「Mutual認証」のメンバーとIETFで米国に来ているのだが、ホテルの部屋に配達された昨日の新聞、USA TODAY紙の1面に、こんな記事が載っていた。
内容を要約すると、米国TSA(国土安全保障省運輸保安局)が、空港の手荷物検査の行列の待ち時間を測定する目的で、人々の携帯電話などから発信されているBluetoothのMACアドレスを観測することを検討しているというもの。
BluetoothのMACアドレス観測で何ができるかは、1年前の日記「Bluetoothで山手線の乗降パターンを追跡してみた」に書いたとおりで、過去にも類似の目的の実験の事例がある。
今回の事案は、Purdue大学がIndianapolis国際空港で昨年に1か月間テストした技術*1の採用を、TSAが採用を検討しているというもので、行列のできる場所にBlutooth受信機を置いて、それぞれのMACアドレスが検出され始めてから検出されなくなるまでの時間を測定することで、行列の待ち時間を推測し、乗客に案内しようというものらしい。
USA TODAY紙の論調は、TSA報道官の「この技術は様々な方法で価値あるデータをもたらし得る」というコメントを紹介したうえで、ACLU(アメリカ自由人権協会)のプライバシー専門家のコメントを紹介しながら、政府が人々の通信機器の場所を追跡するようになることが懸念されるとしている。
記事にはEPIC(電子プライバシー情報センター)のコメントも出ており、今回のPurdue大学のシステムでは、MACアドレスの一部しか記録しないようにすることで、プライバシーリスクを最小化しているそう*2なのだが、今後そうした配慮のないシステムが出てくることが懸念されるとしている。
極めて正しい論調の記事であり、こうした記事が一般紙の1面に出てくることに感心した。
一方、日本で同じことが起きたとき、日本の新聞はどうするだろうか。おそらく、「MACアドレスの一部しか記録しない」という配慮がされている時点で、記事にならない(ぶっ叩き記事が書けない)か、もしくは、「プライバシーに配慮した技術」としてべた褒めするだけの記事が出てくるだろうと予想する。USA TODAY紙の記事のように、今後生じ得るリスクを事前に想定して、何をすると問題となるのかとか、どこに落としどころがあるのかといった、そういう論点の列挙がなかなかできない*3。そうなってしまうのは、読者がぶっ叩き記事しか待ち望んでいない(白黒がハッキリしていないと頭がウニになってしまう)からなのかもしれないが。
記事はネット版にも出ていた。
*1 記事によると、Purdue大学がIndianapolis国際空港で行った実験では、乗客の6%から10%がBluetoothのMACアドレスを発信していたという。
*2 論文はこれか。「Anonymous Bluetooth Probes for Measuring Airport Security Screening Passage Time: The Indianapolis Pilot Deployment」
*3 両論併記が原則というけども、単に両極端の主張を並べただけでは価値を生み出さない。