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高木浩光@自宅の日記

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2003年06月15日

ソニースタイルがやってくれた

偶然なのか必然なのか、日経IT Proで「HTMLメールが急増中」が掲載されたのと時を同じくして、ソニースタイルからこんな案内が来ていた。

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このメールは2003年5月28日現在、ソニースタイルログインIDをお持ちの方へ
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つまり、HTMLメール形式のメールマガジンに移行しますよという告知だ。そのまま配信されてくるのを楽しみに待っていたのだが、13日についに来た。それはとても興味深い形式で送られてきた。

HTMLメール形式を受け入れたのだが、送られてきたメールは、HTML形式とプレインテキスト形式のハイブリッド版だった。

Content-Type: multipart/alternative
で送られきたのだが、「text/plain」パートには、これまで通りのテキスト形式のメールマガジンの内容が書かれていて、「text/html」パートに、よくあるHTML形式のメールマガジンが書かれているのだ。つまり、両方の形式のマガジンを1通のメールで送ってきている。内容は同一ではない。テキスト用とHTML用では書かれている内容が大幅に異なる。こういうのを「multipart/alternative」と称すのは誤りだと思うが、それはまあよしとしよう。

興味深いのは、「test/plain」パートの冒頭部分だ。HTML版にアクセスするURLが書かれているのだ。これはおそらく、HTMLメールを拒否した場合の、テキストのみ版のメールマガジンにも同じように案内さているのだろう。

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つまり、HTMLマガジンをWebサーバに置いてくれたのだ。もしかしてこの日記の影響?……と考えるのは早計だろうか。すでに他でもやっていたのかもしれないが、未調査だ。

さて、HTMLマガジンをWebサーバに置くというアイデアを評価してみよう。上のURLにアクセスすると、以下のページに自動的にジャンプするようになっている。

http://www.jp.sonystyle.com/Mail/Stylemember/030613/
この内容は、メールで送られてきた「text/html」パートと同一の内容になっている。

私は好き好んでソニースタイルのメールマガジンを購読してきたので、内容には関心があった。しかし、テキスト形式のメールマガジンでは、はっきり言って読むのが苦痛だった。要点だけ伝えてくれと願っているのに、ダラダラとどうでもいいことが書かれているからだ。たとえばこんな感じ。

 「今日、帰りにちょっとソニプラ寄ってかない?」
 高校生からOLまで幅広い層に熱心なファンを抱えるソニープラザ。
 店内をぶらぶらしながら、最新コスメやユニークなバス用品、ポップなデザ
 インの輸入雑貨に思わず目をキラキラ!なんて思い出をお持ちの女性も多い
 ことでしょう。

他社のメールマガジンにはもっとウザいものがある。バカバカしい挨拶から始まるものだ。たとえば、「ぷららパラダイスFor You倶楽部」のメールマガジンから引用するとこういう挨拶で始まっている。

 こんにちは、きむです!
 
 東京では最近、ぐずついたお天気が続いています。もう梅雨なのかなぁ。。。
 と感じる今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
 お天気の悪い日は、お家でのんびり今まで撮ったデジカメ画像を整理してみ
 るのはどうでしょう?
 思い切って外に飛び出して雨の街を写真に収めてみるのも新しい発見がある
 かも!?

「きむ」って誰だよ! というか、どうせ偽名だろう。それだけで無礼な話だ。こういうコミュニケーションスタイルは、メールマガジンを読むことくらいにしかパソコンの活用方法を見出せてないピープルにとっては、「きむ」は待ち遠しい「メル友」の一人なのかもしれないが、要点だけ伝えてくれと願って購読している者にとっては、これだけで読む気が失せる。

HTML形式のマガジンでは、こうしたバカバカしさがなく、ウザい説明もなく、パッと見で要点を掴むことができる。だから、HTMLマガジンは事業者にとっても消費者にとっても有益なのだ。

