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高木浩光@自宅の日記

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2007年11月15日

私的録音録画小委員会中間整理に対する意見

パブコメを出した。この心配は杞憂かもしれないとは思ったが、念のため出しといた方がいいかなと思って個人で出した。

締め切り間際に急いで書いたので、今読むと若干混乱が。「除外」という言葉の使い方が混乱させそう*1なので、その点を訂正したもの(訂正箇所は打ち消し線のある部分)を以下に書いておく。ついでに、補足のため一箇所追記した。


私的録音録画小委員会中間整理に関する意見

提出日: 平成19年11月15日
個人/団体の別: 個人
氏名: 高木 浩光
住所: 東京都(略)
連絡先: (略)

該当ページおよび項目名:
第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて
2 第30条の適用範囲から除外することが適当と考えられる利用形態
(1)権利者に著しい経済的不利益を生じさせ、著作物等の通常の利用を妨げる利用形態
pp.103-106

意見:

概要

正当な目的での私的複製が違法となることを避けるために、複製する行為を違法とするのではなく、複製した著作物を「再生」する行為(「録音録画」であれば試聴する行為)を違法とするか、あるいは、当該著作物を「再生」する目的(「録音録画」であれば試聴する目的)で複製する行為を違法とするべきである。

説明

電磁的記録(以下「ファイル」)の形で流通する著作物には、コンピュータウイルス(以下「ウイルス」)が混入していることがある。特に、P2Pネットワークにはそうしたファイルが蔓延しており、それが原因となって、Winny等の利用者が機密情報を流出させる事故が相次いでいる。この被害を減らすためには、P2Pネットワークに流通するウイルスを発見して対応を図ることが必要であり、そのために、P2Pネットワークからファイルをダウンロードして行う調査が必要となっている。

現行法の下では、こうした調査は適法に行うことができる。調査用試料となるファイルの入手には著作物の複製を伴うが、調査の目的においては複製物は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において」しか使用する必要性がないので、著作権法第30条第1項の規定により、その複製は著作権者の複製権を侵害しないものと解されてきた。(Winny等では、ダウンロードする操作が同時に送信可能化をもたらす仕組みとなっているため、そのままWinnyを使用する方法では調査を適法に行うことができないが、送信可能化を伴わずにダウンロードのみを実行する技術を開発することにより、ウイルス対策は適法に行われているところである。)

しかしながら、本件私的録音録画小委員会中間整理の打ち出した著作権法見直し案に従って第30条が改正された場合、P2Pネットワークから情を知ってファイルをダウンロードすることが違法とされることから、ウイルス発見の調査を適法に行うことが不可能となるおそれがあると考える。(一部のP2Pネットワークにおいては、その流通するファイルの大半が違法に送信可能化されているものと指摘されているので、そこからファイルを無作為に入手する行為が「情を知って」複製する行為とみなされてしまう。)

著作権者らも、自らの著作物が違法に送信可能化されていないかを確認するために、ファイルをダウンロードして複製する必要があるであろう。その際に、他人の著作物を無断で複製することが生じ得るが、この行為は正当業務行為として違法性が阻却されると考えられることから、第30条の改正において、それを「正当な目的の複製」として明文で除外する[訂正]明文で除外規定から除外する必要はないと判断される可能性がある。その場合に、著作権とは関係のない、ウイルス対策や情報漏洩対策のためのダウンロード行為が、正当業務行為とみなされるかは定かでないと考える。

これに配慮し、第30条の改正において、正当な目的の類型を列挙して除外する[訂正]除外規定から除外するという案も考えられるが、除外が必要な「正当な目的」の全てを列挙することは困難と考えられる。

他方、複製された著作物も、それが「再生」(「録音録画」であれば試聴)されることがないならば、[追記](現行法の私的使用である限り)著作権者の権利が侵害されることはないと考える。

したがって、複製する行為自体を違法とする必要はなく、また、複製する行為自体を違法とするのは有害(ウイルス対策や情報漏洩対策を困難にするという新たな危険を社会にもたらすもの)であり、著作権者の権利を保護するには、複製した著作物を「再生」する行為(「録音録画」であれば試聴する行為)を違法とするか、あるいは、当該著作物を「再生」する目的(「録音録画」であれば試聴する目的)で複製する行為を違法とすれば足りると考える。

なお、この意見は、私的録音録画小委員会の趣旨に沿って第30条を改正することにした場合に少なくとも配慮するべきと考える事項を述べたものであり、私的録音録画小委員会の趣旨に沿って第30条を改正することに賛成するものではない。

以上


以前からWinnyの話題の中で書いてきたことだが、日本では送信可能化権を整備して早い時期から違法な公衆送信を強く取り締まったことが、Winnyという怪物の誕生を必然のものにしてしまった。その結果、著作物は相変わらず保護されないばかりか、流出した秘密情報が回収不能となるという新たな危険を社会に生み出すことになった。

次のステップとして「ダウンロードの違法化」が安直に進められれば、加えて、ウイルスに対抗することも許されず、情報流出の事実確認さえ許されないという世の中になっていってしまいやしないだろうか。

なお、意見の最後でも述べているように、これは第30条の改正に賛成する前提での意見ではなく、「どうしてもそうすることになるなら最低限考慮して欲しいこと」を述べたものだ。ここでは、最低ラインとして、試聴する行為または試聴する目的で複製する行為を示したが、さらに緩めて、反復して試聴する行為または反復して試聴する目的で複製する行為というラインを提案するのでもよかったかもしれない。

*1 中間整理では、30条(私的使用のための複製)1項から「除外」しようという主張なのだから、現行法で30条1項1号と2号(これらが「除外」規定)があるところに3号等を加えよう話で、私が言いたかったのは、除外する範囲を狭くせよという意味での「除外」。

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