Tポイントが実際のところ何をやっているのかは、以前から確認する必要があると考えていたのだが*1、その加盟店に公共図書館をを加えるという話が出てきて*2、いよいよ待ったなしの段階に入ったと思い、5月から6月にかけて「Tカードサポートセンター」に問い合わせて確認していた。
最初に問い合わせたのは5月8日で、「T会員規約にはこう書かれているが実際には何をやっているのか」と素朴に尋ねたところ、電話に出たオペレータからは、「ファミリーマートを利用した会員にガストでクーポンを出したり、ガストを利用した会員にファミリーマートでクーポンを出したりしている」という趣旨の説明があった。このオペレータは、このようなクーポン発行に、商品名レベルの購入履歴は使用しておらず、ファミリーマートの利用の有無(店舗レベル)に基づいてクーポンを発行しているという認識のようだった。
そこで、「それは違うのではないか」との質問をしたところ、確認して回答するということになった*3。その後、何回かやりとりして、サポートセンターの責任者から最終的に明らかにされた回答は以下のものであった。(6月8日)
ポイントアライアンス企業A社から、A社をこの場合、仮定として、お子様向けの事業を展開している企業とするが、A社に親和性のある方にPOSクーポンを発券して販売促進を行いたいという希望を弊社(CCC)に頂いた場合、例えば、お子様がよく観るジャンルのDVDなどをレンタルしている方や、お子様が好んで召し上がるB社のメニューを注文した方に、A社のクーポンを発券してほしいという希望をA社より頂いたとする。
この場合、お子様がよく観るジャンルというのは、アンパンマンといったピンポイントのタイトルではなく、DVD大分類という大きな括りで「キッズDVD」をご覧頂いている方といった括りである。
A社からこのようなオーダーを頂いた場合、弊社CCCがそれに該当するT会員を選定する。キッズDVDレンタルをした方、お子様が好んで召し上がるB社のメニューを注文した方に当たるT会員を選定して、該当の方々のT会員IDを抽出する。そのデータを弊社のPOSクーポン発券システムにセットする。
すると、あるお客様が、ポイントアライアンス企業D社、これはA社ともB社とも別の企業であるが、D社にご来店し、Tカードをご呈示頂くと、D社のPOSシステムが、そのお客様のご来店を弊社に通知し、クーポン発券対象者である場合には、A社のクーポンを発券し、D社が店頭でそのお客様にそのクーポンを手渡しする。
つまり、図で表すと以下のことであろう。
これはあくまで一例とのことだったが、実際に実施されたことのある例だという。
このような説明を受け、「やっていることはそれだけなのか。他にはやっていることはないのか。」ということを尋ねたわけだが、それには答えてもらえない様子だったので、そのようなクーポン発券を、より絞った対象に向けて実施したことはあるかを尋ねた。すると、「ターゲットをより狭めてというのはどの程度のことか」と逆に問われてしまったので、具体的な例を挙げて以下の質問をした。(6月8日)
例えば、結婚間近になっている人とか。家族の介護をしている人とか。このようなレベルで絞った会員を対象にクーポンを発券することは行われているのか。
これに対する回答は以下のものであった。(6月18日)
回答できかねる。ご質問頂いた内容は弊社だけでなく提携先企業にも及んだ詳細な質問であり、弊社の営業上の秘密に該当するため回答できないものである。
Tポイントは記名式であるので、購買履歴はモロに個人情報保護法上の個人情報に当たるから、購買履歴をこのようなクーポン発券に利用するからには、その利用目的を「できる限り特定しなければならない」(第15条)し、取得に際してその利用目的を「本人に通知し、又は公表しなければならない」(第18条)という義務があるわけで、「営業上の秘密に該当するため回答できない」などということが許されるのか疑問である。*4
それはともかく、Tポイントが何をやっているのか、また、今後やろうとしているのかは、CCCの増田社長や社員の発言から、また、報道や書籍から窺い知ることができる。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭社長は24日、第8回日経フォーラム「世界経営者会議」で楽天の三木谷浩史社長との対談の中、カード事業に対する考え方として「私が興味があるのはデータベース。購買履歴を蓄積し、いかにリコメンドに変えていけるか。本のポイントビジネスを始めたのは、本の売り上げを伸ばしたいのではなく、本の購買履歴からその人の消費ニーズを察知したいから」と語った。