この違いはなぜ生ずるのか。今回、ソニースタイルで同一のマガジンをテキスト形式とHTML形式の両方で読んで、それをはっきりと認識した。基本的に、テキスト形式のメールマガジンは、オフライン状態で読まれることを想定しているようだ。つまり、ダイヤルアップのナローバンド接続の顧客を想定している。そのため、メールを読むだけで、そこに案内されたURLにアクセスしてみたくなるように、いろいろと、ウダウダと、ダラダラと、挨拶やら説明やら馴れ馴れしい文句が書かれているわけだ。そういうのを読まされて「要点だけ伝えろよ!」とイライラするのは、私がブロードバンドの常時接続を使っているからだ。URLにアクセスするくらい、いつでもすぐにホイホイとクリックするよう、スタンバイしている。どれを選べばいいのか探しているのに、ダラダラとくだらない説明は邪魔なだけだ。

http://www.jp.sonystyle.com/Mail/Stylemember/030613/ を見ればわかるように、これはもはや、ごく普通のWebページだ。これでいいじゃないか。HTMLメールで送る必要など全くない。「メールマガジン」というメディアそのものが、つまり、形式だけでなく内容そのものについても、ダイヤルアップでナローバンドな接続の時代にのみ存在価値のあるものだったということだ。ブロードバンド常時接続では、Webに宣伝を書いて、更新があったことだけメールで通知すればいい。

6月6日の日記で、「マガジンのURLだけ簡潔に紹介すればいい」という案を示したが、ソニースタイルの今回のマガジンでは、テキスト版と共に、Webサーバ上のHTML版へのリンクを案内するという方法だった。なるほど、それはいいアイデアだ。

リンク元をたどって見つけた「DON's Diary」の6月10日の日記によると、

昨日書き損ねていた件だけど、同じく高木さんの主張で

HTMLメールを送る代わりに URL を一行書いただけのメールを送ればいい。やりそうによってはマーケティング的な要求も満たせる。(詳細はタイトルのリンクを参照)

というのも違うんじゃないかと。確かに、技術的には、仕組み的にはそれで等価なんだろうけど、広告的なインパクトはぜんぜん違うと思う。それを技術的な問題だけで流してしまうのはちょっとずるいなぁと。

とあった。つまり、購読者がWebサーバ上のHTMLマガジンへアクセスしてくれるかどうかということだが、好き好んで購読している人ならアクセスするだろう。ナローバンドなダイヤルアップ接続の人は見てくれないことも多いだろうが、ブロードバンド常時接続ならとりあえず開くことだけはする。開いてみて見ている時間がないと感じる人には見てもらえないわけだが、それは、HTMLメールで送ってプレビューされたときだって同じことだ。開けばいいというものではないだろう。内容を見てもらえるかで評価しなくては意味がない。

その点で、ソニースタイルの、テキスト版メールマガジンと共にHTMLマガジンを案内するという方式は、クリックしてもらえなかった場合にも備えている。常時接続とダイヤルアップ接続を併用している人(ノートPCを屋内で常時接続、屋外でPHS接続している人など)にとってはこれが最適だろう。だったら、HTMLメールはやめてしまったらどうか。

ブロードバンド常時接続の人は、一度Web版の方を見れば、その読みやすさに味を占めて、次回以降はすぐにそのURLにアクセスするようになるに違いない。問題は、まだそのわかりやすさを経験していない人たちにどうやって経験させるかだ。その点、今回のソニースタイルの「HTML版」という案内は地味すぎる。もっと積極的に、たとえば次のように案内してはどうだろうか。

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このメールは2003年6月11日現在、ソニースタイルログインIDをお持ちの方で
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ブロードバンド常時接続環境の方はこちらをご覧ください。このマガジンと同じ 内容をビジュアルにわかりやす伝えています。 http://mail.jp.sonystyle.com/cgi-bin16/DM/y/mP250HXXXXXXXXXkUF0Bo

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ソニースタイルが、顧客の安全性に配慮する企業であることをアピールするならば、HTMLメールをやめてしまえばいい。その理由を説明して、Webマガジンへのアクセスを積極的に促せばいい。

HTMLマガジンをWebに載せることの問題点として考えられるのは、メールを購読していない人にもマガジンを読まれてしまうことだろうか。しかし、宣伝広告なのだから、より多くの人に読まれることは歓迎のはずだ。日記からリンクされることで、読者数は増えるかもしれない。デメリットは、URLに購読者IDを埋め込めないので、これまでWebバグで追跡して得てきた情報が得られなくなることだ。これまで購読してきた人たちが購読をやめていくことで、得られる情報が減っていく。

