今年2月の東京都情報公開・個人情報保護審議会で、ストリートビューの問題が審議された際に、委員から、写真の顔などを自動認識や手動でボカシ修正するとき、修正前の元データはどうしているのかとの質問が出たが、これに対し、出席していたグーグル日本法人の藤田一夫ポリシーカウンセルと舟橋義人広報部長は、「元データは保管していない」と回答していた(2月4日の日記「東京都情報公開・個人情報保護審議会を傍聴してきた」参照)。このことは、審議会の公式議事録にも、以下のようにはっきりと記載されている。
○藤原委員 質問ですけれども、先ほど表札や顔でも、顔がきちんと認識されたら修正します、ぼかしを入れる、周辺でもとおっしゃったのですけれども、文字どおり技術的な問題ですが、修正される前のデータは誰がどう保存しているのですか。つまり、(略)
(中略)
○藤原委員 削除する前の画像は保管しているのかどうかということです。
○藤田氏 保管はしていないです。
○藤原委員 保有しているのかどうかということです。グーグルで、削除後も保有しているのかどうかということです。これは結構法的に大きな問題だと思います。
○藤田氏 保存していないです。
○藤原委員 保存していないという理解でよろしいですね。
○藤田氏 はい。
ところが、先週、EUのストリートビューに関する報道として、次の記事が出た。
(一部引用)
Google runs European Street View images through an automated filter to locate personally identifiable image features such as faces and car registration plates, publication of which could breach local privacy laws. It then renders those features unrecognizable by blurring them before publication so as to protect the privacy of those caught on camera. The process is not perfect, but if someone subsequently found their face or number plate unblurred on Street View, they can request that Google remove or blur the publicly displayed image.
Now, under pressure from the Data Protection Agency for Hamburg, Google has agreed to delete the original, unblurred images from its internal database within two months of receiving a request. Google usually retains the raw images indefinitely, something it says helps it improve its algorithms for automatically identifying image features.
"We have agreed to meet the privacy safeguards they have requested," said a Google spokeswoman.
The Data Protection Agency had hoped that Google would delete all raw images, not just the ones subject to a request, but is happy with the compromise, agency head Johannes Caspar said in a statement late Wednesday.
(日本語私訳)
Googleは、ヨーロッパのストリートビュー画像において、公開することが地域のプライバシー法に違反しかねない、顔や自動車ナンバープレートなどの個人を識別可能にしてしまう画像部分について、自動的なフィルタ処理にかけている。カメラによって捕らえられたプライバシーを保護するために、それらの部分は公開前にボカシ処理が施されることで認識できなくされる。その処理は完全ではないけれども、もし誰か、後でストリートビュー上で顔やナンバープレートがボカシ処理されていないのを見つけたら、Googleに対して、その公開表示されている画像を削除するかボカシ処理するよう要請することができる。
そして今、(ドイツの)ハンブルクのデータ保護局(Data Protection Agency)からの圧力により、Googleは、ボカシ処理する前の元の画像を、要請を受けてから2か月以内に、内部データベースから削除することに同意した。Googleは、通常、生の画像を無期限に保有している。画像の自動識別アルゴリズムを改良するのに役立つということで。
Googleの担当者は、「我々は要請されていたプライバシー保護措置に応じることに同意した」と述べた。
データ保護局は、Googleには、要請に基づく画像だけでなく、全ての生画像を削除してくれることを望んでいたが、この歩み寄りに喜んでいると、局長のJohannes Caspar氏は水曜の晩の声明の中で述べた。
(一部引用)
The search giant said that it only kept the original images for the purpose of indenitfying and correction errors, but agreed to delete this data once the images were no longer needed.
“The [EU’s] Article 29 Working Party has asked that we set a time limit on how long we keep the unblurred copies of panoramas from Street View, in a way that appropriately balances the use of this data for legitimate purposes with the need to deal with any potential concerns from individuals who might feature incidentally on the Street View imagery,” said Peter Fleischer, Google’s global privacy adviser.
“One of the technical challenges at stake with Street View – or any service that uses image detector software – is that the software sometimes makes mistakes, labelling part of the image as containing a face or a license plate when in fact it doesn’t. (略) We’re constantly working on ways to improve our technology, and we are constantly training it to detect more of the relevant stuff, while reducing the number of ‘false positives’ it creates. To do this, though, we need access to the original unblurred copies of the images.”
However, Mr Fleischer said that Google will meet the EU’s request “in the long term”, and would consult with its own engineers to determine the “shortest retention period” that also allows the legitimate use of these images to maintain quality of service.
