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高木浩光@自宅の日記

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2012年08月22日

やはり欠陥だった武雄市の個人情報保護条例

5月8日に「「個人情報」定義の弊害、とうとう地方公共団体にまで」で、以下のように書いた。

対して、地方公共団体ではどうかというと、それぞれの独自の個人情報保護条例に従うことになるわけだが、「個人情報」の定義が自治体によって異なり、大別して3種類存在する*1ことが判明している。

照合可能型
「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」(千代田区の例)
(行政機関個人情報保護法と同等のもの)(多数派)
容易照合型
「生存する個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」(千葉市の例)
(民間と同等としたもの)
照合除外型
「個人を対象とする情報であって、特定の個人が識別することができるものをいう。(武雄市の例)
(照合性の括弧書きが欠如している)(少数派)

武雄市の定義は、照合によって「特定の個人を識別することができることとなる」場合を含むとの括弧書きが欠けているため、民間向けの「個人情報」定義よりもさらに狭く、民間よりもフリーダムなものになっている。この定義を採用している地方公共団体は他にもあるが、全国でもかなりの少数派のようである。

「個人情報」定義の弊害、とうとう地方公共団体にまで, 2012年5月8日の日記

当時、これに対して市長が以下のように言っていた。

まず、こんな類型聞いたことないぞ。個人情報保護法案の手前の段階で、僕、官房総務課の法令審査係長だったんですが、私寡聞でしょうか、そんなこと聞いたことないし、高木さんの脚注*1を期待していたら、(略)

そして、最大の問題点は、この人、法律や条例の読み方を知らないこと。武雄市の例を出してなかったら放っておいたんだけど、しかも、これを前提にして図書館履歴のことを持ち出しているのであえて書きますね。

個人情報保護法の「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」については、法令用語の通例として、括弧書きにより定義がなされたものであり上記は範囲の明示をしたもの。

括弧書きがない場合も、括弧書きの対象である「他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものが機械的に除かれるわけではなく、「「民間向けの「個人情報」定義よりもさらに狭い」と断ずることはできない。これもまた、法制の世界では当たり前のこと。(略)

こんな高木さんのようなわざわざ特定の自治体の名を出して欠陥扱いするような人が出てくるので困る。(略)

そこで、高木さんのような説が出ないように、うちの個人情報保護条例の定義の分を改正しようかって一応、個人情報保護審議会及び議会に相談してみますが、相手にされんだろうな。条文を改正するには、改正する具体的な「利益」(これは霞ヶ関用語ですね。理由と言い換えてもいいかも。)、改正せねばならない喫緊の課題が必要なので。

ちなみに、僕はこの条例が制定されたときは、6年以上前、まだ市長ではなかったので、当時の担当職員に聞いてみたところ、やっぱり、個人情報は国が扱う範囲と同一、なるべく、分かりやすくするために、そして、括弧書きは内包されているので、あえて書かなかったとのこと。

高木浩光先生、間違ってます。, 武雄市長物語, 2012年5月10日

ところが、先週公表された、7月10日の武雄市教育委員会臨時会の会議録によると、Tポイントカードの会員番号*1が個人情報に該当しないと、武雄市の職員によって説明されている。

○文化・学習課長

7月6日に開催されました個人情報保護審議会ですが、教育長から3つ諮問されました。(略)

二番目は、Tカードを利用してポイントが付くようにしてほしいと希望された方ですが、ポイントが付くためには図書館のデータを管理したシステムの中から、CCCのポイントシステムに情報を提供しなければなりません。これも個人が特定できる情報ではなくて、Tカードを使うと会員番号と何月何日何ポイント付いたという情報がCCCのポイントシステムにいくということですが、こういうふうに情報が提供されますが、いいですねと規約をお見せして同意をいただきます。同意があれば、情報提供してもいいというのが諮問です。(略)

