プライバシー問題に敏感なお国柄のように見えるアメリカが、ストリートビューについては他の従来の問題に比べると、さほど致命的なバッシングが巻き起こっているわけではないように見える。ごく一部の地域で始まった初期のころには顔も自動車ナンバーも丸出しであったのが、今ではぼかし処理されるようになった点も効いているのだろう。私の感覚では、アメリカの住宅地のほとんどは、現在のストリートビューでさほど問題がないように思える。
一方の日本はどうか。訴訟が1件も起きておらず、行政も何も懸念を公式には示しておらず、報道も両論併記の紹介程度の記事がわずかにあったにとどまるという表面的な動向からすると、アメリカより拒否感が小さいかのように見られるかもしれないが、日本は元々、プライバシー問題に対して行動で示さず裏でグチグチ不満を言うお国柄であるため、実際のところはわからないのではないか。ストリートビュー写真に対する削除要請は相当な数にのぼっているようだが、グーグル株式会社はこの件数の公表を拒んでいる(報道機関に対して)。
アメリカではそれなりに常識的な範囲で実施されたストリートビューが、日本では、日本の文化に合わせるローカライズ作業を一切サボって、アメリカでのやり方をそのまま持ち込んだため、アメリカにない質での拒否感が生じているはず――私はそう思い、これまでこのような活動を続けてきた。この、文化の違いが嫌悪感を生んでいるのではないかとする説は、ストリートビューが始まった8月の時点で幾人かの人たちによって考察されていた。
僕らの生活スタイルは、生活空間の様子を一方的に全世界に機械可読な形で公開するようにはなっていません
やっぱりアメリカより日本の方がインパクトあると思います。人口密度が高いから。道路が狭くて、歩いている人も、家も、全てが近くにあるわけで、写真で見せられたときの衝撃も大きい。一方アメリカは、道路が広い。道路から家の距離が長い。都心部に住めば違うが、そういうところは通常高層住宅。
このことについて、ヨーロッパではどうなんだろうかという点がずっと気がかりだった。先週、フランスの6つの都市でストリートビューが本格的に開始したというので、早速フランスの住宅街の撮影状況をストリートビューで確認してみた。
私は、国際文化比較をする専門性はないし海外の実情も知らないので、淡々とストリートビューの写真を列挙するにとどめる。
まず、アメリカの典型的な住宅地のストリートビューを確認する。適当に選んだ都市の「航空写真」画面で、住宅専用地区になっている様子の部分を適当に選んでズームし、ストリートビューを表示してみる。
このように、適当に選んでいるとどこを見ても似たり寄ったりとなる。次に、できるだけ狭い場所を探す意思を持って探してみる。
古い都市や山のある地域なら道の狭い住宅街があるのではないかと考え、以前訪れたことのあるピッツバーグの一角を見てみた。
日本にも近い感じのところがあるような感じがする。
もしかするとアメリカでは地域によってストリートビューに対する感じ方が違うのかもしれないと思い、ニュース記事を検索してみたところ、次の記事があった。詳細はまだ検討していない。
A national children's advocacy group is pushing to get Pittsburgh removed from the Street View of Google's map search until the technology is refined so pedophiles can't use it to pinpoint children's homes, schools and playgrounds.
その他、サンフランシスコもせせこましいイメージがあるが、どうだろうか。
昨年サンフランシスコを訪れた際は、ずいぶん徒歩で歩き回ったので、住宅街もかなり見たが、そんなに狭い感じはしなかった(上の場所はそのとき歩いた場所またはその近く)。このように道路はそこそこ広い。(最後の一枚は観光スポット化している場所なので住人も覚悟が通常とは違うと思われる。)
先月、ある情報セキュリティの専門家と話をしていたとき、ストリートビューに話題が及んだ際、彼は「アメリカだって同じですよ」と言うので、「じゃあ、日本みたいに狭くて至近距離で家が撮影されている場所を教えてくださいよ」と言ったところ、彼が示してくれたのは以下のあたりだった。
なるほど、たしかに狭い。しかし、何かが日本の情景とは違う。この近辺を見てみると、中には無防備な家もあるものの、多くの家は、一階に窓を設けていなかったり、塀のある家もあるが塀の高さが2.8メートルくらいあるようでストリートビューでも中を覗けない。
次に、フランスの場合を見てみる。フランスではパリ、リヨン、マルセイユ、ニース、リール、トゥールーズの6つの都市が先週から見られるようになった。
まず特徴的なのは、都市の中心部はたいてい、図5のような5、6階建てくらいの同じような建物が建ち並んでいて、道は狭いが、一階部分は商業施設か窓がない構成になっているようだ。
こういった地区では、住居に対するプライバシー懸念はあまり噴出しないかもしれない。
次に、都市近郊または郊外の住宅街を見てみる。
アメリカほど道は広くないようだ。日本と比べるとどうだろうか。
塀や生け垣が見られる。高さは比較的低く(日本と同じくらいか)、覗かれるのを防止しているというより敷地の境界を明確にしている目的のようにも見えるが、これは、実際に現地で人の目線で写真を撮ってみないとわからない。日本でも、ストリートビューで見ていると「元から丸見えのところ」と誤解してしまい、現地に行って初めて見えるものがまったく違うことに驚愕したものだ。
フランスでもストリートビューは塀や生け垣の上から覗き込む形になっており、この点についてフランスの人たちがどう反応するか興味深い。
できるだけ狭い道をと意識して探したところ以下の事例があった。
東京に近い狭さを感じるが、こういった地区がどのくらい多いのかはわからない。
そもそも、今回フランスの都市で閲覧できるようになった地域は、日本での場合と比べてかなり狭い範囲に限られているようだ。東京や大阪はかなり広い範囲が既に公開されれているのに対し、フランスでは、計ったような範囲でしか公開されていない。都市から離れた場所での状況がまだ見えない。日本で言う仙台や札幌のような状況にとどまっている。今後、公開される地域が拡大するにつれて、フランスでどんな反応が出てくるかが興味深い。
ところで、フランスのストリートビューでは、アメリカや日本と違って、ズームが3回できる(3回ダブルクリックできる)ようになっている。撮影された写真がそれだけ高解像度だということだ。そのため、家の窓の中まで見えてしまうことに対する批判が噴出するかもしれない。
図8の下の事例のように、比較的遠くに映った家でも3回ズームするとかなり詳細に見えてしまう。
一方、自動車のナンバープレートは、かなり正確に遠くのものまでぼかし処理が施されているようだ。
それに対して日本のストリートビューでは、自動車ナンバーは一切ぼかし処理されていないわけだが、どういうつもりなのか。
それから、フランスのストリートビューでも(日本ではそこら中に見られる)私道や敷地内へ進入している事例がいくつかあるようだ。
日本ほど多くはないように思えたが、どうだろうか。
次に、日本では洗濯物が写っていることが問題とされることがあるが、フランスではどうだろうか。洗濯物が見える写真はあまり見当たらなかったが、ないわけでもなく、以下の事例があった。
さて、日本ではどうだろうか。いまさらではあるが、アメリカやフランスとの直感的な比較のため、適当に選択した場所をいくつか列挙しておく。