この件がその後どうなったかというと、今月始めの騒動で削除されたマイマップ2つ(学校関係以外のもの)の復活事案について継続的に見ていたところ、18日か19日の午前にようやく消えた。
改めて事態を振り返ってみる。
今月始めの騒動により2日から4日にかけていくつものマイマップが(おそらく作成者によって)削除された。見ているだけだった私は、4日の夕方になって、「家庭訪問」のキーワードで検索すると全国各地に同様の事案が数十件あることに気づき、学校または教育委員会に電話して削除を促した。6日の夜の時点ではそれらのほぼ全部が削除され、検索しても出てこないことを確認していた。そのとき、ごく一部に残骸が残っているのを発見し、6日の日記を書いた。ところが、7日の朝になってもう一度検索してみると、大半の「家庭訪問」地点が復活してしまっていることに気づき、日記に「残骸ではなく復活している模様」の追記を書いた。7日の夕方、私の手には負えないと考え、文部科学省に知らせて後の処理はお願いした。
その後、2日から4日にかけて削除されていたマイマップ(学校関係以外のもの)も復活していることに気付いた。それらがいつ消えるのか観察していたところ、責任主体が大きな企業のものは早めに消えた(おそらく、グーグル社に電話で削除要請をしたのだろう)が、個人が作成したものはずっと消えなかった。そして、17日の24時に検索に出るのを確認したのを最後に、19日の昼前には検索に出なくなった。その後もときどき確認しているが、検索に現れることはない。
グーグル株式会社はこのシステム障害について、「数万というサーバ」「全サーバから情報を削除するのに時間がかかり」などと弁明していた。
一般公開されたマイマップの情報は「Googleの数千、数万というサーバに格納されている」(グーグルの広報担当者)ため、限定公開に変更したり、情報を削除した場合も、全サーバから情報を削除するのに時間がかかり、検索結果に表示され続けることがあるという。同社は「時間がたてば表示されなくなる。タイムラグがなくなるよう今、必死でトライしている。なるべく早く対応していく」としている。
登録した情報は「削除」ボタンをクリックすれば消える仕組みになっているが、「削除したはずなのに、まだ情報が閲覧できる状態になっている」との苦情も相次いでいる。(略)
グーグル広報の説明によると、利用者が登録した情報はグーグルの持つ複数のサーバーに複製される仕組みのため、一時記録が消えきらないケースがあるという。「要請があったものはできるだけ早く削除する」と釈明している。
グーグル社広報は、やむを得ない現象であるかのように言っていたが、「全サーバから情報を削除するのに時間がかかり」というのは大嘘だろう。全国のどこで誰が見ても同じように観測されていた(消えているときは誰が見ても消えており、復活しているときは誰が見ても復活しているのが観測されており、人によって違って見えるという事態の発生は確認されていない)し、徐々に消えていく様子も観測されておらず、放置されていた残骸は同じ時期まで継続して常に検索に現れる状態にあった。サーバ台数が多いからという問題ではない。
「要請があったものはできるだけ早く削除する」というグーグル社の対応もおかしい。
たしかに、ストリートビューの場合ならば、どれを削除するべきかがグーグル社側で判断できないということで、要請があれば削除するという対応も理解できなくもない。
しかし、マイマップの件はそれとは異なる。「残骸」と表現しているように、この復活事案は、マイマップ本体は消えていて、マップ名をクリックするとマップが出てこない状態になっていたものであり、検索結果に出てくるデータが「宙ぶらりん」になっていたものだ。各データが「宙ぶらりんか」否かは機械的に判別できる。
つまり、グーグル社は、プログラムを作って自動的に宙ぶらりんデータを消去することが可能だったはずだ。それなのに、言われたら消すという姿勢で通した。
私はこの件で、複数の報道メディアから自宅に問い合わせを受けたが、あるメディアからは、グーグル社が、「そのうち消える。」というようなことを言っているそうだと聞いた。過去にも同様のことが起きていたからだろう。
