<前の日記(2006年05月10日) 次の日記(2006年05月13日)> 最新 編集

高木浩光@自宅の日記

目次 はじめに 連絡先:blog@takagi-hiromitsu.jp
訪問者数 本日: 1376   昨日: 1737

2006年05月12日

「実行の用に供する目的で」の「実行」とは? その2

7日の「「実行の用に供する目的で」の「実行」とはどのような実行を指すのか?」に対して、引き続きけったいな刑法学者さまよりトラックバックを頂きました。

(略)を作成するということは、同時にその際、(略)を作成するという故意が必要です。

供用目的をもって、客観的に「人の使用する電子計算機についてその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる」不正な指令を作成したけれども、そのような認識がなかった場合は処罰できないし、客観的に「人の使用する電子計算機についてその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる」不正な指令を作成していないときにも、犯罪は成立しない、というのでは、だめなのでしょうか。

また作成罪はいらない?, 続・けったいな刑法学者のメモ, 2006年5月12日

不正指令電磁的記録作成の件で、「故意がなければ処罰できない」の話は、「バグのあるソフトウェア」の話としてならば理解しています。情報処理学会の「 「ハイテク犯罪に対処するための刑事法の整備に関する要綱(骨子)」に関する意見書」の「1.攻撃を意図しない、ソフトウェアのバグや仕様の不完全性を処罰対象としないこと(要綱第一)」は、その典型的な杞憂の例で、その話をしているのではありません。

バグが故意によるものでないから処罰されないにしても、「人の使用する電子計算機についてその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせる不正な指令」をもたらすバグである限り、「一の不正な指令」である事実は揺ぎ無いのですよね。

つまり、処罰されないけれども、規範として、そのようなプログラムを作成してはならないということではないでしょうか?

つまり、日本の刑法に不正指令電磁的記録作成罪を新設することは、「そのような不正な指令を新たに存在するに至らしめることは、プログラムに対する社会の信頼を害することを意味する」という規範を、日本に作るということではないでしょうか。(処罰とは別に。)

バグについては、バグは誰も望んでいないものですから、避けるべきものとする規範が刑法に盛り込まれることについて、抵抗はないかもしれません。(もしくは、既に日本社会にそのような規範は存在していると言える。)

しかし、コンピュータプログラムというものは一般に、その一つが、環境や時刻やユーザや起動方法や他のデータの値などによって、複数の異なる動作をし得る「多態性」を持つわけです。文書偽造における文書が偽造された文書としてしか存在し得ないのとは違います。

あるプログラムについて、ある人たち(甲グループ)が実行したときはその意図通りに動作し、別の人たち(乙グループ)が実行したときはその意図に反する動作をしたというときに、乙グループの人たちはそれを不正指令電磁的記録と客観し得るでしょう。

乙グループの人たちにその意図に反する動作をさせる故意が作者になく、作者を処罰することはないにしても、乙グループが意図に反する動作をしたと客観するようなプログラムを「新たに存在するに至らしめる」ようなことは反規範的であるという規範が、この刑法改正案によって新たに作られるのではないでしょうか。

たとえば、あるプログラマが、.dll 形式でプログラムを作成し配布したとします。これはダブルクリックでは開きません。そしてこれについて詳細な説明書は付いていないとします。わかっている人だけが使ってくれればよいと考えて配布しています。ところが、その一方で、任意の .dll ファイルを右クリックメニューから実行できるシステムが乙グループの人たちのコンピュータに普及したとします。乙グループの人たちが、その .dll プログラムがどういう挙動をするものかよく知りもせず、右クリックメニューで実行したとします。その結果、乙グループの人たちに意図に反する動作をしました。

このような事態を招くことについて作者に故意がなければ、処罰されないのでしょう。

ですが、規範としては、こういうプログラムは作ってはいけないということになるのではないでしょうか。(刑法改正以後において。)

本日のTrackBacks(全100件) [TrackBack URL: http://takagi-hiromitsu.jp/diary/tb.rb/20060512]

「無料のスクリーンセーバー」 「フリー音楽ダウンロード」 「ただのオンラインゲーム」 &amp;nbsp;など、「無料」 「フリー」 「ただ」 といったキーワードを含むものや、「音楽」 「映画」 「ゲーム」 などの比較的単純なキーワード、そしてアダルト・ギャンブル関連な..

不正指令電磁的記録作成の件で、「故意がなければ処罰できない」の話は、「バグのあるソフトウェア」の話としてならば理解しています。 高木浩光@自宅の日記 - 「実行の用に供する目的で」の「実行」とは?

検索

<前の日記(2006年05月10日) 次の日記(2006年05月13日)> 最新 編集

最近のタイトル

2024年04月07日

2024年04月01日

2024年03月23日

2024年03月19日

2024年03月16日

2024年03月13日

2024年03月11日

2023年03月27日

2022年12月30日

2022年12月25日

2022年06月09日

2022年04月01日

2022年01月19日

2021年12月26日

2021年10月06日

2021年08月23日

2021年07月12日

2020年09月14日

2020年08月01日

2019年10月05日

2019年08月03日

2019年07月08日

2019年06月25日

2019年06月09日

2019年05月19日

2019年05月12日

2019年03月19日

2019年03月16日

2019年03月09日

2019年03月07日

2019年02月19日

2019年02月11日

2018年12月26日

2018年10月31日

2018年06月17日

2018年06月10日

2018年05月19日

2018年05月04日

2018年03月07日

2017年12月29日

2017年10月29日

2017年10月22日

2017年07月22日

2017年06月04日

2017年05月13日

2017年05月05日

2017年04月08日

2017年03月10日

2017年03月05日

2017年02月18日

2017年01月08日

2017年01月04日

2016年12月30日

2016年12月04日

2016年11月29日

2016年11月23日

2016年11月05日

2016年10月25日

2016年10月10日

2016年08月23日

2016年07月23日

2016年07月16日

2016年07月02日

2016年06月12日

2016年06月03日

2016年04月23日

2016年04月06日

2016年03月27日

2016年03月14日

2016年03月06日

2016年02月24日

2016年02月20日

2016年02月11日

2016年02月05日

2016年01月31日

2015年12月12日

2015年12月06日

2015年11月23日

2015年11月21日

2015年11月07日

2015年10月20日

2015年07月02日

2015年06月14日

2015年03月15日

2015年03月10日

2015年03月08日

2015年01月05日

2014年12月27日

2014年11月12日

2014年09月07日

2014年07月18日

2014年04月23日

2014年04月22日

2000|01|
2003|05|06|07|08|09|10|11|12|
2004|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2008|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2009|01|02|03|05|06|07|08|09|10|11|12|
2010|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2011|01|02|03|05|06|07|08|09|10|11|12|
2012|02|03|04|05|06|07|08|09|
2013|01|02|03|04|05|06|07|
2014|01|04|07|09|11|12|
2015|01|03|06|07|10|11|12|
2016|01|02|03|04|06|07|08|10|11|12|
2017|01|02|03|04|05|06|07|10|12|
2018|03|05|06|10|12|
2019|02|03|05|06|07|08|10|
2020|08|09|
2021|07|08|10|12|
2022|01|04|06|12|
2023|03|
2024|03|04|
<前の日記(2006年05月10日) 次の日記(2006年05月13日)> 最新 編集