2008年に書いた懸念、
これが現実になりつつある。
先週、長崎市立の中学校の校長が、自宅のパソコンで、児童ポルノに該当し得ると疑われるファイル名のファイルを開いたと疑われる事態が、ウイルス(トロイの木馬)によって暴露され、三流下劣メディアから嘲笑されるという事件が起きた。
(略)この人物が校長だといわれているのはなぜか? それはロリコン画像のほかに最近使ったデータとして学校名付きで学力向上対策.jtd、学校生協への学校紹介.jtd、学校評価集計表.xlsx、生徒名簿全体.xlsx、県PTA新聞原稿.jtdなどがあったからで、さらに〇〇家法要 父三回忌案内状.jtdというファイルもあったことから、ロリコン画像が入っているパソコンの持ち主が、校長やその家族の誰かではないかと推測されているのだ(〇〇の部分は人名で、とある中学校の校長と同じ苗字が入る)。
中学生の見本のはずの校長が、違法にアップロードされた市販ソフトをダウンロードするだけでも信じがたい行為だが、ロリコン画像を所持しているとあっては、親御さんとしても気持ち悪くて学校に登校させたくないと考えるのが普通だ。何かの間違いであってほしいものである。(略)
この事件が問題なのは、ウイルス(トロイの木馬)という手段を使って暴露された点にある。
ウイルス頒布は常識的倫理感覚としては犯罪と言ってよいはずの行為に思えるが、日本においては、ウイルス罪新設刑法改正案が国会で6年も店晒しのまま未成立であるために、いまだに、直ちに犯罪とは言えない状況が続いている。処罰されない状況にあるのをいいことに、やりたい放題になっている。
ここで、「やりたい放題」というのは、単にウイルス頒布者のことを指しているのではない。ウイルス頒布によって起こされた騒ぎに乗じているクズゴミ三流メディアも同類である。上で引用したロケットニュース24*1の記事は、ウイルス作者の思うつぼであり、ウイルス頒布者に「いいぞもっとやれ」と言っているようなものである。
残念ながら日本の民度はこの程度であり、小林涼子編集長や、運営主体の株式会社(29日訂正:運営会社は別とのこと)ロケットスタートのことをとやかく言ってもしょうがないのだろう。しかし、刑法改正法案が成立して、ウイルス頒布が明確な犯罪として認知された世の中になっていたなら、どんなに低能な会社が主宰する三流メディアであっても、犯罪を奨励することになることに気づいて、このような記事を書くことは憚られたはずだ。
日本では、たとえ目的が犯罪の告発にあっても、違法な手段によるものは正当化されない。2008年に、環境保護団体グリーンピース・ジャパンが、調査捕鯨船の乗組員が自宅に宅配便で発送した鯨肉の荷物を、西濃運輸青森支店の配送所に侵入して盗み出した事件があったが、この行為の正当化は容易でないようだ(Wikipedia:グリーンピース宅配便窃盗事件参照)。
今回の事件がもし、不正アクセス禁止法違反行為によるもの、つまり、他人のパスワードを使ってコンピュータに侵入して、どんなファイルを持っているかを調べ、暴露された事件だったとしたらどうか。その状況でも、ロケットニュース24は同様の記事を書いただろうか?
ウイルス(トロイの木馬)で情報を抜き出すのと、不正アクセス行為で情報を抜き出すのとでは、何が違うのか。これらは手段が異なるものの、結果として生ずる社会的危険は共通のものである。ウイルスを頒布して他人に実行させる行為は、間接的な手段で不正アクセス行為と同等の結果を実現しているという、そういう違いがあるにすぎない。むしろ、前者の方が、無差別的な被害につながりやすいことから社会的危険が大きいという面もある。それなのに、現行法は後者についてしか犯罪として規定できていない。
一方、今回の事件でロケットニュース24のような記事が出て来てしまう背景には、校長の行為に若干の違法性が疑われていることがあるのだろう。ShareやWinnyを使って当該ファイルをダウンロードしていた形跡がある*2ためであり、もし、一定以上の長時間にわたって、児童ポルノに該当するファイルを共有状態にしていたのであれば、児童ポルノ提供罪の違法性が問われ得ると思う。
そうでなかったなら、さすがにこのような嘲笑記事は書けないはずと思う。ロケットニュース24の記事は「ロリコン画像を大量所持か」などという見出しを付けているが、今回、大量の所持を疑わせる情報は出ておらず、単に数回程度開いてみただけなのかもしれず、ロケットニュース24が言うようなロリコン趣味がこの校長にあったとは限らないのであって、名誉毀損になりかねないのに、このような記事を書けてしまうのは、負い目があるから訴えて来ないはずとふんでいるのだろう。
ここで重要なのは、現行法では、閲覧するだけなら違法ではないということである。昨年までは、いかなるファイルをもダウンロードする自由が私たちにはあった*3のであり、基本的に、何を閲覧しているかは個人のプライバシー*4であって、保護されるべきものである*5。
しかし、児童ポルノの単純所持を処罰化する法案が、再び注目を集めつつある。
おそらく、単純所持の処罰化は今年の国会で成立するのではないかと思う。
