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高木浩光@自宅の日記

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2009年07月20日

Winny等規制法の案を考えてみた

背景

前回までに検討したように、Winny等での児童ポルノ流通は、現行法で止めることができないだけでなく、今国会で新設が議論された児童ポルノ取得罪、あるいは性的好奇心充足目的所持罪(罰則ありの所持罪)をもってしても、流通を阻止することは困難と考える*1。その原因は、無差別に自動ダウンロードを繰り返して、共有状態を漫然と放置している者が大量にいるためであり、もし、捜査機関が、そうした輩を児童ポルノ取得罪で摘発しようとするならば、児童ポルノ取得の故意性認定のハードルをそのレベルまで下げなければならないことになり、同じ基準がWebに適用された場合に、まさにこれまでに言われてきたような、「よくわからないWebサイトをクリックしただけで児童ポルノ取得罪で摘発される」という懸念が現実のものとなってしまう。それを回避すべく捜査機関が故意性認定を慎重に行うならば、Winny等での児童ポルノ流通を止められないことになる。

そこで、Winny等の利用者に限定して、児童ポルノが共有状態になることを回避する義務を課し、その回避義務に違反した行為を過失犯として処罰する方法が考えられるのではないか。従来、電気通信回線を通じた情報の送信について過失犯を規定する法令はなく、インターネットの利用にそこまでの注意義務を課すことは妥当なのかという声もあるだろう。たとえば、一般的なProxyサーバを設置した者に対して、児童ポルノがcacheから送信されるの防止する措置を講じなかったとして過失罪に問うというのは妥当でないと思う。であれば、対象となる行為を「Winny等」の特定の性質を持つプログラムの利用時に限定すればよいのではないか。

Winny等による管理不能な永続的ファイル流通の問題は、著作権侵害ファイルについても同様に存在するが、過失による送信可能化を罰するべきとする声が出たことはなかった。それはおそらく、著作権は、過失を処罰してまで保護するべきというほどのものではないという共通認識があるためだろうと思う。しかし、Winny等には、名誉毀損等の人権侵害ファイル、個人情報保護に反する流出ファイル等も永続的に流通しており、それらの流通を阻止すべきとする考え方は、児童ポルノ流通の阻止と共通するところではないだろうか。

今般の児童ポルノ法改正の議論で、冤罪発生のリスクがあっても何らかの形での単純所持の処罰化は避けられないというほど、その流通阻止の重大性が確認されたと言えるのであれば、Winny等での流通を放置したのではその目的は達成されないのであり、過失を処罰することを検討せざるを得ないのではないか。

というわけで、私は法律の専門家ではないが、そのような考え方に基づいて、Winny等での流通を規制する法律の方向性を考えてみた。次のような感じでの立法はできないものだろうか。


電磁的記録自動複製流通の適正化に関する法律(私案)

(目的)
第一条 この法律は、不特定多数の者が電気通信回線を通じて互いの電子計算機の間で電磁的記録を繰り返し自動的に複製し流通させることによって当該電磁的記録の消去等の管理を困難にする特定自動複製流通プログラムが、児童ポルノその他の重大な権利侵害情報の流通を防止困難にしていることにかんがみ、特定自動複製流通プログラムの利用者および開発者に対し一定の注意義務を課すことにより電磁的記録の自動複製流通の適正化を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「自動複製流通プログラム」とは、電気通信回線に接続している電子計算機において作動するプログラムであって、他の電子計算機から電気通信回線を通じて電磁的記録を取得する機能を有し、当該電磁的記録を自動的に自動公衆送信(公衆によつて直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。以下同じ。)し得るようにする機能を有するものをいう。

2 この法律において「特定自動複製流通プログラム」とは、次の各号のいずれにも該当しない自動複製流通プログラムをいう。

一 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積しないもの。

二 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積するが、政令で定める期間を超えて蓄積しない措置が講じられているもの。

三 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積するが、公衆からの求めに応じて、当該電磁的記録を当該電磁的記録の取得元の電子計算機から再び取得することによって、電磁的記録を取得元の電子計算機の電磁的記録と同じ内容に更新する措置(取得元の電子計算機に当該電磁的記録が消滅している場合には、蓄積している当該電磁的記録を消去する措置を含む)が講じられているもの。

(利用者の責務)
第三条 特定自動複製流通プログラムの利用者は、当該プログラムを利用するに当たって、次の各号に該当する電磁的記録その他を自動公衆送信しないよう、管理しなければならない。(当該利用者が、その連絡先をインターネットの利用その他適切な方法により公表しており、求めに応じて当該電磁的記録を消去する等の措置を講じている場合、又は、当該特定自動複製流通プログラムが蓄積する電磁的記録の消去等の管理が当該利用者以外の管理者によってなされており、当該管理者がその連絡先をインターネットの利用その他適切な方法により公表しており、求めに応じて当該電磁的記録を消去する等の措置を講じている場合は、この限りでない。)

