長かった裁判が終わった。これでやっと誰でも遠慮なく*1、Winny等がどういう性質のものであるか、本当のことを語り合えるようになるはずだ。
一昨年の大阪高裁の無罪判決のとき、朝日新聞の記事で私は以下のようにコメントしていた。
◆有害性に踏み込まず
高木浩光・産業技術総合研究所主任研究員の話 判決が一審同様にウィニーを「価値中立的なソフト」と認定したことには疑問が残る。ウィニーは、従来のファイル交換ソフトと異なり、無差別のダウンロード機能によって必要のないファイルまでかき集め、どんなファイルをやりとりしているのかを利用者が意識できない構造だ。利用者に悪意がなくても、個人情報や児童ポルノのファイルを拡散させるなどの行為に加担させられてしまう。判決はウィニーが抱えるこうした有害性に踏み込んでおらず、利用者に誤ったメッセージを与える可能性がある。朝日新聞2009年10月8日夕刊
そして今日の朝日新聞朝刊では、記事の最後で以下のようにコメントしている。
共有ソフトで拡散したデータは元に戻せない。産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は「今ではウィニー自体の利用は減る傾向にあるが、共有された児童ポルノ画像などは消せないまま流通し、類似した共有ソフトなども活発に使われている。判決を受けて問題点をしっかり分析し、規制を議論する段階ではないか」と指摘する。
朝日新聞2011年12月21日朝刊
「規制を議論する段階」というのがどんな規制を指しているのか*2は、2009年7月20日の日記「Winny等規制法の案を考えてみた」に書いたもののことである。
その後刑法に不正指令電磁的記録の罪もできたことであるし、少し直しを入れて改めて示しておく。
電磁的記録自動複製流通の適正化に関する法律(私案)
(目的)
第一条 この法律は、不特定多数の者が電気通信回線を通じて互いの電子計算機の間で電磁的記録を繰り返し自動的に複製し流通させることによって当該電磁的記録の消去等の管理を困難にする特定自動複製流通プログラムが、児童ポルノ及び不正指令電磁的記録等の犯罪に係る電磁的記録の流通の阻止を困難にさせることを防止するため、特定自動複製流通プログラムの利用者および開発者に対し一定の注意義務を課すことにより電磁的記録の自動複製流通の適正化を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「特定自動複製流通プログラム」とは、電気通信回線に接続している電子計算機において作動するプログラムであって、他の電子計算機から電気通信回線を通じて電磁的記録を取得する機能を有し、当該電磁的記録を自動的に自動公衆送信(公衆によつて直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。以下同じ。)し得るようにする機能を有するもののうち、次の各号のいずれにも該当しないものをいう。
一 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積しないもの。
二 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積するが、政令で定める期間を超えて蓄積しない措置が講じられているもの。
三 取得する電磁的記録を当該電子計算機に蓄積するが、公衆からの求めに応じて、当該電磁的記録を当該電磁的記録の取得元の電子計算機から再び取得することによって、電磁的記録を取得元の電子計算機の電磁的記録と同じ内容に更新する措置(取得元の電子計算機に当該電磁的記録が消滅している場合には、蓄積している当該電磁的記録を消去する措置を含む)が講じられているもの。
(利用者の責務)
第三条 特定自動複製流通プログラムの利用者は、当該プログラムを利用するに当たって、次の各号に該当する電磁的記録その他を自動公衆送信しないよう、管理しなければならない。(当該利用者が、その連絡先をインターネットの利用その他適切な方法により公表しており、求めに応じて当該電磁的記録を消去する等の措置を講じている場合、又は、当該特定自動複製流通プログラムが蓄積する電磁的記録の消去等の管理が当該利用者以外の管理者によってなされており、当該管理者がその連絡先をインターネットの利用その他適切な方法により公表しており、求めに応じて当該電磁的記録を消去する等の措置を講じている場合は、この限りでない。)
一 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年五月二十六日法律第五十二号)第二条第3項各号のいずれかにに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録
二 刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)第百六十八条の二第1項第一号に掲げる電磁的記録
(開発者の責務)
第四条 特定自動複製流通プログラムの開発者は、当該プログラムの利用者に、当該プログラムが特定自動複製流通プログラムに該当するものである旨を説明し、電磁的記録の取得に際して当該電磁的記録が自動的に自動公衆送信し得る状態になる旨を説明するよう努めなければならない。
2 特定自動複製流通プログラムの開発者は、人に利用させる目的で当該プログラムを開発するに当たっては、当該プログラムの利用者が電磁的記録を取得するに際して、前条各号の電磁的記録その他の記録を自動公衆送信しないよう管理することを可能とすべく、適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
(罰則)
第五条 第三条の規定に違反し、過失により同条各号の電磁的記録その他の記録を自動公衆送信した者は、30万円以下の罰金に処する。
これがどういう趣旨でどういう範囲を対象としたものなのかは、2009年に書いた通り。
*1 2006年12月12日の日記「Winnyの問題で作者を罪に問おうとしたことが社会に残した禍根」参照。
*2 もちろん、ダウンロード刑事罰化のことでは全然ない。
最高裁が「無罪」と判決したことで、「 Winny は正しい」とか、「 P2P は正しい」とかの理由で、被告を擁護する見解が出回っている。しかしそれは見当違いだ。