となると状況は変わってくる。つまり、これまでは、Winny等の使用者をターゲットにして、ウイルス(トロイの木馬)攻撃をしかけ、ウイルス被害者をクズゴミメディアが嘲笑する構造になっていたが、今後、単純所持が処罰化されれば、Winny等の使用の有無に限らず、単にファイルを持っているだけの疑いで、クズゴミメディアが嘲笑するようになっていく展開が予想される。
つまり、2008年に書いた懸念が、いよいよ現実のものになりつつある。
このような目的限定が付けば、暴露ウイルスは、「性的好奇心を満たす目的」を証明するような情報も同時に流出するような仕掛けを導入してくるだろう。 Winnyの暴露ウイルスが、しだいにエスカレートして、送受信メールやWinnyの検索履歴も同時に流すようにしたのと同様にである。「性的好奇心を満たす目的」を証明する情報としては、大人のポルノ画像の所持状況や、Webの検索履歴やアクセス履歴(これらはWebブラウザ等に記録されている)などがターゲットにされるだろう。個人を特定するためには、送受信メールがターゲットにされる。
そうなると、児童ポルノ愛好家でなくても、たとえば、児童ポルノ画像が1枚紛れ込んだ多数の大人のノーマルなポルノ画像のようなファイルないしフォルダを流出させられて、「性的好奇心を満たす目的」が認定されて児童ポルノ法違反で検挙という事件が起きるであろうし、検挙されないにしても、大人のポルノの所持者が巻き添えでトロイの木馬によって晒されるまくるという事態が生じたり、恥ずかしい画像を所持していなくても、検索履歴を流出させされるなどによって、機密が漏洩するといった事態も新たに起きてくるかもしれない。付け加えれば、送受信メールが暴露されることによって第三者の秘密までもが暴露されるということが、これまでと違ってWinny等の利用に関係なく、誰の身にも生じ得るようになる恐れがある。
単純所持刑罰化ならウイルス罪を同時施行しないとセキュリティバランスが悪化する, 2008年5月5日の日記
実際、今回のロケットニュース24の記事でも、「性的な無修正データも所持している事が判明している」となどと、何ら違法性のない自由な行為までバッシングの対象にしてしまっている。
つまり言いたいのは、児童ポルノ法の単純所持刑罰化の改正をするなら同時にウイルス罪を新設する法案も通さないと、本当に滅茶苦茶なことになってしまうぞ、ということだ。
株式会社ロケットスタートの人たちは、次は自分たちのファイルが暴露される番になるかもしれないということが、わからないのだろうか。
今回の騒動で、当該中学校のWikipediaエントリが荒らされ、「半保護」の措置がとられていた。荒らし行為の内容は以下の通りである。
「長崎市立ロリコン中学校」「Winnyよりダウンロード5分」「校訓=性欲をもてあます」「1961年4月10日 - 放流開始。」などと書き換えらたわけだが、この書き換えをしたIPアドレス 180.2.253.116 を、手元のWinnyネットワーク観測システムの同一時間帯の観測記録と突き合わせてみたところ、2010年3月22日11時39分から同18時34分にかけてキーが発信されたいたことが観測されており、主な送信キーのファイル名は以下のものであった。
(アジアンロリ動画) (小学生) 小〓〓〓〓 学校〓〓の性教育.mpg (UMDISO)(ゲーム)(PSP)太鼓の達人 ぽーたぶる.iso (ロリータ写真集) 日本人〓〓ロリ個人撮影〓枚.zip (ロリータ写真集) プチトマト豪華本 [〓〓〓 〓〓].ZIP
上で、「小林涼子編集長(システム担当 矢野さとる)」と修正している部分について。
リンク先の内容が以下のように修正され、矢野さとる氏より、「ロケットニュースのシステムを担当している事実はない」との訂正依頼を頂いたので、上記の修正をした。
「運営者について」のこの修正は、矢野さとる氏が、同様の趣旨により、今日、ロケットニュースの運営者に依頼して修正されたものとのこと。
(なお、本日29日は振替休暇中。)
*1 ロケットニュース24はメディアなのかという疑問が出るかもしれないが、「ロケットニュース24とは?」によると、
ニュース、それは社会で起こった、重要な出来事を伝える役割のものです。この高度情報化社会の21世紀(略)そんな中、私たちはロケットニュース24を立ち上げました。だそうで、社会派メディアとしての自負があるようだ。ここ数年、2ちゃんねる等で自ら騒ぎながらそれを垂れ流す自称メディアの乱立が目立つ。
*2 トロイの木馬によって暴露された、「最近使った項目(Recent)」のファイルのパス名に、「Winny2/Down/」などのディレクトリ名が含まれていたことからそのように推察されている。
*3 共有状態にしないで単にダウンロードする行為(たとえばWebブラウザでのダウンロード保存など)は、すべてのファイルに対して自由であったが、2010年1月1日の改正著作権法施行により、違法に送信されている映画と音楽については、その自由がなくなっている。
*4 今回の件は、学校で閲覧していたわけではない。
*5 一方、閲覧はプライバシーであっても、公衆送信する行為にプライバシーはない。公衆送信する際には、その行為に対して責任を持つべきである。
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