先日大阪に行くため、東京駅構内で東海道新幹線の切符を自動券売機で買おうとしたら、指定席が1時間先まで満席になっていたため、自腹でグリーン券を買うことにした。現金が足りないのでクレジットカードを券売機に挿入したのだが、そこでギョッとする画面が現れた。
そのときは写真を撮り忘れたのだが、昨日、駅を通りがかったので撮ってきた。その画面とはこれだ。
カードを挿入すると、暗証番号の入力を求められるのだが、巨大な番号ボタンがそのままタッチパネルに現れるのだ。
銀行のATMでもタッチパネルで暗証番号を押すのだから、人々はそれに慣れているだろう。だが、ATMは個室だった。それに対して新幹線券売機では、離れたところからでも見通しがよい。斜めからでも見える。
画面には次のように案内されている。
暗証番号を入力してください
画面のボタンまたは券売機右下のテンキーから入力できます
たしかにテンキーが硬貨投入口の下に用意されている。へこんだところにキーがあるので、こちらを使えばそれなりに安全に入力ができるだろう。だが、案内文は、「画面 または テンキーから入力できます」と言っているだけで、テンキーからの入力を推奨しているわけではない。タッチパネルの巨大なボタンを人目をはばからず押してしまうのは、旅客の責任だというのだろうか。
こちらは、品川駅で見かけた、JR東海の「エクスプレスE予約」の受取専用切符発行機。
こちらは、テンキーも丸見えだ。隠そうという意思が感じられない設計。いったい何のためにテンキーを設置したのだろうか*1。
平和な国、日本。性善説で生きていける国民性。そんな人々の暖かい目に囲まれた社会。その社会の一員である自分に気づかされ、心和む想いがした*2。
ATMは個室だった。それに対して新幹線券売機では、
と書いたが、ATMが個室なのは田舎の小規模出張所くらいなものか。支店のATMコーナーならば何台もが並んでいる。しかし、ATMではタッチパネルは上向きだ。後ろからでは見えない。それに対してJRの券売機では、垂直になっていて後ろから丸見えという点が異なっている。
コンビニのATMはどうか。セブンイレブンに設置されているアイワイバンク銀行のATMを見てきたところ、タッチパネルはほぼ垂直だが、暗証番号の数字ボタンがパネルに表示されることはなく、テンキーでしか入力できないようになっていた。テンキーは深い切欠きの中にあり、十分に目隠しされた構造になっていた。しかも、タッチパネルは斜め横からでは、見えないようにフィルターがかぶせられていた。それに対してJRの券売機は、写真のとおり、斜め後ろ数十メートルから観察可能だ。
で、その大阪行きのとき、クレジットカードで新幹線切符を買おうとしてどうなったかというと、「そのカードは使えません」と拒否されたのだ。ああ、そういえば、昔からJR東海では、JR東海の「エクスプレスカード」でしか買えないんだったね。今でもそういう状況だったとは驚愕した。
駅員にATMはどこかと尋ねると、構内にはありませんという返事。念のため、クレジットカードが使えないのかと尋ねたところ、エクスプレスカードしか使えませんという返事。しかたなくATMを求めて改札を出た。するとそこには、VISAのマークのある券売所があるではないか。そこで買った。窓口の人に、どうして構内では普通のクレジットカードが使えないのかと尋ねると、「私は旅行会社の者なので……。」と言う。おお、たしかにここは「ジェイアール東海ツアーズ」というところだ。
なんとか目的の列車に間に合って乗れたが、乗り継ぐつもりが改札を出たおかげで、数百円損してしまった。
グリーン席に座っていると、とても丁寧な接客を受ける。快適だ。せっかくなので、「新幹線切符を買うのにエクスプレスカードしか使えないというのは、わざとやっているのですか?」と質問してみた。すると、車掌さんが出てきて、これまた丁寧にメモを取りながら話を聞いてくれた。だが、質問は簡単だ。
わざとやっているのですか?「はい」または「いいえ」でお答えください。
というもの。しかしなかなか回答は得られない。車掌さんは何度も車掌室に行って問い合わせをしてくれたけれども、得られる回答はこんなものしかこない。
