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高木浩光@自宅の日記

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2011年07月28日

日弁連サイバー犯罪条約対応担当(当時)弁護士と語らってきた

JNSA時事ワークショップ「コンピュータに関する刑法等の改正の効果と脅威」にゲスト招待されたので、参加して質問してきた。冒頭、8年前にこの法の骨子を決めた法制審議会のとき、日弁連でサイバー犯罪条約対応を担当されていたという、北沢義博弁護士からのご講演があった。

  • JNSA時事ワークショップ 「コンピュータに関する刑法等の改正の効果と脅威」, 2011年7月28日

    16:15-16:45 「コンピュータに関する刑法等の改正の経緯と問題点」北沢 義博 氏(JNSA顧問/法律事務所フロンティア・ロー 弁護士)*

    <概要>
    コンピュータウィルス作成罪は、10年近く前から検討されてきた。それが、コンピュータに関する刑法等の改正として今ころ制定されたのはなぜか。コンピュータウイルス作成罪は、本当に必要か。この法律は、これ以外にもコンピュータ犯罪の捜査手続に関する新しい規定を置いている。これらは、プロバイダ業者などに過度の負担をかけるおそれがある。

    *JNSA顧問、内閣府情報公開・個人情報保護審査会委員、元日弁連情報問題対策委員会副委員長(サイバー犯罪条約対応を担当)など。

質問までの経緯と、質問後の語らいは以下の通りであった。

ご講演の内容のうち関連部分:


北沢弁護士:これは目的罪と言われていて、「電子計算機における実行の用に供する目的」が必要だと。この目的がなければ、どんなに悪いウイルスを作ろうが、犯罪になりません。ただ、コンピュータプログラムを作れば、これはどこかの人のコンピュータで使ってやろうという意図は推定されるので、あまりこの目的で限定したというのは、限定になっていないですね。

むしろ、限定したのは、正当な理由があれば、という、これがなければ罪にならない。これが今回の立法で加わった。10年くらい前にはこれがなかった。そこを日弁連とか研究者の方が指摘をして、「正当な理由がなく」というのが入った。その結果、正当な試験行為とか、アンチウイルスソフトの作成は罪にならない。これはある意味当たり前の話なので、あまり今回大きく変わったわけではない。

(中略)

裁判所がさきほどの法文を忠実に解釈して、犯罪に当たるか判断するわけで、そのときどきいろんな思惑があってやっているわけですね。

その中で、実は立法担当者の見解というのはあんまり参考にしていません。いざ裁判になると。ですから、今回、一所懸命、江田法務大臣の答弁とか、この前も法務省の担当者の言質を取ろうとしてたりしてましたけども(笑)、ま、もちろん参考にしますよ、参考にしますけども、いざ裁判となったら、表向きこれは参考にしません。やっぱり法文の解釈と、それから立法趣旨といいますか、本当に社会に対する害悪のあるコンピュータプログラムは処罰すべきという二つの要素から、裁判官は独立の判断をするわけで。だから、将来的にはわかりませんね。


ご講演の後、会場から以下の質問が出て、次のように回答がなされた。


質問者:(要約)私は大学にも行っていて、コンピュータセキュリティの試験をしたりする。安全かどうかという。そういう中で、正当な試験行為になるのか非常に危惧している。正当というのは何をもって正当というのか。裁判において主観によって曲がるのではないか、気になる。IT社会の発展で、より安全でなければならなくなるのだから、そういう試験を本来しなければならないときに、そういうことをすること自身が、こういう法律によって憚られるようになることを危惧している。正当な試験行為について見解をうかがいたい。

北沢弁護士:少なくとも今おっしゃられたようなことは正当な行為でしょう。それは業務目的ですから、IT業界だけでなくても、どんな業界でも人が便利に暮らすためにすることは正当な行為であって、罰せられるのは、便利さや効用を害するためにやるのが正当ではない。当然その真ん中のものが出てくると思う。ちょっとしたいたずらのような。遊びでやっているものなどは限界事例があって、裁判になってみないとわからない。社会的に罰する必要があるか、裁判はそこを判断している。「正当な理由」というのは、結局、犯罪かどうかということと重なってきますね。


