リスクコミュニケーションという考え方があるらしい。主に化学物質などが自然・生活・都市環境に与える影響について対象としているようだ。情報技術やプライバシーは対象となっていないようだ。
経済産業省製造産業局化学物質管理課のサイトにある「こんな思いこみはしていませんか?」はなかなか興味深い。
- 環境対策が決まるまで情報は公開すべきでない。
- 情報を出すと世間が混乱する。リスクについて情報公開すれば、住民はパニックになる。
- 住民は、科学的な情報は理解できない。住民はゼロリスクを求める。
- コミュニケーションにわざわざ人や時間を割く必要はない。
- マニュアルを作ったから、問題が起こっても対応できる。
リスクコミュニケーションがどのようなものかを知るには、たとえば、三井情報開発総合研究所の田島哲也氏の時事コラム「リスクコミュニケーションについて」がわかりやすいかもしれない。
リスクコミュニケーションとは、企業活動等に際して安全・衛生・環境等面で大きなリスクが発生する可能性のある活動を行なう場合、リスクを負う可能性のある関係者(職員、地域住民等)に対してそのリスクの性質・内容等について周知させ関係者の注意を喚起し、関係者からの不安・警戒・疑問等に答えるととも、関係者からの指摘を自己のリスク管理に取り入れることによりリスクの削減を図ることである。(略)
検索してその他のページも見てまわったところ、どうやら、リスクコミュニケーションというのは、基本的には、専門家が分析して結論を出したリスク評価を、行政や企業が一般市民に対して「説得する」ためのコミュニケーション手法のことを指すらしい。コミュニケーションによってリスク分析が進むという話ではない。
ただし、上の田島氏の概説にもあるように、「関係者からの指摘を……取り入れることによりリスクの軽減を図る」ということも、リスクコミュニケーションの意義として謳われているようだ。実際に一般市民の声が専門家の分析を覆すことは、めったには起きないだろうが、その可能性があることを前提としたコミュニケーションを図ることによって、単に不安・警戒を抑えるということだけでなしに、リスク評価を行う者に緊張感を与え、他の意図にそそのかされて評価を誤るという事態を防止できる効能があるのだろう。
さて、IT分野でのリスクコミュニケーションの現状はどうなっているだろうか。化学物質がもたらす環境リスクと、情報技術がもたらすプライバシーリスクとには、どのような違いがあるだろうか。いろいろと論点がありそうだ。列挙し始めると長くなりそうなので今日はやめておく。
ひとつだけ挙げておくと、そもそもIT分野でのリスク分析は、専門家の間でもあまり進められていないのではないかということがある。暗号の強度については専門家による評価が行われてきたが、暗号以外の部分の欠陥がもたらすリスクとか、その他の技術のプライバシーへの影響といったことは、化学物質の環境リスク研究などと比べると、研究分野、研究体制として確立していないように思えるが、どうか。
専門家の評価体制ができていないものを、リスクコミュニケーションだと言って「説得」しようとするのはおかしい話だ。リスクコミュニケーションの定義に反する。
「消費者に理解されていない「ICタグ」」より。
いきなりだが,結婚したばかりの友人から送られてきた電子メールを紹介したい。このメールが届いたのは,7月下旬のこと。ちょうど記者が,日経コンピュータの8月11日号で「ICタグの真実」と題した特集記事を執筆している最中だった。
ごぶさたです。最近よく記事で目にするゴマ粒チップについて聞きたいのですが,このチップを埋め込んだシールを作って自分の大切なモノに張っておくと,GPSなどの位置情報システムと連動して所在地が分かるの? 実は,1週間前に奥さんからもらった誕生日プレゼントの定期入れを,定期や免許証と一緒に落としてしまいました。それで,ゴマ粒チップを使って発見できたら便利だなと思った次第です。
結婚一年目の誕生日プレゼントが定期入れとは、なかなか堅実なご夫婦だ。それを紛失とは、さぞかし痛恨の極みのこととお察しする。