昨日は「越後湯沢ネットワークセキュリティワークショップ」に行っていたので、「ウェークアップ!」の放送は温泉宿のテレビで見た。前日の夜に宣伝しておいた何人かの方や、たまたまテレビをつけていて見たという、ワークショップ参加者の方々から、口々に「安全じゃないと言っているのに、コメンテータは違う話をしていた」と惜しむ声が聞かれた。
たしかにその通りで、残念ではあったが、仕方なかったかもしれない。これは、直前に勤務先に取材申し込みがあり、直前に都内の勤務先で撮影したものだった。
まず、収録時に私が話した内容は以下の通りである。事前に原稿を書いて論点を整理しておき、この通りにいっきに話した。
タグには2種類あります。
読み取り機にかざして使うタイプと、
アンテナが勝手に読み取ってくれるタイプです。
かざして使うタイプでは、
読み取り機からの電波を受け取ると、返事をする仕組みですが、
かざさないタイプでは、
タグが電池を内蔵していて、常時電波を発信し続けます。
学校の門に来たときだけ電波を出すわけではなく、
街中を歩いているときも、電車に乗っているときも、
家の中にいるときも、電波を出し続けます。
電池内蔵型では電波の届く距離は10メートルから数十メートルにおよびますから、
少しはなれたところにいる第三者でも読むことができます。
電波の受信機さえあれば誰でも読めるわけです。
もし裕福な家庭が通う学校だけがランドセルにタグをつけていたら、
悪い人が、受信機を使って、どっちの方向に子供がいるかを探知するかも
しれません。
番号だけだから個人情報ではないと言いますが、
常に同じ番号を出しているわけですから、たとえば、
この家の子供を狙おうと思った悪い人は、
夜のうちに家の外から電波を受信して番号を確認しておいて、
あとは、登下校の時間に、
同じ番号を発信する子供が数十メートル以内に入るのを待つ
ということもできてしまいます。
そういうことができないように、暗号化する対策が必要です。
昨今の実験で使われているタグに暗号機能があるかどうか、
説明されていません。
父兄の方々は、こうしたリスクもあることを知った上で、
本当に便利かどうか検討する必要があります。
もちろん、これ全部が採用されるとは思っていない。一般に、こうしたコメント収録取材の場合、映像に使われるのは二言までである。いきなり肝心の言葉だけしゃべるというのはうまくいかないので、このように、取材スタッフへの説明も兼ねて、一旦全部を通してしゃべった後に、ポイントを絞って要点だけを2度、3度と繰り返して撮るという方法にさせてもらった。
私としては上の強調部分が放送されたらいいなと期待したが、無理かもしれないとも思ったので、簡略化したコメントも述べ、そこが使われた。使われたコメントは以下の通り。
安全のためにタグを取り付けると、いうふうにされているわけですけれども、取り付けることによってかえって、危険も生ずるということも忘れてはならないと思います。常時電波を出しているタグを使う場合は、電波を受信する受信機さえあれば、誰でも読み取れると。ですから、悪意ある人が勝手に電波を読み取ってですね、何か悪いことに使うのではないか、という心配もあります。
そしてこの後ナレーションが以下のように入った。
ICタグが発信する電波の範囲は所有者を中心に半径10メートル程度と言われ、常時電波を出し続けているため、第三者に傍受される危険はゼロではない。
ナレーション部分には以下のようなアニメーション(円が広がっていく)が入った。これは、先週NHKニュースが流したミスリーディングな映像の誤解を払拭するために、お願いして入れていただいたものだ。
この後は、街頭インタビューで、「ちょっと考えますよね、親が完全に監視するという形になるから」という40才前後の女性の言葉と、「そこまでしなくてもいいんじゃないかと思いますけどね、親子の信頼関係をなくすんじゃないかと思いますけどね」という50歳くらいの男性の言葉が紹介され、海外の事例として、仮出所中の性犯罪者の再犯を防止するため、位置情報がわかるブレスレットを付けさせ監視する実験が進んでいるという話が紹介された。
そしてこの後、スタジオのコメンテーターの議論となるわけであるが、このコーナーは、「時代の天秤」という新企画だった。そのことは聞いていなかったので、ここまではっきりと賛成派と反対派に分かれた議論にするのだとは知らなかった。
