恥ずかしながら、私の勤務する研究所も、何年か前は、研究所Webサイトへのリンクについて、公序良俗に反するサイトからのリンクを「お断りします」としていた。その理由というのはどうやら、研究成果などに対していかがわしい会社からリンクされることが、ある種の人たちには懸念される事柄と思われているためのようだった。
だが考えてみて欲しい。たとえば、研究所の研究員の発表論文やテクニカルレポートが、食材販売業者のチラシやWebサイトで、参考文献として挙げられているときに、私たちはそれを止めさせる立場にあるだろうか?
論文の参考文献リストへの掲載について
以下のいずれかに該当する出版物、Webサイトその他においては、○○研究所の職員が発表した論文を参考文献リスト等に無断で掲載することをお断りします。
(1) 公序良俗に反するもの
(2) 信用性が著しく疑われるもの
(3) 法律、法令等に違反し又は違反するおそれがある内容を含むもの
こんな主張をしたらアカデミアで物笑いの種にされてしまう。
学術論文は誰にどのように使用されても問題のないように書くのが当然であって、そのスキルを身につけることが学位取得の要件であろう。いかがわしい業者が論文タイトルと著者の所属を挙げてインチキ商売をすることがあっても、論文に書いてないことを業者が主張しているなら、業者が虚偽の宣伝をしているということにすぎないし、読めば業者が嘘を言っていると検証できるように論文が書かれていればそれでよい。怪しい業者に紹介されて困るような論文というのは、要するに、その論文自体がいかがわしい内容だということだ。
Webサイトにおけるリンクもこれと共通する。Webサイトで公表するからには、どこから参照されても問題がないものを書かなければならない。組織の信用が損なわれるようないかがわしい内容のWebページがあってはならないし、組織の信用を悪用されかねないような紛らわしいWebページを公表してはいけない。
管理部門は、そのようなことが起きないように管理するのが仕事だが、担当者に何が良くて何が悪いかを判断する能力がないからといって、リンクを禁止にしてしまえというのでは、職務放棄も甚だしい。このことは、研究所に限らず、世間から信頼されているはずの会社や団体においても同様であろう。
さて、先ごろ内容捏造で打ち切りが決まった関西テレビの「発掘!あるある大事典II」という番組だが、番組のWebサイトは、「当HPへのリンクについては、一切お断りしておりますのでご了承ください」と、他に類を見ない勢いでリンク禁止を主張していた(図1)。(「無断リンク禁止」ではなく、許可を求めても誰にも認められることがないというのは、まともな組織では他に見たことがない。)
この事例の存在は反無断リンク禁止派の間では以前から知られていたのだが、ときどきぼそぼそと話題に上ることはあっても、大きく取り上げて批判するような人はいなかった。
それはなぜか。「この番組ならしかたないよね」と、皆、うすうす感じていたからではないか。
つまり、これほどいかがわしい内容であれば業者に悪用されてさぞかし困るんだろうなと、リンクを禁止したがるその気持ちを察することができていた。
実際、捏造が話題になった先日の日曜日に、関西テレビの視聴者情報部に電話してリンク拒否の理由を尋ねてみたところ、あるある大事典にリンクして商品を売るような行為が困るからとのことだった。
たしかに適当に検索してみると、健康食品などの販売サイトで「あるある大事典」という文字列が書かれているところがある。そういうところからリンクされては困るという。
だが、まっとうな店が食材を販売する際に、「あるある大事典で話題の納豆」という商品紹介をして何が悪いというのだ? 番組の情報が真実であるのなら何ら問題なかろう。困るのは、真実を超えた印象で不当な宣伝をされることであるはずだ。
インチキな会社がインチキな内容を公開するときは、リンクは大歓迎に違いない。だが、世間から信頼されているはずのテレビ局であるからこそ、インチキな内容を公開するときはリンクされては困るということになる。
ここで、地方警察が「無断リンクは禁止とします」としていた事例(栃木県警、岡山県警)と対比してみる。
岡山県警は、「無断リンクは禁止とします」としていた理由について、警察は常に公正かつ中立でなければならないからだといい、栃木県警は、業者に悪用されることがあるのが困るという。それはテレビ局にも共通する。テレビ局は公正かつ中立でなければならないと考えられているだろう。
だが、警察のWebサイトに後ろめたい情報など載っていないのではないか? 警察は警察であって、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。きちんと管理された真っ当なWebコンテンツであるなら、岡山県警も栃木県警も、堂々と胸を張って公開したらいい。どうやっても警察が「あるある大事典」のようなことになるはずがないのだから。もっと自分達のWebサイトに自信を持ってもらいたいものだ。
ところで話は変わるが、かつてテレビ業界にいらした池田信夫さんが、次のことをおっしゃっている。
実験データの捏造も、それほど深刻なものではない。もともとテレビ番組の実験なんて学問的に厳密なものではないし、大事なポリアミンの実験データの解析だけはしていたようだから、100%捏造というわけではない。これがだめなら、「超能力」と称してやっているいかがわしい「実験」や、占い師のおばさんが2 時間にわたって根拠不明の「予言」をする番組はどうなるのか。
納豆ダイエット捏造はなぜ起きたのか, 池田信夫 blog, 2007年1月23日
そうおっしゃいますが、問題とされているのは、科学的な裏づけがあるかのように装っていることでしょう?