ここで、司会からつっこみが入り、「国会で誰々が答弁したとかしないとか、高木センセイなんかもそういうことを指摘、問題提起されてましたが、そのあたりは高木さん、どう思われますか?」と、発言を促された。以下はその後のやりとり。


私:今の会場からのご質問のところは、本当は、「正当な理由がないのに」で落ちるのではなくて、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」がないで落ちるのではないですか、先生。

北沢弁護士:それはケースバイケースじゃないですか。その人が電子計算機で使うためであれば、目的はあるわけで。

私:「人の電子計算機における実行の用に供する」ということの意味というのは、えー、

弁:他人ですよね、他人。純粋に自分が遊んだり楽しむだけだったら、本来いいわけだけども、でもそれが人のコンピュータで使うかどうかは、なかなか外側からはわからないですよね。

私:この「人の電子計算機における実行の用に供する」ということの意味というのは、「目的で、何を」というところにかかっているので、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿わず、意図に反する云々」というような、そういうプログラムとして実行させる、そういう目的でという解釈だとされているので、当然、正当な試験、セキュリティテストのような試験の場合は、相手に対して、相手が思ってもいないような意図に反するようなことをやるわけではなくて、当然同意をとってそういう試験はやっているはずだから、そこで目的がないということになるんじゃないでしょうか?

弁:いやでも条文を素直に読むと、これは「人の電子計算機における実行の用に供する目的で」と書いてあるので、だから、条文からして読むと、電子計算機における実行の用に供する目的でと、単独の構成要件と読まざるを得ません。で、どちらで切ろうが、それは犯罪にはならないわけなので、そこをどっちだという議論をしても、あんまり意味がないと思うんですけども。

私:そんなことないですよ。日弁連はずっとこの8年間,この法案の問題点として、正当な試験行為であるとかアンチウイルスソフトベンダーが困るからということで、その問題だけを問題視して、それを解決するために、この「正当な理由がないのに」を入れるということを促してこられたと思うが、我々プログラム開発技術に関わる者としては、そんなことだけではなくて、たとえば、ハードディスクを消去するプログラムを作ったら、それを第三者が悪用して、ウイルスとして用いることもあるだろうし、あるいは情報処理学会が声明として出していたが、バグで発生させたものが、実際深刻な被害を出すバグもあると思うが、それを放置した場合にどうなるかとか、そういった声が技術者から挙っていたわけですけども、その部分というのは、けして「正当な理由がないのに」では落ちないですよね?

弁:落ちないかもしれないですね。だから、条文を読むとそう読まざるを得ないということです。私はどう解釈して落とすべきかということは、今その議論をしてもわからないので。条文だけ読むと、そういうふうになっていますよね。それだけの問題です。

私:国会でもそういうふうに自民党の議員が発言されたので、それで、参議院で、どっちですか、ということが問われて、法務省刑事局長の答弁として、これは刑法上、当然に、単に実行の用に供するという意味ではなくて、不正指令電磁的記録として、意図に反するような実行の用に供するというふうに読むのであると、つまり、「実行」と凝縮されているものはその下のが入ってて、ざっくりそこに埋め込んでもよかったんだけども、長くなりすぎるので単にそういう書き方をしたのだと、そういうやりとりがありました。

弁:あったかもしれませんね。でも裁判官はそう読まないと思いますよ。これだけ読んだら。そう読むべきだという議論はね、それはあり得るし、正当な議論かもしれません。私はそれに反対してるわけじゃないですけども(笑)、裁判官は順番に構成要件を読んでいきますからね、そのときにここだけ読んだら、どんなものであろうがとにかく、「電子計算機における実行の用に供する目的」だというふうに構成要件をたてて、それで違うところで落とすという捜査をする可能性はあります。私はむしろ、法務省の方の説明は、どうやったら法律家としてそう読めるんだろうかと、ちょっと若干、疑問ではありますよね。