賛成派は、安全のためには仕方ないということをおっしゃるし、反対派は、「親に逆らえないで成長する子供が増えると、大人になってから何かしでかしてしまうのではないか(安全のためには仕方ないが)」といった主張になっている。
そうした議論も当然ながら必要である。
ようするに、今回のランドセルアクティブタグの事例から議論されるべき論点には、以下ように複数のものがあるのだ。
企画の性質上、これら全部の論点を扱うのは難しかったのかもしれない。直前に取材があったことからしても、もともと既に、安全と監視社会という論点が予定されていたのかもしれない。
実際、コーナーの前半部分では、セコムの位置情報サービス「ココセコム」のCM映像も紹介されており、これはICタグではない*1のだが、上記の1〜3の論点は共通するものであって、その論点を中心に据えているからこそ、紹介されたのだろう。
そういう状況の中で、直前だったにもかかわらず、アニメーションも用意して私の主張を紹介していただけたのはよかった。
本当は、上の4〜6の論点も入れて欲しかったところだが、それを「賛成派 vs 反対派」という形式に構成するのは無理だったかもしれない。違う形の企画だったらよかったのだが。 ただ、ここで気になるのは、「このシステムは単なる欠陥事例ではないか」という点は、テレビ局に放送する勇気はないのではないかという懸念だ。まだ事件が実際に起きたわけではない段階で、こうした悪用の心配があるという放送は、一般に不可能なのかもしれない。
この家の子供を狙おうと思った悪い人は、夜のうちに家の外から電波を受信して番号を確認しておいて、あとは、登下校の時間に、同じ番号を発信する子供が数十メートル以内に入るのを待つということもできてしまいます。という指摘をアニメーション付きで見せれば、かなり多くの人がギョッとするだろう。「悪用を思いつかせるようなことを言うな」という拒否反応が出るかもしれないし、スポンサーから苦情が入ることもあるかもしれない。
だが、これらの事例はいずれも実験段階なのであり、いつでもやめられるのだから、今のうちにリスクをきちんと周知するべきである。
実験小学校の母親(とされる人)は、今回も「ICタグは学校に入った出たっていうことがすぐにわかりますのでー、とっても安心です(うんうん)」とニコニコして言っていたが、
この家の子供を狙おうと思った悪い人は、夜のうちに家の外から電波を受信して番号を確認しておいて、あとは、登下校の時間に、同じ番号を発信する子供が数十メートル以内に入るのを待つというアニメーションを見たうえでも、そのように発言するだろうか。
ココセコムを使うならそういう心配がない(携帯電話同様に)。ただ、ココセコムには利用料金が月額800円ほどかかる。それに対して、ランドセルアクティブタグは、タグがおそらく数百円程度(2千円程度が相場?)で、学校側が用意するシステム一式が数百万円程度と、格安だろう。
ようするにこれは、安全性を犠牲にした杜撰な安物をつかまされているのだ。気品高きハイソな母親達は、そのことを知らされていないのだろう。
「最新技術」と宣伝されているが、野生動物や伝書鳩や家畜に使われてきたシステムの転用にすぎないし、人間用としてはココセコムが既にあった。人間用として必要な安全対策を取っ払った貧乏人向け低価格システムという点で「最新鋭」なだけだ。
なお、プレスリリースに記載されていた問い合わせ先(富士通パブリックセキュリティソリューション本部)に、先週、電話して確認したところ、このシステムのタグは暗号化機能を搭載していないとのことだった*2。
「ウェークアップ!」の放送では、岐阜県の岩邑小学校の事例の映像も放送された。その中でこの画面があった。
どうやら、RF Code社のタグ「Spider Tags」または「Mantis Tags」が使われているようだ。
掲載されているデータシートには次のようにある。
SPIDER(tm) Reader can read tags at a range up to 1000 feet. The readers are able to identify the tag's position, as well as inform the host computer whenever something changes; for example, when a tag enters or leaves their range.
