■ 白浜サイバー犯罪シンポジウムに行ってきた2010
木曜から「サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」に行ってきた。今回の主要テーマは、ブロッキング(児童ポルノのWebブロッキング)の是非。
警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課から「警察における児童ポルノ流通防止のための取組み」というご講演があったので、質問した。
質問にどんな回答があったかは書かないが、私は以下のことを発言した。
- スライドの「警察庁児童ポルノ根絶行動計画」に、Winny等での児童ポルノ流通への対策が書かれていない。
- 私は個人でWinnyネットワークの観測をしているが、一人で何千個もの児童ポルノファイルを公開状態にして毎日24時間Winnyを延々稼働させている輩が何人もいるのを見た。これらを止めなければ、児童ポルノ流通の防止にならない。
- Webのブロッキングは、表現の自由との衝突や検閲の問題、ISPへの責任負担の押しつけなどこれだけ厄介な問題が様々横たわっているところに、無理をしながら進めようとしているが、日本においてはWinny等こそが児童ポルノ流通の主戦場であって、そこを取り組まないでWebのブロッキングをしてもほとんど効果がない。
- 警察庁はそこの事実を把握しているのか。Winny以外のP2Pでの検挙例があるのは承知しているが、一次放流者でないWinnyでの共有者、つまり「Cache」で漫然と共有状態を続けている者が、児童ポルノ罪で起訴された事例は1件もない。(2010年5月3日読売新聞朝刊より。)
- 一次放流者を検挙したところで、Winny等の構造上、それ以外の共有者らを検挙しない限り、児童ポルノ流通防止としては実質全く対策になっていない。最初に誰が流したかわからない児童ポルノが、何年も前からずっと継続して共有状態になっている。そこにメスを入れないと、日本における流通は全く止まらない。
- 一次放流者以外の共有者を起訴するための法的な考え方、つまり故意の立証ができるのかできないのかの整理を警察庁はやっているのか。
- Winnyの登場からもう8年も経っている。冒頭でおっしゃったように本気で児童ポルノが人権侵害の著しく絶対に許せないものとお考えなら、海外と違ってWinny型のファイル共有ソフトが故意の立証が難しくて起訴が困難な状況になっている点、そこにメスを入れていただきたい。
ナイトセッションでも引き続きこの話題が取りあげられ、冒頭で5分ほど時間を頂いて、Nyzillaによるデモをお見せした。あるIPアドレスのWinnyノードに接続すると、2000件ほど、500ギガバイトもの児童ポルノのファイルが公開状態になっている様子が見えるのを、皆さんの目の前で披露した。その後、参加者の間で活発な議論となった。
ナイトセッションはオフレコなので、誰が何を言ったとかは書かないが、私は以下の発言をした。
- (単純所持罪ないし取得罪の法改正があれば減るのではという発言に対し)それでも結局同じ問題になる。取得罪ができても、Winny等の特徴であるキーワード検索による無差別自動ダウンロードが用いられている限り、その人が故意を持ってそれを取得したのか、現状で共有者を起訴できないのと同じ理屈で、立証できない。単純所持罪ができた場合でも、意識しないで「Cache」フォルダに溜め込んでいる沢山の人々によって児童ポルノファイルが供給されているのであり、それらの人々を単純所持の故意があると立証することもできないと思われる。
- (解決不能であるという発言に対し)方法はあると思う。自動的に流通させる特定のソフトウェアの使用者に限定して、児童ポルノの送信を過失でも罰するようにする。それによって、事実上、無差別共有(無差別にダウンロードして共有状態にする)機能を使えなくなるし、そのようなソフトウェアの供給を抑止できる(2009年7月20日の日記)。海外のP2Pファイル共有ソフトにはそういう機能が付けられていない。こんなことになっているのは日本だけ。
- 立法府の不作為が問題。しかし、現行法で対処不能であることが報告されなければ、問題の所在が認識されない。各都道府県警察が直面していると思われる、Winny等での児童ポルノ共有者の起訴が困難になっているという壁の実態について、取りまとめて白旗を揚げるのが警察庁の役割ではないのか。
ちょうど、犯罪対策閣僚会議の児童ポルノ排除対策ワーキングチームが、月曜の正午まで意見募集をしているようなので、そこにもこの意見を出そうと思う。
シンポジウムではその他に、楠正憲氏によるご講演があった。Twitterにその様子を書いたので、以下にまとめておく。
最後のところでブロッキングとDPI広告との関連が述べられていて興味深い。
また、ちょうど白浜に行くのと同じタイミングでDPI広告が世間では注目を浴びていたので、Twitterで以下のことをツイートした。