9月9日から14日にかけて、はてなのアンケートシステムを使用して、ストリートビューに対する意識調査を行った。その結果を以下にまとめる。アンケートは2回に分けて行った。
1回目のアンケートでは、ストリートビューに対して「否定的」か「肯定的」かと、抽象的に問いかけた。「否定的」「肯定的」の定義は人それぞれだと思われる。回答総数は1000件。
その回答を円グラフで示すと図1のようになる。「否定的」が 33% で「肯定的」が 47% となっているが、この値自体はあまり重要ではない。母集団が変わればこの値は変化すると考えられ、はてなアンケートの利用者での値でしかない。この調査の目的は、回答した人の属性や自宅の環境によって「否定的」となるか「肯定的」となるか、その傾向を調べることにある。
これが、ストリートビューを実際に使ってみた人とそうでない人とで、どう違ってくるかを集計したのが図2である。
まだ使っていない人は「わからない」と回答することが多く、使用した人は、ちょっと使っただけなのか、かなり使ったのかに関わらず、「否定的」「肯定的」の割合は概ね同じだったことがわかる。
次に、自宅がストリートビューに掲載されていた人とそうでない人とで、どう違ってくるか調べた(図3)。
自宅が写っていた人では「否定的」の割合が大きくなっている。自宅が写っていない場合では、たまたま写っていないからなのか、未対応地域だからなのかに関わらず、ほぼ同じ「否定的」「肯定的」の割合となっている。また、自宅の状況を知らない人での「否定的」「肯定的」の割合は、自宅が写っていた人の場合と概ね同じになっている。
次に、自宅が一戸建てなのか集合住宅なのか、持ち家なのか賃貸なのかの違いを調べた(図4)。
一戸建てで賃貸の場合だけ「否定的」が極端に大きくなっているが、これはちょっと不可解だ。(自宅タイプ別の文系/理系の分布と自宅タイプ別の自称「IT」に詳しいを見ると、なぜか一戸建て賃貸では、文系の人が多く、ITに詳しくない人が多くなっていることから、その影響が出たのかもしれない。)
その他には、
といったことが読み取られる。商業施設兼用では「否定的」が少ないのではないかと予想したのに反する結果となっているが、サンプル数が少ない(23件)ので何とも言えない。
次に、自宅のある地域が都会か田舎かによってどう異なるかを調べた(図5)。
都会に近い町の住宅街でない地域で「否定的」がかなり多くなった。これはどういった原因が考えられるだろうか。住宅街よりも住宅街でない地域の方が「否定的」な何らかの原因があるのだろうか。
それ以外にはこれといった特徴は見られない。(都会から遠い町の住宅街でない地域は、サンプル数が少なすぎるので信頼性が低い。田舎で「わからない」が増えているのは、未対応地域が多いためではないか。)
次に、家族構成による認識の違いがあるかどうか調べた(図6)。
一人暮らしでは「肯定的」が多くなっている。なぜだろうか。ただし「わからない」も多い。
それ以外にはとくに特徴は見られない。未就学児童がいる場合に「否定的」が多くなるのではないかと予想したが、その特徴は見られなかった。
次に、「あなたはIT(情報技術)に詳しいですか」と問いかけ、「詳しい」と答えたか「詳しくない」と答えたかによる違いを調べた(図7)。
予想通り、自称「ITに詳しい」人の方が「肯定的」と答える割合が大きかったが、その差は圧倒的というほどでもなく、「ITに詳しい人」でも「否定的」と答える人が 28% もいた点には注目すべきだと思う。
同様に、「あなたは文系ですか理系ですか」についても問いかけてみた(図8)。
「ITに詳しいですか」と類似の特徴が現れているが、「文系/理系」対「ITに詳しいですか」の集計で確認できるように、文系かつITに詳しい人も結構な割合で母集団に存在しているので、これらは同じことを表しているわけではない。本当は、自称「ITに詳しい」人のうちで文系/理系で違いが出るかを調べたかったのだが、残念ながら、はてなアンケートのシステムではそれが集計できない。*1
なお、文系か理系かに「どちらでもない」と答えた人では、「わからない」が多いことに注目できる。
最後に、職業も聞いてみた(図9)。(「専門職」の意味するところについては元の質問文を参照のこと。)
「否定的」の割合が平均より大きくなっているのは、主婦または主夫、学生・無職、営業職、研究職、サービス業、教員で、「肯定的」の割合が大きいのは、技術職、専門職、経営者(ただし経営者はサンプル数が少なすぎる)となっている。
その他、はてなのユーザ登録時に登録されている「性別」「年代」「地域」の情報で区分けした集計も以下に示す。
女性が「否定的」で男性が「肯定的」という傾向が現れているが、これは、性差そのものが直接的に現れたものとは限らず、性別ごとの文系/理系の分布が偏っている(女性は 59% が文系で理系は 19% にすぎない)こと、また、性別ごとの自称「ITに詳しい」の分布も大きく偏っていることから、図8や図7の傾向がここにも及んでいると見ることもできる。*2
