前回の日記で、横浜市日野公園墓地の事例について「1枚ではなくかなりの枚数が削除されているのだが、そのわりには全部を消しているわけではない。どういうことなのか」と書いたが、その点についてトラックバックを頂いた。
なるほど、横浜市には「横浜市墓地及び霊堂に関する条例」という条例があり、グーグル株式会社の撮影行為はこの条例の第18条に違反しているのだという。
第18条 墓地又は霊堂において、次に掲げる行為をしようとする者は、規則で定めるところにより、市長の許可を受けなければならない。
(略)
(2) 業として広告写真又は映画の撮影その他これらに類する行為をすること。
(略)
このことについての横浜市の見解が8月28日に公表されている。
<投稿要旨>
(中略)当該社は、公道から撮影した画像の公開は法的に問題ないとの見解を示しておりますが、私は公道からの撮影した画像の公開が一律に合法とはいえず、墓地内の写真を機械的に大量に撮影し公開することは、墓地の平穏を害するのではと考えます。この件につき、横浜市の見解をお聞かせください。
また、横浜市墓地及び霊堂に関する条例 第18条 墓地又は霊堂において、次に掲げる行為をしようとする者は、規則で定めるところにより、市長の許可を受けなければならない。とありますが、当該社の撮影行為が第18条第1項の各号に該当するか否か、該当するなら市長の許可を得たのかどうかもお聞かせください。
<回答>
(中略)日野公園墓地内には公道と施設内通路が通っておりますが、公道部分の公開につきましては特に問題ないと考えます。ただし、墓地区画の墓碑に刻んである家名が読み取れるものについては、個人情報として適切に対処するよう申し入れを行いました。
施設内通路につきましては、御指摘のとおり条例により撮影の際には事前の許可が必要となります。今回のケースは、事前に許可を得ずに撮影を行ったため、公開している画像の削除を申し入れております。
しかし、この墓地の現状のストリートビューを見ると、消えている範囲が中途半端でどうもおかしい。そこで、昨日、休暇をとって、横浜市健康福祉局健康安全部環境施設課に電話で尋ねてみた。
まず、墓地の「公道部分」とはどの部分なのかを尋ねてみたところ、図1の緑で示した部分だという。
たしかに、横浜市の道路台帳で認定路線図を確認してみると、この部分は「下野庭623」と「野庭56」という路線名の2つの道路となっている。
一方、現状でストリートビューから写真が削除されているのは、図2の黒で示した部分である。
公道の部分まで一部削除されている一方で、その他の青で囲まれた道が削除されていない。
このことについて、市役所の環境施設課の担当者と話した。担当者によると、8月にグーグルに対し削除の要請を2回行ったとのことで、要請から一週間弱が経過して一部が消えたのを確認したのだそうだ。
実際にストリートビューを見てもらいながら、そのとき消えていると確認したのはどこなのかを聞き出したところ、どうやらこの黒い部分と一致しているようだった。一部しか消えていないのになぜそれ以上のアクションをとらなかったのかを尋ねたところ、担当者曰く、一部しか消えていないが「作業の途中なんだろう。だんだん消えて行くのだろう」と思ったからだそうだ。
どうやら、横浜市が削除要請したにもかかわらずグーグルが削除していないのは、図3の赤で示した部分ということになる。
どうしてこんなことになっているのか。そもそも、横浜市の担当者はどうやってグーグル株式会社に削除要請を出したのか。その点について尋ねた。
担当者は、公道部分に色を塗って示す図をパソコンで作成して、メールでグーグルに送ろうとしたそうだ。しかし、グーグルには苦情を送る先のメールアドレスが公開されていないため、送れなかったという。
では、どうやって削除要請をしたのかと尋ねたところ、Googleマップ・ストリートビュー・ヘルプセンターの「不適切な画像を報告する」機能(図4)によって要請したのだという。
ところが図4の例にあるように、この機能は「約88文字以下で入力してください」などと木で鼻をくくったようなエラーを出してくる。じつは、「削除の要請を2回行った」というのは、「約88文字」では説明しきれなかったために2回に分割して送信したという意味だった。
この機能は受付番号の発行さえ行わないので、こうやって分割してしまうと、2つが一連のものとしてグーグル側で認識されない虞もあるところだが、担当者は2回の作業(つまり合計約176文字以下)で、削除すべき場所を指定し、加えて、公道部分についても、家名が読み取れるものについては見えないようにするよう要請したのだそうだ。
日野公園墓地内には公道と施設内通路が通っておりますが、公道部分の公開につきましては特に問題ないと考えます。ただし、墓地区画の墓碑に刻んである家名が読み取れるものについては、個人情報として適切に対処するよう申し入れを行いました。
施設内通路につきましては、御指摘のとおり条例により撮影の際には事前の許可が必要となります今回のケースは、事前に許可を得ずに撮影を行ったため、公開している画像の削除を申し入れております。
