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高木浩光@自宅の日記

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2013年06月29日

多賀城市図書館は個人情報保護条例改正なしにTポイントを導入できるか

5月下旬に、武雄市のCCC図書館店が、宮城県多賀城市に伝染しそうだという報道があった。

  • ツタヤ図書館、宮城にも 多賀城市が新設、運営委託へ, 朝日新聞, 2013年5月25日

    宮城県多賀城市は図書館を新設し、レンタル大手でTSUTAYA(ツタヤ)を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に運営を委託する方針を決めた。同市は東日本大震災で被災しており、菊地健次郎市長は「人を呼べる拠点をつくりたい」としている。

    (略)多賀城市長は3月、武雄市を視察した。

    市によると、委託の形態や費用などについてCCCと交渉を進めている。CCC関係者によると、被災地への貢献も考慮して前向きに検討しているという。(略)

  • ツタヤに図書館の運営委託検討 宮城・多賀城市、全国2例目, 産経新聞, 2013年5月31日

    東日本大震災で被災した宮城県多賀城市が、新たに整備する市立図書館について、レンタル大手TSUTAYA(ツタヤ)を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)への運営委託を検討していることが、31日までに分かった。(略)

    市は駅前に移転させ、27年夏の開館を目指す方針で、CCCとの連携で利用率や認知度の大幅アップを期待。菊地健次郎市長は「民間の力を得て良質な文化のインフラを整備し、にぎわいのある市街地にしたい。ここ1カ月で結論を出す予定だ」と話している。

多賀城市は、武雄市同様にTポイントを導入するつもりなのだろうか。*1

武雄市の図書館で、Tポイントの扱いがどうなったかというと、ここでもまた相も変わらず、「個人情報は含まれない」などと、まやかしの説明が繰り返されている。

  • シリーズ武雄市TSUTAYA図書館(16) - 武雄市議会 平成25年3月定例会 石丸定議員一般質問, サーバ管理者日誌, 2013年3月13日

    (古賀教育部長) (略)どの程度の情報が行くのかということになりますけれども、4つございます。一つはTカードの番号でございます。それから、使用された年月日と時刻ですね。それから、ポイント数。この4つに限って提供するもので、本人が特定をされないということであり、かつ、本人の同意も得ているということで、 個人情報についてはしっかり守られるとこの様に考えております。

    この教育部長の答弁は、どう考えてもおかしいと思います。

    まず、個人とTカード番号の紐づけ情報。CCCがこの情報を持っていることは、間違いありません*1。そうでなければ、ポイント付与や利用といったサービスを受けることはできません。

    ところが、教育部長は、「Tカードの番号」を渡すにも関わらず、「本人が特定をされない」という答弁をしているのです

    「渡す側にとって個人が特定できなければ、たとえ相手が特定できようと個人情報でない」という強弁はあるかも知れませんが、その説明は「個人情報の流用が心配です」という人に対して、「それは個人情報ではないから安心して下さい」という、論点のずれた説明だと思います。

    (略)

    ところで、図書館利用者番号が分かれば、図書館としては個人が間違いなく特定できますから、 図書館利用者番号に紐づく情報は、図書館にとって間違いなく個人情報です。 (略)

  • 武雄市図書館のTカード番号で「本人が特定されない」のは本当か, dechnostick's blog, 2013年6月13日

    (略)

    図書館は自身の業務を図書館IDで行うはずだから、Tカードの利用者についてはTカード番号を図書館IDへ変換する操作が必要になる。この変換で必要になる表は図書館のみが保持していなければならない。なぜならこれがCCCにあるとすると、CCCが図書館IDとの対応を知っているということになるからだ。

このように、図書館が持っている利用者登録の情報と照合することで、T会員番号から特定の個人を識別できるにもかかわらず、武雄市の教育部長は、議会の答弁で、T会員番号をCCCへ送信することについて「本人が特定をされない」と断言してみせた。

こんなことが言えてしまうのは、武雄市の個人情報保護条例が全国にも珍しい欠陥条例だからで、これについては、既に昨年8月の段階で書いた通りである。結局、武雄市は欠陥条例を直さずに、図書館にTポイントを導入した。

  • やはり欠陥だった武雄市の個人情報保護条例, 2012年8月22日の日記

    5月8日に「「個人情報」定義の弊害、とうとう地方公共団体にまで」で、以下のように書いた。

    対して、地方公共団体ではどうかというと、それぞれの独自の個人情報保護条例に従うことになるわけだが、「個人情報」の定義が自治体によって異なり、大別して3種類存在する*1ことが判明している。

    照合可能型
    「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」(千代田区の例)
    (行政機関個人情報保護法と同等のもの)(多数派)
    容易照合型
    「生存する個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」(千葉市の例)
    (民間と同等としたもの)
    照合除外型
    「個人を対象とする情報であって、特定の個人が識別することができるものをいう。(武雄市の例)
    (照合性の括弧書きが欠如している)(少数派)

    武雄市の定義は、照合によって「特定の個人を識別することができることとなる」場合を含むとの括弧書きが欠けているため、民間向けの「個人情報」定義よりもさらに狭く、民間よりもフリーダムなものになっている。この定義を採用している地方公共団体は他にもあるが、全国でもかなりの少数派のようである。

    「個人情報」定義の弊害、とうとう地方公共団体にまで, 2012年5月8日の日記

つまり、武雄市の個人情報保護条例は、行政機関個人情報保護法や個人情報保護法、普通の個人情報保護条例と違って、どういうわけか、「(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」との条文を欠落させてしまっているため、結果的に、教育部長が言うような詭弁が合法になっているのである。

さて、多賀城市は、これの真似をすることができるだろうか。

多賀城市の個人情報保護条例を見てみたところ、以下の条文となっており、行政機関個人情報保護法と同様の「照合可能型」になっている。

  • 多賀城市 個人情報保護条例

    第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

    (1) 個人情報 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関して記録された情報及び法人その他の団体(国、独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)、地方公共団体及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)を除く。以下「法人等」という。)に関して記録された情報に含まれる当該法人等の役員に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

となると、武雄市のような詭弁は使えない。さて、多賀城市は、個人情報保護条例を改正(?)して、武雄市と同じ欠陥条例に変更するのだろうか。それとも?

ちなみに、武雄市では、教育部長が「本人の同意も得ている」と答弁しているが、実態はひどい運用がなされているとの報告がある。

多賀城市でもこういうやり方をするつもりなのだろうか。

なお、武雄市長に言わせると、「この図書館が嫌だったら、もうよその図書館行きゃあいいんですよ。」とのことだ。

*1 多賀城市長は、既にCCCに感化されたようで、6月6日の市の定例記者会見でこんなことを述べている。訂正:こちらは、岩手県陸前高田市の市長であった。

質問)市に伺いたいが、新しい図書館の建設の見込みはどのようになっているか。

教育長)新しい図書館は市民文化会館と博物館との複合施設として考えている。時期については未定である。場所は街の中心地と思っている。

市長)今教育長から報告があったが、まちづくり全体として私のほうからも話させていただきたい。実は先日、佐賀県武雄図書館の運営で最近有名なCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)に武雄市長も同席いただき、伺わせていただいた。現在のところ複合施設となっているが、話を聞く中で複合施設ぐらいすべてにおいて中途半端なものはないと言われた。これから図書館のまちづくりにおける役割を再度考えていかなければならない。ただ、子供たちに本を読ませればよいという考えではいけないと感じた。

多賀城市 陸前高田市 平成25年度第1回定例記者会見, 2013年6月6日


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