Googleマップの「マイマップ」は、Googleアカウントでログインして作成・編集するものであり、図1のように、ログインして「自分で作った地図」を一覧し、「×」ボタンを押すことによって、作った地図を削除することのできるタイプのサービスである。したがって、Googleアカウントを削除すれば、そのアカウントが所有するすべてのマイマップも同時に削除されると考えるのが普通だ。
実際、アカウント削除の機能がどこにあるかというと、「アカウント」のリンク先の画面(図2上)の「マイサービス」という部分の「編集」というリンクの先(図2下)にある。「マイサービス」には、「iGoogle」「ウェブ履歴」「カレンダー」「ノートブック」「マップ - マイマップ」と書かれており、マイマップもこの中に含まれると理解される。
「アカウントを削除」のところには、ちゃんと「アカウントを閉鎖し、そのアカウントに関連するすべてのサービスと情報を削除します」と書かれている。
これをクリックすると図3の画面となる。
ここに注意書きが出ている。削除すると元に戻せないため同意確認のためチェックボックスにチェックを入れて、パスワードと共に削除ボタンを押すようになっている。ただ、ここで気がかりなのは、なぜかここには「ウェブ履歴」と「iGoogle」しかチェックボックスがなく、マイマップやカレンダーについての項目がないことだ。このチェックボックスがどういう意味なのかよくわからない。
削除を実行すると、「アカウントは削除されました。」というシンプルな画面が出るだけで、何が削除されたかは表示されない(図4)。
ところで、この状態では、アカウントは削除したのにログイン状態は維持されるようで、マップの画面に移動すると、まだマイマップの編集などができる。この時点で嫌な予感がしたのだが、ログアウトしてみた。
さて、マイマップはちゃんと削除されているだろうか。検索して確認してみる。
なんと、アカウントを削除したのに、マイマップはそのまま残っている。しかも、作成者を示す「投稿」の項目をクリックすると、このアカウントで作成したマイマップの一覧も出てくる。*1
しかし、アカウントは既に削除してしまったので、ログインができない。ログインができないのだから、このマイマップを削除することも編集することもできない。
これはどういう設計なのか?
まさか、カレンダーも消えてないなんてことはないだろうなと心配になり、公開設定にしていたカレンダーを表示させてみたところ、なんと、これも消えないことがわかった。
「書いたら自分では消せない」というのは、掲示板では昔からそういう設計のところが少なくない。ログインせずに使うサービスはたいていそうだし、ログインして使うものでも、Slashdotなどは消す機能が用意されていないし、ブログでもコメント欄などには消す機能が用意されていないところが多い。(一方、ブログや日記の本体では消す機能のあるものが多い。)
「マイマップも掲示板と同じだ」ということだろうか? それはいくらなんでも無理があるだろう。ログイン中にマイマップ一覧が出て、編集したり削除する機能が用意されている。
これが、アカウント削除すると消せなくなるなんて誰に予見できようか?*2 ましてや、公開カレンダーまで、掲示板と同様だなんて普通では思いもよらない。
では、アカウントを削除した後に、同じID(メールアドレス)で再度アカウントを作成するとどうなるだろうか。
実際にやってみたところ、同じIDでアカウントを作っても別のユーザとして識別されるようで、マイマップ一覧には何も出てこない(図7)。
この状態で、図5の検索をもう一度やってみると、マイマップは消えておらず、引き続き閲覧される状態であることがわかる。
このように、マイマップは、アカウントを削除してしまうとどうしようもなくなる。
一方、カレンダー(メインのカレンダー)については、同じID(メールアドレス)で再度アカウントを作成した直後に、アクセスできなくなった(図8)。
これは、URLに含まれているカレンダーIDがメールアドレスであるため、同じメールアドレスでアカウントが作成されたことにより、設定が上書きされたためだろう。
では、カレンダーIDがメールアドレスでないカレンダー(サブのカレンダー)の場合はどうなるだろうか。(Googleカレンダーでは、メールアドレスをIDとするメインカレンダーの他に、「新しいカレンダーの作成」でサブカレンダーを作成することができ、サブカレンダーのカレンダーIDは図9のアドレスバーのURLに出ているように、ランダムに生成された文字列を含むものとなる。)
この場合、カレンダーは消えなかった。
つまり、Googleカレンダーでは、サブカレンダーについては、アカウントを削除するとどうしようもなくなる。メインカレンダーについては、同じIDでアカウントを取得することで削除できる。
先日、「GoogleカレンダーのHTMLソースに氏名とメールアドレス」という指摘があったが、匿名のつもりで公開カレンダーを公開していた人*3が、ヤバいと思ってGoogleアカウントごと削除してしまうと、カレンダーは公開されたままどうしようもなくなるという悲惨なことになる。アカウント削除の前に個別の削除をするよう注意が必要だ。
いったいGoogleのサービスはどういう設計なのか?
