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高木浩光@自宅の日記

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2004年04月26日

太古の昔、アドレスバーが入力欄でなかったのを知ってるかい?

Webブラウザのアドレスバーといえば、URLを入力するところだと思っている人は多いだろう。だが、1994年ごろまで主流だったWebブラウザ「NCSA Mosaic」のアドレスバーは、URLをただ表示するだけで、書き換えや入力のできない部分だった。

その後、Netscape Communications社のブラウザ「Mosaic Netscape」が登場し、他に「MacWeb」なども登場したころ、どのブラウザだったか忘れたが、アドレスバーでURLの入力ができるように改良された。これの評判が良く、どのブラウザもその機能を持つようになり、今に至る。

アドレスバーが表示だけだったブラウザでは、URLを直接指定するには、ファイルメニューから「URLを開く」を選択するなどして、現れるウィンドウの入力欄にURLを書き込む必要があった。これがとても面倒だった。メーラからジャンプする機能も当時はなかった。

面倒なので、URLを入力することはめったにしなかった。どこにでも行ける便利ページをブックマークしておき、そこから行きたいところへとジャンプ、ジャンプ、ジャンプして近づいていくという使い方をしていた。Web検索も未発達だったので、キーワード入力でたどり着ける状況ではなかった。そういう状況の中で、Yahoo!のディレクトリサービス(検索ではない)が生まれ、人気を博した。カテゴリごとに整理されたリンクを辿っていくことにより、目的のページにたどり着くわけだ。そうした便利ページは多数作られ、互いにリンクし合い、どこが中心というわけでもない、まさにworld wideな「web」が構築されていた。

ユーザは、ひたすらリンクを辿ってあちこちを巡りまくることになる。それを指して「ネットサーフィンする」などと呼ばれることがあった。

そうした使い方をしていると、必然的に、今どこにいるのか把握するためにアドレスバーのURLを目視確認することが重要となった。ドメイン名を見て、どこの国なのか、会社組織なのか、大学なのか、国の組織なのかといったことを知り、情報の信頼性を判断したり、情報の著作者・発表者が誰なのかを意識しながら見たものだ。この確認行動は皆が自然と身に付けていた。

URLの表示欄(アドレスバー)とは、元来そのためのものだったのだ。

現在までにそうした使い方はずいぶんと変化してきている。もはや「ネットサーフィン」は死語になった。Googleがあまりにもズバリ目的のページを教えてくれるので、人々はブックマークをあてにしなくなった。キーワードからズバリ数ホップで目的のページにたどり着く。アンテナが普及したことで、特定のお好みサイトを必要なときだけ見に行くという使い方も定着した。メーラが本文中のURLへジャンプする機能を搭載したことにより、メールマガジンのビジネスが生まれ、同時に、spamメールから怪しいサイトへ誘導されるといった使われ方も生まれた。

人々が、ブックマークから何ホップ先までリンクのジャンプで辿っているか、その平均値が時代とともにどう変化してきたかを調べると面白そうだ。

さて、では携帯電話ではどうだろうか。Webブラウザもどきの機能、iモードやEZwebのことだ。

携帯電話には「公式サイト」という概念がある。iモードの「iメニュー」は、iモードを爆発的に普及させた大発明だったと言われている。独占的にメニューを提供することにより、ユーザが安心して厳選されたサイトを利用できるというわけだ。(もちろん、独占体制に限界や競争上の問題があるのは自明であり、その後オープン化するという展開になった。)

携帯電話ではほとんどの人が、公式メニューと数件程度のブックマークから直接サイトにアクセスして利用しているだろう。つまりサーフィンをしない。平均ホップ数がかなり小さいと推定できる。

だから、携帯電話にアドレスバーがなくても誰も困らなかったし、疑問を感じなかったのだろう。今見ている画面は、ついさっき意識的に選んだサイトであるに違いないと確信して使っている。

spamメールからジャンプする場合はどうか。幸いこれまで、携帯電話はHTMLメールをサポートしてこなかったので、アクセス先は目に見えているURLのドメインであることは明らかだった。サーフィンせずに使う癖がついているので、ジャンプした後でURLを確認する必要はなく、フィッシング詐欺に騙されにくくなっている。

だが、この偶然に生まれたと言える騙されにくさは、いつまで続くかわからない。

携帯電話のWebが高機能になればなるほど、公式メニューの感覚的必要性(信頼性を意識しないユーザにとっての必要性)は薄まるはずだ。PCブラウザにおけるGoogleのように、キーワード一発で目的のサービスにたどり着けるようになれば、Yahoo!のディレクトリサービスの利用が廃れたのと同じことが再び繰り返されるだろう。これがモバイルコマースの新たなブレークスルーとなるか、それとも信頼を損なって破滅の道に進むのか……。

Operaを搭載したPHS「AH-K3001」の登場は、その新たな一歩に踏み込むものかもしれない。公式メニューは用意されているのだろうか。

考えてみれば、Internet Explorerは公式メニューのようなものを備えている。MSNだ。だが、誰も使っていない。使われる公式メニューと、使われない公式メニューの違いはどこにあるだろうか。