そもそも追跡は必要なのか

今回のソニースタイルのメールマガジンの「text/html」パートには、しっかりとWebバグが埋め込まれていた。HTMLパートの末尾がこうなっている。

<IMG SRC="http://mail.jp.sonystyle.com/cgi-bin16/flosensing?y=P250HXXXXXXXXXDg"></html>
「text/plain」パートも、上に紹介したように、リンク先に同じIDが埋め込まれているので、同様に追跡されている。

こうした追跡はなぜ必要なのか。[memo:6011]の事例では、

この仕組みから弊社が得ているのは、あくまでも「統計的データ」ということになります。

とのことだった。個人の特定が可能な状態ではあるが、個人の特定はしていないという。得ている統計情報は、メールが開封された数と、マガジン内の各リンクがクリックされた数であろう。

こうした統計が必要な理由は、メールマガジン発行業者(あるいはメールマガジンを書く担当者)の仕事を評価するためではなかろうか。ナローバンド時代のメールマガジンでは、いかに購読者にクリックさせるかが勝負だった。ダイヤルアップして接続料を払ってまでアクセスさせるには、興味をひく文章と章立てが求められる。いろいろな方法を試して、どれが効果的かを確認するために、そうした統計情報が必要なのだろう。メールを開封しただけでIDが記録されるのは、開封率を求めるためと言われているが、これは、開封率(送信数に占める開封された数の割合)よりも、クリック率(マガジン中の各URLがクリックされる割合)を求めるための分母としての開封数を調べるために必要としているのではなかろうか。

そうだとすると、マガジンをWebに置いた場合では、母数はアクセスログから得られるので、追跡は不要になるのではないか。WebマガジンのサーバでIDを入れたcookieを発行し、cookieのIDと共にアクセスログを解析すれば、何割の人がどこを見たかを分析できる。このとき、cookieはセッション限りのものとしておけばいい。バナー広告では、同じ人に同じ広告を何度も出さないなどの目的で、ハードディスクに保存されるタイプのcookieにIDを発行しているが、Webマガジンでは、アクセス動向だけを調べたいのだから、そうした永続的なIDを必要としない。セッション限りのcookieならば、ブラウザを終了した時点で破棄される。更新通知のメールにも個別にIDを入れる必要がないので、プライバシー侵害の懸念は消滅する。

さらに言えば、cookieすら発行の必要がないようにも思える。cookieなしでアクセス解析をしようとすると、IPアドレスを頼りにすることになる。大企業からのアクセスなどでは、ProxyサーバやNATがあるため、同じIPアドレスから多数の人がアクセスしてくる場合がある(あるいは、負荷分散Proxyサーバが使われているために、同じ人が異なるIPアドレスからアクセスしてくる場合もある)。しかし、得たいのは統計的な情報だ。有効桁は2桁か3桁程度だろう。その程度の情報を得るためならば、ラフな集計でも十分のように思えるのだが。

「DON's Diary」の6月9日の日記では、

高木浩光@茨城県つくば市さんが、「なぜ、企業はHTMLメールマガジンを送りたがるのか」という件について以下のような考察をしているが、外していると思う。

おそらく、メールマガジン業者のセールスにまんまとのせられているためではないかと憶測する。

メールマガジン発行元 *1 自身が自ら望んでHTMLメールを出したがっているという例も少なくないと思うんだけどね〜
 もちろん、その裏にマーケティング手法をコンサルしている会社とか、広告企画をアウトソースしている会社とかがある 場合もある とは思いますが。

と指摘しているが、HTMLマガジンが見やすいものであって、ネットショップなどがそれを出したがっていることは百も承知だし、消費者としての私自身がそれを望んでいる。私が言っているのは、Webサーバに置かずにメールで送信して、Webバグにより追跡する仕組みを使うのが、メールマーケティング業者の都合に過ぎないのではないかということだ。ネットショップ事業者にとって、顧客のプライバシー不安のデメリットを犠牲にしてまで、得たい統計情報がそこに本当にあるのかと問いたい。

「DON's Diary」の続く部分にあるように、一部のメールマガジンでは、誰がどの項目を見たかを記録して、それに応じた案内をしているところもあるのだろう。だが、それをやっていない事業者もある。[memo:6011]の事例では、統計的な情報だけを得ているとされている。これらは分けて議論する必要がある。

