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高木浩光@自宅の日記

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2007年12月25日

「ダウンロード違法化」で漏洩情報のWinny流通を抑止できるか

11月の情報ネットワーク法学会大会の個別発表で、「匿名ファイル交換ソフトで違法複製物をダウンロードした者の法的責任」というご発表があった。その際に私は質問をしたのであるが、その意味するところは聴衆の方々にもわかりにくいものだったと思われるので、その趣旨をここに書き留めておくことにする。その前に、その考察に至る背景から。

「ダウンロード違法化」を望むのは権利者だけではない

いわゆる「ダウンロードの違法化」、つまり、違法複製物又は違法配信からの録音録画を著作権法30条の適用対象外とする著作権法改正に向けた文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会の検討は、昨今の反対派の論調では単純に「権利者(流通業者)の横暴」とみなされているようだが、私には、それとは別の動機によって(を伴って)推進されているように感じられる。

それはつまり、公務員がWinnyを使用して機密情報を漏らす事故を無くすため、職員にWinnyの使用を禁止する法的根拠を必要としているのではないか――ということだ。

昨今の「ダウンロード違法化」に反対する意見からは、権利者の利益保護の観点からは実効性に疑問があるとの声が聞こえてくる。「違法着うたサイト」については公衆送信権侵害ないし送信可能化権侵害で従来通りに取り締まることはできるはずであるし、Winny等でのファイル共有の問題は、今回の「ダウンロード違法化」案では実効性がないという指摘だ。

しかし、警察官や自衛官のWinny使用を止めさせるという観点からは、有効であるかもしれない。

Winny対策としてダウンロードを違法化するという空気は、ずいぶん前から感じていた。Winnyでの情報流出事故がニュースとなるとき、必ずといってよいほど、「巡査長はWinnyを音楽ファイルのダウンロードに使っていた」などの表現で報道されてきたが、これはミスリーディングな表現である。

Winnyはその仕組み上、ダウンロードすると同時にアップロード可能にする構造になっているのであるから、本当は、送信可能化権侵害で違法性がある。もちろん、その仕組みを知らなければ故意が認められないことになるが、それならば、その仕組みを周知徹底すればよい。

私は、Winnyが事件化して以来、何度かテレビや新聞から取材を受けたが、その都度、「ダウンロードするとアップロード可能にすることになる」ことを説明して、それを伝えてもらうよう試みてきた。しかし、残念ながら、いつもどういうわけかその部分を使ってもらえなかった。マスコミはなぜそこを伝えようとしないのか。何か狙いがあるのか、それとも天然なのか。

陰謀論的視点に立てば、「マスコミは著作権を強化したい人たちだから、ダウンロード違法化の機運を作り出すために、あえて『Winnyでダウンロードすることは、道徳的にいかがなものかと思われるが、現行法では違法でない』ということにしたかったのだ。だから、各メディアは、『Winnyでダウンロードするとアップロード可能にすることになる』という事実に触れないよう各社で申し合わせているのだ」と、妄想することもできる。あるいは、情報漏洩事件を伝えるためにマスコミ自身がWinnyを使って情報収集していた(あるいは手先の者にさせていた)ことから、その行為の違法性を問われては都合が悪いので、その部分に触れたくなかったのだという空想も可能だ。

だが、実際のところは、単に何も考えていないためにそうなるのだろうと思う。一昨年2月の「フィッシング報道に見るテレビによる啓発の限界」や、昨年12月の「新聞の意味不明な識者コメントはデスクの解釈で捏造される」でも書いたように、テレビや新聞という超大手メディアでは、一般の人が普通に思っていることしか伝えない構造になっている。一般の人たちの理解において、Winnyで「ダウンロード」する行為が、まさに単にダウンロードするだけのものであるという認識である限り、テレビや新聞はその認識に合わせた表現しかできないのだ。

その結果、テレビや新聞で流出事故のニュースを見た人々は、「警察官も音楽ファイルをダウンロードしてるんだ」「違法じゃないんだね」「じゃあ俺達も使っていいよね」ということになってしまっている。