横浜市「市民の声」 公道から撮影した市営墓地の写真は合法なのでしょうか, 横浜市市民活力推進局広聴相談課
担当者は、メールで図を送れないこともあって、グーグル株式会社に電話で要請しようともしたそうだ。しかし、何回電話してみても、自動応答に番号を選んでいくと人が出る前に電話を切られてしまい、話をすることができなかったという。
「不適切な画像を報告する」に対しても、グーグルは自動応答の定型文を返すだけで人間としての対応を一切しない。削除したことについても、かなりの時間が経過した後に以下の定型文を送ってくるだけで、どこを削除した件なのかの明示もしない。削除する範囲が足りていないと指摘することさえ許されない。
Subject: Googleマップ ストリートビュー 画像公開の停止につきまして
Googleユーザー様、
この度は Google マップ ストリートビューの不適切な画像についてご連絡いただきありがとうございました。
ご連絡を頂戴しました画像を確認し、公開を停止させていただいたことをお知らせします。ご不便をおかけし大変申し訳ありませんでした。
今後とも Google をどうぞよろしくお願いいたします。
Google マップ チーム
グーグル株式会社は、違法な行為をしながら再発防止策も示さないばかりか、違法である旨を指摘されないよう、通告手段さえ制限している。
横浜市の担当者は、さすが健康福祉局の方だけあってかゆっくりと優しい話し方をなさる方だった。「88文字以下で」などとコケにされていながらも怒りを表に出すことなく、もう一度連絡を試みてみると話されていた。
しかし、これは連絡して削除してもらえば済むという問題ではなかろう。許可なく業として撮影した条例違反事実は消えない。担当者曰く、罰則規定のない条例なので何もできないとのことだったが、グーグル株式会社に再発防止策の提示を要求するなり、なんなりの手段でやることはあるのではないか。この案件は健康福祉局では処理しきれないだろうから、横浜市のもっとしかるべきところが対処してはどうか。*1
これは横浜市だけの問題ではないし、お墓の問題というわけでもない。住宅でも同様に、道路でない敷地内に進入して住宅を裏側などから無断撮影した事例が多数存在している。一枚だけ削除要求することはまあできても、何枚もの写真に渡る道や空き地全体が不法侵入事例である場合には、横浜市健康福祉局の事例のように、不適切な画像の範囲をグーグル株式会社にまともに伝えることさえ不可能にされている。不満の声が表に出てこないのは、気付いても実例を示すわけにいかないからだし、ストリートビューを見たことがない人、インターネットさえ使っっていない方々がたくさんいるからだ。
上で「罰則規定のない条例なので」と書いていたが、罰則規定はあるのだった。(はてなブックマークコメントにてご指摘いただいた。)
(行為の制限)
第18条 墓地又は霊堂において、次に掲げる行為をしようとする者は、規則で定めるところにより、市長の許可を受けなければならない。
(略)
(2) 業として広告写真又は映画の撮影その他これらに類する行為をすること。
(略)(過料)
第21条 次のいずれかに該当する者は、50,000円以下の過料に処する。
(略)
(3) 第18条第1項又は第2項の規定に違反して同条第1項各号に掲げる行為をした者
(平17条例102・追加)
これは見落としていた。平成17年に追加された規定のようだ。
*1 横浜市が8月28日に公表した見解の「公道部分の公開につきましては特に問題ないと考えます」というのも誤った判断ではないかと思う。条例は、墓地内であれば公道か施設内通路かによらず、「業として広告写真又は映画の撮影その他これらに類する行為」には「市長の許可を受けなければならない」としており、立法趣旨に鑑みれば、無闇に墓場が業として撮影されることを避けるためであろうから、公道から撮影して公道しか写っていないならともかく、墓が被写体となる撮影である以上、市長の許可を必要とすると解釈するものではないだろうか。
週刊ダイヤモンド 2008.09.27
またまた前回からだいぶ間が空いてしまいましたが、今回は紹介しないわけにはいかない一号です。
反面教師、として。
ところが図4の例にあるように、この機能は「約88文字以下で入力してください」などと木で鼻をくくったようなエラーを出してくる。じつは、「削除の要請を2回行った」というのは、「約88文字」では説明しきれなかったために2回に分割して送信したという意味だった。 高木..
「公道での撮影は自由」情報の流通に、ちょっと引っかかっている。 道路交通法上の道路*1で、特別の権利や規制が及んでいない場所*2では、「通行するついでに写真をとる」のは確かに規制がみあたらない。が、撮影目的で道路を使用する場合は道路の「通行目的以外の使用」..
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