総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」が、パブリックコメントを募集している(7月7日17時締切)ので、以下の意見を提出した。
「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」に対する意見
東京都〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
高木 浩光
意見1:「個体識別番号」との語は日本語として不適切であり適切な用語を用いるべき
提言(案)のp.30からp.32にかけて「個体識別番号」なる言葉が用いられているが、元来、日本語における「個体」とは「個々の生物体をさす言葉」(Wikipediaエントリ「個体」より)、「独立した1個の生物体」等を指す言葉とされている(国語辞典等参照)ところであり、生物のうち特に人を指す場合には、日本語では「個人」と呼ぶ。
また、牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(平成十五年六月十一日法律第七十二号)においては、第二条第一項で「この法律において『個体識別番号』とは、牛(中略)の個体を識別するために農林水産大臣が牛ごとに定める番号をいう」と規定されているように、「個体識別番号」は生物の個体を識別するものとして、法令等で既に規定された用語でもある。
しかるに、提言(案)において使用されている「個体識別番号」が指すものは、携帯電話の契約者であるところの人を識別するものとして書かれていると推察されるところ、人を指すものとして「個体」と呼ぶのは、人を人以外の生物とあえて同格に呼ぶものであって、人の尊厳を蹂躙するかのような表現と言えるのではないか。人を指すのであれば、「個人識別番号」と表現するべきである。
このことについて、「携帯電話のこの識別番号は人を識別するものではなく、携帯電話端末機あるいは契約回線を識別するものであるから、「個人識別番号」とは呼べない」などという反対意見が想定されるところ、その場合であっても、生物ではない端末機や回線を指して「個体」と呼ぶのは、いずれにせよ日本語として誤りである。
なお、平成22年5月公表の、利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会第二次提言においては、この識別番号を指す用語として「契約者固有ID」との語が用いられている。もっとも、この用語も必ずしも最適ではないとも考えられ、この識別番号を指す定着した用語は必ずしも現時点では確立していないと考える。
この際、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成十四年五月二十二日総務省令第五十七号)を改正してこの識別番号を追記するのであれば、その用語の選定には格段の留意を払うべきと考える。
意見2:「個体識別番号は利用者を確実に識別することができる」との記述は誤り
提言(案)p.31に、「これら個体識別番号は、利用者の識別のため、携帯電話事業者が電気通信役務の提供に当たり割り当てる文字、番号、記号その他の符号であり、問題となる通信の利用者を確実に識別することができるものである。」との記述があるが、この識別番号で利用者を確実に識別できるとの事実認識は誤りであり、修正するべきものである。
発信者情報として開示を求められる掲示板管理者等が、この識別番号を記録するに際して、不適切な技術手段によってそれを実現している場合、当該情報の流通に関与した携帯電話事業者によっては、他人の識別番号を記録させること(なりすまし行為)が容易に可能な場合がある。その場合、記録された識別番号は、およそ「利用者を確実に識別することができるもの」とは言えない。
また、適切な技術手段によって識別番号の記録を実現するにしても、携帯電話事業者各社がそれを実現するための手段を用意していない現状においては、完全になりすまし行為を防ぐことは可能とは言えない状況にあり(参考文献1参照)、この識別番号を利用者認証として不適切に使用していたWebサイト運営事業者において個人情報の流出事故が発生した事例もある。
そのような状況であるにもかかわらず、総務省の研究会提言において「個体識別番号は利用者を確実に識別することができる」との記述をすれば、「この識別番号を用いれば利用者の確実な認証が可能」との誤った理解を広げることとなり、個人情報を漏洩させ得る脆弱なWebサイトの数を増やすことにつながりかねない。
よって、「利用者を確実に識別することができるものである」との記述は、「利用者を識別できる場合のあるもの」などの記述に修正するべきである。
参考文献1:携帯電話向けWebにおけるセッション管理の脆弱性
http://staff.aist.go.jp/takagi.hiromitsu/paper/scis2011-IB2-2-takagi.pdf
意見3:「個体識別番号は発信者を特定するための情報」との記述は不適切
提言(案)p.31に、「個体識別番号は、当該情報の流通に関与したプロバイダ等である携帯電話事業者が発信者を特定するための情報である。」との記述があるが、携帯電話事業者において、この識別番号は、発信者を特定するために用意されたもの(その目的で用意されたもの)であるのか、疑わしい。別の目的で用意されたものではないか、確認が必要と考える。
したがって、p.31のこの記述は、「個体識別番号は、当該情報の流通に関与したプロバイダ等である携帯電話事業者が発信者を特定するのに用いることができる場合のある情報である。」などと書くことが望ましいのではないかと考える。
意見4:「個体識別番号」が携帯電話に存在して当然であるかのような誤解を招かない記述に改めるべき
提言(案)のp.30からp.32にかけての「個体識別番号」に関する記述は、携帯電話であれば当然にその識別番号の送信機能が存在して然るべきかのように書かれているが、この機能が存在するのは、ほぼ、日本独自の旧来型の携帯電話(俗に「ガラケー」と呼ばれる)のサービスに限られるものであって、他方、近年広く普及しつつある、事実上の国際標準であるところのスマートフォンにおいては、そのような機能は存在しない。
一方、平成22年6月に総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課から公表された「SIMロック解除に関するガイドライン」において、「8 その他 (1) プライバシー上のリスクに対する取組」として、「コンテンツプロバイダが同一の利用者からのアクセスであることを継続的に確認するための仕組みについて、SIMロック解除に伴い、利用者の意図しない名寄せ等プライバシー上のリスクが増大する可能性があることから、事業者は、リスクを軽減するため所要の措置を講じるものとする。」と規定されている(この「同一の利用者からのアクセスであることを継続的に確認する仕組み」とは「個体識別番号」のことを指している)ように、この識別番号を携帯電話事業者が掲示板等に無条件で自動送信する仕組み自体を、総務省は、プライバシー上の問題のある仕組みとみなしているのであり、将来における問題解決が促されているところである。
このことに鑑みれば、提言(案)においても、携帯電話において「個体識別番号」が発信者特定のために欠かせない仕組みであるかのような理解をさせない記述をするべきである。
具体的には、事実上の国際標準であるスマートフォンにおいては、発信者情報としては従来通りIPアドレスとタイムスタンプの組で十分であることを記述するとともに、スマートフォンではない旧来型携帯電話のサービスにおいて、この識別番号を発信者情報として使用せざるを得ないのは、旧来型携帯電話サービスが旧式のゲートウェイ方式を採用していることに起因するものであって、暫定的で過渡的な措置である旨を記述するべきである。
特に、 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成十四年五月二十二日総務省令第五十七号)を改正してこの識別番号を追記する際には、そのような識別番号が恒久的に存在し続けて然るべきであるとの誤解を招かない条文とすべく格段の留意が必要である。
以上
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