私:どうやったら読めるかについては、法制審議会の議論の議事録にも書かれていて、これは文書偽造罪の直後に置いているように、同じ構成をしているのであると、文書偽造罪において「行使の目的で」文書を偽造した者はというときの「行使」というのは、およそ単に使うという意味ではなくて、偽造されたものが騙される形で使用されるのを行使と言うのであると。つまり、これが偽造文書だとわかっている人に対して、行使と外形的に同じ行為をすることは「行使」には当たらないと。それと同じ構造でこれは書かれているのだから、

弁:私わかりませんそれは。

私:という議論がありました。

弁:議論があったと思いますけども、私はそれは全く同じかどうかはわかりません。文言解釈するしかないんで。法律家としては。

私:じゃあ、これを言いますけども、○○○○先生にも聞きましたけども、これは当然こういうふうに読むんですと、それから前田雅英先生も、参議院の参考人意見陳述の中で、「これは法学的に当然である」と発言されていますし、今日の資料の中にあった石井先生も当然であるというふうにおっしゃってるんですけども。著名な刑法学者がそう言っていて、弁護士がそうじゃないと言うのは、何か逆の構造のような気がしますけどね。

弁:もちろんそれが法律のリスクであって、さっきも議論しているように、全ての裁判官は全部の文献を読んで、あるいは法制審の議論を読んで判決するとは限らないわけです。まず条文を読むわけで。「人の電子計算機における実行の用に供する目的で」と書いてあったら、それはそこを純粋にそう当てはめる可能性がある。これがまさに法律のリスクなんですよ。○○○○先生がそう言っているからと言っても、裁判所では必ずしも通用しません。弁護士としては、「正当な理由」のところでがんばればいいわけで、その条文解釈で、結果的に犯罪にすべきかどうかじゃないですか問題は。どちらで切るかは、私はそれはわかりません。

私:私は、弁護士であれば「実行の用に供する目的がないのである」と主張するべきと思うが、北沢先生は、そこで言うのではなくてむしろ「正当な理由」の方でがんばるべきだと、こうおっしゃるわけですか。

弁:弁護士としてはそれでがんばっていいと思いますよ。でも結果的にどちらで落ちてても、無罪になれば、それはそれで弁護の目的は達成するじゃないですか。どっちの方が裁判官にわかりやすいかだと思うんですよ。

私:刑法上、直前の章の書きぶりと同じ書きぶり書いてあれば当然こういう解釈をするという方が、いかにも裁判所としては、特に最高裁ではそういう判断をしそうな感じがするんですけどもね。

弁:「正当な理由」でわかりやすく切れた方がね、どうせ無罪にするんであれば、わかりやすい方を使うかもしれませんね。それは私わかりません。

私:「正当な理由がないのに」が入ったことによって、逆効果にもなっていると思うんですね。一般向けに無用な不安が生じていると。今会場からご質問された方の質問というのはまさにそうで、本来、相手がわかっていて、同意があって、騙してるわけじゃなくて、許可を得てセキュリティ試験をしているときには、「実行の用に供する目的」がないからそれは該当しませんということは、皆さん、法制審議会であれ、法学者であれ、国会であれ、皆さん言ってる。これを先生は「裁判はどうなるかわからない」とっしゃいますが、本来そっちに集中するべきなのに、なぜかここに「正当な理由がないのに」が入っていることによって、「なんでこの要件が入ったんだろう?」と、「これを入れるからにはこれを入れる必要があったから入れたんだろうなあ」と、皆さん直感するものですから、「実行の用に供する」のところを飛ばしてしまう。だから、不安だ不安だと、「自分の行為は正当な理由があると言えるのだろうか?」というみたいになっちゃってる。そうじゃなくて、大事なのは、「人の電子計算機における実行の用に供する」のところの意味ではないんでしょうか?