先月のNHK「視点・論点」で大阪大の菊池誠教授が次のように述べていました。
さて、ニセ科学が受け入れられるのは、科学に見えるからです。つまり、ニセ科学を信じる人たちは、科学が嫌いなのでも、科学に不審を抱いているのでもない、むしろ、科学を信頼しているからこそ、信じるわけです。
(略)
ところがニセ科学は断言してくれます。
マイナスは良いといったら良いし、プラスは悪いといったら悪いのです。また、ゲームをし過ぎるとなぜ良くないのかといえば、脳が壊れるからです。ありがとうは、水がきれいな結晶を作るから、良い言葉なのです。
このように、ニセ科学は実に小気味よく、物事に白黒を付けてくれます。この思い切りの良さは、本当の科学には決して期待できないものです。
しかし、パブリックイメージとしての科学は、むしろ、こちらなのかもしれません。科学とは、様々な問題に対して、曖昧さなく白黒はっきりつけるもの。科学にはそういうイメージが浸透しているのではないでしょうか。
(略)
ニセ科学に限らず、良いのか悪いのかといった二分法的思考で、結論だけを求める風潮が、社会に蔓延しつつあるように思います。そうではなく、私たちは、「合理的な思考のプロセス」、それを大事にするべきなのです。
まん延するニセ科学, 菊池誠, NHK 視点・論点, 2006年12月20日
そのような「パブリックイメージ」が出来上がってきた原因には、テレビがあるのではないですか。
ネタならネタとわかるように、占い師に食材を紹介させるとか、今週のカウントダウン食材ランキングとかやってはどうですか。
いまやNHKでさえ、印象操作の捏造棒グラフ*1がしょっちゅう出てきます。グラフの正しい書き方は小学校の算数で習うはずですが、テレビ局の人たちは算数嫌いだった人たちばかりなのでしょうか。算数というのは計算の練習ではないのですが。
*1 縦軸の原点付近が波線で省略されていて、棒には波線がなく、しかも軸には目盛りがないグラフ。先週も、中学受験の過熱ぶりを伝える番組で、親の年収に占める学費の割合の増大を示すためのグラフで、このインチキが行われていたが、残念ながら録画していなかったので証拠を示せない。
「発掘あるある大事典II」ってのが正式な番組名なんでしょうか? 「大辞典」って書いてるサイトが多くて、なんで「大事典」じゃないのかな? と思っていたら、間違えて書いてる人が多すぎるだけだったんですね。Google多数決で調べても、「あるある大事典」119000に対し..
Blog Not Found あるある大事典とプリンキピアの違いって何だ?まあ世界で一番有名な科学者の、一番有名な著作物なのだけど、この中にも捏造があったことは「背信の科学者たち」でも指摘されている。プリンキピアの著者であるニュートンは錬金術にもはまっていましたよね。..
kazy先輩から紹介いただいたページを読みました。 高木浩光@自宅の日記 「いまやNHKでさえ、印象操作の捏造棒グラフ*1がしょっちゅう出てきます。」 まぁ、もはやNHKなんてものは、世間一般を知る手段としては、天気予報ぐらいしか見ないんだけど、 やっぱり、NHKも疑っ..
高木浩光さんという方のブログ「高木浩光@自宅の日記」の記事「あるある大事典が「一切リンクお断り」としていた心境を推察すると見えてくるもの」からの引用。 たとえば、研究所の研究員の発表論文やテクニカルレポートが、食材販売業者のチラシやWebサイトで、参考文...
テレビの
健康番組は全部デタラメ
そう思えば腹も立たない
被害にも遭わない
まず、「症状別サプリメント逆引き事典」というサイトの、不妊に悩む人にマカ等を勧め
昨日は早朝から飛ばしすぎ、後から読み返したら、言ってることが論理的じゃないから書き直したいなぁと思いつつ1日が過ぎました。その間、いくつかの情報を読んだり、例のNHKの菊池先生の放送(たまたま録画が残っていた)をもう一度観たりして、やっぱり論点が発散して..
民放連
捏造防止へ調査勧告権
「放送の自律」瀬戸際
読売新聞2007年3月2日(金)朝刊トップ・3ページテレビ番組は全部捏造ねつぞう
ノー・カットの生放送以外は
世の中の悪い事大歓迎のテレビ・新聞・雑誌
世の中を