金子勇氏には1月のこのイベント*1のときにお会いしたので、私としては既にどんなお人柄かは肌で感じていてたが、映像として見られる金子氏というと、4月14日の報道ステーションの放送と、6月13日の毎日放送のニュース番組「VOICE」での放送があるものの、これらはいずれもシナリオどおりに編集された内容なので、金子氏の人柄というのはなかなか見えてこないものだった。
ところが、7月25日付のマル激トーク・オン・ディマンド(有料)でネット配信されている「Winnyは悪くない」での出演では、無編集に近い形で生の発言が収録されているので、彼のお人柄を垣間見ることができる。
特に興味深かったのは、1時間19分28秒あたりから始まる「SkeedCast」に関する話題の部分だった。
司会の神保哲生氏が「SkeedCastというのが、今えー、これは何なんですか?」と話題を振ると、金子氏は「厳密に言うとWinnyとはまた別のソフトウェアではあるんですが、Winny 1を作っていたときにどうにかこれは商用にならないのかっていう(略)」と、説明を始める。
「コントロール可能なWinnyっていうものを作れないのかっていう試みでやっているということです」と説明したところ、神保氏から「これはじゃあやはりファイル共有ソフト?」と聞かれたところで、金子氏はこう答える。
「うーん厳密に言うとファイル共有……共有としても使えるんですけど、どちらかというとですね、peer-to-peerよりは、こちらの、クライアントサーバー方式に近寄っているんですよ。正確に言えば。技術的には戻っているところもあるんでしょうけども。
この直後の彼の顔の動きが興味深い。
さらに少し続いた後のところで、宮台氏が「サーバの部分にこの仕組みを入れるんだ」と発言すると、「ある意味ハイブリッドです」と金子氏。そして少し続いた後、神保氏が「それはまた、キャッシュサーバという考え方とは違うんですか?」と言い始めたところで、金子氏はすかさず、
あいやあの同じです。実は実はただのキャッシュサーバなんです。技術的にはただのキャッシュです。はい。
と応じている。*2
実に正直だ。工学博士であることを忘れていない様子だ。
高木浩光氏は、Winnyの問題は、アーキテクチャそれ自身ではなく、ユーザー側が自覚のないまま著作物ファイルを中継し、著作権法に違反しえたことにあると指摘する。高木氏は「開発者側は、Winnyの利用が著作権違反につながる可能性があることを、ユーザーに分かりやすく告知すべきだった」と話す。と発言したことになっているが、これでは私の本意が読者に理解されないだろう。私が述べたことは、「ユーザーが自覚のないままファイルを中継」という結果を招くように作られたアーキテクチャが問題だということであり、(このパネル討論では倫理についての議論だったので)倫理的に問題があるとすればどこなのかを東さんから追及されたところで、ひとつ結論として述べたのは、自覚させないような仕組みにしたことは、いわば、大衆ユーザ(コアなユーザではないユーザ達、たとえば利用教唆本で使い始めるような人たち)が騙される(Winnyの実際の機能がどういうものかということについて知らないまま使わされる)よう期待しているわけであって、そこは少なくとも非倫理的と言えるということを述べたと思う。そこを短絡して結論だけ取り出すと「ユーザーに分かりやすく告知すべきだった」となる。ちなみに、イベント終了後の飲み会の席で東さんと話していて気づいたのだが、これは、刑法改正案にある「不正指令電磁的記録等の罪」の「人の使用する電子計算機についてその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる」に近い面もあると言えるのではないか。
*2 このあたりの顔色や動作にも注目。