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高木浩光@自宅の日記

目次 はじめに 連絡先:blog@takagi-hiromitsu.jp
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2004年10月02日

「一切の著作権その他知的財産権」という定型句

私としても、たまたま発見したこの件について、この状況でどのようにするのがよいのかいろいろなケースを想定して悩んだ上で、適切な解決のためにはこうするのが最善であるとの結論に至り、以下のことを日記に書き留めておくしだいです。

7月20日の夜、次のことに気付いた。Webページの日本語文に読み仮名をふって表示するWebブラウザソフト「れじぶら」が、「KAKASI」を使っている。このことはインストールしたディレクトリ(図1)を見て気付いた。

図1: 「れじぶら」のインストールディレクトリ

「KAKASI」はGPLで配布されているプログラムであるが、「れじぶら」には、インストーラの画面においても、配布ページにおいても、インストール後のディレクトリにおいても、GPLに関する記述はみあたらず、「KAKASI」を使用しているという説明もない。同梱のファイル「license.rtf」には次のように書かれている。

(略)

2.知的財産権

(1) 当センターは、本ソフトウェアの一切の著作権(プログラム・画像・ドキュメント等を含む)、その他知的財産権を保有しています。

(2) ご利用の皆様は、本ソフトウェアまたはそれらに包含される内容(コンテンツ)を、一部あるいは全部を問わず複製、公開、送信、頒布、貸与、翻訳、翻案、使用許諾、転載、再利用、修正、改変、表示、上映、出版、二次的著作物の作成、譲渡あるいは販売しないことに同意するものとします。

3.禁止事項

(1) ご利用の皆様は、本ソフトウェアについて、修正、改変、二次利用、譲渡または再利用許諾を行うことはできません。

(2) ご利用の皆様は、本ソフトウェアについて、リバースエンジニアリング、逆コンパイルまたは逆アセンブルを行い、またはその他の方法でソースコードを解読することはできません。

(略)

れじぶら 使用許諾契約書, 国立教育政策研究所教育研究情報センター

これと同様の文は、「れじぶらのダウンロード」のページに現在も記載されている(図2)。

図2: 「れじぶらのダウンロード」<http://www.nicer.go.jp/legibler/download.html>より引用

「れじぶら」がどのように「KAKASI」を使用しているのかについて、「れじぶら」の前身である「れじぶる」というソフトウェアについて書かれた、以下の論文で知ることができた。

  • 榎本聡,室田真男,清水康敬, 漢字かな自動変換機能等を備えたインターネット学習システムの開発, 電子情報通信学会論文誌, Vol.J83-D1, No.3, pp.384-394 (2000年3月).
    漢字かな変換を行うことができるソフトウェアとして、kakasiが公開されている。kakasiは、「最長一致法」という手法により、日本語の分かち書きを行い、漢字かな混じり文をひらがなやカタカナ、ローマ字変換することができる。付属する辞書のkakasidictには、「漢字」とそれに対する「読み」がテキスト形式で登録されている。

    本システムでは、kakasiを改良して学年別漢字かな変換機能を実現した。なお、kakasiはGNU Public Licenseのもとで改変が認められているソフトウェアである。

    2.2.2 学年別漢字かな変換辞書

    公開されているkakasiとkakasidictでは、入力された文章をすべてひらがなにすることしかできない。漢字表記レベルに応じた変換を実現するために、学年別の漢字かな変換辞書を作成した。

    学年別漢字かな変換辞書は、既に習得した漢字の「読み」の部分を漢字に置き換えることにより作成した。学年による習得漢字は、学年別漢字割当表[9]及び常用漢字表[10]をもとにした。図4にその一部を示す。

    (略)

    この変換のために、kakasi 2.2.5を改良した。kakasiは、ローマ字変換の機能も実現するために、変換後の表記に漢字が含まれることを許していない。そこで、kakasiのソースファイルにおける、辞書の「読み」の部分(略)にかな以外の文字が含まれているかどうかをチェックする部分を取り除いた。

    また、インターネット上の任意の情報に対して、漢字かな変換を実現するため、漢字かな変換プログラムをCGI (Common Gateway Interface) アプリケーションにすることにより、WWW上から利用できる「漢字かな自動変換機能」を実現した。

このコンテンツ変換ゲートウェイは、「れじぶる」という名称で以下のURLのページで運用されている。

http://www.nicer.go.jp/cgi-bin/legible/legibleNC/index.cgi

「れじぶる」のプログラムは配布されなかったようで、ゲートウェイサービスのために使うのは、(同じくGPLで配布されている)NamazuをWebサイトで使うのと同じことだから、GPL上、適切な利用である。

