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高木浩光@自宅の日記

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2021年07月12日

郵便事業がコモンキャリアを逸脱すれば郵便物を差し出す事業者が個人情報保護法に抵触する

総務省の郵政行政部が「デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」の最終報告書(案)のパブコメ募集をしていたので、先ほど急いで書いて提出した。


「『デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会』最終報告書(案)」に対する意見

東京都墨田区在住 高木浩光
2021年7月12日

意見1 仮名加工情報に過大な期待が見られるが制度に誤解があるのでは

報告書案5頁には、「こうしたデータ活用のためには、たとえば令和2年改正後の個人情報保護法の定める『仮名加工情報』の仕組みの利用が考えられる」とあり、13頁には、「特定のエリアにおける郵便物の動き(配達データ)等を分析し、地域の経済活動の見える化やグループ内でのエリアマーケティング等に活用」の手段として「仮名加工情報」の利用が例示されているが、そもそも、個人データを仮名化することは、統計量への集計の前段階の処理として、ごく普通に従前から行われてきたごく一般的な手法であり、個人情報保護法の令和2年改正によってはじめて可能となるものではない。令和2年改正の仮名加工情報の制度は、そのような処理を行う場合に、一定の規制に服するのを条件に、開示・訂正・利用停止等の義務が免除され、本来目的用途を終えた後、本来は当該個人データの消去の努力義務が課されるところ、仮名加工情報に加工しておくことで消去の義務なく、将来の統計量への集計のために温存しておくことができるようになる点が新しい制度である。

すなわち、本件報告書が想定する状況において、令和2年改正の施行を待つまでもなく、「こうしたデータ活用」は可能だったのであり、仮名加工情報を持ち出すまでもない話である。本件報告書が公表されることで、仮名加工情報に対する誤解がさらに広まる危険があるので、誤解を招かない記載ぶりに改められたい。

意見2 「配達データ」の利用は「モバイル空間統計」と同一視できない

報告書案12頁には、「必ずしも同意を必要としない新サービス」として、「配達データ等の活用」とあり、「『モバイル空間統計ガイドライン』(略)といった先例を参考に」とされているが、モバイル空間統計は郵便とは事情が異なるのであり、参考にすることはできない。

モバイル空間統計は、通話やデータ通信の履歴そのものを用いるものではなく、携帯電話サービスを実現する手段として携帯電話事業者が把握している携帯電話端末の存在する基地局位置情報を用いて統計量に集計しているものである。これを郵便と対比させるなら、「配達データ」それ自体は、携帯電話の通話やデータ通信の履歴そのものであり、通信の秘密(信書の秘密)に直接係るものであるから、「配達データ」を利用することを「モバイル空間統計」と同一視するのは不適切である。

たとえ統計量への集計であろうとも、現状において、携帯電話事業者が(さらには電気通信事業者一般が)通話やデータ通信履歴を集計して、本件報告書が想定するような「データ活用」(「配達ルートの最適化」など正当業務行為として許されるような本来用途を超えたマーケティング利用)を行なっている事実はない。このことは、個人情報保護法令和2年改正で導入される仮名加工情報の制度を利用しても正当化されることはない。なぜなら、個人情報保護法の法目的と通信の秘密(信書の秘密を含む)の法的利益は別のものだからである。

モバイル空間統計(のうち、どの区画に人が多いかの集計情報)に近いものを挙げるならば、郵便局内で把握されている各局ごとの業務の取扱量から計算できるものであり、個々の「配達データ」を利用する必要性がない。また、モバイル空間統計で得られる移動の統計量(どの区画からどの区画へ移動した人が多いか)に相当するものは、転居に伴う「転送情報」の統計量ということになるであろうから、その点に限っては報告書案の記載は誤りではないので、その場合に限った記載ぶりに改めるべきである。(もっとも、転居に伴う「転送情報」は、極めて低頻度の人の移動を表すものであるから、モバイル空間統計の移動の統計量に匹敵するほど有益な情報は得られず、大して役に立たないことが予想される。)

意見3 「配達原簿」「配達データ」の利用は「非特定視聴履歴」と同一視できない

報告書案12頁には、「必ずしも同意を必要としない新サービス」として、「居住者情報(配達原簿、転送情報)、配達データ等の活用」とあり、「放送業界の『オプトアウト方式で取得する非特定視聴履歴の取扱いに関するプラクティス(ver.2.0)』といった先例を参考に」とあるが、「非特定視聴履歴」は元より個人の氏名を含まない履歴についての話であって、「配達原簿、転送情報」「配達データ」はいずれも、個人の氏名を含む履歴であるから、全く関係のない話である。「配達原簿、転送情報」「配達データ」から氏名を取り除いても、「非特定視聴履歴」に相当する「非特定配達データ」のようなものにはならず、せいぜい「個人情報である仮名加工情報」(個人情報保護法令和2年改正における)に当たるものにしかならないから、放送業界における「非特定視聴履歴」の議論は全く当てはまらないものである。

そもそも、総務省「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」の検討状況を傍聴する限り、構成員からオプトアウト方式による「非特定視聴履歴」の利用について否定的な意見が出ているように、「非特定視聴履歴」なる概念自体が、個人情報保護法平成27年改正時の混乱から出た不適切な取り組みであって、今後に期待できるものではないことを把握するべきである。