そうすると、その状況に憤慨する人々が出てくる。それは誰かというと、もちろん著作権の権利者たちもそうであろうが(彼らにとっては昔からの話であってイマサラ感があるはずだ)、もうひとつは、公務員の信用失墜を憂える人たちだ。

これは空想だけれども、たとえば警察の上層部で、「警察官が音楽ファイルをダウンロードとは何事だ!」と怒り心頭の幹部がいたかもしれない。コンピュータの苦手な方からすれば、有料で販売されている音楽を無料で入手すること自体が、直感的に、万引きと同じように感じられるのは不思議でない。しかしそれに対し、警察の法律専門家は、著作権法30条の私的使用に該当するとか、直ちに違法とは言えないといった説明することになるだろう。

そしてその後も、同様の事故が何度も繰り返され、そのたびに「○○県警の捜査情報がWinnyに流出」「巡査は音楽ファイルをダウンロードするためにWinnyを使っていた」と報道される。

これは真に屈辱的なことであろう。となると、著作権法30条がおかしいんじゃないか――という発想が強化されていくのも自然な流れであるように思える。

警察は、職員に対してWinnyの使用を禁ずるにあたり、その根拠の正当性を確保するのに難儀していたのではないかと思う。職場での使用は簡単に禁止できるが、家庭でWinnyを使用することをどういう根拠で禁止できるのか。各地方警察は、内部規定でWinnyの使用を禁止する通達を出していたようだが、それでも使う職員がいて流出事故を起こし続けた。警視庁の大規模流出事件で初めて懲戒免職処分が出たが、免職の根拠は結果責任を問うものであり、「ウイルス作者の悪意が根本の原因であり不可抗力だ」といった理由で不当解雇だと主張されたらどうなっていたことだろう。

そんな中、先週、警察庁が懲戒処分の指針を改正する発表をした。

これでやっと処分にお墨付きが与えられるのだろう。しかし、警察庁のこの発表を見ると、図1のように「関連刑罰法令等」が空欄になっているところに無理矢理感がある。実際、過去に公表された「懲戒処分の指針の改正について(平成14年7月15日)」を見てみると、免職が含まれるものは必ず「関連刑罰法令等」に刑法なり国家公務員法なりの刑罰が挙げられており、ここが空欄な項目はすべて、減給あるいは戒告、ごく一部でも停職のレベルに止まっていることから、刑罰法規がないのに免職というのは異例なのではないか。

本来ならば、図1のこの欄に「著作権法○○条」と書いておきたいところではないだろうか。

もし、著作権法30条を改正し、ダウンロードを違法化できたならば、職員の規律を正すことはやりやすくなる。「Winnyで音楽ファイルをダウンロードするのは違法だ」「警察官たる者、違法行為をしてはならん」と単純に言えるようになる。報道でも、これまでのような「巡査は音楽ファイルをダウンロードするためにWinnyを使用していた」という表現はされなくなり、「巡査はWinnyで違法なダウンロード行為をしていた」とズバリ言われるようになるだろう。そして、すぐに「懲戒免職処分にした」と発表して切り捨てることができるようになる。

そんな考えがあってかどうかは知らないが、官房長官が「Winnyを使わないで」と異例の呼びかけをした衝撃の2006年3月から8か月が経った同年11月、

政府の知的財産戦略本部(本部長・安倍首相)は音楽や映像を違法コピーした「海賊版」をインターネット上からダウンロードすることを全面禁止する著作権法改正に着手する。27日に開く知財本部コンテンツ専門調査会に事務局案を提案。罰則も設け、08年通常国会に提出をめざしている改正案に盛り込む。

海賊版の音楽や映像、ネットでの入手禁止 法改正検討, 朝日新聞, 2006年11月24日朝刊

という報道があり、今年5月に発表された「知的財産推進計画2007」に「私的複製の許容範囲から除外することについて」検討することが盛り込まれ、そして今般の文化庁のパブコメ騒動へと展開しているわけである。

