こういう話は「なにをいまさら」という感じだが、
という話も出ていることだし、先週の日記の脚注1にも書いたので、この機会に書いてみる。
先週の件は、NHK総合テレビ1月20日22時放送の「@ヒューマン」という番組だったことまでは思い出したが、残念ながら証拠画像を入手することはできなかった。しかし、画像検索で nhk.or.jpドメインを軽く探したところ、すぐさま典型的な捏造例が2つ見つかった。
図1は、図2のグラフの一部にモザイク処理を施したものだ。
このグラフを提示して何を解説しているかというと、
繊維製品製造業のグラフです。 先進国から発展途上国に大量の生産拠点が移ったため、日本の繊維工場は減少しています。
という。繊維工場が減少していると解説されながら、図1のグラフが数秒だけ画面に映されれば、「おお、日本の繊維産業は壊滅の危機なんだ」と思うだろう。
しかし、元のグラフはこうだ(図2)。
数字を見ると右端の数値は左端の数値の約 3分の2 なのに、棒グラフの長さは約 3分の1 になっている。
つまり、数値が正しいとすれば、正しいグラフは図3のものであるはずだ。
同じ大きさに変形してみると図4のようになる。
これは悪意を持って印象操作しようとして捏造したわけではないだろう。なぜなら、これはたかが高校講座の地理の資料だからだ。しかし、こうしたものが意図せず作られ、そしてチェックされることもなく、ニュース番組でさえ放送されるところに恐ろしさがある。
なぜこうなってしまうか。これは単純に、グラフの描き方という小学4年の算数で習うレベルの学力が、放送関係者に欠如しているということだろう。
この放送は、海難審判の裁決が増えているということを言いたかったようだ。「やや増加傾向にあります」とやや控えめな表現になっているが、このグラフはどうだろうか。
図5のグラフは縦軸が原点付近で波線で省略されている。これを省略せずに表記すると図6のようになる。
これを図5と同じ大きさに変形すると図7のようになる。
これでも、「やや増加傾向にあります」と言えるだろうか?
こういうグラフの描き方が許されるならいくらでもどうとでも描ける(図8)。
これも悪意を持って印象操作したわけではないのだろう。テレビではいちいち増えたとか減ったとか言わないと気が済まないのではないか? データをグラフで示すというのは、なにも変化があることを示すためだけじゃない。「変化がない」ことを示すことも立派な重要な情報であるはずだ。「横ばい」と言えばいいものをわざわざ拡大して無理に「増加している」だの言う様子は、NHKでさえ見かける。
こういうのは単純な手順で防止できる。目盛りは必ず示すこと。棒グラフでは原点を0とし、波線省略を使わない。これだけルール化して放送前にチェックするだけだ。放送業界はそんなことすらできないのか?
こんな小さなこと、どうせ言っても無駄。と、諦めるしかないような話だが、まあそれでもこうやっていちいち指摘し続けていかないといけないんじゃないだろうか。
2月4日に続編あり。