一 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第二条第3項各号のいずれかにに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録。

二 (略)

(開発者の責務)
第四条 特定自動複製流通プログラムの開発者は、当該プログラムの利用者に、当該プログラムが特定自動複製流通プログラムに該当するものである旨を説明し、電磁的記録の取得に際して当該電磁的記録が自動的に自動公衆送信し得る状態になる旨を説明するよう努めなければならない。

2 特定自動複製流通プログラムの開発者は、人に利用させる目的で当該プログラムを開発するに当たっては、当該プログラムの利用者が電磁的記録を取得するに際して、前条各号の電磁的記録その他の記録を自動公衆送信しないよう管理することを可能とすべく、適切な措置を講ずるよう努めなければならない。

(罰則)
第五条 第三条の規定に違反し、過失により同条各号の電磁的記録その他の記録を自動公衆送信した者は、(略)万円以下の罰金に処する。

2 前項の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。


説明

2条1項の「自動複製流通プログラム」には、ルーターやProxyサーバなども該当するが、同条2項の「特定自動複製流通プログラム」では、それらを除外している。「特定自動複製流通プログラム」には、メーリングリストのアーカイブをWebで公開している場合や、(現状の多くの)検索エンジンにおけるクローラーから検索サーバまでの一連のシステムが該当するが、3条の管理義務の規定で、連絡先を公表して削除要請を受付けている場合を除外している。

Gnutella系のファイル交換ソフトで、ダウンロード用フォルダとアップロード用フォルダを別々に設定している場合は、「自動複製流通プログラム」に該当しない。アップロードフォルダにファイルを入れて自動公衆送信し得る状態にする行為は、その故意性が問われることになる。ダウンロード用とアップロード用フォルダを同一に設定している場合は、「自動複製流通プログラム」に該当し、たいていのファイル交換ソフトでは「特定自動複製流通プログラム」に該当することになる。

BitTorrent(通常の)は「特定自動複製流通プログラム」に該当するが、個々のファイルごとに共有状態を管理する設計になっているので、3条が規定する管理は利用者にとって容易である。管理を怠らないようにしていたにもかかわらず、ダウンロードし終えるまで児童ポルノ等かわからなかったため、それまで共有状態にしていたという場合について、罰則を適用すべきか適用しないべきか、判断のわかれるところ。これはPoenyの(ポート解放をした)利用も同じ。

P2P型のファイル共有を活用したコンテンツデリバリネットワークで、クライアントサイドでコンテンツの蓄積を行う場合、cacheの自動更新ないし自動削除機能があれば「特定自動複製流通プログラム」には該当しないし、ない場合でも、管理者がコンテンツを管理している場合は、利用者に3条の管理義務は生じない。

Winny等は「特定自動複製流通プログラム」に該当し、通常の使用方法では、3条の管理が事実上できない。結果として、使用しない(または特殊な方法で対策をとる)ようにしなければ、処罰を免れない。BitTorrentに機能を追加して「地引きダウンロード」を可能にしたプログラムでも、3条の管理が遂行できなくなると思われ、同様である。

4条で、P2P型ファイル交換・共有ソフト等を含む「特定自動複製流通プログラム」の開発者に努力義務を規定しており、罰則はない。同条2項で、利用者が3条の管理義務に違反せざるをえないようなプログラムの開発を避けるよう努めることとしている。今後Winny等の利用が実質的に不能となったときに、新たな類似プログラムの開発者が現れるかもしれないが、4条の努力規定に違反して開発したものを人に利用させれば、その結果ひき起こされる事態(児童ポルノ流通の蔓延等)に対しての責任が生ずるのではないか。

4条1項の「電磁的記録の取得に際して当該電磁的記録が自動的に自動公衆送信し得る状態になる旨を説明するよう」とは、たとえば、OperaでBitTorrentプロトコルを使用してダウンロードするときに現れる警告画面(図1)が該当する。

画面キャプチャ
図1: OperaにおけるBitTorrentプロトコルでダウンロードするときの警告画面

この法に抜け穴がないか探さないといけない。たとえば、定められた期間を超える直前に、蓄積したファイルを削除する機能の盛り込まれたWinny類似プログラムは、「特定自動複製流通プログラム」に該当しないことになるが、そのようなプログラムが広く普及したときに、はたして、流通を十分なレベルで防止できるのか。あるいは、一旦削除した後に、すぐに再取得するようなプログラムの場合にはどうか。

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*1 見るからに集中的に児童ポルノに絞って共有を続けているとわかる者を摘発することはできるだろうが、それでは流通が止まらないようになっているのがWinny等の仕掛けである。

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