ネットショップ事業者が、顧客のプライバシーを大切にしたいと考えて、個人を特定せずに統計情報だけを得るつもりでいても、委託されたメールマーケティング事業者が、個人を特定できる状態のシステムを動かしているというのはどうなのか。ネットショップ事業者は、その事実の意味を理解しているのだろうか。理解しておらず、メールマーケティング事業者の言われるがままにしているのではないか?というのが私の懸念だ。

とはいえ、今回のソニースタイルのメールマガジンのように、テキストメールにURLを書いてWebマガジンにアクセスを促す試みを、始めたばかりのときには、本当にアクセスしてくれているかを調べたいだろうから、開封率の値も欲しいかもしれない。これについては6月6日の日記に書いたように、ハッシュした値(情報量を削った値)を埋め込む方法をとることで、個人が特定されることなく、開封率を得ることができる。ソニースタイルが顧客のプライバシーを尊重するのであれば、こうした工夫をしてみてはどうだろうか。

まとめるとこうだ。「ナローバンドなダイヤルアップ接続が主流だった昔、メールマガジンというメディアが生まれた。購読者は、オフライン状態でテキスト情報を読み、特に興味あるところだけ、インターネットにつないでWebアクセスをするという使い方をしていた。メールマガジンの発行者は、どうしたら興味を持ってアクセスしてくれるかにしのぎを削った。工夫の効果を確認するため、URLに購読者IDを埋め込んで、何割の人がどこを見てくれたかを集計する仕掛けを始めた。こうした統計情報は、メールマガジンの発行を委託するネットショップにとって、成果を評価する上で常識的な手段となった。しかし、メールを送っても開封してくれない購読者が増えてきたため、クリック率は低下していく。より正しい評価をするには、開封した人のうちの何割がクリックしてくれるかを調べることだ。そのために、HTMLメールを使えば、Webバグを埋め込むことによって、開封率を取得できる。メールマガジンのHTMLメールへの移行には、そうした目的もあった。しかしどうだろうか。ブロードバンド常時接続が当たり前になってきた現在、もはや、メールマガジンのクリック率を気にする必要などなくなってしまった。消費者にとって、見たい情報を見るのにコストがかからなくなったからだ。それでも見ない人は元々見ない人なのであるから、開封しない人の数を数えることには意味がなくなった。それだけではない。ナローバンド時代でもHTMLメールマガジンは発行していたが、それはテキストのマガジンに毛が生えた程度の画像を付け加えたものだった。それが、ブロードバンドが普及するにつれ、HTMLマガジンの内容は、もはやメールマガジンのようなものではなく、通常のWebページと同じような構成をとるように内容そのものが変化した。こうなると、もはや、どの部分が沢山クリックしてもらえたかということも気にする必要がない。メールマーケティング業者は、クリック率集計システムという技術で商売を展開してきたが、ブロードバンドが主流となり、もはや出る幕がなくなってしまった。生き残っていくには、単なる統計情報ではなく、顧客を特定してカスタマイズした情報を提供する、一歩先のサービスを提供することだ。だが、これは、個人が特定されていることが消費者にバレバレであるため、顧客を大切にするネットショップ事業者は導入に慎重だ。将来に理解が得られるようになるまでに、なんとか、HTMLメールが当たり前のものとして普及する下地を作っておかねばならない。今こそ、日経BPに「今時HTMLメールが常識だよね」という提灯記事を書かせて、批判を牽制しよう。日経ネットソリューション6月号には、うまいこと「メール・マーケティングの新しい“姿”」、「PC向けテキスト・メールはもう限界 HTML,携帯メールが主役へ」、「HTMLメールが必須のツールに」、「もう“やっかいもの”じゃない」という記事を書いてもらえた。だが、IT Proでは、タイトルの決定権を持つIT Pro編集者に「HTMLが急増中」などというショボいタイトルに変えられてしまった。あげくに「HTMLメールはやめよう」だと?クソ」と。 これはあくまでも想像だが、はたしてどうだろうか。