増田氏は「転職マガジンを買っているのが誰か分かれば、その人は転職したい(ことが分かる)。消費の前に顧客は情報を集める。そのことが見えれば的確なリコメンドができると思っている」と指摘した。
問 まずはCCCとしてTSUTAYA店舗を中心にさまざまな事業を展開されていますが、実際にどういう会社を目指しておられるのですか。
増田 結論からいいますと、データベースマーケティングの世界を代表する会社なりたいと考えています。データベースマーケティングとよくいうのですが、実際やっている企業は少ないです。CCCというのはTSUTAYAをやっている会社でもなく、Tポイントをやっている会社でもなく、データベースマーケティングのプラットホームをやっている会社ということです。
「Tポイントカード事業は広く異業種がアライアンスを組んで参加することで価値が出る。だから、私はファミリーマートと組みたい」と増田は切実に訴えた。
共通ポイント「Tポイント」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は来年3月までに、会員の年収や家族構成などにあわせた割引クーポンを発行する。保険代理店と提携して情報を収集、子供の誕生日直前など、より消費者の関心を引きやすいタイミングでクーポンを発行する。クーポンで集客したい企業がより精密なマーケティングができるようにし、販促を支援する。
まず8月1日から、保険代理店運営のホロスプランニング(京都市)と提携、生命保険などの相談に訪れた人に会員登録をしてもらい、年収などの情報を集める。既存の保険契約者20万人などにも働きかけ、会員登録した人には500円相当のポイントを付ける。またネット経由でライフプランニングの相談をした人にも100円相当のポイントを付与し、代理店への来店を促す。
CCCはこれまで、DVDレンタル店やコンビニエンスストアなど、Tポイント加盟店での購買履歴を収集・分析し、クーポンなどを発行してきた。新たに年収や家族構成などを加えることで、例えば、小学校入学前の子供がいる家庭にランドセルの割引クーポンを送付するなど、従来よりもきめ細やかな販促活動ができるようになる。(以下略)
「何がいくつ売れたか」から「誰が何を買ったか」へ
山本氏は、Tポイントサービスによって得られる消費者行動のデータを「ID付きPOSデータ」だと表現する。(略)
TポイントカードのIDに結びつけられたPOSデータからは「誰が何を買ったか」がより正確に分かるようになる。アライアンスコンサルティング研究所では、「Tポイントカード提携先のニーズや抱えている課題への取り組みにあたって、データ分析の手法を活用したPDCAサイクルの維持を支援する」ことがミッションであるとした。(略)
現在、同社では各提携先からのオーダーに対して、約30名の社員がデータ分析に当たっているとする。(略)
「横串」分析が抱える課題
山本氏は最後に聴講者からの質問に答え、アライアンスコンサルティング研究所における今後の目標として「横串での分析を可能にしていきたい」と述べた。現状では各提携先ごとのデータに対して分析を行っているが、ここで言う「横串」とはつまり、「提携先全体のデータを共有し、組み合わせて分析する」ことで、より深い知見を得ようとする取り組みだ。ただし、この環境の実現には技術的な面で、膨大な量になるデータを処理するためのリソースをどう確保するかという課題があるとした。(略)
また最近では、こうした個人のIDとひも付けられた購買履歴、サービス利用履歴の組み合わせは、広義でのプライバシー情報や個人情報として、慎重に扱われるべきではないかといった議論もある。実際、このセッションでも来場者より「購買履歴に基づいた分析やレコメンドを行うことで、消費者が警戒感や嫌悪感を覚える恐れもあるが、それを軽減するための方策はとっているか」との質問がなされた。
山本氏はこれに対して「社内規定で、例えば保険やローン、金融商品、プライベートな一部の日用品など、“デリケートな商品”に関するデータは分析に使えないよう、ルールが設定されている」と回答した。
CCCは今年に入り、Tポイント事業を強化するため、人事をてこ入れした。TSUTAYA直営店の優秀な店長をポイント事業に異動させるなどした。「もちろんTSUTAYAに見切りをつけたわけではない。ただ、CCC=TSUTAYAでもない」。増田社長はTポイント事業を拡大する理由をこう説明する。