弁:どうでしょうか。

私:そうすると先生のおっしゃることは、この法律では、正当な理由があるとまでは言えない程度の個人的に行われているようなものであって、たとえば、ハードディスクを消去するようなプログラムをそこらへんでテキトーに公開していて誰かが誤って実行してしまったりとか、第三者に悪用されるようなケースというのは処罰の対象になってると、こういうことですか?

弁:今のは故意がないですから。悪用するという。故意があれば処罰される可能性はあるんじゃないですか。むしろそれを気をつけないと。

私:そうだったら、この法律は通しちゃいけなかったと思うんですよね。

弁:かもしれませんね。

私:つまり、この法律はよくなかったというのが先生のご講演のご趣旨なんでしょうか。この法律は、必要もなかったし、問題も多いものであったと、こういうことですか。

弁:だからそういうリスクがあるので、今後はそれを気をつけて、ということですね。運用していくしかないと思いますけどね。

私:論点を変えますが、先生、「立法の必要性」というところでいくつか挙げてらっしゃいますけども、ここのところのご趣旨というのは、ウイルス罪というのは実はいらなかったんじゃないかという、こういうご趣旨ですか。

弁:そんなことはありませんね。私は立法担当者じゃないんで。客観的に法律を解釈して現状の問題点を考えているだけですね。特別な態度を表明しているわけじゃなくて。日弁連は今回の法律に正面から反対してませんから。一定程度立法の必要があっただろうし、これが適切に運用されて悪質なコンピュータウイルスの作成行為が罰せられれば、それはそれで立法の目的としては、それが本来の機能を発揮したことになるんじゃないでしょうか。

私:では質問を変えますが、この、今回成立したウイルス罪がないと、摘発できないような、皆が困っているウイルスというものには、どんなものがあるんでしょうかね。

弁:それは私わかりません。

私:ご存じないわけですよね。それがちょっと信じがたいんですけども、暴露ウイルスというのが問題になっているわけですよ。暴露ウイルスは、どの法令に照らせば処罰できると思われますか?

弁:暴露ウイルスというのは知らないんで。

私:暴露ウイルスというのは、Winny等で大きな被害が出ている、ファイル共有ソフトの利用者たちの間で、誤ってダブルクリックすると自分の持っているファイルを全部Winnyネットワークに流してしまって、消せなくなってしまうと。それによって本人のプライバシー情報が漏れてしまうということのみならず、その人が持っていた他の人の、第三者の情報まで漏れているわけですね。だから、本人の自業自得ではけしてなくて、皆が困ると。たくさんの事件がございましたが、

弁:そういうのを作った作成者や、提供者や、実行の用に供する者や、取得者が可罰の可能性があるんじゃないですか。

私:どの法令でいけるんでしょうか?

弁:それは行為によるんじゃないですか。作成した人と、提供した人と、実行の用に供した人と、取得した人、それはそれぞれの行為の態様によって違ってくると。

私:いや、この法律ができる前にできたか?ということを尋ねているんですが。

弁:それは、電子計算機損壊等業務妨害罪や何かに該当しなければ、罰せられなかったでしょうね。

私:それをやるためにこの立法措置が必要だったというのが、この業界の皆さんの考えだと思うんですよね。

弁:そうでしょうね。私はべつにそれに反対しませんから。

私:それが挙ってないということに大変驚くんですよ。このスライドに。つまり先生、これ、日弁連でこの問題についてこの8年間取り組まれてこられたわけですよね。

弁:いや、8年前ですね。

私:そのときに、

弁:8年前にはそれはなかったかもしれないんで。

私:たしかにそうです。

弁:全部コンピュータウイルスのことに通じていませんので。いちいちこう何が具体的にウイルスが問題かということについては、私が言及する話題ではありません。

私:なるほどわかりました。つまり、8年前には関わられたけども、その後はとくに関わってらっしゃらないということですか。

弁:どうしましょうか。私は今できた法律を見て、現状を、法律家としての目で見て考えているわけで、すべてのコンピュータウイルスについてどう使われているかと、現時点で話す材料はありません。