ちなみに、国会議事録を探してみたところ、官房長官が「Winnyを使わないで」と呼びかける一週間前、海上自衛隊から流出した事件について次のやりとりがあったようだ。

○浅野勝人君 (略)海上自衛隊のマル秘文書を含む膨大な業務用データがインターネット上に流出していた問題について、事情をつまびらかにしたいと存じます。

情報が流出したのはファイル交換ソフト、ウィニーのネットワークです。ウィニーは、手に入れたい映画や音楽を検索させると、世界じゅう走り回って、持っていっていいですよとアップロードしている、公開している人のフォルダからもらってきて、こちらのフォルダにダウンロードさせるソフトです。ただし、だれが譲ってくれたかは分からない。つまり、だれか分からない人の郵便受けから映画や音楽をこちらの郵便受けへ無料で運んできてくれるソフトです。逆に、自分の保存している映画や音楽をウィニーにどうぞ持っていってくださいと公開しておくことができます。

(中略)

○浅野勝人君 文化庁に確かめておきますが、ウィニーを使って映画や音楽をただでダウンロードさせるのは著作権の侵害、著作権法違反になりませんか。

○政府参考人(加茂川幸夫君) ウィニーと著作権法の関係についてのお尋ねでございます。

まず、インターネットを通じまして一般的に映画でございますとか音楽でございますとか著作物をダウンロードする行為についてでございますが、これにつきましては、いわゆる私的複製という例外がございまして、一定の範囲内であれば違法に陥ることなく私的複製が許されるわけでございます。

ただ、今お話にございましたいわゆるウィニーを使った場合でございますが、ウィニーはいわゆる不特定多数のコンピューター間でファイルデータを共有、交換するためのプログラムでございますので、これを利用しまして他人の著作物を権利者の許諾なく不特定多数の者に著作物を送信できるような状態に置いた場合、先ほどおっしゃいましたアップロード状態に置くことでございますが、この場合には著作権法上の権利侵害になると考えられるわけでございます。ウィニーの一般的な利用形態はこういうものでございますので、著作権法上問題があると言わざるを得ないと思っております。

○浅野勝人君 分かりやすい。今の説明だと、ウィニーを使って映画や音楽をただでもらってくるのは私的複製で合法だけれども、持っていっていいですよとアップロードするのは著作権法に違反するということですね。

ところが、だれが公開しているのか分からないんですよ。違法行為をしている人が一杯いるのに特定できない、これどうします。

○政府参考人(加茂川幸夫君) 今おっしゃいましたように、ウィニーの利用形態を考えますときに、大変著作権侵害のおそれが高いわけでございますが、著作権侵害を特定します前提となります又は著作権侵害を取り締まる前提となります被害の実態、すなわち、どういう著作物がどのようにして侵害されたかという対象物の特定、あるいは侵害者、だれがこの著作物を侵害したのかといった著作権侵害を認定します構成要件の特定が大変難しいわけでございまして、著作権法上問題があると考えておりますけれども、こういった難しい環境、課題があることも是非御了解をいただきたいと思います。

○浅野勝人君 正直な答弁です。そう思います。全く手を焼いて、手を焼いてて困ったもんだなと思っているという答弁ですよね。世界じゅうそうだから、文化庁で解決できる問題ではない。これからの課題として指摘をしておきますし、取り組む、考えているという答弁だと理解しました。

長官、四十一歳の海曹長は、映画や音楽を交換するためにウィニーを使っていたと言っていると聞いています。これはデータをもらったりあげたりしていたという意味ですよね。著作権法違反の認識はなかったんですか。それはどんな報告を受けてますか。

○政府参考人(西川徹矢君) お答えを申し上げます。

これまで当方の方でこの当該隊員からいろいろ事情聴取をしておりました。その範囲では、彼の目的は映画、音楽データ等の収集を、これを目的として同僚からそういうソフトを譲り受けたと、こういうふうに言っておりまして、そしてまた彼自身も、海自、海上自衛隊そのものでも、実は去年来から何度かこういうウィニーは危険だという講習も受けておりました。

