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高木浩光@自宅の日記

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2012年02月18日

逃げてー!「健康クラウド」ゼロプライバシー特区?(見附市、新潟市、三条市、伊達市、岐阜市、高石市、豊岡市)

昨年8月、総合特別区域法が施行され、内閣官房の総合特別区域推進本部で手続きが進められてきたところ、先月、以下の総合特区が指定されたそうだ。

  • スマートウエルネスシティ総合特区が指定されました, 新潟県見附市, 2012年1月27日

    見附市が代表となり、7市、2団体で国の総合特別区域に申請していた「健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区」が、総合特区に指定されました。(略)

    見附市の規制・特例措置等への提案

    (略)自治体供用型健康クラウドの整備

さて、この「健康クラウド」というのはいったい何だろうか。この特区の規制・特例措置はどのようなものだろうか。詳しいことは以下の資料に書かれている。

  • 健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区 別記様式第5の1

    事業名 2:自治体共用型健康クラウドの整備(根拠に基づく健康政策の推進)

    ア)事業内容

    (1) 現在と将来の地域の健幸状態を表わす総合指標、及び、解析知能化エンジンの開発

    地域は、健康づくりとまちづくりの状況を総合的に評価できる指標やそのための仕組みがないため、これまでは、現状、及び、将来の状況を客観的に捉えることができずにいた。そのため、ほとんどの健康づくり施策は、経験則に基づいて企画・実行され、詳細な分析もなされないため、大きな成果を出すことができない状況にある。この課題を解決するために、自治体共用型健康クラウドを開発する。

    これを開発するために、自治体が保有している約3割の国民健康保険加入者のデータに加えて、企業等に勤務している住民やその家族のデータ(企業健保や協会けんぽ等)も一元化したデータベースを構築する。さらに、介護保険の情報とも一元化を試みる。これらにより、より正確に地域における現状や将来(3年後)の状況における可視化を可能とし、実行すべき政策課題が具体化される。

    健康クラウドを構成する知能化エンジンを用いてそれらの課題を解決するための施策の効果をシミュレーションすることにより、成果を得るための施策展開をサポートする。

    (略)

    また、施策と将来の医療費改善の兆候との因果関係の分析には、過去の情報を含めて全年代のデータが必要である。そのために自治体や他の保険者が保有する健康・医療情報(健診・レセプト・問診データ、介護保険関連データ等)をデータベースに集約する。さらに、それらのデータ分析に必要な個人に関する情報(ライフスタイルや住居の近隣環境等)を特定健診の問診票に加えて恒常的に収集する仕組みも構築する。そして、それらのデータを基に高度なデータマイニング手法を駆使して、現在、及び、将来、さらに施策効果のシミュレーションを行う健幸度解析知能化エンジンを開発する。

    (2) ヘルスリテラシーに応じた情報提供システムの整備

    健康づくり無関心層における行動変容を可能とするためには、行動につながる情報提供が重要となる。本事業では、健康クラウドの活用により、住民のヘルスリテラシーレベルの類型化が可能となり、それぞれの住民に適した情報提供を行うことができる。これまで、自治体の住民に対して一様な情報提供に終始していた側面があるため、健康づくり無関心層にはほとんど情報が届かず行動変容につながらなかった可能性がある(筑波大学久野らの研究より)。

    それを解決するために、ヘルスリテラシーの向上に寄与することが確認された双方向通信で、操作性が容易なデジタルフォトフレームを活用して、現在のリテラシーレベルにマッチした形での行動変容を促す情報を定期的に配信し、健康づくり無関心層を含めた住民のヘルスリテラシーを向上させる事業を行う。

    (略)

    イ)想定している事業実施主体

    伊達市、新潟市、三条市、見附市、岐阜市、高石市、豊岡市、筑波大学、TWR、IBM、NTT東日本、ライクイット等

    ウ)当該事業の先駆性

    (1) レセプト、健診データの一元化と名寄せ

    現行法では、行政が政策の策定・評価を目的に、匿名化された被用者保険の情報を活用することは制度的には認められているが、一方で、自治体と保険者(企業健保や協会けんぽ等)がデータを授受するために必要な手続きや、どの段階で匿名化するべきか、または、データの名寄せ方法等、具体的な実施方法についてはガイドライン等に明文化された規定がなく、前例もないため、事実上は不可能となっている。

    本事業においてデータ一元化、名寄せ等に必要な具体的な要件を整理し、要件に適合した健康クラウドを開発することで、各自治体の政策評価に容易に活用できる数値指標を持つことができる。

    (2) 医療と介護の一元管理と名寄せ

    (1)に加えて健康保険と介護保険の一元化を行う。第一段階として、ほとんどの場合、同一の自治体が管理する国民健康保険と介護保険の一元化と名寄せを実施することで、自治体内の社会保障関連費用を正確に把握できるため、効率的な政策立案・評価が可能となる。

