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高木浩光@自宅の日記

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2010年04月01日

Nyzilla Pro版、ストリーミングプレーヤ搭載へ

昨年12月にリリースした「Nyzilla」には、非公開版の「Pro」(プロフェッショナル)バージョンがあり、通常版では先頭1ブロックの48バイトを確認できるだけだったところ、Pro版では、ファイル全体をダウンロードして保存する機能を持ったプロ仕様になっています。

画面キャプチャ
図1: 「Nyzilla Pro」のダウンロード保存機能

もちろんこれは、公衆送信を伴わない真の意味でのダウンロードであり、ファイル共有ではありません。しかも、Nyzillaの本来の機能により、既にファイルを保持して公衆送信している相手に接続して、そこから直接コピーして入手するものなので、通常のWinnyを使って入手する場合の「複製を増やしてしまいかねない」といった懸念を払拭できるという、まさにプロ仕様になっています。

昨年12月の時点では、いかなるファイルもこの方法で適法にファイル内容の確認ができました。ところが、今年1月1日の改正著作権法の施行により、映画と音楽については、内容確認を適法に実施することが困難になってしまいました。

この問題については、2007年11月に「私的録音録画小委員会中間整理に対する意見」としてパブリックコメントを提出しています。

概要

正当な目的での私的複製が違法となることを避けるために、複製する行為を違法とするのではなく、複製した著作物を「再生」する行為(「録音録画」であれば視聴*1する行為)を違法とするか、あるいは、当該著作物を「再生」する目的(「録音録画」であれば視聴する目的)で複製する行為を違法とするべきである。

説明

(略)本件私的録音録画小委員会中間整理の打ち出した著作権法見直し案に従って第30条が改正された場合、P2Pネットワークから情を知ってファイルをダウンロードすることが違法とされることから、ウイルス発見の調査を適法に行うことが不可能となるおそれがあると考える。(一部のP2Pネットワークにおいては、その流通するファイルの大半が違法に送信可能化されているものと指摘されているので、そこからファイルを無作為に入手する行為が「情を知って」複製する行為とみなされてしまう。)

私的録音録画小委員会中間整理に対する意見, 2007年11月15日の日記

この懸念は、私の特殊な杞憂だったわけではありません。2007年12月28日の「私的録音録画小委員会中間整理に関する意見募集の結果について」によると、ウイルス解析を生業としているプロの方からも、同様の懸念を表明する意見が提出されていたのです。

私は「反対」です。

私はマルウェア(コンピュータウイルス・トロージャンなど)の調査と解析を行う仕事に従事しています。マルウェアの中には

1.違法に公開されたコンテンツに偽装しているもの
2.違法に公開されたコンテンツと一体で公開されているもの

があります。私はそのようなマルウェアもダウンロードして解析しています。

前者(1)の場合に対象となるマルウェアを入手するために、本当に違法に公開されたコンテンツかもしれないファイルをダウンロードする必要があります。

後者(2)の場合、違法に公開されたコンテンツであることを承知の上でダウンロードしなければなりません。

違法に公開されたコンテンツのダウンロードが違法化されれば、このようなマルウェアに対する調査が困難になります。

マルウェアの解析は一刻を争そうものであり、著作権者の許諾を求めたり何らかの手続きを行っていては被害が拡大してしまう可能性があります。

(略)違法にコンテンツを公開する人とダウンロードする人、それに著作権者という3者の存在しか想定されていないように思えます。(略)

私的録音録画小委員会中間整理に関する意見募集の結果について - 違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画, p.179, 「個人」からの意見

これらの懸念への回答が提示されることもなく、改正法は成立し、施行されています。

このままでは、ウイルスの調査に限らず、P2P型ファイル共有の実態が一般世間から隔絶され、見えなくなくなってしまい、社会の危険は増すばかりだと心配です。

そこで、私は本日4月1日、Nyzilla Proにストリーミングプレーヤ機能を搭載することを決意しました。

画面キャプチャ
図2: 「Nyzilla Pro Streaming Player」の想像図

Nyzilla Proストリーミングプレーヤでは、Winnyプロトコルのコマンド21でデータブロック(64キロバイト)を受信したとき、データを(ファイルに書き出すことなく)そのままメディアプレーヤコンポーネントに渡して、随時再生するというものです。プレーヤは巻き戻しもできず、受信したデータは随時消滅していきます。

つまり、このプレーヤによる再生は、改正著作権法で問題とされている「複製」にはあたらず、完全に適法な実態調査が可能となると期待できます。

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*1 パブリックコメント提出時には、ここを「試聴」と書き間違えていた。ここで訂正。


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