ただ、本人はパソコンについても相当知識がございまして、ウイルスバスターですね、いわゆるそのセキュリティーのソフト等も入れて、ある程度そういうことを自分なりにやっているという気持ちもあったかと思いますが、本人はウィニーによるデータの交換そのものが著作権に違反する可能性はあるということは認識しておりました。しかし、ただ広く世間で使われていることでもあり、特に、いわゆる強いと申しますか、特にこの罪の意識ということが強く持っていたということではなくてこういう事態を起こしたということで、こういう供述の仕方をしている、こういうふうな報告を受けております。

参議院会議録情報 第164回国会 予算委員会 第7号, 2006年3月8日

このやり取りをみても、Winnyで音楽ファイルを入手する行為が、ケシカラン行為であると認識されながらも、はっきりと違法だと言えない状況が見て取れる。この状況から、こうした行為を明確に違法なものと位置付けたいと考えるのは自然な流れであろう。

私もこれまでに何度か、Winnyでの漏洩情報流通の問題を解決するには、Winnyの使用自体を法律で禁止する以外にないということを書いてきた。昨年12月の「Winnyの問題で作者を罪に問おうとしたことが社会に残した禍根」では次のように書いた。

Winnyは、そのような意思を隠せる、あるいはそのような意思をあえて持たないでいられるように工夫されたシステムであったからこそ、今の日本の法制度上、普及したのであり、この性質をなくせば使われないのであるし、この性質をなくさない限り、情報流出事故の被害拡散の防止が実現できない。

つまり、この性質を備えるソフトウェアの使用を法律で禁止する立法を検討するべきだと私は考える。(「squirt」はこの性質を満たさないので対象外となる。)

この性質を備えるWinnyなどのソフトウェアは、コンピュータウイルス(ワーム)と同じ性質を持っていることに注意したい。ウイルス(ワーム)は、害を及ぼす、人の意思に反する動作をさせるなどの特徴の他に、(システム管理者の管理範囲を越えた)自動複製拡散機能を持つことが特徴である。 Winnyは、ワームが止められない(止めにくい)のと同様の原理によって、任意のファイルの自動複製拡散機能を実現していると言える。

Antinnyなどの暴露ウイルスは自動複製拡散機能まで備えていない。Winnyの自動複製拡散機能(管理者の管理範囲を越えた)を利用しているからだ。言わば、Winnyはウイルス(ワーム)プラットフォームであり、(前記の性質を持つ)そのようなソフトウェアの使用は社会的に危険なものと見なすべきである。

(略)

このままでは、著作権の必要性からだけでなく、漏洩情報が流通し続ける社会的危険を回避すべきとの理由まで含めて、ダウンロード行為自体(現行法では自由)を違法なものとして法改正する動きになっていってしまいかねない。ダウンロードは自由であるべきであり、意図せずたらい回しになる仕組みを危険と見なすべきである。

Winnyの問題で作者を罪に問おうとしたことが社会に残した禍根, 2006年12月12日の日記

つまり、私としては、「ダウンロード違法化」以外の法規制によってWinny問題を解決できないだろうかと考えた。(朝日新聞の「ダウンロードを全面禁止する著作権法改正に着手する」という報道を目にして、半月後にこれを書いていた。)

しかし、私が考えるような方法では実現が難しそうなのは承知している。私は現在、「ダウンロード違法化」反対運動に参加しているわけではないので、「ダウンロード違法化」で情報流出問題が解決するなら、それもいいかもしれないとは思う。

ただ、それは、「ダウンロード違法化」による法的副作用による害が無ければの話である。そこで、私も、私的録音録画小委員会中間整理に対する意見を提出した。これについては、11月15日の日記に書いたとおりである。

本件私的録音録画小委員会中間整理の打ち出した著作権法見直し案に従って第30条が改正された場合、P2Pネットワークから情を知ってファイルをダウンロードすることが違法とされることから、ウイルス発見の調査を適法に行うことが不可能となるおそれがあると考える。(一部のP2Pネットワークにおいては、その流通するファイルの大半が違法に送信可能化されているものと指摘されているので、そこからファイルを無作為に入手する行為が「情を知って」複製する行為とみなされてしまう。)