図3の画面で、マイマップやカレンダーのチェックボックスがなかったのは「削除対象ではない」という意味なのだろうか? しかし、ノートブックについては、図3にチェックボックスはないのに、アカウントを削除した直後に「サーバー エラー」となってアクセスできないようになった(図10)。データごと削除されているのだろう。
こんな出鱈目なサイトは見たことがない。
GoogleドキュメントやGoogle Apps版のカレンダーがどうなっているかは調べていない。
アカウントを削除してもコンテンツは残るというのは、ひょっとして、掲示板やブログのコメント欄と同様の趣旨で、公開したものは残さないとそれを参照している人が困るからとか、そういう積極的な方針に基づくものかもしれない? と、気になったので、ならばということで、非公開設定のカレンダーがアカウント削除でどうなるかを調べた。
23日の日記「Googleカレンダーでやってはいけないこと」に書いたように、Googleカレンダーには、非公開設定であっても、認証なしでフィードリーダなどからアクセスできるようにするための、「非公開URL」(別名「個人用URL」)という裏機能がある。(これは通常のWebアクセスには使用しないものとして用意されている。)
非公開設定のカレンダーを作成して、この「非公開URL」をメモし、アカウント削除後にこれにアクセスできるかを確認した。
その結果、アクセスできることが判明した。
実験に用いたのは以下のURLである。(「pvttk=」の部分が非公開設定のカレンダーに認証なしでアクセスするためのトークンである。)
つまり、アカウント削除でカレンダーが消えないのは、公開だから残しているというわけではなく、非公開のものも含めて全部のカレンダーを削除せず、単に放置しているということだ。
アカウントを削除してしまうと「非公開URL」のリセット(23日の日記参照)をすることもできなくなるので、注意が必要だ。
Google Appsを導入する企業らは、こうした、データを自社のコントロールの下で消せるかという点について、ちゃんと確認しているだろうか。
*1 この現象は11月24日に初めて確認した。その際に残存したマイマップは今も閲覧できる状態にある。半月くらい経てば消えるのだろうか?
*2 実際、今月初め、家庭訪問先地図が公開されている事例について学校に直接連絡した際には、削除する方法として、「本人がログインしてマイマップを一つずつ削除するか、アカウントごと削除する」とアドバイスしてしまった。後者の方法では駄目だったわけで、もしかするとどなたかにご迷惑をおかけしたかもしれない。(アカウント削除したら消せなくなったという折り返しの連絡はなかったので、たぶん後者を選んだ人はいなかったのではないか。)
*3 匿名のつもりでカレンダーを公開する人は、メールアドレスがバレないように、IDがランダムとなるサブカレンダーの方を使っているだろう。
「Googleアカウントを削除するとマイマップやカレンダーを削除できなくなる」そうだ。「Google and Me ブログ」というブログで批判されているように、Googleでは、「公開」が基本 であり、アカウントを削除しても、そのアカウントで作成したものは、「公開」されたものの..
高木浩光@自宅の日記 - Googleアカウントを削除するとマイマップやカレンダーを削除できなくなる, 追記(30日) 非公開設定のカレンダーも削除されないGoogleアカウントを削除すれば、そのアカウントが所有するすべてのマイマップも同時に削除されると考えるのが普通だ。..