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高木浩光@自宅の日記

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2003年10月02日

WIDEよ、おまえもか

噂に聞いていたRFIDタグ搭載本にはタグを無効にする方法が説明されていると聞き及んでいたのだが、それがWebに出ていることを知った。

これについて問題点を指摘してみる。

RFIDと個人情報やプライバシーの問題について、現在、インターネットや新聞、雑誌などで、さまざまに話題にのぼっています。

この本には本物の、機能するRFIDタグが付録としてついています。

RFIDタグは電波を使って、そこに書きこまれている情報を、離れたところから読みとることのできるものです。電波は目に見えないので、知らないうちに他人からRFIDの情報を読まれてしまう可能性があるため、個人情報やプライバシーの問題が心配されているのです。

『インターネットの不思議、探検隊!』についているRFIDタグと個人の情報について

ここまではよいとして、

流通用のタグやバーコードなどとは違い、書店にはこのタグを読みとるリーダは設置されていません。本を買うとき、持ち歩いているときはもちろんインターネットを使ってサイト上で自分の意志で登録しないかぎり、タグの個体番号と個人情報との結びつけはおこなわれません。ですから、仮にこのタグをだれかが読みとったとしても、個人の情報をそこから探すことはできません。

『インターネットの不思議、探検隊!』についているRFIDタグと個人の情報について

これはどういう意味なのか。

「本を買うときや持ち歩いているときに、インターネットを使ってサイト上で登録しない限り」という意味だろうか。それはおかしい話だ。4月のネット時評で書いたホテルでのチェックインの事例のように、インターネットを使うこととは関係なく、タグの個体番号と個人情報は結びつき得る。

そうではなく、これは単に文章がうまくないだけで、実は、「本を買うときや、持ち歩いているとき、またインターネットを使っているとき、自分の意思で登録しない限り」ということを言いたいのかもしれない。だとしたらそれは正しい。それはつまり次のことを意味する。

この本を買うときや、この本を持ち歩いているときに、個人情報を提供すると、その個人情報はこの本の個体番号と結び付けられる可能性があります。個人情報を提供する際には、この本を身近に置いていないか意識する必要があります。
なぜこのように説明しないのだろうか。

そして最後は次のように締めくくられている。

しかしながら、RFIDタグがついているということだけでも、心配をされる人がいるかもしれません。

『インターネットの不思議、探検隊!』についているRFIDタグと個人の情報について

ほーら出た。定番のパターン。つまりこの文は暗に、

心配する人がいるとしたら、それは、RFIDタグがついているということだけで(無根拠に)心配するような人である。

という理解に誘導している。

アルミホイルで包むとか、出版社に郵送して有償で無効化してもらうなどという非現実的な回避策を挙げているのは、「そのままで問題ない」という前提があるからだろうか。

たしかに現時点では、個人情報を提供するほとんどの場において、このタグのIDを読み取られることはないだろう。しかし将来はどうなのかだ。

そもそも、私がこの本の出版の噂を耳にしたときの話では、あえてRFIDタグを搭載し、あえてその危険性について説明し、あえて回避策を説明することで、RFIDタグのプライバシーリスクについて読者に考えてもらい、実際にどのような問題があるのかを洗い出すためだと聞いた。そういう趣旨なのなら、先に述べたように、

この本を買うときや、この本を持ち歩いているときに、個人情報を提供すると、その個人情報はこの本の個体番号と結び付けられる可能性があります。個人情報を提供する際には、この本を身近に置いていないか意識する必要があります。

といった教育的説明をしてしかるべきだろう。続けて、

しかし現時点では、個人情報を提供するほとんどの場において、このタグのIDを読み取るリーダが設置されていることはないと考えられます。ただ、将来、ユビキタスコンピューティング社会が到来し、至る所にリーダが設置されるようになると、状況は変わってくるので注意が必要です。

などと書いたらよい。

それなのに、「問題はないんだけど、心配症の人のために、いちおうの回避策を挙げておくよ」と言わんばかりの免責的な説明になっている。これじゃ教育どころか、日経コンピュータの「消費者に理解されていないICタグ」と同レベルではないか。まったく失望した。というか、たぶん私が噂を聞き間違えたのだろう。RFIDタグを搭載することが先に決まっていて、そのままでは批判を浴びるから、説明を書かざるを得なかったといったところではなかろうか。そういう発想で文章を書けば、「問題ありません。問題ありませんが心配な場合は……」という展開になってしまうのはいつも通りのパターンだ。FOMAのFirstPassのQ & Aしかり、ツーカーの回答書しかりだ。

以下はあくまで余談だが、

★出版社でのRFIDタグの無効化手続き
 この手続きをするには、書籍を太郎次郎社エディタスへ送る必要があります。

ご返送先を明記し、210円分の切手を同封のうえ、太郎次郎社エディタスへ本を送ってください。順次、タグを読めないように処理してからご返送します。

『インターネットの不思議、探検隊!』についているRFIDタグと個人の情報について

返送先住所情報の取り扱いに関するポリシーが説明されていない。RFIDタグをわざわざ無効化するような「心配をされる人」の住所名簿が作成可能となっている。これは結構価値のある名簿となるかもしれない。

本は書店に出向いて買えば匿名で購入できるのだが、この本の場合、RFIDタグの無効化手続きのために名前を明かさざるを得ないという、なんとも皮肉な話だ。

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