正月だからということもあるのだろうか、毎日新聞に「夢と希望いっぱい、 近未来の新技術」という記事が出ていた。
◇横断歩道−−お年寄りもゆっくりと
ICタグは、高齢化社会の安全を守ることにも応用できる。
お年寄りや障害のある人にICタグを配り、あらかじめデータベースにしておく。外出時には胸にICタグを付けてもらい、センサー付きの信号機に近づくと、信号機を制御するコンピューターが、お年寄りや障害のある人であることを感知。青信号に切り替え、道路の向こう側の信号機センサーが渡り終わったことを感知するまでは、青のままにしておくことが可能だ。これで、横断の途中で信号が変わってしまい、事故に巻き込まれるような不幸なケースを減らすことができる。
くだらない。
そんなシステムを導入すると何が起こるか予想してみよう。
まず、そのタグを持ったお年寄りはしだいに信号機のその動作に慣れてくる。 ほとんどすべての信号機がその機能に対応した未来が到来すると、お年寄りは 信号機が当然にそういう動作をするものだと思い込むようになる。すると、 信号がもうすぐ赤になりそうかどうかに無頓着に、青を見たなら渡ってしまう 癖を持つお年寄りが出てくるだろう。
そういうお年寄りが、タグを持ってくるのを忘れたとき、あるいはタグを電波 が遮断されるところに入れていたとき、既に青信号のところを渡り始めるとど うなるか。信号機はタグを検出せず通常通りのタイミングで変わり*1、お年寄 りはダンプカーに跳ね飛ばされて死亡する。
あるいは、保険金目当てなどで特定のお年寄り(その信号システムに慣れてい るとする)を殺したいと企てた者が、電波を遮断するカバンをお年寄りにプレ ゼントして、お年寄りがたまたま青信号のところを渡り始めるのを期待し、車 にはねられ事故死するいくらかの確率に期待する。
あるいは、いつでも青信号にして渡れるタグだとして、健常者のくせにお年寄 り用のタグを入手して密かに横断歩道を我が物にする人々が続出し*2、自動車交通は麻痺し始める。
あるいは、たくさんの人で溢れている都会の交差点で、お年寄りが横断歩道を 渡り始めたがまだ渡りきっていないとき、歩行者用信号は青点滅を繰り返すこ とになるだろう*3が、 そのとき後から来た他の人の群集も、青信号だということで渡り始める。そして、 群衆の中で見えないお年寄りが渡り終えた直後、信号は突如赤に変わり、たく さんの人々が中央分離帯に取り残される。
RFIDタグをなんとかして「善」(っぽい)用途に使って見せようと必死な人が、 こういう浅はかな発想に溺れがちで、怖い。
これはよい記事。
HTMLメールが(心ある人達には)忌み嫌われてきた、その理由の変遷という形 でまとめられている。
*1 こ の問題を回避するには、押しボタンなどで人が意識的に機械に指示を与えるよ うにする必要があるだろう。何でもシームレスにすりゃ近未来っぽいという発 想がくだらない。RFIDはそのボタンを押す権限を持つ人かどうかを認証するた めに使えばよい。ただし暗号演算つきのRFIDである必要がある。
*2 こ れはどうやって防ぐか。お年寄りでもないのにそのタグを持っている人がいな いか、誰かが監視するのだろうか。
*3 点滅にはならないという設計も考えられるが、その場 合は、点灯青信号だと思って渡り始めると、突如赤になるという事態になる。 それを避けるために、お年寄りが渡りきった後に青点滅の期間が入るという設 計にもできるが、すると、誰もいないときに無駄な青信号時間が生じてしまう。