年代ごとの傾向は、50代以上はサンプル数が少なすぎるので無視するとして、40代だけが「肯定的」が多いという結果になっている。これは、40代では理系の方が多く、30代と20代では文系の方が多いことの影響かもしれない。
地域ごとの差はあまり意味がなさそうだった。関東、近畿、東海以外はサンプル数が少なすぎるので割愛した。東海地方ではまだストリートビューの掲載が始まっていないことから、図3の「未対応地域だった」と同じ影響が現れていると考えられる。関東より近畿の方が若干「否定的」が少ないがこれも、近畿地方では未対応地域がまだ多いことの影響ではないか。
はてなのシステムで地域が「その他」となるのは、日本国外に居住する人か、あるいは、居住地の登録を拒否した人と考えられるが、それに該当する回答者が72人もいた。その中では、「否定的」が多く、「わからない」が少なくなっている。
以上が1回目のアンケートの結果である。まとめると、次のことが言えるように思う。
はてな以外を含む社会全体で同様のアンケートをとれば、「ITに詳しい」人の割合は少なくなり「否定的」が増えると予想され、また、今後ストリートビューの掲載地域が増えれば、自分の家が写っているのを見て「否定的」となる人が増えると予想される。
1回目のアンケートが終わってから、2回目のアンケートを実施した。
「否定的」か「肯定的」かでは、どういう意味で否定なのか肯定なのか曖昧だった。2回目のアンケートでは、「どうなるべきですか」を尋ねた。回答総数は同じく1000件。
「問題はない」「問題がある」の切り口で分ければ、「問題はない」は 19% で、「問題がある」は 71% となる。「肯定的」「否定的」の区分とは大きく異なっている。
継続してよいか、中止するべきかの切り口で分けると、継続してよいとするのは 52% で、中止するべきとするのは 38% となる。
ただ、「問題点が解消されるのなら継続してよい」という回答は、あまり考えていない人の無難な回答選択肢として選ばれてしまった面があるようだ。これについては後で述べる。
次に、この回答が、自宅が写っていたかどうかでどう違ってくるか調べた(図14)。
自宅が写っていた人では、はっきりと、「問題点は解消されないので無くなるべき」という回答が多くなっている。
また、自宅が写っていた人は、対象地域なのに写っていないことを確認した人に比べて、「とくに問題がないのでこのままでよい」がやや多い。自宅の写り具合を見て「問題ない」と認識する人もいるようだ。
未対応地域では、無難な回答を選ぶ人が多いように見える。自分が当事者となってはじめて結論を出そうとする人が少なくないということだろうか。
次に、性別ごとの違いを確認した(図15)。
1回目のアンケートでも示したように、女性が「否定的」となるのは、理系が少ないこと、自称「ITに詳しい」人が少ないことの影響も考えられるところであるが、ここでは、「とくに問題がないのでこのままでよい」と回答した女性は 9% しかなく、性別による差はより鮮明になっている。
次に、「問題点が解消されるのなら……」「問題点が解消されるまで……」「問題点は解消されないので……」を答えた人向けに、「どの問題点の解消が必要ですか。全てを列挙してください」として、22項目を挙げて選んでもらった。その集計結果を図16に示す。(図中の選択肢の文章は略している。正確な表現は元の質問文を参照のこと。)
まず、「とくに問題がないのでこのままでよい」と回答した人は、ここにチェックを入れて回答するのは論理的に矛盾しているのだが、後述するように、このうち数件ずつはノイズ(ランダムに投票する人やボットの存在の影響)と考えられる。そのノイズを除いても、「とくに問題ない」としながら「解消の必要な問題点」を挙げている人はいるようだ。とくに、「自動車ナンバープレートにぼかし処理をする」は50人ほどの人が挙げている。この50人が本来は「問題点が解消されるのなら継続してよい」に投票するべきだったとするなら、「とくに問題がないのでこのままでよい」は図13の 19% ではなく 14% となるはずである。
選択した人が多かった解消されるべき問題点は次の通りである。
私にとっては意外なことに、表札にぼかし処理を求める人が多かった。自動車ナンバープレートに自動でぼかし処理を施すことは可能だろうけども、表札を自動処理するのは技術的に困難ではないだろうか。グーグル株式会社の藤田一夫ポリシーカウンセルが総務省の通信プラットフォーム研究会で(ストリートビューの話題ではないが、ストリートビュー開始直後の日に)「わざわざ自分の名前を公道に出しているわけだから」と発言した背景には、このことが関係しているのではなかろうか。
同様に、「干されている洗濯物や布団等にぼかし処理を施す」というのも技術的に無理な感じがする。そういった自動処理を施さなくても問題がないレベルに画像の解像度を落とすしかないのではないだろうか。