さて、平均ホップ数の小さい現在の携帯電話においても、フィッシング詐欺は起きかねない状況はある。次のシナリオが考えられる。

  1. 公式メニューに取って代わる、便利なディレクトリサービスが、草の根の力によって登場し、人気を集める。
  2. これがビジネスとしてサービスされるようになり、人々の何割かがそこから「スタート」するようになる。
  3. そうした「ポータル」が乱立し、競争になる。新しいポータルサイトは、メールマガジンや掲示板、口コミ、ブログ、spamによって知れ渡る。
  4. ここで、嘘のポータルサイトを宣伝する詐欺師が登場する。便利なポータルサイトだと信じて使っていると、偽の銀行にアクセスして、まんまとユーザIDと暗証番号を盗まれてしまう。

やはり、古来からの知恵が示すとおり、URLの表示欄(アドレスバー)はどんなブラウザにも必要なのではなかろうか。

関連:

アドレスバーへの無理解が広げる「無断リンク禁止教」

昨今の日本では、初めて使った「インターネット」は携帯電話だという人が多いだろう。携帯電話でアドレスを確認せずに使うことに慣れた人たちが、PCのWebを利用すると、アドレスバーは単なるURLの入力場所にしか映らないのかもしれない。

さて、2月22日の日記「真の情報モラルを自分の頭で考えない輩がリンクの許諾制を伝染させる」でも書いたように、役所とか、役所の研究所とか、大新聞とか、大企業とか、大業界団体とかになると、Webサイトのメンテナンスが、役所の窓口係員気質な事務員が担当することになる。そうした人種は、「様式作成事務員の行動原理」に類する行動を取りがちである。

彼らは、Webサイトを整備するにあたり、まず何が必要かについて形から入る。プライバシーポリシー、著作権に関する注意書き、リンクポリシーなるものを書き揃え、トップページの一番下に並べるのが一般的らしいと彼らは勉強してくるわけだ。(著作権は常に存在するのであるからことさら断る必要はないし、リンクポリシーなんぞは全く存在意義がないのにもかかわらずだ。)

そして、それら3つの「ポリシー」は、どこか有名なサイトを参考にして作られる。意味のないものを作ろうとしているのだから、自力でポリシーを考え出すことなどできようはずもない。役所の研究所なら中央官庁のホームページを真似るだろう。大業界団体とかなら大新聞様のホームページを真似るだろう。そして、小さな企業や組織もそれらを真似するかもしれない。

そうやって、どこからともなく一瞬湧き出た「無断リンク禁止教」(リンク許可制)が、ビッグバンの如くどんどんと拡大していったのである。

無断リンク禁止教では、いろいろと細かな注文がつけられていることが多い。誰かが発明した項目は、次々とコピーされて受け継がれ、発明が起きるたびに項目数が増大していくのである。代表的な発明には以下のものがある。

  1. リンクはトップページにしてください
  2. 名誉や品位を汚すおそれのある場合はリンクをお断りします
  3. 法令等に違反し又は違反するおそれがある内容を含むものはお断りします
  4. 必ず○○へのリンクである旨が分かるようにしてください
  5. フレームの中に弊社のウェブサイトを取り込んだ形のリンクをしないでください
  6. リンクは必ず新しいウィンドウで開くようにしてください

このうち妥当と言える要求は、5.だけである。リンク元が法令に違反しているものを断ってどうなるというのか。品位を汚す恐れがあるというだけでリンク元の言論を妨げて何の意味があるのか。

ここで注目に値するのは、「必ず○○へのリンクだとわかるように」という注文だ。なぜそんなことを要求したがるのか。リンクを辿ってジャンプすれば、ジャンプ後にアドレスバーを目視確認するのが当然であり、ジャンプ後のアドレスバーを見て、そこがどこであるのかを識別するというのが古来よりのWebの正しい使い方なのだ。だから、リンク元にリンク先がどこであるかを自然言語で明記する意義はない。ジャンプすればわかるのであり、ジャンプしないなら知る必要もない。

こんな当たり前のことがわからないのは、「リンクポリシー」なるページの作成を任された人が、「様式作成事務員」であり、「インターネットといえば携帯電話のそれ」という感覚の持ち主だからだろう。spamメールに誘われてアドレスバーも確認せずにフィッシング詐欺に遭うような人たちからしてみれば、「必ず○○へのリンクだとわかるように」してもらわないと困るわけだ。

というわけで思いついたのだが、リンクポリシーなるものを書くとしたら、次のように一行だけ書けばよい。

必ずリンク先のURLがアドレスバーに現れるようにリンクしてください。

この一文で、FRAMEやIFRAME、IMGなどによるコンテンツの盗用や、誤解を招くリンクを避けられる。

画像等、HTMLページ以外のファイルへの直接リンクが困る(編集意図の読者理解を損ねる)のであれば、ITmediaが始めたようにRefererチェックをすればよい。

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