メールマーケティングは、ちょっとしたITスキルを活用して、比較的容易に参入できるベンチャービジネスだったのではなかろうか。外資系の著名業者が複数日本支社を持つ上に、日本発の業者も一時期は乱立していたように思う。ブロードバンド化によって生き残る道が模索されているのであれば、古くからのシステムに安住して既得権にしがみつくのでなしに、顧客プライバシーを最大限に保護した新たなメールマーケティングシステムを開発し、他の事業者との差別化を図っていったらどうか。ネットショップにとっても、そうした事業者を採用することは顧客へのアピールになるだろう。ただし、そのためには、消費者がそうしたプライバシー問題の存在を知っていなくてはならない。

プライバシーポリシーで解決するのか

リンク元をたどって見つけた「つれづれなる備忘録」の6月8日の日記によると、

famima.com のサービスは Root CommunicationsHTMLメールマーケティングガイド (or VMM - HTMLメールのプロフェッショナルサービス )のやつですか。 ("HTMLメール" で Google で検索すると先頭の方に出てくるところですが。)

うーむ。 HTMLメールを発行する前に準備すること (Japan.internet.com Webマーケティング) の記事とか見るに、プライバシーポリシー&Webビーコンの話にも触れてるし、ここは比較的まともそうに思ってたんですが、実態はそうではないのかなあ。

とあった。

たしかに同社の、HOW TO HTML MAIL MARKETINGという解説には、「HTMLメールを発行する前に準備すること」として、ユーザーに不快感を与えないためにやっておくべきことがあると指摘している。そこに書かれているのは、(1)HTMLメールとは何か説明すること、(2)希望しない人に拒否できるようにすること、(3)プライバシーポリシーを提示することの3点だ。

(1)と(2)については、多くの事業者がそうした説明を実施している。しかし、(3)はどうだろうか。この解説は、同じものがjapan.internet.comにも掲載されているが、プライバシーについて書かれたのはたったこれだけでしかない。

■プライバシーポリシーの検討

これは HTML メールに限った話ではありませんが、メールアドレスやその他個人情報を取得するにあたっては、サイトとしてのプライバシーポリシーを明確にし、ユーザーに告知する必要があります。加えて、HTML メール固有の問題として、クッキーの使用や WEB ビーコンの使用の問題がありますが、この点についても使用に関する明確なガイドラインを設け、ユーザーに告知することが必要です。

メールマガジンでメールアドレスを収集するのは当たり前だ。Webビーコンについての言及があるが、「使用に関する明確なガイドラインを設け、ユーザに告知すること」としか書かれておらず、具体的に何を説明すべきなのかについて、説明していない。次の回のHTMLメールを発行する前に準備すること (2) では、

■丁寧な準備でユーザーの信頼を獲得

メールというメディアは「相手の世界に踏み込む」という特性をもっていますから、最初のメール配信でユーザーの信頼を獲得することができれば、その後のマーケティングの効果はグンと違ってきます。 HTML メールで新規に配信を始める場合も、テキスト形式から切り替えていく場合も、事前の準備をていねいにしておくことがユーザーからの信頼向上につながるという点では、変わりありません。

と締められている。顧客の信頼を得ることを大切にしているようだが、どうやらそれは、HTMLメールへの移行を事前に説明すること程度にしか考えられていないようだ。プライバシーポリシーの書き方はこの回でも説明されていない。

「つれづれなる備忘録」の続きの部分で紹介されていた、社団法人関西経済連合会の「関西Eビジネスネットワークプライバシーポリシー規定」というのを読んでみたが、これは駄目なプライバシーポリシーの典型だ。

第6条 クッキー(Cookie)及びWebビーコンについて

  1. クッキーは、インターネットの効果的な運用のために、ウェブサーバーが利用者のブラウザに送信する小規模の情報ですが、運営者は、利用者個々のニーズに合わせてウェブサイトをカスタマイズしたり、ウェブサイトの内容やご提供するサービスを利用者がよりご満足いただけるよう改良したりする為、クッキーを使用することがあります。
    利用者は、ブラウザの設定により、クッキーの受け取りを拒否したり、クッキーを受け取ったとき警告を表示させたりできます。しかしながら、その場合はパーソナライズ機能などが使えないなどの制約が生じることがあります。
  2. Webビーコン(「クリアGIF」)とは、利用者のコンピュータからのアクセス状況を把握して、特定のwebページの使用率等に関する統計を取ることができる技術です。本システムでは、ウェブサイト改善のための統計的情報取得などの目的で、Webビーコンを使用することがあります。 


