的に、完全なオプトアウトの仕組みを提供する試みを実施しているようだ。
ネットワークアドバタイジングイニシアティブ(NAI)が「Firefox」向けのアドオンである「NAI Consumer Opt‐Out Protector」試験版の提供を開始。NAIの会員社のオプトアウトクッキーの不意な削除を防いで、行動履歴に基づく広告配信からのオプトアプトを維持する。
こういう活動が日本にはない。もしくは、あるのかもしれないが外から見えない。(良心的な広告事業者がそういった策を提言しているかもしれないが、表沙汰にならない。)
ヒアリングでは、次の意見も述べた。
「ライフログ活用サービス」と称すのだから、利用者の望むものを提供しているという建前であるはずだ。であれば、どれが行動ターゲティングの結果なのかを明示することに、何ら臆することはないはずである。
また、配慮原則案は「広報、普及・啓発活動の促進」も謳っているが、残念ながら広報・啓発活動には全く期待できないわけで、そういう状況で、表示された広告自身にそれが行動ターゲティングの結果である旨を示す表示がついていれば、消費者は自然にそれが何なのかを学ぶことができるだろう。
日本で広告業界の自主取組みが活発化しないのは、消費者がものを言わないからだろうが、日本では、ものを言わないというのは、必ずしも不満を抱いていないということではない。もし本当に「ライフログ活用サービス」が消費者の望むものであるなら、ちゃんと事実を説明していけばいいはずで、広告業界と消費者のウィンウィンの関係を築けるはずだろう。
米国では、既にこうしたマーク(アイコン)表示の計画が推進されているようだ。
Trying to ward off regulators, the advertising industry has agreed on a standard icon ― a little “i” ― that it will add to most online ads that use demographics and behavioral data to tell consumers what is happening. (略)
Most major companies running online ads are expected to begin adding the icon to their ads by midsummer, along with phrases like “Why did I get this ad?”
When consumers click on the icon, a white “i” surrounded by a circle on a blue background, they will be taken to a page explaining how the advertiser uses their Web surfing history and demographic profile to send them certain ads.
私のヒアリングでの提案は採用されることはなかったが、報告書案では脚註64に次のように記載された。
64 一部の構成員から、どの広告が対象情報を活用した行動ターゲティング広告等なのか、利用者に容易に認識かつ理解できるようにすべきとの指摘があった。
この提案が受け入れられないとすれば、「利用者の望むものを提供」というのは実は嘘で、本当は皆が嫌がることをやろうとしているのを自覚しているということではないか。
そういう意味で次の意見も述べた。
残念ながらこの意見は採用されなかったが、ヒアリングの席では、事業者の出席者からも「ライフログ」という言葉はおかしいという発言が相次いだ。行動ターゲティング広告を指す言葉として英語圏では通用しないため、ビジネスに支障が出るという。
いったい誰が、行動ターゲティング広告のことを「ライフログ」などと言い出したのだろう? 最初に言ったのは誰? 「マイ・ライフ・アシスト」のようなサービスは「ライフログ」と言ってもよいだろうが、それはオプトイン前提だからだ。
さて、私としては本命の提案は次のものであった。
残念ながら、私が呼ばれたのはWG最終回の直前なので、この検討をする余地はなかったと思われる。パブリックコメントにかけられた報告書案では、脚註63で次のように記載されるにとどまった。
63 保存期間には、端末等の識別を継続して行う期間と、蓄積した対象情報を保管する期限の2つがある。
ヒアリングに呼ばれて感じたのは、WGのメンバーは技術的なことをわからずに話しているらしいことだった。メンバーは弁護士や法学研究者、事業者は法務担当者ばかりで、オプトアウトcookieが識別性ゼロであることさえわからない*3まま議論になる一幕もあった。(詳しいことをここに書くのはやめておこうと思う。)
そんなことでは、落とし所を導くことができずに、「消費者優先か事業者優先か」「全否定か全肯定か」の言い合いにしかならないのもしかたないと思った。
*1 ちなみに、Yahoo! JAPANのオプトアウト手続きについて同じ日に確認したところ、2037年までと無期限になっていた。
*2 ちなみに、このライブドアのオプトアウト用cookieの有効期限は、2008年12月の時点では1か月だった。(「livedoorのad4U、拒否できるのは「1ヶ月」だけ」, xenoma日記, 2008年12月13日)
*3 フラグという概念がわからなかったらしい。
技術的な面すら把握せずに参加するメンバーがいるWGの価値ってなんだろ。その程度の連中集めるならWGじゃなくていいじゃん。 煽りだろうが突っ走りだろうが、なんだかんだこの人の存在は貴重。
なんだか情報が分散してきたので、この辺でまとめることにした。ほぼ自分用の備忘録。人それぞれやり方があると思うし、セキュリティツール..