ようするに、そのうち消えるのだから放置しておいてかまわないということか。これだけ社会的に問題となる事案となっていても、半月くらいで消えるんだから放置でかまわないと。
そして、現時点でも何が原因だったのかの発表はなく、どういう対処をしたかの発表もない。今後も同じことが繰り返されるのか否かは不明だ。
グーグル社の広報は、「利用規約を無視している」「規約を守ってほしい」などとも言っていた。
相次ぐ個人情報公開について、グーグルの広報担当者は、「無意識になされたものか、意図的なものかは分かりません。しかし、利用規約にかなりこまかく違反事項が書かれており、それを無視したことになります。利用者には、規約を守ってほしいとお願いしたい」と話している。
児童名、「倒産確実」社名ゾロゾロ グーグルマップで情報漏れ騒動, J-CASTニュース, 2008年11月4日
しかし、このような「誤った」使い方が、いかに「普通に」起きたことか、以下に確認しておきたい。
家庭訪問を前に先生は、クラス名簿を手に、その家がどこなのか調べようと、まず1番目の児童生徒の住所をグーグルマップで検索してみたのだろう。そうすると図1のような画面となる。
これはごく普通の使い方だ。
ここで、次の住所を入れて検索すると前の地点が消えてしまうことが予想されるから、図1の位置を保存しておきたいと思うのは普通だろう。
都合のよいことに、図1の画面には「マイマップに保存」というリンクがある。「マイマップ」が何かわからなくても「保存」とあるので、保存できるんだろうと思ってクリックしてみるのは普通だ。
ここをクリックすると図2の画面となる。
ここで、アカウントを持っていなければ、「アカウントを作成」をクリックするのかもしれない。
実際に家庭訪問先地図を作ってしまった先生へのインタビューで、「IDも持っていたわけではない。必要があってマイマップを使おうとしたらIDが必要と出たのでその場でIDを作って使用しただけ」という内容の証言があった(11月9日の日記)。それはこういうことなのかもしれない。
そうすると図3の画面となる。
ここには、これといった注意書きや説明は見当たらない。「利用規約」があるが、ごく一般的なことが書かれているだけで、マイマップについて書かれてはいない。
アカウントの作成ができると、図1の画面に戻るようになっている。ここで再び「マイマップに保存」をクリックすると、図4の画面となる。
ログインが促されているので、登録したパスワードでログインすると、図5の画面となる。
ここで「保存」ボタンを押してしまうのは、責められるほど迂闊な行為と言えるだろうか?
この時点で既に「保存した場所」というマイマップが用意されており、マイマップの新規作成の操作すらしていない。
「保存」ボタンを押すと図6の画面となる。
もう、この状態で数十秒経てば自動的に「保存」ボタンが押され、公開状態になる。
ここで、名簿から2人目の住所を入れて検索してみると、図7のようになり、「マイマップで保存」をクリックすれば、それも同様に保存できることに気付くだろう。
図8のように、名前を入れられることにも気付くのも普通かもしれない。
こうして、次々と全員の住所を検索しては「マイマップに保存」し、家庭訪問先のクラス名簿が作られていったのではないだろうか。
もちろん、図8の画面で「一般公開」(旧称「公開」)「限定公開」(旧称「非公開」)という設定項目は見えている。しかし、ここは最近改善されてこのように濃い色で表示されるようになった*1が、つい先日までは、薄いグレーで表示されていて読み難いものだった(図9)。
また、たとえここで「限定公開」を選択したとしても、公開は公開であり、誰でもアクセスできる*2のであるから、家庭訪問先のような情報をここに登録してはいけない。
このように、最初の検索から、ユーザ登録、ログイン、保存までのプロセスに一度も「公開されます」といった警告文は出てこない。
こういうシステムが提供され続ければ、来年度も再び同じことが繰り返されるのではないか。
なお、「Googleノートブック」の場合は、公開しようと「はい」を選択した時点で、図10のようにちゃんと「重要」と題した警告が出るようになっている。(わかりやすい日本語かはともかく。)