と書かれているが、これは、cookieとは何か、Webビーコンとは何かという一般的な解説を述べているに過ぎず、「使用することがあります」という表現は、使っているのか使っていないのかすら説明していない。つまり、この文章は、あらゆるサイトでコピー&ペーストで使える、オールマイティな文章であって、このサイトでどうしているのかということについて説明している情報量はゼロ。全く意味がない。こんなのは「ポリシー」でない。経済連合会でさえこの程度の認識なのか。

さて、ソニースタイルではどうだろうか。HTMLメールへの移行に先立って予告があったときには、HTMLメールとは何かという説明と、HTMLメールを拒否する方法の説明の後に、

また、HTML形式のメールへの変更にともない、一部配信に関する規約に変更がございます。下記をご確認ください。

と書かれていた。その規約はここにある。「クッキー」、「ビーコン」、「プライバシー」という文字列が見当たらないが、第10条に「利用者の利用者情報」という説明がある。

1. ソニースタイルは、次項に定める目的のために利用者から提供を受けた氏名およびメールアドレス、配信メール内URLからのウェブサイト閲覧および行動履歴等の利用者情報を、厳重な管理体制のもとで保持し、第三者が不当に触れることがないよう合理的な範囲内でセキュリティの強化に努めるものとします。

とあり、メール内のID付きURLから行動履歴を収集していることに触れている。しかしこの文は、セキュリティ保護に努めるという文なので、さりげなく書かれた、行動履歴を得ているという部分に、普通の消費者は気づかないのではなかろうか。

この規約は、個人情報保護法をにらんだ法的な防衛でしかなく、消費者への説明にはなっていないように思える。Webビーコン付きのHTMLメールを始めるときに必要な消費者への説明は、以下の点ではなかろうか。

  • ビーコンによってどんな情報がどこに蓄積されるのか
  • 蓄積した情報はどのようにしか使わないのか

前者については説明されていない。「ウェブサイト閲覧および行動履歴等の利用者情報」という大雑把な説明があるだけだ。これでは、普通のWebアクセスのIPアドレス記録のことかと誤解する消費者が多いだろう。どのメールアドレスの人が、何時何分に、どこを見たかが記録されるという事実を具体的に説明しなくては、単なる防衛線でしかなく、顧客の信頼を得るための説明ではない。

後者については、続く部分に次のようにある。

2. ソニースタイルは、以下の各号に定める目的で利用者の利用者情報を利用するものとし、それ以外の目的で利用者情報を利用する際には、別途目的を明示し、利用者の同意を得るものとします 。

  1. 電子メールによる各種情報配信サービスの企画・提供
  2. ソニースタイルに対するご意見やご感想の提供のお願い
  3. 統計資料の作成

「電子メールによる各種情報配信サービスの企画・提供」というのがあると、何でもアリではないか。個人を特定して行う情報配信サービスもやると、この文章は言っているのだろうか。統計情報にしか使わないのか、個人を特定したサービスを行うのか、はっきりした説明になっていない。

ちなみに、

4. 利用者は、別途ソニースタイルが定める手続により、ソニースタイルに提供した自己の利用者情報の照会、修正および削除を行うことができます。ただし、配信メール内URLからのウェブサイト閲覧および行動履歴など、ソニースタイルが自動的に取得する情報については対象外といたします。

