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高木浩光@自宅の日記

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2006年03月15日

続・「作成罪」はいらない

昨日の日記について「けったいな刑法学者」様よりご指摘をいただきましたので、ご指摘を踏まえて思考を先に進めてみます。(なぜか今日はですます調。)

このような理解は、端的にいえば、偽造罪は偽造通貨行使罪の共犯で処罰できるから、犯罪化する必要はないというのとおなじことを意味しています。

論点1: 不正指令電磁的記録の作成は、通貨の偽造、支払用カード電磁的記録の不正作出と同じ法論理に基づくものであるとのご指摘

なるほどそのような論理によってこの法案が構成されているのだということは理解しました。供用罪の共犯による処罰でカバーされるからという理由は、たしかに、その論理を否定することができません。

そうすると、なおさら、そのような論理に基づいてコンピュータプログラムの不正な作成を罪とすることは、自然でないものであるように感じます。

第1に、通貨は国家に唯一のものであり、それを特別に取り扱って、偽造すること自体を罪とすることに、なんら不都合はなく、誰もがその正しさを直感できるものであると考えます。それに対して、コンピュータプログラムというものは、国家に唯一のものであるわけではなく、通貨の偽造を罪とすることが正当であるからという理由のみから、同様にコンピュータプログラムを不正に作成することを罪とするのも正当であると導くのは、論理的でないはずです。

第2に、支払用カード電磁的記録は、民間の会社が発行するものですが、ごく限られた会社だけが発行しているものであり、国民はそれが支払い用カードの電磁的記録であることを、客観的に認識しています。そのようなある程度限られたものについて、それを特別に扱って、その不正作出を罪とすることの妥当性は、現在では広く受け入れられていることであると考えます。それに対し、コンピュータプログラムは、特定の民間会社だけが作ることを許されるものというわけではありません。

つまり、たとえば、電子行政手続き専用として政府から提供されているコンピュータプログラムに限定して、その不正な作成を罪とするとか、民間の携帯電話会社の携帯電話上でだけ実行可能なプログラムに限定して、不正なプログラムを作成することを罪とする――という場合であえば、通貨偽造や支払用カード電磁的記録不正作出と同じ論理で正当化するというのは、まだわかならくもありません。しかし、不正指令電磁的記録は、世の中に存在し得る任意のコンピュータプログラムを対象範囲としています。

支払用カード電磁的記録に関する罪を新設する際に、なぜ、すべての磁気ストライプカードを対象としなかったのでしょうか。社員証カードや電気錠用カードの磁気ストライプの電磁的記録も、容易に不正作出できるところ、不正作出されることにいくらかの危険性が認められると思われますが、なぜそれらが対象から外れているのでしょうか。子供の玩具の磁気ストライプカードはどうでしょうか。コンピュータプログラムは、あらゆる目的のものとして存在し得るものです。

論点2: 文書偽造とも同じ構造だとのご指摘

文書偽造の罪はたしかに広範な用途の文書を対象としていますが、文書の種類により細分化されて、そのぞれの定義も明確にされ、罪の重さが個別に規定されています。また偽造が罪とされる文書は、限定されているように思います。なのに、コンピュータプログラムは、あらゆる用途のものをひとくくりにして不正指令電磁的記録作成罪としてしまってよいのでしょうか。

行使の目的をもっておこなう偽造通貨の作成行為それ自体に、社会的な信用に対する危険があるから、偽造罪が処罰されているのであって、

偽造という行為が、(行使の目的で)偽造した時点で社会的信用に対する危険を生むというのはわかりますが、コンピュータプログラムの作成という行為についても同じだとするには、理由が足りないように思えます。もし、コンピュータプログラムが常に何かを証明するものであるといえるならば、その類推は理解できますが、はたしてその仮定は正しいでしょうか。

文書は、作成された時点でその文書がどのように使われるものかが確定すると思います。しかし、コンピュータプログラムはそうとは限りません。作成者が作成した際に想定した使われ方と、供用者が人に供用する際に想定した使われ方が同一とはならない場合があります。この性質から、作成を供用と一体にすることが正しくないと感じます。

論点3: 不正指令電磁的記録作成罪は自己増殖型のみを特段処罰の対象としているわけではないとのご指摘

自己増殖型に限らず人を欺いてプログラムを実行させる行為を処罰することに賛成なのですが、自己増殖型に限らずあらゆるプログラムを対象とすると、まさに、「format c:」のような内容の1行からなる「お宝画像.vbs」といったファイル名のプログラム(およびそれを紙に記したもの)も対象となり得るように思います。

ここで、現法案がコンピュータプログラムに対する社会的信頼を保護するという趣旨で組み立てられていることから一旦離れて、法案ができる前から人々がイメージしていた「ウイルスは取り締まるべきだ」という感覚は、「自己増殖型は社会的に危険」という考えに基づいていて、「そんなもの作るなよ!」という感覚からくるものだっただろうと思います。そのとき、ファイルを消すという処理をする1行のコードからなるプログラムが、ファイル名を変えて供用されたときに、「そんなもの作るなよ!」と言う人はいなかったと思います。せいぜい、「そんなものを人を騙すような形で実行を誘うなよ!」という思いだったはずです。

そして、自己増殖型に対する「そんなもの作るな!処罰せよ!」という声を、最近はほとんど耳にしなくなりました。昨日の日記で「そうした考え方の必要性をかつてほど感じないようになってきてはいないだろうか。アンチウイルスゲートウェイや、ファイアウォールが普及したからである。」と書きました。

つまり、現法案の組み立てとは別に、人々が期待する規制というものを考えたときに、現在では、作成する行為よりも、騙して実行させる行為の規制が望まれているのではないかと、昨日書きました。

話を戻して、現法案が、コンピュータプログラムに対する社会的信頼を保護するという趣旨で組み立てられていることを話の前提としたときに、

コンピュータが社会のいろいろな局面で使用されるようになってくると、普通の人たちはコンピュータが正常に動作するのを信頼して使用するのに、不正なプログラムはそれを裏切るものであるということが、不正指令電磁的記録に関する罪の処罰根拠になると思われます。

とのことですが、コンピュータプログラムには、「作成者が作成した際に想定した使われ方と、供用者が人に供用する際に想定した使われ方が同一とはならない場合がある」という性質があります。(通貨偽造、支払用カード電磁的記録の不正作出、文書偽造と違って。)

ファイルを消すプログラムを「お宝画像だよ」と言って「普通の人」に供用したとき、その「普通の人」の意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる結果となったとき、つまり、消えては困るファイルを消す結果になったとき、それは、「不正な指令に係る電磁的記録その他の記録」となると思いますが、そのファイルを消すプログラムを作成した人は、作成罪に問われてしまうのでしょうか。「人の電子計算機における実行の用に供する目的」で作成しているときに。

要検討:「不正な指令」とは?

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 この法案の問題点が浮き上がってきそうなのですが、私の誤解か、高木さんの誤解か、あるいは、そこが論点なのか、確認したいことがあります。
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