私:端的に申し上げますと、はっきり言って8年前の検討状況あるいは社会状況のママでお話しされているんですよね。その後暴露ウイルスが出て問題となり、暴露ウイルスをどうにかしたいけども警察はどうしようもないから、原田ウイルス……

弁:私は反対していませんし、それわかります。何が問題なんですか?

私:なぜ、それを把握されてないんですか、ということです。ご専門なのに。

弁:専門かどうか。

私:でも実際その、さっきおっしゃいましたよね、

弁:そういう状況に一般的にあったことは認識していますよ。そういうものがたくさん出回っていると言う状況はもちろんわかってますよ。

私:国会でいろいろ答弁があったし、法務省の言質を取ったりしたけども、あまり意味がないと、いうようなことをご発言されてましたけども、

弁:意味がないとは言ってません。

私:参考にはされるだろうけども、実際には裁判所がどうするかであると。

弁:それはまさにそういうことなんですよ。法律とか裁判というのはそういう要素があるので、それも考えて、これから運用したり、コンピュータウイルスの研究をされたり、セキュリティ産業に携わって下さいと申し上げてるんです。

私:その、問題だったら、

弁:立法者が全部決めたら裁判官要らないじゃないですか。自動的にね、まさにコンピュータでパパパッと、昔ね、コンピュータで法律を適用できるかっていう研究したやつがいたけど、できなかったんですよ。その場その場で解釈が、社会状況がかわってきたりするわけですよ。まさにそれが法律であるし、法律家がこうやって日々新しいことを勉強していくというのは、そういう意味なんですよね。だから、立法者がこう言ったからそれでもう決まりでというのは、リスクを忘れてると思いますね。それで、立法担当者が言った通りで、それでもう問題は終わりですか。

私:……。私はいろいろなことをやっていますよ。たとえば○○に○○ってこれちゃんと○○してくださいねと活動してますしね。いろんなことやってますよ。だけども、先生、この問題に取り組まれた専門家であるのに、この8年間にあった状況を一切把握しないで、今日ここで、「実行の用に供する目的」というのはこういう解釈ですよ、というようなことをおっしゃるわけですよね。

弁:そう解釈できますよ、というのは法律家としては

私:できるじゃなくて、「こういう解釈だ」っておっしゃったじゃないですか。こういう解釈を広めるつもりですか?これから。ウイルス罪に関する専門家の弁護士として、この解釈ですよ、と法務省と違うことを言って廻るわけですか?

弁:いえ言って廻る気はありません別に。

私:でも今日はそういう感じでしたよね。

弁:そうですか。

私:それはあまりにも不勉強じゃないでしょうか。

弁:どうでしょうか。


ここで司会が止めに入って中間まとめ。司会から「バグの放置の云々が本当に適用されるのかというのは、常識からすれば論外ですよね。ただ本当にそうなるのか(云々)」という話があった後、以下に続いた。


私:保護法益の解説が法務省から出ていて、これはコンピュータのプログラムはおよそ完全なものでなくてはならないというような、そういう意味ではないし、およそプログラムというのが悪用され得るものではってはならないという意味でもないという、括弧書きの説明が出たんですよね。保護法益からしてそこまで書いて法務省が趣旨を説明しているということ、異例だそうですけども、それを裁判所が無視するってことはあるんですかね。