「顔だけでなく身体全体にぼかし処理を施す」は技術的に実現できるような気がする。グーグルはなぜこれを行わないのだろうか。ロケーションビュー社が夏休み企画で「ファッションチェック! ・原宿を歩くヒトと近所を比べよう」などとやっていたように、人間もストリートビューにとって欠かせない観察対象ということなのだろうか。
「公道以外での撮影を行わないよう徹底し再発防止策を公表する」、「不適切写真の判断基準を公表する」は当然にできることなのだから、グーグル株式会社は早急に実現するべきことであろう。
「非常に狭い道に入って撮影しないようにする」などは、落としどころをどこにするかの選択肢の一つであろう。
その他、やればすぐに実現できるはずのことがいくつもある。「報道機関の取材を拒否しないようにする」(227票)、「不適切写真の事前及び事後それぞれの削除件数を定期的に公表する」(227票)、「無料電話サポート窓口(コールセンター)を設置する」(244票)は企業として存在する以上やって当然のことだ。「撮影車両で回転灯、サイレン、拡声器等を用いて周囲に撮影中である旨を周知するようにする」(218票)、「撮影前に撮影対象地域に対し撮影日時の通知を行うようにする」(247票)なども現実的な要求だろう。
この項目への投票では、投票対象者が 710人だったのに対し、最大の得票数が 434票だった。投票がばらけているようであり、どの点を問題とみなすかは人それぞれということであろうか。
次に、「問題点は解消されそうだと思いますか」という問いかけをした。その結果を図17に示す。
ここでも矛盾が見られる。図13の「どうなるべきですか」で「とくに問題がないのでこのままでよい」と答えた人は、ここで「そもそも現状で問題がない」と答えないといけないのに、19% だったのが 13% に減っている。設問を読んでいるうちに問題に気付いたのか、あるいは、「どうなるべきですか」では自分の都合で回答し、「問題は解消されそうですか」では他人の身になって答えたのかもしれない。
(何年たっても)解消されないと答えた人が 34% にものぼっていることが注目される。これらの回答の内訳を見るために、「どうなるべきか」の回答別に集計してみた(図18)。
「問題点が解消されるのなら継続してよい」(中止する必要がない)と答えた人のうち 28% もの人が、(何年たっても)解消されないと答えている(91票)。これも論理的に矛盾している。「問題点が解消されるのなら継続してよい」かつ「問題点は解消されない」ならば、継続してはならないわけであり、「解消されるまで一旦中止するべき」または「無くなるべき」を回答してしかるべき票である。実際のところ、「問題点が解消されるのなら継続してよい」は耳障りの良い無難な回答であるため、あまり考えなく回答する人に多く選ばれたのではないか。
この91票を「一旦中止するべき」に編入すると、「一旦中止するべき」または「無くなるべき」の総数は、474票(47%)となり、「わからない」を除くと半数を超える。(はてなアンケートの利用者を母集団とした場合において。)
また、「問題点は解消されないので無くなるべき」と答えた人のうちの 23% が「1年くらいでは解消されないが何年もかかっていつか解消されると思う」と答えている。問題解消に何年もかかるような事態はそもそも容認できないという立場であろう。
なお、「問題点は解消されないので無くなるべき」を冒頭で選んだのに「そもそも現状でとくに問題が無い」を答えている人が 3%(6票)存在する。これはあり得ない選択だ。ポイント稼ぎ目的のランダム投票やボットがいて、このくらいの影響を及ぼしているのだと思われる。
次に、念のため、自宅が写っているかどうかによって、問題点が解消されるかの予想が違ってくるかを確かめるために、図19の集計をした。
このように、問題点が解消されそうかの予測は、自分の家の状況によらず概ね一定しており、回答者らは感情に流されず、客観的にグーグル株式会社の現在の対応状況が見ていると言えるのではないだろうか。
最後に、「問題点は解消されそうか」別に集計した「解消されるべき問題点」を図20に示す。
この集計から、「問題点は解消されそうにない」と考えられる原因となっている問題点がどれなのか、浮き彫りになるのではないかと期待したが、そうした特徴は現れなかった。
以上が2回目のアンケートの結果である。まとめると、次のことが言えるように思う。
さて、どうなれば事態は解決に向かうのだろうか。
大新聞にもたびたび話題を提供するくらいメジャーになったGoogleのストリートビューですが、大変便利で面白い反面、「気持ち悪い」「不気味」「釈然としない」というエモーショナルな拒否反応を示す人が多いのは知っての通りです。
高木浩光さんがユーザーの意識調査...
Ionamin fastin.