私的録音録画小委員会中間整理に対する意見, 2007年11月15日の日記

「ダウンロード違法化」でWinny流通は抑止されるか

Winnyでのファイルダウンロードは(一部のコアなマニアを除くと)、「地曳」と俗称されるように、キーワードを指定して、そのワードをファイル名に含むファイルを無差別にダウンロードして、後から必要なファイルだけ鑑賞するという、「自動ダウンロード」のスタイルが主流になっている。そして、Winnyをしばらく使っていれば、Winnyにどんなファイルが流れているかは認知することになるから、「自動ダウンロード」を行っていると、キーワードにマッチしてダウンロードしてくるファイルの中に、違法に送信されている著作物も含まれ得ることは、誰でも予見するだろう。

つまり、著作権法が改正されて「ダウンロード違法化」が実現されると、ほとんどの場合、地曳でダウンロードする行為は、違法複製物を「情を知って」ダウンロードする行為となる。

Winnyによるファイル流通はこうした無差別ダウンロードによる拡散が骨格となっているので、これが違法行為となれば、ファイルの拡散が抑制され、流通が縮小すると期待できる。

ところが、そううまくはいかないだろうと私は予想する。(ここからが、情報ネットワーク法学会での質問内容。)

今般の「ダウンロード違法化」の検討では、当初(2006年11月の朝日新聞報道)の「ダウンロードすることを全面禁止する」という威勢のよさとは違って、ずいぶんと限定されたものになっている。それはもちろん、「知的財産推進計画2007」でも、「個人の著作物の利用を過度に萎縮させることのないよう留意しながら検討」とされていたように、違法化することによる副作用に配慮したためであろう。

その最大の譲歩は、ストリーミングは除外するとされた点であろう。「ダウンロード」という言葉が定義を明確にしないままに使われているため混乱が生じしているが、違法化されようとしているのは、インターネットから「ダウンロード(純粋に技術的な意味での)」によって得たデータを、複製物として固定化することを「ダウンロード」と呼んでいるようだ。

そもそも著作権とはcopyrightというくらいで、コピーを作る権利を指すのが基本であったように、コピーを作らないで閲覧する行為と、コピーを作る行為との間には、法律論的に有意な差があるのだろう。

これが、技術の視点で語られると、閲覧するだけの「ストリーミング」であっても、ファイルとしてコピーが作られるような実装もあり得るため、「それも複製じゃないのか」という屁理屈も登場するわけだ。だが、システム的に管理された一時的固定は「複製物を作成するに至っていない」と法的な線引きをすることは可能だろう。cacheフォルダからファイルを取り出すことは出来てしまう場合であっても、それは、取り出した時点で利用者が複製を行ったと見なせばよい。

「ダウンロード違法化」反対派の意見の中には、「ストリーミングとダウンロードは区別できないから」という理由を挙げているものもあるようだが、文化庁は、これを区別することを前提にしようとしているようである。

  • 「ダウンロード違法化」なぜ必要 文化庁の配付資料全文, ITmedia, 2007年12月20日

    【3】キャッシュの取扱い

    ストリーミングに伴うキャッシュについては、著作権分科会報告書(平成18年1月)における一時的固定に関する議論の内容等を踏まえた上で、必要に応じ法改正すれば問題がないと考えられるがどうか。

もっとも、反対派の言い分としては、「そんな区別ができるはずがない」とか、「本当にちゃんと区別してから違法化するのか、信用できない」といった指摘もあるのかもしれない。

ここでは、そうした区別が行われた上で「ダウンロード違法化」が実現されると仮定する。

さて、その場合に、Winnyで「ダウンロード」するのに伴って作成される「Cache」フォルダ内のファイルは、違法複製物にあたるだろうか? YouTubeやニコニコ動画の閲覧で作成されるファイルを複製物でない扱いにする線引きをするならば、Winnyの「Cache」フォルダ内に作成されるファイルも、同様に複製物でない扱いになるだろう。