北沢弁護士:そこは裁判所にとってはあまり関係ないですよね。

私:どういうときに関係ないんですか。処罰したい、けしからんのがいるときに無理なことをするのだろうと思うんですけど。

弁:そうでしょうね。

私:どういうときに起き得るんでしょうかね。そういうのが無視される状況というのは。

弁:今の部分ていうのは犯罪の成立とあまり関係ないですよね。社会的法益なのか予備罪なのかというのは、講学上の議論なので、それによってそれが犯罪適用の有無が左右されるかっていうと、ほとんどされないんです。まさに構成要件、文言解釈と、それから処罰の必要性という相関関係で決まると思います。はっきり言って。

私:だから、どういうときにそこを無視されるかっていう、イメージ湧かないんですよね。どういうときですか。

弁:悪い人が悪いことしたときじゃないですか。

私:バグで悪い人にされるってことですか?

弁:可能性があるんじゃないですか、だから。

私:どういうときですか、バグは悪くないですよね。というのが一般社会常識だと思うんですけども。

弁:バグの定義もいろいろあるんじゃないですか、あのときも議論してましたけども。

私:それはバグがどういうものかご存じないからわからないんだと思いますが、バグというのは、作成者の意図に反する動作をするような原因部分を言うんですね。

弁:だからそれをね、悪用というかうまく使って、コンピュータが不正に、思いがけず作用するものに作り替えたり、何かすれば、それは当たる可能性があるんじゃないですか、提供のしかたによって。

私:提供のしかたがおかしければ、これはもうバグではなくて、わざとやっていることになるので、それは処罰対象ですよ。それは「実行の用に供する目的」があるということですね、意図に反するような実行の用に供する目的がある。

弁:その場合に、不正指令電磁的記録に当たらないと、それをいくら悪意を持って提供しても罪になりませんから。前提として、バグは、バグないしそれを構成してできたものは、不正指令電磁的記録という認定はないとそもそも成立しませんから、犯罪としては。

私:今は、本人がもうこれをわざとそういうことをやってやろうと思ってるときの話ですから、該当しますよね。

弁:いやそれは前提として、バグが不正指令電磁的記録に該当しないとならないです。

私:ですからー、本人がわざとやっているときは、もうそれはバグではないと。

弁:わざとなんてのはわからないんですよ。難しいんです。主観ですからね。

私:それをまあ全体的に判断するんですよね。それでとくに問題ないと思うんですよ。

弁:問題がないとかじゃなくて、可能性の問題ですから。

私:いやだから、いくら法務省がこういう説明を付けたからといって裁判所が違う判断をする危険性があるとおっしゃるから、具体的な事例は見当たらないということ申し上げているのですよ。

弁:それは今はわかりませんよ。それが今わかったら、立法そのものが潰れてますから。

私:つまり何をおっしゃりたいんですか、この法律

弁:高木さんこそ何を言いたいのかわからない

私:私は、この法案で何も問題ない、皆、気をつけることなど何もありません、てことが言いたいんですよ。それが確認されたと言いたいんです。だけども、北沢先生おっしゃることは、ようするに、この法案はやっぱり欠陥がある法律で、通すべきではなかったということを

弁:法律というのはすべてそういうリスクがあるんですよ。これは何の問題もないなんてことにはなりませんよ。だったら我々弁護士とか法律家要らないんですよ、だったら。

私:何でもそうなんじゃないですか。どれもそうなんでしょ。どの法律もそうなんでしょ。だから、ことさらこの法律についてとくに何か言うことがあるんですか。

弁:この法律にはこういうところに問題がありますよとお話ししてるんです。それはどの法律でも、これこれの問題がありますねと、必ず。それはもちろん、大小があってね、大きいものとほとんどない法律があるけども、これはどの変になりますかね。中間くらいじゃないでしょうかね。

私:ちょっと観点を変えたいのですが、皆さんも思われると思うんですが、日弁連は我々技術者に対して、技術者がどういうところを疑問に思ったり不安に思ってるかということを、聞いてくれたんでしょうか。

弁:その質問には答えられません。

私:聞いてくれなかったですよね、この8年間。

弁:そうなんですか?

