フィッシング詐欺犯*1が著作権法違反の容疑で逮捕された事件が記憶に新しかった6月20日のこと、「フィッシング詐欺サイト情報」の サイトに興味深い事例が掲載されていた。
・yahoo.co.jpの偽サイト? ttp://www.livedor.jp/
アドレス202.229.198.216は本物のwww.yahoo.co.jpと同じなので表示されてい るコンテンツ自体も本物です。直接本物のサイトにつながるのでログインの情 報などは詐取できませんがいたずらにしては時節柄ちょっと問題ありかな。 (略)
本件は通報されたものです。yahoo.co.jpへの通報もしていただいたそうです。 ありがとうございました。
通報なさった方から来たメール(23:22)によると利用規約に照らし厳格に対処するという返事が来たそうです。 (略)
私も見に行ったところ、図1のような画面となっていた。
これはようするに、www.livedor.jp をDNSに問い合わせると、IPアドレス 「202.229.198.216」が応答されるようになっていて、202.229.198.216は 本物のYahoo! JAPANのwww.yahoo.co.jpのIPアドレスのひとつ*2であった。 そのため、HTTPでここにアクセスすると本物のYahoo! JAPANのコンテンツが 表示されるというものだった。
これは、閲覧者のブラウザは最初から直接本物のサイトとHTTP通信することに なるので、閲覧者が入力する情報を livedor.jp開設者が盗むといったことは できない。フィッシング行為等には該当しないというわけだ。
では、著作権法的にはどうだろうか。まず、livedor.jpの開設者は、Yahoo! JAPANのコンテンツを複製してはいない。自動公衆送信しているわけでもない。 だが、閲覧者の視点で見れば、livedor.jpの開設者がYahoo! JAPANの コンテンツをパクっている場合と同じに見える。
これはいわば「FRAMEリンク」の問題と似ている。「FRAMEリンク」とは、自分 のページに、<FRAMESET>タグや<IFRAME>タグを用いて他人のコン テンツを埋め込む行為を指す。「Webのリンクは、リンク先の同意確認なしに 自由にやってよい」という常識の下であっても「FRAMEリンク」は除外される という禁じ手である。
しかし、「FRAMEリンク」の場合は、画面中の一部のフレームは自分のコンテ ンツとして、もう一方のフレームをあたかも自分の著作物であるかのように 見せかけるというところに主な問題があるわけだが、画面全域を他人のコンテ ンツに差し替えてしまう「FRAMEリンク」というのは、その行為をする価値が ないと思われるので、あまり問題とされてこなかったように思われる。
今回のwww.livedor.jp も、画面全域の「FRAMEリンク」と同様、それをする 価値や意義がほとんどないのであり、目的が不明だ。
ただ、昨年4月26日の日記「太古の昔、 アドレスバーが入力欄でなかったのを知ってるかい?」にも書いたように、 World Wide Webというものが、アドレスバーとコンテンツが一体となってひと つのシステムなのであって、両者は不可分なのだという考えに立てば、 アドレスバーのURL表示は著作者名の表示にあたるわけで、その意味ではやは り、自分のドメイン名をアドレスバーに表示させながら他人の著作物を見せる というのは、著作者の氏名表示権を侵害しているとか、同一性保持権を侵害し ている……などと言えるのかもしれない。
ちなみに、これが携帯電話のWebブラウザの場合となると、アドレスバーがな いため、URLによる著作者の表示がそもそもない。 どんなドメイン名で Yahoo! JAPANのコンテンツを表示させてもかまわない という、奇妙な事態になってしまう*3。
で、フィッシング詐欺サイト情報のページに追記があったように、Yahoo! JAPANが何かアクショ ンを起こしたらしく、この状態は解消された(www.livedor.jp についてDNSが Yahoo! JAPANの所有するIPアドレスを返さないようになった)ようなのだが、 いったいどういう根拠でYahoo! JAPANはそれを要請したのだろうかと興味深い。
もうひとつ謎なのは、livedor.jp は何の意味があってこのようなDNS設定をし ていたのかだ。
その後、Google検索して調べた*4ところ、同様のサイトがたくさんあることが わかった。列挙すると以下のとおりである。
これらはいずれも、u-hip.jp というドメインのサブドメインにあるページ となっている。u-hip.jpのトップページ さえもそうなっている。
u-hip.jpとは何なのだろうかと調べてみたところ、かつて無料の レンタルサーバ事業が行われていたところらしい。
◆2003/03/13 サーバー閉鎖のお知らせ◆
先に、今後の予定としてお知らせいたしましたことですが、長い間ご利用いた だきましたワイネットジャパンの無料提供サーバーである《創造の館U-HIP》 は平成15年4月15日を持ちまして閉鎖させていただくことに致しました。
U-HIP『創造の館』では、様々なジャンルの独創的なクリエイターサイトを紹 介し、クリエイターの創作活動の向上やビジネスチャンスを広げるお手伝いを 行なっています。
廃止になったサービスにおいて、なぜか、自ドメイン名に対するすべてのDNS 問い合わせに対して、Yahoo! JAPAN所有のアドレスを返すようになっているよ うだ。これは、誰の意思によってそうなっているのだろうか?
設定ミスとか事故とかの可能性もあるが、何も返さないという設定の代わりに、 どこか適当なサイトを返すつもりで、インターネットの代表的サイトとして Yahoo! が採用されているということなのかもしれない。かつて、「18歳以上 ですか?」の問いに「いいえ」が選択されると、Yahoo! に飛ばすというのが 業界標準となっていたように。
ITmediaの高橋睦美記者のblogに、先日の消防庁とVISAジャパンのドメイン乗っ取り危機 の件について感想が載っていた。
で、つくづくとDNSの仕組みを再考するに、これって本当に性善説の世界の 仕組みですよね。
情報漏えい対策の必要性が叫ばれる中、「性善説だけではやっていけない」な んて論調もありますが(これについても議論の余地はあるが)、そもそもイン ターネットの仕組みってほんとに性善説ベース。これだけでかい仕組みが根本 的なところで他人への信頼に基づいてるってすごいー! と、いまさら変なと ころで感動してます。
ドメイン名乗っ取りの危険性に関して補足(汗, mtakahasのバッファあふれ, 2005年6月29日
他人への信頼に基づいているというのは、インターネットに限らず、リアル 社会においても同じだ。生活のありとあらゆる場面が、他人への信頼に依存し ているわけで、社会的な信頼の仕組みは既存のものがある。
インターネットのセキュリティに関わる仕組みにおいて、技術というのは、そ うした他人への依存の影響をどれだけ減らせるかを提供しているにすぎない。 最後に残る部分は、契約によって担保するか、法律による担保を期待するしか ない。
それに対して、「性善説の世界」というのは、単に、そうした契約や法的検 討をすっとばしているか、もしくは、安全でない技術を選択しているという話 だろう。
DNS設定不備の件を契約の問題という視点で理解するには、総務省の注意喚起 が簡潔でわかりやすい*5。
廃業する際に確実に通知するなり代替策を講ずるよう、契約時に約束してもらっ ておく必要があるのではないか。実態はどうなっているのだろうか。
謎のYahoo! JAPAN偽サイト(のようなもの)は著作権法違反と言えるか
これってライブドアのホームページというかサイトが、Yahoo!に似ているというか...