お客さまに割引サービスを提供するため、エクスプレスカードをご用意しています。
アホか。それは、エクスプレスカードを提供している理由であって、エクスプレスカード以外を受け付けない理由ではない。
そんなこんなで大阪の用事も無事に済み、日帰りのため帰りの切符を買おうとすると……、ガーン、ATMに行くのを忘れていた。時間も遅いのでATMなんか開いてない。どうしよう……。駄目もとで新幹線自動券売機にVISAのクレジットカードを入れてみると、なんと、普通に買えるじゃないか。新大阪駅の券売機では買えるらしい。そうか、ここはJR西日本なのか。
後でわかったことだが、東京駅構内でも、新幹線の自動券売機は、JR東海のものとJR東日本のものが混在していて、JR東日本の券売機を使えば、普通のクレジットカードも使えるのだ。しかも、2つの窓口は並んでいて、私はその日、数十歩進む(というか、来た道を戻る)だけで、VISAで買えたのだった。東京駅構内マップのオレンジ色のマークの窓口ではなく、緑色のマークの窓口に行けばよい。「駅ネット端末」と書いてあるところがVISAも使える自動券売機だ。東海道新幹線に乗るので、なんとなく東海道新幹線の改札のところで切符を買わないといけないような気がしてしまうが、東北新幹線の改札のところで東海道新幹線の切符を買えばよいのだ。ああそりゃそうだ。今まで気づかなかったよ。
そのことを教えてくれず、ATMは外にあると言ったJR東海の駅員は、そういう教育を受けているのだろうか。
で、どういう理由で一般のクレジットカードを拒否しているのかは不明なままだったのだが、昨日、品川駅を通りがかったとき、こんな案内ポスターを見かけた。
クレジットカードを使いたい人は、後ろにあるジェイアール東海ツアーズへ行けと書かれている。案内があるだけ東京駅よりマシなのだが、このポスターの文面に不誠実さが滲み出ている。まず、
こちらの窓口では、現金のほか、JR東海エクスプレス・カード、JRカードをお取り扱いします。
とあるが、なぜ、「○○は扱っていません」とはっきり書かないのか。この場合、読者に注意すべきは、使えないものが何かということであって、使えるものが何かではない。いったい、何のためにポスターをはりだしたのか。
そして核心はここだ。上の小さい文字の部分にはこう書かれている。
JR東海では、お客さまにスムーズにきっぷをお買い求めいただくため、きっぷの発売窓口をお支払方法により区分させていただいております。
ほほう、つまり、何かの事情があってクレジットカードを受け付けられないというわけではなくて、はっきりと意図を持って「区分」しているということが確認された。
そして、その意図的に「区分」する理由というのが、「お客さまにスムーズにお買い求めいただくため」だという。スムーズというのは何のことだろうか。JR東海のエクスプレスカードだと、サインが不要なのかもしれない。そこで、この窓口の駅員に尋ねてみた。「エクスプレスカードだとサインが不要なのですか」と。回答は違った。エクスプレスカードでも、一般のクレジットカードと同様にサインを求められるのだ。じゃあいったい何が「スムーズ」なのか。
J-PHONEのユーザ向けFAQといい、NTTドコモのFirstPass Q & Aといい、RFIDタグ搭載本の説明といい、Windows XPのファーストステップガイドといい、どいつもこいつも、よくもまあこういう「言わない嘘」を平気で書くよなあと改めて感心した。こういう文章を書かされて、仕事が嫌になったりしないのだろうか。
ちなみに、品川駅のこの窓口のすぐ隣には、JR東日本の新幹線券売機がある。そっちで買えば普通のクレジットカードが使える。JR東海提供の品川駅構内地図でいえば、「港南口」とある部分のすぐ上のくびれた部分の右側にある。この地図には載っていない。JR東日本提供の品川駅構内地図にはしっかりと載っている。緑色の直方体の部分だ。覚えておこう。客のことなど頭にないJR東海は初めから避けるようにするのが吉だ。
ちなみにこれが、品川駅のJR東日本の券売機。券売機自体は、JR東海のものとも、新大阪駅のものとも同一で、機械が異なるからクレジットカードが扱えるわけではないし、暗証番号が遠くから見通せるのも同じだ。