それに対して「れじぶら」は、「れじぶる」と同じ機能をWebブラウザとして提供する(クライアント側で独立して動作するプログラムとして提供する)ものとして後に製作され、インストーラの形で配布されるようになった。

このような改変著作物の配布形態が、「KAKASI」の著作者の許諾を得てのものかどうか、7月21日から26日にかけて、原作者の高橋裕信さんに連絡をとって確認した。(「KAKASI」の配布物には、高橋さんの連絡先が古いものしか記載されていないため、当初、高橋さんへの連絡手段が見つからず右往左往したが、たまたま知人のつてで現在の連絡先がわかり、直接お会いしてお話する機会が得られた。)

高橋さんは、この件について個別の許諾をしていないとのことだった。「KAKASI」は、「SKK」の辞書を元にして作ったもので、「SKK」がGPLでの配布となっていたため、必然的に「KAKASI」もGPLでの配布となったのであり、「GPLに従って利用してくだくしかないです」とのことだった。自分だけの著作物ではないのであり、皆でGPLの下で発展させてきたものだから、自分の一存でGPLに従わない利用を許諾することはあり得ないということだった。

高橋さんからうかがったところによれば、「SKK」の辞書は、毎年たくさんの協力者達による辞書の提供を受けて、次第に語彙が充実させられていったものなのだそうだ。まさにGPLの考え方に則って、皆で少しずつ協力して利益を得て共有するという、GPLに相応しいプロジェクトだったようだ。「KAKASI」では、第二水準漢字の読みを整備したり、たくさんの提供者からの辞書を統合する作業など、大変な手間がかかったとうかがった。

「れじぶる」の論文の図によれば、「れじぶる」は、「KAKASI」の辞書をそのまま幼稚園および小学校1年用の辞書として使い(すべてがひらがな)、そこから自動変換で派生させた辞書「1nen_dict」を小学校2年用として使う(辞書内の小学校1年で習得する漢字のエントリについてひらがなが漢字に置き換えられている)という仕組みのものらしい。「れじぶら」のインストールディレクトリの「dict」の中もそのようになっている(図3)。

図3: 「れじぶら」のインストールディレクトリ

このようにして作られた辞書およびプログラムからなる二次的著作物を、ソフトウェアパッケージとして配布するにあたって、

本ソフトウェアの一切の著作権(プログラム・画像・ドキュメント等を含む)、その他知的財産権を保有しています。

一部あるいは全部を問わず複製、公開、送信、頒布、貸与、翻訳、翻案、使用許諾、転載、再利用、修正、改変、表示、上映、出版、二次的著作物の作成、譲渡あるいは販売しない

とするのは、あまりにもあんまりだと思う。

高橋さんは、7月末ごろに第三者を通じて、「れじぶら」の配布者で「れじぶる」論文の著者である、国立教育政策研究所教育研究情報センターの清水康敬センター長に、どういうことなのかと打診したそうだ。そうしたところ、配布を中止して近いうちに謝罪するとのことだったそうだ。

たしかに、8月上旬にサイトを見に行ったところ、「れじぶらのダウンロード」のページは、「メンテナンス中のため、現在ダウンロードを中止しております。」という表示に変わっていた(図4)。無事に円満に解決しそうだとホッとしていた。

図4: 「れじぶらのダウンロード」<http://www.nicer.go.jp/legibler/download.html>より引用

ところが、それから2か月が経過した現在も変化がない。著作権表示はそのまま今も掲示されている。

先日高橋さんにお会いして、どうなりましたかときいてみた。すると、先方からの説明の連絡は一度もないのだという。先方から説明の連絡があってしかるべきだから連絡を待っているとのことだった。だが、この様子だとこのままフェードアウトになりそうだと、ふたりして心配になった。そもそも配布中止の理由が「メンテナンス中」というところからしておかしい。

センター長の清水康敬先生は、文化審議会著作権分科会の委員も務められ、特に、著作権法改正で「教育機関等での著作物活用の促進」を盛り込むべく、かねてより「コンピュータ、インターネット等を活用した著作物等の教育利用に関する調査協力者会議」などを通して多大なる貢献をなされた方で、著作物の利用のあり方等には大変造詣の深い先生でいらっしゃる。

今後についてはGPLに従っていただくとして、これまでの件を解決するには、どのような誤りがあったのかを正確に認めて自ら公表していただければよいと、高橋さんはお考えのようだ。清水先生ならば必ずや適切に事後処理なさるはずだと思いたい。

ところで、文化庁のサイトで「GPL」で検索してみても一件もヒットしない。文部科学省のサイトでも2件しかヒットしない。プログラムの二次利用文化について、著作権法を預かる文化審議会でどのように認識されているのか知りたいと思った。

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