武雄市教育委員会臨時会(H24.7.10)会議録, 武雄市, 2012年8月17日

そらみろ、条例でちゃんと明文化しないからこういうことになる。

これは市長も同じ認識のようで、7月23日の以下のニコニコ生放送の中でも、「会員番号の何とかさん(略)これ個人情報じゃないんですよ」という発言があった。

  • デジタルアーカイブ研究所・研究会「図書館の今後を考える」, ニコニコ生放送, 2012年7月23日

    (1:50:50)

    たとえばね、図書館で樋渡啓祐っていう人が42歳で武雄市在住の人が楽園のカンバス借りたっていうのは行きません。じゃどういう情報がそのポイントシステムに行くかっていうと、会員番号の何とかさんが図書館で何時何分何点借りましたって、うん、いうのだけ行くんですね。ですので、そういう意味じゃこれ個人情報じゃないんですよ。個人情報っていうのは、紐付けして個人っていうのが特定されるのが個人情報ですよね。

    映像1: デジタルアーカイブ研究所・研究会「図書館の今後を考える」より批評に必要な範囲で引用

図書館の利用事実だけで立派な個人情報であるし、ましてや「何時何分何点借りました」という情報までも含むのだから、プライバシーと感じる人もいるだろう。

どうしてこうも個人情報でないことにしたいのか謎と言わざるを得ない。一般に、個人情報であってもちゃんと同意があれば利用できるのだから、まずは個人情報であるとした上で、同意の手順を定めるべきなのにだ。

なお、この「同意」を得るというのはそうそう簡単なことではないわけで、このところの、Tポイントの医薬品販売情報の件や、Tポイントツールバーの件を見れば、CCCは、利用規約に書くだけの「形だけのドーイ」で逃げられるという態度の会社ということが確認されつつある。

武雄市教育委員会臨時会でも、上で引用した部分にあるように、「こういうふうに情報が提供されますが、いいですねと規約をお見せして同意をいただきます。同意があれば、情報提供してもいいというのが諮問です。」と、現状のTポイント加盟ドラッグストアと同程度のことしかしないつもりのようだ。こういうことを自治体がする場合には、重要となるのは「こういうふうに情報が提供されます」だけでなく、「こういうふうに利用されます」という説明なのに、それをしないつもりなのか。

実は、「こういうふうに利用されます」というのは、誰も説明できないかもしれない。なぜなら、CCCがそれを企業秘密として明かさない*2からだ。以下は、毎日新聞社とスポーツニッポン新聞社が提供するTポイント対応サービスについて、当事者に質問したときの様子である。

このように、Tポイント加盟社も、CCCに吸い上げられた情報がどのように利用されるのかわからないまま、契約しているわけである。(これは、ドラッグストアに取材したときも同様の様子だった。)

ひとつのやり方は、ポイントの払い出し以外の目的(マーケティングその他のため個人を分析する目的を含む)での利用を禁止する契約をCCCと締結することだろう。そうすれば、Tポイントの図書館での利用についての利用者の同意をとることは容易となる*3

その他にも、武雄市の個人情報保護条例は、2003年に地方自治法が改正されて指定管理者制度ができたときに総務省が出した通達「総務省自治行政局長通知(通知平成15年7月17日総行行第87号)」に従っていないという話を、専門家から教えて頂いた。ただ、これについてはまだ私はよくわからないので、後日、理解できたら書こうと思う。

なお、上記の「図書館の今後を考える」のニコニコ生放送では、以下のシーンもあった。

映像2: 「図書館の今後を考える」より、
「個人情報っていうのはすごいイデオロギーみたいになっているじゃないすか」とのシーン

映像3: 「図書館の今後を考える」より、「Tポイントカードを住基カードと置き換えろ」のシーン

*1 これは「他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当する。(この行政機関向けの個人情報定義は、民間向けの個人情報定義と違って、「容易に」がないので。)

*2 この点についてもCCCに取材してある。日を改めて書く予定。

*3 もっとも、Tポイントがいかなるものか、図書館以外で使用したときに何が起きるか、十分に知らせないまま、T会員になることを自治体が勧めるという行為の問題点は残る。

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