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高木浩光@自宅の日記

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2007年10月31日

ジャストシステムはどこへ向かっているのか

ジャストシステムが、ユーザの安全確保よりも、何らかの別の目標*1に向かっているらしいことは、次の事例で一目瞭然だろう。

図1: ジャストシステムの「すでに改修されている脆弱性について」という告知 (2007年4月6日発表)

こんな言い回しは他で見たことがない。

脆弱性情報を公表することの目的が、まだ修正版の存在を知らされていないユーザに対してアップデートの必要性を周知することにあるということは、(ユーザの立場で考えれば)誰でもわかるはずだ。それなのに、ジャストシステムは、まず先に、「ご安心ください」と言う。(図1の1つめの矢印部分。)

Kaspersky Internet Security 6.0 および Kaspersky Anti-Virus 6.0のVista対応版プログラム以前の製品(バージョン 6.0.0.306)で5つの脆弱性が発見されています。この問題に対する修正は、3月14日より無償でダウンロード提供しているVista対応版プログラム(バージョン 6.0.2.614)ですでに改修されておりますのでご安心ください。

※Windows XP/2000でお使いの方が対象となります。
※現在ダウンロード、および、店頭で販売している製品は、すでにVista対応のプログラムとなっておりますので、プログラムを入れ替えていただく必要はありません。

すでに改修されているKasperskyの脆弱性について, ジャストシステム, 2007年4月6日

当然、3月14日より前にインストールしてそのままのユーザがいるわけで、「ご安心ください」で済む話ではない。

ジャストシステムは、脆弱性のあるバージョンをまだ使用していると思われるユーザに対して、それに続く後半部分でやっと次のように言っている。(図の2つ目の矢印部分。)

まだVista対応版を入れていただいていない方は、ご面倒をおかけして申し訳ございませんが、速やかにVista対応版に入れ替えてくださいますようお願いいたします。 なお、プログラムの入れ替えが必要かどうかについては、お使いのプログラムのバージョン情報をご確認ください。

すでに改修されているKasperskyの脆弱性について, ジャストシステム, 2007年4月6日

先に言うべきことはこっちだ。

長文を読むのが苦手な一般の人たちが、上から順に目を通して、「ご安心ください」だの、「プログラムを入れ替えていただく必要はありません」という文字を見たら、どういう行動をとるか。

ジャストシステムがガス製品を販売したら死人が出るだろう。

こういった悪い社告の例については、経済産業省の「消費生活用製品のリコールハンドブック」にも書かれている。

良い社告の例が図3にあるように、読者は何をすればいいのか、自分は該当するのかが、すぐに確認できるように書かれているべきだ。

コンピュータソフトウェアのセキュリティ脆弱性のケースでは、これに加えて、どのくらいの危険度があって、回避策はあるかを示すことが重要となる。なぜなら、「危険度が小さければパッチを適用しない」という判断をする人たちがいるからだ。

このことは、IPAの「ソフトウェア製品開発者による脆弱性対策情報の公表マニュアル」に書かれている。

ジャストシステムの広報IR室長(NHKニュースで話していた人)はこれらに関心がないのだろう。

ここで気づいたのだが、今回の一太郎の脆弱性のJVNで、「ベンダ情報」の部分が図4のようになっているのが、普通と違う。

図4: JVN#29211062 の「ベンダ情報」

普通ならば図5のようになっているはずだ。

図5: JVN#75899905 の「ベンダ情報」

外国の会社がジャストシステム(図4)のようになっているのはよく見かけるが、国内の大手企業で、しかも国内からIPAに届出られてJPCERT/CC経由で調整されたものなのだから、ここは図5のようになっていても不思議でない。

この違いはどうしたことだろう? よくわからない。

それから、「Kaspersky 脆弱性」で検索してみたら、こんな記事が見つかった。上の「すでに改修されている脆弱性」(4月の件)とは別の脆弱性のようだ。

  • Kasperskyの無償オンラインスキャナに脆弱性、修正版を公開, INTERNET Watch, 2007年9月11日

    Kaspersky Labでは、すべてのKaspersky Online Scannerのユーザーに対して新バージョンのインストールを求めている。なお、同ツールは、Kaspersky Labs Japanのサイトや、ジャストシステムが開設しているKaspersky製品の情報サイトにおいて日本語版サービスが提供されているが、それらは日本時間の11日夕方時点ではまだ最新バージョンに移行していない模様だ。最新バージョンにするには、いったん英語サイトにアクセスしてアップデートする必要がある。

この件についての告知が、「JUST Kaspersky」のサイトに見当たらない。

なぜ告知しないのだろう? 告知しなくてもアップデートしてくれると思っているのだろうか?

*1 たとえば、サポートセンターへの問い合わせ件数を最小化することが、広報部門の業績評価尺度となっている場合などには、このような事態に陥りそうな気がする。


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