CCCにはライフスタイルのインフラを創る企業という社是がある。(略)「当社はこれまで、TSUTAYAの顧客分析を行ってFC点に情報を提供してきた。そのノウハウを用い、生活シーン全体におけるマーケティングに拡大させていく」と、Tポイント事業の担当である北村和彦取締役は語る。
相互送客はその一例で、今後も様々な形でレンタル事業で培ったノウハウを広げていく方針だ。将来は病院など企業以外にもTポイントへの加盟を促し、個人の生活シーンのあらゆる場面での使用を増やしたい考えだ。
そして、Xrostの最も特徴的なオーディエンスターゲティングは、CCCが運営するT(ポイントカード)会員データベースを広告の配信対象とするものである。
年齢、性別、居住地域などのグラフィックデータのほかにTSUTAYAでの購買データをマージして活用できる。DVDやCDのレンタルで有名なTSUTAYAであるが、実は書籍雑誌の販売数でも全国で1番の店舗網である。趣向が購買結果に結びつきやすい雑誌や書籍、DVDなどのレンタル・購買データによってターゲティングするという、従来にない手法が活用可能となってきた。現在はTSUTAYAのデータのみを活用しているが、今後はさらに80社以上あるTカードの提携から許諾を得て、それらの購買行動データをマージさせた活用に発展することも期待できる。
リアル店舗での購買行動履歴に基づくターゲティングは、ネット上だけの行動履歴より大きな可能性がある。また複数業態の行動データをマージすると、人間の頭で連想的に関連づける(たとえば、韓流映画をレンタルしたユーザーに韓国旅行の広告を配信する)ということだけでなく、購買行動と相関のある行動データが発見できる可能性がある。それにより、新たな見込み客との接点の開発、メディア開発、コミュニケーション開発につながる可能性がある。
ところが、7月17日の朝日新聞記事「Tポイント、購入医薬品データを取得 提携先企業から」が報道されて以降、CCCはマスコミに対して、こういったことはやっていないと否定するようになった。
8月17日のテレビ東京「たけしのニッポンのミカタ!」では、「アナタはここまで監視されている!?」として、Tポイントの実態が紹介された。途中までは良い構成の番組であったが、最後で出てきた、CCCの取締役執行役員の説明が、虚偽に等しい。
以下は、加盟店企業の一つであるファミリーマートがTポイントに加盟することのメリットの説明から始まり、CCCが具体的にどんな情報を収集しているか、そして街行く人々の反応へと続く、番組の流れである。
素晴らしい。画期的。よく放送した。ここまでは完璧な番組であった。
問題はこの後である。
これはおかしい。この番組でCCCの取締役執行役員が言ったことは、「履歴は統計的にしか使っていないし、B社の情報はB社に提供しているだけだ。」というものである。つまり、顧客情報分析の受託業務であるかのように説明されていた。仮にそういう契約であるなら問題はないが、実際はそうではないだろう。上記で示した6月に公式に得た回答は何だったのか?ということになる。6月の回答が間違っていて、実際はやっていないというのだろうか?
そういうわけで、再び、Tカードサポートセンターに問い合わせた。前回の担当者に問い合わせたところ、以下の回答が得られた。(8月25日)
前回お預かりしたご質問は、先日のテレビ放映で、ある企業、放映の際にはファミリーマートさんでしたが、そちらでの購買情報を弊社が取得してそちらのマーケティング分析したデータをそのままファミリーマートさんに提供するという放送内容だったが、その放送内容と、以前私から高木様にご案内したPOSクーポンの発券システムによる情報の取り扱いに関するご案内と、このテレビ放送の放送内容が矛盾するのではないかとのご質問であった。
また、そのテレビ放映は、ファミリーマート様の購買履歴を取得してマーケティング分析した上でお返しする、そのような情報の取り扱いのみだけしかさもしていないかのように放送がされているとのご指摘であったが、まずその点にお答えすると、先日のテレビ放送は、単に一例としてこちらからサービス、情報の取り扱いを放送させて頂いたにすぎず、あの放送内容が全て、サービスの全てということではない。
次に、以前私から高木様にご案内したPOSクーポンの発券システムが、本当は行われいないのではないかとのご質問も頂いたが、間違いなく弊社で行っているサービスである。担当部署に確認の上での正式な回答であり、間違いではない。
また、このテレビ放映の内容が、POSクーポン発券システムの存在と矛盾しているのではないかとのご質問であるが、POSクーポンの発券システムは、収集した情報を弊社で一元的に管理しており、弊社から各加盟店企業に提供するわけではなく、POSの発券システムに情報を組み込ませているだけであるので、一方のアライアンス加盟店の情報を他方のアライアンス加盟店に提供することはしていないので、放送内容との矛盾はない。
