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高木浩光@自宅の日記

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2004年05月28日

日経産業新聞の記事に補足

Winnyに対する考えは5月16日の日記にまとめた通りなのだが、先週、勤務先でWinnyについて日経新聞社の電話取材を受けた。そのときのコメントが、日経産業新聞の25日〜27日の連載「ウィニー事件の波紋」に掲載された。ちょっと反発を招きそうで怖い。記事はNIKKEI NETでも読める。

言っていないことを書かれたわけではないので私の責任なのだが、主張の力点が私の本意から外れてしまったのが残念。私としては、プライバシーへの脅威を中心に削除機能の不存在について語ったはずと思ううのだが、プライバシーについて扱われていない。

まず、(2)の記事で、

ウィニー利用では、権利保持者が直接商業利用できないようなコンテンツも目立った。ビデオやDVDなどで発売される見込みのないテレビ番組や廃盤になったCDの楽曲などだ。

「ウィニーはこうしたコンテンツを求める人々にとっては、手に入れる唯一の手段だった」と産業技術総合研究所グリッド研究センターの高木浩光セキュアプログラミングチーム長は指摘する。

と書かれている。続く(3)の記事で私は次の主張をしたことになっている。

「サービス自体は無料である必然性はない。ウィニーには通常では手に入らないもの、例えばDVD化されていない古いアニメや廃盤になった音楽CDなどが大量にあり、それらを求めて参加した人も多い。200万人が使った背景を構造問題としてとらえるべきだ」

これだと、Winny利用を正当化する主張のようにも読めてしまいそう。そうではなく、単にWinnyが広く普及した原動力が何だったかを説明しただけだったはずと思う。「構造問題」については、若干存在することも確かで、そういう主張があるという形で述べたとは思うが、「Winnyで入手できたもののすべてを安価で商品化せよ」という主張は通らないだろう。

手に入らないコンテンツの話を持ち出したのは、5月16日の日記で書いた、

人々は、コンテンツの「超法規的な」魅力を原動力としながら、Winnyを体験したことによって、「検索をかけて放置したまま急かされることなくダウンロードし終わるのを適当に待つ」という、情報システムの新しい使い方に覚醒した。Winnyの最大の(今後の展開によっては唯一となるかもしれない)功績はここにあると言えよう。

ということを主張するためだったと思う。そしてそれは、Winnyが画期的なものだったと言えるかを説明するために必要だった。

(3)の記事の前半はほぼその通り述べたもので、誰もやらなかったことをやった結果として「情報システムの新たな使い方」が広く知られる結果になったこと、それが新しいと言いたかった。そして、それは新たなビジネスにもなり得るが、Winnyのアーキテクチャが必要なわけではないと言いたかった。

というわけで、(3)の記事を自分の本意通りに改良してみる。

――ウィニーソフトには高い評価もあるが。

「技術的には画期的な要素はない。ウィニーのようなソフトを作れることは分かっていたが、結果が見えているから誰もやらなかった。ウィニーにはその目的からして必然的に削除機能が用意されておらず、一旦放流されたファイルは誰にも消せないことになる。」

「ソフト技術者は取り返しのつかないプログラムは動かさないという倫理観を漠然と持っているだろう。ソフト技術者ならたった3行のプログラムでパソコンを異常停止させるやり方を知っているし、無限に拡散するワーム(ウイルス)の作り方も知っているが、動かすことはしない。ウィニーは、プライバシーを侵害する道具として使うこともでき、ワーム同様に『取り返しのつかないプログラム』のひとつと言える」

――新しさはどこにあったのか。

「ウィニーでは、キーワードで目的のものをあいまいに指定すると、関連するファイルが自動的にゆっくりと時間をかけてダウンロードされてくる。お目当てのファイルを今すぐ欲しいという欲求は満たされないので、こうした効率の悪いシステムは普及しないと従来は考えられていた。ところが、実際にたくさんの人達にウィニーが使われた結果として、『いろいろダウンロードしてみて、気に入ったものがあれば楽しむ』という使い方が、意外と受け入れられるものだということがあきらかになった」

――なぜ200万人もの人が利用したのか。

「無料だからということよりも、ウィニーには通常では手に入らないもの、例えばDVD化されそうにないテレビ番組や廃盤になった音楽CDなどが大量にあり、それらを求めて参加した人も多い。また、必要のないものまでダウンロードするウィニーの仕組みのおかげで、知らないものを偶然見つけて興味分野が広がっていくことに魅力を感じる人もいたのではないか」

――今後のビジネスへの応用は。

「音楽配信に代表される現行のインターネット上のサービスでは、基本的に知っているものを探して購入するだけだ。ウィニーは、知らないものも一緒にとりあえずダウンロードしてみるとか、効率は悪くてもダウンロードされてくるのを待つという、ネットサービスの新しい利用形態の可能性を示した。サービスは無料である必要はない。定額課金や、試聴を許すなどの方法で、ビジネスとして実現できるかもしれない」

――PtoP技術の未来に悪影響を及ぼしたとの評価についてはどう思うか。

「適法なコンテンツ流通が目的なら、ウィニーの特徴である匿名性の仕組みは必須ではない。削除機能も付けられるかもしれない。ウィニーこそがPtoPというわけではなかろう。削除機能のないファイル共有ソフトは将来的に利用そのものが規制される可能性すらあるが、(今回の事件は)PtoP技術そのものには影響しない」

こんな感じかな。電話取材のときにはうまく言えてなかったかもしれない。

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