私:私の知る限り、ないです。

弁:申し入れされました?

私:いやだから、情報処理学会が7年前に会長声明を出しているわけですよ。

弁:だからね、我々、全部の学会の声明、読んでいられませんから。

私:日弁連の情報問題委員会が、情報処理学会のウイルス罪の声明を知らないなんて、ちょっとあり得ないですね。だって、関わっていることじゃないですか。

弁:忘れましたから、8年前ですから。見たかもしれませんけどね。

私:言いたいことは、なぜ法律家は、技術者が本当に何を疑問に思っているかを聴きもせず、そのように、えー、

弁:いや、それはわかりやすく説明してくれないからですよ。きっと。

(会場笑い)

弁:むしろ、最初から相手にしてなかったんじゃないですか? 私もね、よくわからないんですよ。この世界。本当に申し訳ないけども。だけども、法律家はさっきも言いましたが、裁判官はそれでも判断せざるを得ないんですよ。ほとんどの裁判官はこの議論についていけないですよ。今の段階では。でも、来たときに勉強してやってるんです。限界がありますから、今世の中は技術が進歩してね、IT業界も、bio業界もどんどん進歩していて、法律家は一所懸命それにキャッチアップしてます。でも、じゃあ全部自分で調べてやれというのではなくて、高木さんが、来られてね、日弁連に乗り込んで来て、そういう議論をしてくれればよかったんですよ。あるいは、日弁連なんかあんまり信用してないし、関心がないからされなかったのかもしれないしね。

私:さんざん個人で、ブログでこれ述べてたけど、日弁連からこの話を聞きたいというオファーは一切なかったですよ。

(会場笑い)

弁:ブログなんか見てられませんから、それは勘弁してくださいよ。ちょっと話題変えません?


一旦別の話題へ。最後に司会から「もうそろそろ時間ですが、もう一件ぐらいご質問」というところで、続き。


北沢弁護士:私が高木さんに質問。「正当な理由がないのに」というのはマイナスという考え方なんですか。これは日弁連だけじゃなくて、学者の方もそうおっしゃってたと思うので。

私:最近はどなたもおっしゃってなかったと思いますけどね。たとえば、石井先生は、「正当な理由がないのに」というのは違法にという意味であって、ほとんど意味がないと。あってもなくても変わらないというのが、法学者の見解。これは○○先生もおっしゃってました。

弁:たしかに、それほど効くかというとあまり効果がないのかもしれないですね。おっしゃられたように、むしろ目的のところで可罰性を判断するのが適切だという、そういう議論は十分あり得るし、私もそれ自体について反対はしません。

私:でも、そういう活動が日弁連にはなかった。ということについて抗議している、ということです。

弁:今後参考にして日弁連に。


というわけで、前回の日記では「刑法改正によって特に新たに注意すべき点はない」と書いたが、どうやらそうでもないようだということがわかった。

この刑法改正によって、市民には以下の点に注意する必要が生じた。

  • 万が一、悪いことをしていないのに、不正指令電磁的記録に関する罪の疑いで、逮捕されたり、家宅捜索されたり、勾留されたり、起訴されて刑事裁判となるとき、「実行の用に供していない」又は「実行の用に供する目的がない」と主張すれば、釈放されたり、不起訴になったり、無罪になるような場合において、弁護士に弁護等を依頼する際、その弁護士が、「実行の用に供する」の解釈を、法務省見解とは異なる、日弁連流の解釈をしていて、そこを主張すべきポイントとして採用せず、「正当な理由がないのに」に該当しないと主張するような弁護方針をとるようであれば、そのような弁護士に弁護等を依頼しないように注意する。

これは、冗談でなく、深刻なことかもしれない。

関連:法務省担当官コンピュータウイルス罪等説明会で質問してきた, 2011年7月26日の日記

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