つまり、1000フィート(約300メートル)までの距離から読め、かつ、その位置がわかる*3のだという。
暗号に関する記述はみあたらない。
ちなみに、トップページのキャッチフレーズは、「360度の指向性と長距離通信が可能にする無意識なアイデンティフィケーション」だそうだ。
比較的よく知られているように、電波法第59条は、他人が発した一部の電波の受信について、次のように規制している。
(秘密の保護)
第59条 何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第4条第1項又は第164条第2項の通信であるものを除く。第109条並びに第109条の2第2項及び第3項において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。
特定の相手方に対して行われる無線通信は、傍受(第一者と第二者が通信する傍らで第三者が受信するのだから「傍受」)と定義され、傍受するのはしかたがない*4が、それの存在や内容を漏らしたり窃用するのは違法とされている。
では、アクティブ型RFIDタグが何秒かおきに発信し続けるビーコン電波は、「特定の相手方に対して行われる無線通信」にあたるだろうか。
校門の前に立っているときのように、受信機が近くにあるときは、タグから受信機へと通信が行われているといえるかもしれないが、学校が用意した受信機のない街中などでは、予定した受信機のない状況で電波を勝手に発信しているわけであり、特定の相手方が存在しない。
これは受信しても傍受にあたらず、なにをやっても違法にならないと思うのだが、どうだろうか。
また、パッシブ型RFIDタグの場合でも、消費財に取り付けるタグでは、誰に読ませるかを制限しない(アクセス制御機能などにより)のならば、誰が読むのも自由であり、電力を供給する人(リーダの使用者)が「特定の相手方」になり、傍受にもあたらないはずだ。
このご時世、ぜひ法律家の方々に議論しておいていただきたい話題ではないだろうか。
それにしても、NHKの映像のように、動く絵で見せることの効果は絶大だ。
私としては、
この家の子供を狙おうと思った悪い人は、夜のうちに家の外から電波を受信して番号を確認しておいて、あとは、登下校の時間に、同じ番号を発信する子供が数十メートル以内に入るのを待つというシーンをアニメーションで見せたいところだが、どうもテレビでは無理っぽい。
個人的立場で、フラッシュアニメなどを自力で作りたいところだが、それだけの絵心がないし、フラッシュは一度も作ったことがない。
どなたか職人さんにご協力いただくことはできないだろうか。
著作権についてはおおむね次のように考えている。
ご協力いただける方からのご連絡をお待ちしております。
*1 ココセコムのセキュリティ面は、携帯電話が盗聴されないのと同程度に安全といえる。
*2 パブリックセキュリティ本部営業推進部の担当者には、確実な回答をするためとして、開発部隊に問い合わせて、折り返し連絡のうえで回答していただいたので、確かな事実であろう。なお、タグのIDが連番になっていたりはしないかという点についても同様に問い合わせたところ、使うのは、タグ内のメモリのデータではなく、タグの識別番号であり、タグをシャッフルして配布するとのことだった。それでもなお、学校単位で連番でタグを納品すると、学校が識別できてしまうことになるので、納品時からシャッフルしておく必要がある。
*3 おそらく、2個のアンテナを使うことで概ねの方向を得て、電波強度から概ねの距離を得るのだろう。
*4 暗号化された無線通信の場合は、109条の2により、秘密を漏らすないし窃用する目的で復元してはならないとされている。
ショッキングなニュースというのは冷静な判断をできなくすることが往々にしてあるが、今までの慣習を変えるのには絶大な効果もある。 ...
増加傾向にある児童を狙った犯罪から、児童を守るためにICタグを利用した実験が横浜の小学校で行われているようです。(毎日新聞の記事、産経新聞の記事)
児童がICタグを携帯し、学区内の30ヶ所にアンテナが設置され、児童がアンテナの近くを通るとタグの情報が受信され、...