ここで、図2に示すWinnyの設定項目が問題となる。

この設定はデフォルトでは、チェックなしの状態、つまり、ダウンロード完了時に変換タスクを自動的に起動するようになっている。「変換タスク」とは、「Cache」フォルダ内のファイル(暗号化されている)を復号して、元のファイルに戻す処理のことを指す。

Winnyでファイルの「ダウンロード」操作を行うと、まずは、取得されるデータは「Cache」フォルダ内に置かれる。1つのファイル全体の取得が完了したとき、デフォルト設定では自動的に「変換タスク」が起動し、「Cache」フォルダ内のそのファイルが復号されて、「Down」フォルダに復元されたファイルが作られる。

「ダウンロード違法化」が実現されたとき、そこで言う「ダウンロード」行為とは、「Down」フォルダに複製物を作成した時点で成立するのだと思う。

つまり、図2の「ダウン完了時に変換タスクを起動しない」の設定項目で、「起動しない」設定にしている場合には、キーワード指定で地曳ダウンロードをしても、ファイルは「Cache」フォルダに作られるだけで「Down」フォルダには作成されないのであるから、「ダウンロード違法化」で言うところの「ダウンロード」行為は成立しないことになる。

もちろん、「Down」フォルダにファイルを復元しなければ鑑賞できないのだから、利用者は、必要なファイルを1つ1つ選択して「変換タスク」を起動することになる。そこで、違法なファイルであると「情を知って」変換すれば、違法行為となるであろう。だが、違法でないと確信できるファイルだけ選択的に変換するようにすれば、Winnyで地曳ダウンロードをしても、「ダウンロード違法化」の影響を受けないことになる――と考えられる。

このことは、著作権の権利者達にとっては(直接的には)困らないことだ。なぜなら、「Down」フォルダに復元されないのなら、その著作物は鑑賞されることもないのだからだ。

しかし、漏洩情報のWinny流通を抑止したいという情報セキュリティ屋の立場からすると、これは、「ダウンロード違法化」によって期待した効果は得られないことを意味する。なぜなら、「ダウンロード違法化」が実現されても、地曳ダウンロード(「Cache」内までの)は従来通りに行われることを意味し、ファイルの拡散は抑制されないからだ。

もちろん、権利者たちにとっても、著作物がWinnyネットワークに広く拡散することは損失であるから、復元されなくても「Cache」フォルダに入るだけで「困る」わけだが、その困り方は、従来と同じである。つまり、「Cache」に格納されて拡散していくことが「困る」点は、まさに公衆送信権侵害ないし送信可能化権侵害であり、既に現行法で違法化されている。

以上をまとめると次のとおり。

「ダウンロード違法化」は、著作権の権利者だけでなく、漏洩情報のWinny流通の問題の解決を望む人たちにも期待されているかもしれない。なぜなら、Winnyの自動ダウンロードは「情を知って」違法複製物をダウンロードする結果を招くため、ざっくりとWinnyの利用全般を違法化できるからだ。しかし、「ダウンロード違法化」が複製を伴わない閲覧を除外する前提でなされるなら、Winnyに「ダウン完了時に変換タスクを起動しない」機能が存在することにより、その期待される効果は回避されてしまうかもしれない。となると、「ダウンロード違法化」の効果は、入手する個々のファイルについてそれが違法に送信されていると認識している場合についてであるから、それならば、現行法でも「Winnyでファイルをダウンロードするとそれは同時にアップロード可能にするものであり送信可能化権侵害に当たる」という事実を周知すればよいはずである。したがって、「ダウンロード違法化」の得失を検討する際には、情報漏洩問題の解決になるとは期待せずに、著作権のあり方の問題を優先するのがよいと思う。

関連:

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なんだか久々にこういうのを読むと,その後あの総務省が予算化した10億円のwinny対策はどうしたんだろうか気になって調べてみた。 まず,国がどうしたいのかを書いたのが総務省のサイトにあった。 これとかこれ。 お題目は「情報漏えい対策技術の開発研究」。この研究は..

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