まあ、そう言うだろうと思ったが、あのようなテレビの放送内容では、誰もが、顧客情報分析の受託業務であるかのように誤解するだろう。こうやってあえて人々を誤解させ、結果的に騙すことを厭わない。
Tポイントが何をやっているか、その実像は、「販売対象期間 site:ccc.co.jp」でググると出てくる営業資料に書かれている。これらは、T会員には(入会に際して)知らされることのない資料である。
3枚目のスライドを見ると、「セグメント」に指定できる抽出条件として、「2.購買実績」の「履歴」から、任意の「利用企業」の、任意の「ジャンル」、任意の「単品」を指定できるようになっていることがわかる。
このスライドにも、「セグメント」に指定できる抽出条件として、「カメラ/DPE等販売店/スポーツ用品販売店/引越し業/賃貸住宅/宅配料理/焼肉店/着物販売/ハンバーガー店/食品スーパー/クレジットカード etc」との記述がある。(こちらは、品名レベルで指定できるのかは不明。)
このスライドの「DB WATCH」は、上のものとは違って、TSUTAYAでの購買履歴のみが対象のようだが、「自社・他社問わずデータを開示いたします」とあり、Tポイントプログラム参加企業各社は、このデータベースから情報の提供を受けることができるようだ。TSUTAYAでの購買履歴に限定されているなら「TSUTAYAとはそういう店」という話であるが、T会員規約では、このような情報の提供を、個人情報保護法上の「共同利用」と位置付けており、このような「共同利用」の形態には違法性が指摘されている。
鈴木:(略)
それに加えて、開示の求めの範囲も著しく狭いという苦情も寄せられていたようです。契約内容も、運用も極めて全体的に遵法の精神に乏しいというところを背景に、共同利用の潜脱的法解釈を厳しく評価していくべきだと思います。
消費者に対しての不利益事実を十分に告知していないという点については、個人情報保護法だけではなく、消費者保護法制でもしっかり見ていくべきでしょう。
香月:では先生はTカードについては個人情報保護法に違反しているとお考えですか?
鈴木:私は真っ黒だと思っています。また、法律以上のレベルを要求しているJIS Q 15001に準拠して第三者評価認証しているはずのプライバシーマーク制度が、いまだマークの付与を許しているというのも解せません。まさに約款をしっかり読まない、また読んでも法的な意味を十分に理解できない消費者に変わって、個人情報の取扱いにおいて真に優良企業かどうかマークを通じて簡易に判断できるように示してあげる――そのために取り組んできたのがプライバシーマーク制度ではなかったのでしょうか。マーク制度というのはB2Bという事業者間取引よりも、まずはB2Cという消費者取引においてその意義を発揮してもらうためにあったように思いますが。本制度を主宰するJIPDECには今一度、制度趣旨に立ち返り、素朴に何を認証しているものか、何を目的としているものか、自問自答いただきたいものだと思います。
なお、テレビ東京の番組は、Tポイントの件を以下のように締めくくっていた。
ここでも、T会員規約から「個人情報項目を共同して利用」との部分が映し出されている。はたして、このような「共同利用」は適法なのだろうか。
*1 2011年8月14日の日記「「Tポイントカード3人に1人が持つ」は本当か、街角で聞いてみた」の後半部分。
*3 回答は、サポートセンターの責任者から5月22日にあった。しかしこの回答は「参加企業、加盟社間での情報共有はしていない。」というもので、質問と違う回答だったので、再度確認して回答するよう求めたところ、6月3日に回答があった。しかし、サポートセンターの責任者も意味を理解できていなかったようで、確認の質問をするとしどろもどろになってしまったため、再度整理して頂くことになった。そのようなやりとりを経て、6月8日に最終的な回答があった。
*4 まさか、通知や公表をすると「正当な利益を害する」(18条4項2号)とでも言うのだろうか。「提携先企業にも及んだ詳細な質問」というが、T会員規約によれば、その提携先企業も当該個人情報の共同利用先となっているわけで、共同利用先も利用目的を特定して通知又は公表する義務があるのではないのか。
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