自治体の中で先進的と言われる岡山県の電子申請システムは、公的個人認証などに対応した電子申請のため、 利用者に専用インストーラを配布している。
配布されているのは、http://www.pref.okayama.jp/e-entry/ready/install.jar に置かれている実行形式のJavaファイルであるが、これを起動すると図1のよ うに「ライセンス利用許諾」*1なるものが現れる。
ここには次のように書かれている。
3 インストールツールに関する知的所有権(1) 本インストールツールに関する著作権及びその他の知的所有権は、岡山県に帰属します。
岡山県, 電子署名アプレットライブラリファイルインストーラ, 「ライセンス利用許諾」
しかし、配布ページにも書かれている(図2)ように、これは、「Log4j」や 「Xalan」、「Apache XML Security」など、 Apache Software Foundationによって開発が進められているオープンソースソ フトウェアが含まれる。これらは岡山県の著作物ではないし、岡山県が知的財 産権を所有するものでもなかろう。
それどころか、このインストーラがインストールするものは、これら のファイルだけのようだ(図3)*2。
そうすると、これのいったいどこに岡山県が著作した部分や、岡山県の知的な モノが存在するのだろうか? 強いて挙げるなら、この「ライセンス利用許諾」 なる文書が、岡山県のチテキ財産だろうか。
「Log4j」や「Xalan」はApache Software FoundationがApache Licenseの下で 配布しているものだが、図3のように、Apacheのライセンス 文書は削除されていて存在しないし、インストーラやアプリケーションの実行 時にどこかに表示されるわけでもない。「Apache Software Foundationによっ て開発されたソフトウェアを含みます」といった一言さえない。
にもかかわらず、「本インストールツールに関する著作権及びその他の知的所 有権は、岡山県に帰属します」という。
Javaに必要なライブラリをバイナリ形式のまま ext/ (ないし endorsed/ ) 入れて使うというのは、開発者が開発時に自分でやる行為としては正当である にしても、こういう形で一般の人にインストーラで機械的に入れさせたうえ、 その著作権を主張するというのは、いくらなんでもダメだろう。
ちなみにこのインストーラのプログラムは、IzPackというインストーラ生成 系で自動生成されているようだ。
同様の行為は、茨城県パスポート電子申請のサイトと、長崎県電子申請システムのサイトにも見られる。
茨城県が http://www1.asp-ibaraki.jp/home/po/po/html/passport/html/JAVAlib.exe で配布し、 長崎県が http://eap.pref.nagasaki.jp/download/JAVALIB.exe で配布してい るインストーラは、同一のもののようだが、起動すると図4のように、「使用 許諾契約」という文書が現れる。
これも同様に「Log4j」や「Xalan」などと、あとは総務省が権利を保有する JPKIのファイル(JPKICryptJNI.jarとJPKIUserCertService.jar)2個をインス トールするだけなのだが、下まで読んでも「Apache」の文字は存在せず、「著 作権及びその他の知的所有権は、外務省に帰属します」という。
図5のように、インストールされたファイル達とともに「readme.txt」という ファイルが存在するが、その内容は、先の「使用許諾契約」の文章そのもので あり、以下のように書かれている。
3. 本インストールツールに関する知的所有権
(1)本インストールツールに関する著作権及びその他の知的所有権は、外務省 に帰属します。
外務省の著作物というのは「uninst.bat」のことだろうか。
茨城県と長崎県は配布者としての責任を負っているが、開発元は外務省という ことで、外務省の「パスポなび」のサイトを見に行くと、「ソフトウェアとドキュメントのダウンロード」というページがあって、 図6のように、「Javaライブラリ」「申請データに電子署名を付与する際に必 要」として、 http://www.ryoken-inq.mofa.go.jp/fw/dfw/csv/direct/dl/JAVAlib.exe に置かれたファイルが配布されている。
これも茨城県や長崎県が配布しているものと同一のようだ。そして、「著作権 及びその他の知的所有権は、外務省に帰属します」という表示が現れる。
ただし、どういうわけか「初めて申請する 電子申請」という別のページ から入っていくと、 図7のように、「Apache Software使用に関して」という注記があり、 「著作権・使用許諾・通知事項」というリンク先で、Apache Licenseの全文と、 「This product contains software developed by The Apache Software Foundation」 という文言などが書かれている。
しかしここで配布されているJAVAlib.exeも、「著作権及びその他の知的所有 権は、外務省に帰属します」と主張して、Apacheについては触れていない。
Apache Licenseは、このようにWebサイトに注意書きしておくだけで済まされ るものなのだろうか?
では、法に厳格であるはずの法務省の配布物はどうなっているだろうか。
法務省オンライン申請システムは「事前準備」のページで、独自のファイル「installer.exe」を配布している。これを実行すると、 図8のような使用許諾契約書が現れる。
第4条(著作権)
本システムの著作権は法務省が保有しており、国際条約及び著作権法により保 護されています。
2 本システムには、法務省に対するライセンス付与者(以下「供給者」とい う。)が権利を保有するソフトウェアが含まれています。
3 本システムはシステム利用者に対し、本使用許諾書に従い、非独占的に使 用許諾されるものであり、本システムの著作権が譲渡されることはありません。
「ライセンス付与者が権利を保有するソフトウェアが含まれています」 ……なるほど、これは万能な表現だ。どこにでもコピーペーストして使える。 下まで見ていくと、附則より下の部分に、図9のように
本ソフトウェアには、IBM XML Parser for Java Edition が含まれている他、Apache Software Foundation(http://www.apache.org/)により開発されたソフトウェアが含まれています。
と書かれている。
これでよいのだろうか……よくわからない。
よくわからないが、C:\moj\ にインストールされたファイルを見に行ってみ ると、図9のように、ApacheのLicenseファイルは見当たらない。 こんなのでよいのだろうか?
法務省はきちんと考えがあってやっているのだろうが、岡山県の事例のように、 地方自治体がそれぞれこうやって独自の著作権を主張するソフトウェアの配布 をこれからするようになっていくだろうと思うと、ゾッとしてくる。
政府発注のシステムにオープンソースプロダクトを使うのを広めるのはよいに しても、ライセンスの処理の方法などはガイドラインでも用意しておかないと、 何も考えない役所は、開発者のお遊び気分のままのような代物を、そうとは知 らずそのまま出してしまうのではなかろうか。
ライセンスに対する意識の低さ、随分前から気になっているのだがどうにかならないもの...
高木浩光先生の自宅の日記より [http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20050718.html:title] 岡山県と外務省がApacheライセンスのライブラリを、自分の著作物と主張しているという記事。 岡山県のほうをダウンロードして起動してみたんですが、 3 インストールツールに関す..