高度ユビキタス化社会の到来は、プライバシーを守ろうとする人々のリテラシーをこうもややこしくする。一昨年書こうと思って準備したもののその後放置していた話を以下に書く。
2004年7月11日の日記に書いていたように、コンビニエンスストアのam/pmには、club apという会員サービスがある。am/pmで販売されているEdyカードには図1のように、club ap用の「仮パスワード」を記した紙が同封されている。
このサービスで特徴的なのは、「Edyご利用実績」という、am/pmでの買い物履歴を閲覧できるというものである。
一度メンバー登録すると、以後IDを使って、 Edyの決済やチャージの記録とお買い上げ品の明細がウェブ上で閲覧できます。小づかい帳、経費管理に、家計簿にと、便利な機能です。
club ap ご利用実績, am/pm
経費管理や家計簿に役立つというが(そうかあ?)、この仕組みの真の目的はam/pm側のメリットにある。これについては以下の記事などが参考になるだろう。
しかし商品を軸にデータをとるPOSの場合、顧客が何を買ったかは分かっても、誰に買ったかが分からないという問題点があった。
新しいCMSの手段を導入するにあたり、大きな目標としたのは2つ。顧客と購買履歴をひも付けることと、顧客1人1人にマッチした商品提案や情報配信を行うことだった。
(中略)
POS単体では、いつ何がいくつ売れたかしか分からない。POSデータに、Edyによる購買履歴と顧客のIDを組み合わせることにより可能になるのが「ある製品を買った人が、次に類似商品の中で何を買ったか」の追跡だ。
Edyそのものは匿名性のある電子マネーであるため,普通に顧客が精算した場合には誰が使ったのかという情報は収集できない。そこでam/pmジャパンはEdy導入と同時に,Edy利用者向けの会員制サービス「Club ap」を作った。Edyカード利用者に個人属性を登録してもらい,Edyカードに割り振られたID番号と対応付ける仕組みである。具体的には,パソコンでam/pmのClub ap登録サイトにアクセスし,EdyカードのID番号と個人属性を登録する。
Club ap会員の購買行動を把握することで,購買行動の属性分析などを通じて商品開発に結びつけるのが狙いである。会員にはメール・アドレスも登録してもらい,キャンペーン情報などの告知にも活用している。*1
これだけの話ならば、従来のポイントカードでも同様だ。個人情報(住所氏名、電話番号、メールアドレス)を書かせるポイントカードを発行しているドラッグストアなどが、従来より存在していた。自分の個人情報と購買履歴と引き換えに店から何らかのメリットが得られればいいと思う人が、利用していたであろう。
ところが、実際に試してみると、思いもよらない結果となった。図3は、club apにメンバー登録した際に履歴を照会した様子である。
メンバー登録した人だけ購買行動が記録されるのかと思っていたら、なんと、登録前から記録されていたのである。(しかも、「3ヶ月前から2日前まで」とあるのに、なぜか5か月前の行動までもが表示された。)
このような性質は、従来のポイントカードにはなかったものだ。
ポイントカードを作るという行為は、店に気を許すデレの態度であり、気を許せる店にプライバシーを預けて代わりのメリットを頂くという、Win-Winの関係の構築に同意するという契約だった。
ところが、am/pmは、契約する前から勝手に記録をしている。
これは、am/pmで販売されているEdyカードを使った場合に限られない。ANAマイレージカード、MySonyカード、ソニースタイルのEdy、サークルKのKARUWAZA CLUB、そしておサイフケータイと、どれを使った場合でも、am/pmはすべての購買行動をEdyナンバーでインデックス化して記録しているわけだ。
Edyはもはや社会の公器と言えるまで成長した。こんなことを同意なしにやってよいのだろうか。
「クレジットカードだって同じじゃないか」というのは的外れである。クレジットカード番号を加盟店が顧客管理に使うことは許されていないはずであるし、クレジットカード会社側に購買内容の明細が渡されることは通常ない。
am/pmの「明細」の内容は図4のように詳細なものになっている。
もっとも、これは個人情報保護法的には合法だろう。なぜなら、club apにメンバー登録する前の段階では、住所氏名等の「個人を特定する情報」を渡していないからだ。
そして、メンバー登録する際にはどうなのかというと、club apの説明にも、Edyの利用規約にも、過去の購買履歴までもが個人情報に結合されるという事実は説明されていない。(club ap ご利用規約、club ap プライバシーポリシー、club ap セキュリティ、club ap よくある質問)
個人情報保護法は、識別情報の扱いについてしか規定しておらず、それに結合される属性情報の扱いの説明責任について何も言っていないので、このような行為は合法となってしまっている。つまり、個人情報保護法が無能だということだ。
さて、こういうユビキタスとかいう社会を渡り歩くには、こういうことを事前に察知して、自衛策を講じて行くほかない。
まず、人からEdyカードを譲り受けることがあったら注意が必要だ。そのEdyは既にclub apに登録されているかもしれない。そうと知らずにam/pmで買い物をすると、あなたが何月何日何時何分にどこの店で何を買ったかは、元の持ち主に見守られてしまう*2。
これは、どの種類のEdyでもそうだ。am/pmのレジに任意のEdyを渡すと「仮パスワード」を印刷してもらえるようになっている(図5)。
逆に、am/pmで使ったことのあるEdyを人に譲渡すると、後の持ち主がclub apに登録した場合、あなたの過去の行動および購買の履歴を期せずして閲覧してしまうことになる。
さらに、Edyをam/pmで使っている、あるいは今後使うかもしれない場合は、一時的にでもカードが人の手に渡らないようにしないといけない。その人がam/pmのレジで仮パスワードを取得してしまえば*3、club apに登録され、返却後もあなたの行動を見守られてしまう。
2004年6月30日のあるはてな日記で、
ゴミとして捨てられてたのを発見。
チャージ額はゼロだと思うが、一応キープ。
と、Edyカードを拾ったと書いていた人がいた。この人はam/pmに行くと書いていたが、もしかすると、そのカードは元の持ち主に見守られているのかもしれない。
Edyで買ったものの履歴と会員として登録した情報が結びつけられるという話。高木浩光氏の日記、ユビキタス社会の歩き方(1) もらったEdyはam/pmで使わない。am/pmで使ったEdyは渡さない。より。 それぞれ異なる情報だったものが結びつけられた結果、新たな大きな情報となっ..