(日本語私訳)
検索の巨人は、元画像はエラーを見つけて訂正する目的でのみ保有すると述べたが、画像が一旦もう不要になったらこのデータを削除するということに同意した。
「EUの『29条作業会合』は、ストリートビューのパノラマ写真のボカシ処理していないコピーについて、我々がどれだけの期間保有するかの制限時間を定めるよう(このデータの正当な目的での利用と、ストリートビューの映像で個人が偶然に呼び物になりかねないあらゆる潜在的な懸念に配慮する必要性との、妥当なバランスで)、求めてきた。」と、GoogleのグローバルプライバシーアドバイザーであるPeter Fleischer氏は述べた。
「ストリートビュー、あるいは、画像検出ソフトウェアを用いたあらゆるサービスを支えていく上での技術的な挑戦の一つは、ソフトウェアはしばしば、画像の一部を顔やナンバープレートを含んでいるものとして、実際にはそうでないのに、ラベル付けしてしまうという、誤りをすることだ。(略)我々は、我々の技術を改良することに絶え間なく取り組んでおり、それが引き起こす偽陽性判定(false positive)の数を減らして、もっと適切なものを検出するよう、我々は絶え間なくそれを調整している。これを行うために、我々は、画像のボカシ処理前のコピーを利用できる状態におかれる必要があるのである。」
しかしながら、GoogleはEUの要請に「長期的には」応じるとし、サービスの品質保持のためにこれらの画像を正当に使うことを許す「最短保存期間」を決めるよう、技術者と相談するつもりだと、Fleischer氏は述べた。
この件についての詳細は、Google社の「European Public Policy Blog」に書かれている。
ようするに、Googleは元データを保管しているということだ。自動処理で修正する前の画像のみならず、ボカシ処置要請のあった画像の元データも、これまで保管していたということだ。
まあ、技術者感覚からすれば、元データは保管しているだろうなあと、私も思っていたわけで、東京都の審議会で、グーグルの出席者が最初に思わず「元データは保管しています」と即答してしまったのも、頷ける話だった。しかし、グーグル日本法人は、審議会の席で(ポリシーカウンセルと広報部長と合意しながら)公式に、「元データは保管していない」と明言していた。
その結果、審議会は、「保存していないという理解でよろしいですね」と確認し、それ以降、その点についての疑問を挟まず、議論の対象から外していた。グーグル社の回答が実は事実無根だったとしたら、これは大問題ではないか。
審議会はその後、5月に、「グーグル社のストリートビューについての東京都情報公開・個人情報保護審議会会長コメントについて」という声明を出しており、「意見交換してきた事項のうち、残された課題について」という文書を公表しているが、この中に、(今EUが問題視している)元データが保管されている問題についての記載がない。
東京都は、今一度、グーグル社に、元データの保管の有無について問い直す必要があるのではないか。日本だけ特別扱いで「元データを保管しない」運用がなされている可能性もなくはないが、ただでさえグローバルに仕様を統一しているとして譲らなかったGoogleが、従来からそのような特別扱いをしていたとは考えにくいのではないか。*1
元データの保管の有無が、日本の個人情報保護法上、どのような意味を持つのかについては、審議会委員の藤原静雄教授が、「個人情報保護上、元データを保管しているとしたら、取扱事業者……」と述べていた。*2
2月の審議会でのグーグル社の回答が、どのくらい真面目に回答したものであるかは、審議会の様子を撮影した以下の映像から察することができる。
*1 グーグル日本法人は、5月に、日本独自の対策と取り組みを行うと発表していたが、元データの保管の有無については触れていない。もし従来から日本だけ特別扱いしていたのなら、このときアピールしていたはずだろう。
*2 正確には、これは、顔やナンバープレートが判別できる写真が個人情報保護法上の個人情報にあたると仮定した場合の話で、藤原委員は、このやりとりの後で、次のように質問の趣旨を説明している。
○藤原委員 1点だけ、すみません。先ほど私が個人情報という言葉を申し上げたのは、原則的に個人情報データベースに当たるかどうかという議論が大変難しいという前提で、そうではなくて、表札や顔がわかる元データを、消されたものがインターネットで見られるけれども、グーグル社そのものが、消す前の名前が入っていたり表札が入っていたりというものを持っていったら、その話は別ですというそちらの意味ですので。いきなり、個人情報保護法上の問題だと申し上げたわけではなくて、完全に個人を認識できるものをずっと提供しているものとは別に保管していたら、別の次元の話になりますという意味で申し上げただけです。
高木氏のページでは、これを「嘘らしい」と推定しているが、Gigazine の記事と照らし合わせれば、それが嘘であることは実証されたと言えよう。