    エ)関係者の合意の状況

    これまでの医療保険者との協議により、企業健保データの提供元としてエヌ・ティ・ティ健康保険組合からの合意が得られており、現在は全国健康保険協会の支部を通じたデータ提供の可能性を協議している。

オイオイ……。

「別表」に示された「規制の特例措置等の提案書」は、このプロジェクトの実現のために、次のように規制緩和して欲しいと提案している。

  • 健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区 別記様式第5の1
    • 地方公共団体の健康づくり政策策定と評価のために、被用者保険のレセプトや健診データを利用するための、情報を匿名化するルールの規定
      現行の規制・制度の概要と問題点
      健康保険組合等が第三者へ情報を提供する場合は「特定の個人が識別できなくなること」が必要であるが、匿名化データの個人識別性について明確な規定がない。
      改善提案の具体的内容
      氏名等のあきらかに個人を特定できる情報の削除、及び住所や年齢の丸め処理(番地以下を削除したり、年齢の1桁目を削除する等)を行うことで特定される人数が一定数以上の場合は個人情報にあたらないという基準を設定してほしい。
      提案理由
      まちづくり等の政策が医療権衡におよぼす効果を評価するためには、レセプトや健診データの分析において居住地域等の情報が必要であるため、政策の評価に活用するレセプトや健診データの匿名化の基準についての規定が必要である。

    • 政策の評価を厳密に実施するための地方公共団体と被用者保険の個人情報を名寄せする制度の実現
      現行の規制・制度の概要と問題点
      地方公共団体へ被用者保険者が管理する個人情報を匿名化後に提供する場合、地方公共団体が管理する個人情報との名寄せが不可能となる。
      改善提案の具体的内容
      地方公共団体の政策に個人情報を活用する場合に、地方公共団体と被用者保険者それぞれが管理する個人情報に符号付与後に匿名化する運用に必要な要件を確認したい。
      提案理由
      地方公共団体の事業費適正化のため、住民の親和度に応じて政策を実施する場合に被用者保険のレセプトや健診情報と、住民の親和度の突合が必要である

この提案に対して、10月にパブコメにかけられていた。以下の意見が寄せられたという。

  • 総合特別区域の第一次指定申請に関する意見募集の結果について, 内閣官房総合特別区域推進本部, 2011年12月22日

    (略)
    (3) 健康クラウドは、最終的に全国展開を想定しているが、特定企業のシステム(e-Wellness)との連携も想定され、また、(略)他団体への拡大時にも、汎用性の確保に疑問があるため、これらの企業との随意契約となる恐れがある。(略)

    (4) 29ページの中段にもあるように、個人の医療・検診データやライフスタイルまでもの情報が集約・蓄積される。これらをクラウドシステムとして構築することは非常に危険であり、個人情報の恣意的活用についても払拭できない。(個人情報の取得や利用について市民の理解を得ていない、あるいは、事業着手までに理解を得るのか疑問。(略)そもそもこの様な非常にデリケートで他人に知られたくない個人情報を自治体や大学、民間企業が活用するという構想(特区申請)について、市民はまったく知らされていないし、そのような状況下で税金を投入した事業が進められることに納得できない。)また、医師会や歯科医師会など保健医療関係者や栄養・食育関係者などの参画が想定されていない(略)だけでなく、実際の事業進捗にあたっても困難課題(日本医師会の平成22年4月14日付け「新たな情報通信技術戦略の骨子(案)に対する意見」や平成22年7月7日付け「新たな情報通信技術戦略工程表に対する日本医師会の見解」からも、地元医師会などとの合意形成ができるか疑問。)があると思う。

    (5) 集積・保有しようとする情報量とそれにかかる手間(情報提供側となる医療機関、健保組合などの手間や費用負担を含め)、データの機密性の確保のほか、開発費用などのシステム規模に比較し、ここから得ようとしている分析結果や情報などが貧弱・陳腐で、費用対効果があるとは到底思えない。(略)

    健康クラウドの構築についてですが、収集するデータはレセプトデータなどとのことですが、レセプトには内科、外科、眼科、歯科、精神科、薬事など膨大なデータ量となると思いますが、これらを分析し活用する(レセプトの一部しか実質使わない?)のが運動プログラムなどや、自治体の施策の有効性評価などであり、費用対効果がまるで無く、学者や公務員の意識の低さ(自分の懐が痛まないから何でもあり?)にただただ驚かされ、あきれるばかりです。また、個人情報(プライバシーともいえる)を学者や自治体が自分たちの理屈で勝手に使うのは許せない

そして、12月28日には「関係府省庁からの意見」が公表されていた。この特区に対しては以下のように意見がついている。

さて、この後どうなるのであろうか……。

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