<前の日記(2003年11月27日) 次の日記(2003年12月07日)> 最新 編集

高木浩光@自宅の日記

目次 はじめに 連絡先:blog@takagi-hiromitsu.jp
訪問者数 本日: 2481   昨日: 1295

2003年12月03日

「そんなことは既に考えていて手を打っている」とは?

11月24日の日記「家畜の餌を人に食わせるような話」で、

そもそも、人を識別するには高度なセキュリティが求められるという前提の下で、RFIDカードの開発が進められてきたところに、セキュリティ機構を一切省いたRFIDタグが注目を浴びて、「あんなこともできる」「こんなこともできる」と夢想しているのが現在の状況であろう。(略)

ここで問題は2つある。物を携行することによって物の識別子が人の識別子として働いてしまうという問題、これはこれまでにも述べてきた。もうひとつは、物の識別子を人の識別子として積極的に活用しようとしている輩がいるということだ。

と書いた。

ここで言いたかったのは、RFIDを推進している人の皆がプライバシーを蔑ろにしているわけではないということだ。RFIDカードの事業を進めてきた人たちからすれば、セキュリティ機能の削り落とされたRFIDタグが、どんな問題を引き起こし得るもので、どんな目的には使えないものであるかをわかっているだろう。

総務省の「ユビキタスネットワーク時代における電子タグの高度利活用に関する調査研究会」の議事録を見てみると、今年4月15日の議事要旨にこういう発言が出ている。

  • 開催要項に、『モノや人の識別に利用される電子タグは・・・』とあるが、こう書くと電子タグが個人を特定する様に思われる恐れがある。この研究会では『モノや人の識別するタグ』を検討すると思われても良いか。
  • 『モノや人の識別に利用される』という部分は削除しても研究会の意図は変わらないのではないか。

総務省 ユビキタスネットワーク時代における電子タグの高度利活用に関する調査研究会, 第1回 議事要旨

これがどなたの発言かはわからないが、古くからRFIDカード等の事業に携わってこられた方であれは、こうした危惧は自然なものだろうと思う。

7月に開催された「世界情報通信サミットミッドイヤーフォーラム」で、森ビル アカデミーヒルズ事務局長の礒井氏から、六本木ヒルズでのRFIDタグの活用について説明があったが、このとき、このプロジェクトではプライバシーに慎重に配慮したということが語られていたと記憶している。詳細は不確かにしか思い出せないのだが、パッシブタグ(電池を内蔵せず、リーダからの呼びかけに応じるタイプのRFIDタグ)を使うのではなく、アクティブタグ(電池を内蔵し、ボタンを押すアクションがあったときあるいは一定の間隔でなど特定のタイミングで自ら送信するタイプのRFIDタグ)を使うようにしたという話があったと思う。日経の開催報告記事によれば次のように発言が記録されている。

礒井純充氏

「森ビルのシステムでは、受けるサービスによって別々のシステムを運用しており、極端な話、同じ人間がサービスごとに別の名前で登録することもできる。また、ユーザーがサービスを受けるか受けないか、必ずユーザーの意志を確認するようにしている。今年10月から配布開始するICタグは、ユーザーがタグについたボタンを押さないと情報が流れない仕組みになっている

パネルセッション 「トレーサビリティー:応用可能性と課題」「ビジネスモデル」「標準化」「セキュリティー」が共通課題

こうした方式は、産総研サイバーアシスト研究センターのマイボタンもそうだったと思う。

そういうところへ、流通の都合で取り付ける超安価タグの構想に便乗して、消費者にも便益をと、人に意識させずにIDを読み取る方式で、あんなこともできる、こんなこともできると、傍若無人に危なっかしい夢を語っているのは、つい最近に後からやってきた新規参入組の人達ではないのか。

森山和道氏が4月に「こんなことは事業者たちは既に考えていて、手を打ってる」としたのは、古くから取り組んでいた人達のことを見ていたのかもしれない。しかし現実には、新規参入組が幅を利かせている状況ではなかろうか。


<前の日記(2003年11月27日) 次の日記(2003年12月07日)> 最新 編集

最近のタイトル

2024年11月11日

2024年07月28日

2024年07月27日

2024年07月07日

2024年04月07日

2024年04月01日

2024年03月23日

2024年03月19日

2024年03月16日

2024年03月13日

2024年03月11日

2023年03月27日

2022年12月30日

2022年12月25日

2022年06月09日

2022年04月01日

2022年01月19日

2021年12月26日

2021年10月06日

2021年08月23日

2021年07月12日

2020年09月14日

2020年08月01日

2019年10月05日

2019年08月03日

2019年07月08日

2019年06月25日

2019年06月09日

2019年05月19日

2019年05月12日

2019年03月19日

2019年03月16日

2019年03月09日

2019年03月07日

2019年02月19日

2019年02月11日

2018年12月26日

2018年10月31日

2018年06月17日

2018年06月10日

2018年05月19日

2018年05月04日

2018年03月07日

2017年12月29日

2017年10月29日

2017年10月22日

2017年07月22日

2017年06月04日

2017年05月13日

2017年05月05日

2017年04月08日

2017年03月10日

2017年03月05日

2017年02月18日

2017年01月08日

2017年01月04日

2016年12月30日

2016年12月04日

2016年11月29日

2016年11月23日

2016年11月05日

2016年10月25日

2016年10月10日

2016年08月23日

2016年07月23日

2016年07月16日

2016年07月02日

2016年06月12日

2016年06月03日

2016年04月23日

2016年04月06日

2016年03月27日

2016年03月14日

2016年03月06日

2016年02月24日

2016年02月20日

2016年02月11日

2016年02月05日

2016年01月31日

2015年12月12日

2015年12月06日

2015年11月23日

2015年11月21日

2015年11月07日

2015年10月20日

2015年07月02日

2015年06月14日

2015年03月15日

2015年03月10日

2015年03月08日

2015年01月05日

2014年12月27日

2014年11月12日

2014年09月07日

2014年07月18日

2014年04月23日

2014年04月22日

2000|01|
2003|05|06|07|08|09|10|11|12|
2004|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2008|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2009|01|02|03|05|06|07|08|09|10|11|12|
2010|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2011|01|02|03|05|06|07|08|09|10|11|12|
2012|02|03|04|05|06|07|08|09|
2013|01|02|03|04|05|06|07|
2014|01|04|07|09|11|12|
2015|01|03|06|07|10|11|12|
2016|01|02|03|04|06|07|08|10|11|12|
2017|01|02|03|04|05|06|07|10|12|
2018|03|05|06|10|12|
2019|02|03|05|06|07|08|10|
2020|08|09|
2021|07|08|10|12|
2022|01|04|06|12|
2023|03|
2024|03|04|07|11|
<前の日記(2003年11月27日) 次の日記(2003年12月07日)> 最新 編集