意見4 居住者情報の地図事業者へのオプトアウト方式での販売は令和2年改正後は実現できない

報告書案13頁に記載の「地図情報を利用している事業(サービス)との協業、当該事業を行う者に対して居住者情報を一定程度含むデータを提供・販売」とある構想は、個人情報保護法23条2項に基づくオプトアウト方式による第三者提供が想定されているものと推察されるが、他方で、その受領者となる「地図情報を利用している事業」もまた、これまで、個人データを含む地図情報の提供事業は個人情報保護法23条2項に基づくオプトアウト方式で許されるものと理解されてきたことからすると、報告書案が構想する「販売」は、二重のオプトアウトとなり、個人情報保護法令和2年改正で新たに禁止される行為(改正後23条2項「ただし、第三者に提供される個人データが(略)他の個人情報取扱事業者からこの項本文の規定により提供されたもの(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)である場合は、この限りでない。」に当たる。)ということになるので、実現することはできない。

意見5 郵便がコモンキャリアとしての土管業から逸脱すれば郵便物の差出人の行為が個人情報保護法違反となりかねない

報告書案9頁には「グループ各社・各社内に分散している『ID』(利用者との接点)の一元化を行い、単一のIDでグループの全てのサービスを利用可能にする。」「グループ全体での共通顧客データベースの構築に取り組む。」との記載、12頁には「EC事業者と連携し、両者が保有するデータのより高度な活用」との記載があるが、これがもし、郵便事業についても一元化し、「配達データ」や「配達原簿」を一元化して記録し処理することを意味しているのだとすれば、致命的な制度破綻をもたらすことになるので、そのような計画は避けなければならない。

個人情報保護法上、郵便を利用する側の一般の事業者が郵便物を差し出す行為が、郵便事業者への個人データの第三者提供として同法23条に抵触することがないのは、郵便事業がコモンキャリアとして土管業に徹していることを前提に、個人データの第三者提供に当たらず、さらには、個人データ処理の委託(同法23条5項)にも該当しないものとして理解されていることによるものである。これは、郵便事業が、郵便の配達に伴って扱うことになる差出人や宛名を、あくまでもコモンキャリアとして通信を実現するために使用しているだけであって、独自に個人データとして処理しているわけではないからである。

それにもかかわらず、本件報告書が言うように、もし、郵便事業を含めて他の事業と「一元化」し、「配達データ」や「配達原簿」を一元化して記録する事態となれば、それは郵便事業者がそれらの差出人や宛名を個人データとして処理することになるのであるから、郵便を利用する側の一般の事業者が郵便物を差し出す行為が、郵便事業者への個人データの第三者提供ということになって、本人同意かオプトアウト手段の提供が必要となるか、または、郵便事業者への個人データ処理の委託ということになると考えられる。個人データ処理の委託ということになれば、郵便物を差し出す事業者には、委託先の監督義務(同法22条)として郵便事業者の安全管理を監督する義務が課されることになるが、全く現実的でない。

このことはクラウドサービス事業においても共通するところがあり、PaaSやIaaSの事業者が、その事業において手にすることになるデータについて、個人データとして認識して処理することになれば、当該クラウドサービスを利用する事業者には、委託先の監督義務としてクラウドサービス事業者の監督義務を負うことになって、全く現実的でないところ、PaaSやIaaSはデータ内容に一切感知しないことを前提としているが故に、そのような義務が課されないことになっている(個人情報保護法ガイドライン通則編Q&A Q5-33)ものである。同様に、もし、電気通信事業者が、通話やデータ通信の履歴を記録し、契約者の個人データとして独自の目的で処理するようになれば、個人情報取扱事業者が個人に電話をかける行為も、電話番号の電話会社への第三者提供又は電話会社への個人データ処理の委託に該当することになって、全く現実的でない事態となる。

このように、通信の履歴や信書の配達データを独自に利用することが許されないのは、通信の秘密(信書の秘密)保護の法的利益のみならず、個人情報保護法制が、コモンキャリアはそうした独自の利用をしないことを当然の前提としてきたことによるものである。それ故、もし、本件報告書が言うような計画が実現されれば、致命的な制度破綻をもたらすことになりかねない。

仮に、本人同意のある受取人についてのみ「一元化」を実施するようにしたとしても、差出人から見ると、受取人がそのような同意をしておらず「一元化」されていない場合には、個人データの提供に該当しない一方で、受取人がそのような同意をしていて「一元化」されている場合には、個人データの第三者提供(本人同意に基づく)という扱いになるが、第三者提供の場合には、第三者提供に係る記録の作成義務(同法25条)を負うことになるので、全ての郵便を利用する事業者に無用な負担をかけることになるし、受取人がそのような本人同意をしているかを事前に把握することもできない。

以上


要するに、ろくに現行制度の理解もなく提言するもので、ずさんな検討と言わざるを得ない。このような方向性の原案を打ち出したのは、同懇談会の「データ活用WG」のようだが、非公開で行われており、「議事要旨」もほとんど内容が記録されていない。構成員は以下の面々であるが、誰が何を言ったのかは不明だ。

デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会 データ活用WG 構成員名簿

【構成員】

谷川史郎 東京藝術大学客員教授 (主査)
高口鉄平 静岡大学学術院情報学領域准教授
小林慎太郎(株)野村総合研究所上級コンサルタント
中川郁夫 大阪大学招へい准教授(株)エクスモーション フェロー
中村伊知哉 iU学長

【オブザーバー】
日本郵政株式会社
日本郵便株式会社

データ活用WG開催要綱、コンプライアンスWG開催要綱

報告書(案)には、「留意点等をまとめたガイドラインの制定等(「郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドライン」の改正を含む。)を検討することが求められる。」とあるので、そこで実際に可能なのかが専門家らにより検討されるものと思われる。今後の郵便事業分野ガイドラインの改正に要注意であり、一般の個人情報取扱事業者も他人事でない。


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