とあり、行動履歴は削除してくれないそうだ。

tracerouteしてみよう

ソニースタイルのメールマガジン内のジャンプ先URLは、mail.jp.sonystyle.com というホストだった。ここへ tracerouteしてみると、

 12    28 ms    23 ms    30 ms  ge9-0-1000M.cr1.NRT1.gblx.net [203.192.128.237]
 13   177 ms   171 ms   218 ms  so1-3-0-622M.ar2.DEN2.gblx.net [208.49.91.45]
 14   172 ms   167 ms   170 ms  Double-Click.so-1-0-0.ar2.DEN2.gblx.net [204.246.203.254]
 15   168 ms   169 ms   170 ms  network-65-167-64-66.dclk.net [65.167.64.66]
にたどり着く。DoubleClick社か。気づかなかった。 メーラのゴミ箱を漁ると、これまでフィルタで自動的に捨ててしまっていた、日本航空と、アップルコンピュータのメールマガジンが見つかった。HTMLパートだけのメールだったので、spam扱いして捨ててしまっていて気づかなかった。そこには、やはりWebバグが埋め込まれていて、それぞれ
jmb.jal.co.jp
news.apple.co.jp
というホストにアクセスするようになっていた。これらについてもtracerouteしてみると、ソニースタイルと同じく「network-65-167-64-66.dclk.net」にたどり着くようだ。ありとあらゆる企業の顧客の行動履歴がダブルクリック社に蓄積されているようだ。

ダブルクリック社のプライバシーポリシー

他の会社がDARTmailのテクノロジーを利用して電子メールの送信を行う場合、

の部分を読んでみたが、メールにWebバグを入れていることについて書かれていない。

ウェブサイト上で取得した個人情報の取り扱いについて」には、

5.当社のウェブサイトについて(クッキー及びクリアーGIFについて)

当社のウェブサイトはアクセスしたユーザーがウェブサイトをより効率よく使用できるようにするために、クッキーまたはクリアーGIFを使用しています。これらのクッキー及びクリアーGIFは、インターネット上の広告配信に用いられる当社のクッキーとは何ら関係がなく、かつ、個人を特定しうる情報を含むものではありません

という説明があるが、メール中のクリアーGIFが「個人を特定しうる情報を含むものではない」というのは事実でない。しかし、この説明は、www.doubleclick.ne.jp に関する説明なので、メールのWebバグとは関係がないのだろう。

メールマガジンのWebバグに関する説明は、配信業者ではなく、発行事業者が説明するのが筋なのだろうか。

日本航空はどう説明しているだろうか。JAL 個人情報の保護を読んでみると、ウェブビーコンの使用についてという項目があるが、「ウェブビーコンを使用した調査についてはYahoo! JAPANに委託しております」とあり、メールマガジン中のWebバグについては述べていないようだ。JALマイレージバンク会員向けページ内の「Eメールアドレス登録・変更・削除」の画面に、「HTML形式でのメールニュースを 受信する/しない」の選択肢があるが、ここで説明されているのは、以下のことだけだ。

HTMLメールとは、通常のメール(テキスト形式)を発展させた形のメール形式で、画像を表示したりすることのできるメールです。

※HTML形式のメールをご覧いただくには、HTML形式のメールに対応しているメールソフトが必要です。  HTML形式対応については、メールソフトメーカーまたはサービスプロバイダにご確認ください。

関連情報

  • ZDNN: スパムに潜む小さなスパイ (2002年4月)
    ユーザーのオンラインでの行動を追うcookieやWebビーコンは,WebサイトだけでなくHTML形式のメールからも送られてくる。だが,商業Webサイトでは既に定着しているプライバシーポリシーの開示が,この種のメールでは確立されていない。
    ...
     メールに関するプライバシー施策を開示する上での問題の1つは,メールマーケティングキャンペーンの大部分が,サードパーティを介して,(広告主と)離れたところで行われていることから生じている。このため,メールマーケティングサービスを実施する企業は,キャンペーンを代行している企業がどういったことをやっているかを,常に完全に把握していない可能性がある
  • ZDNet エンタープライズ ニュース: その個人情報は本当に必要か? アクセンチュアが語る個人情報保護対策 (2003年6月)
    武田氏はもう1つ、興味深い指摘を行っている。「中には、特に明確な目的もないままに個人情報を収集しているケースもある。しかし、企業が個人情報を保有するということは、1つのリスクでもあり、不要な情報まで保有するのはリスクを高めることだ。“本当にその個人情報は必要なのか”といったところに立ち戻って見直す必要がある」
  • ZDNet エンタープライズ ヘルプデスク: 第1回:プライバシーの保護は必要か?−Webバグ− (2001年12月)
    しかし,こういった情報収集行動について,ユーザー側がその存在を知っているか,いないかでは大きく変わってくる。ユーザーが知らなければ「プライバシーの侵害だ」と,プライバシー援護団体などから猛反発をくらうことになる。クッキーの章にも書いたが,クッキーファイルもまた,ユーザーの知らぬ間に利用されているということで,プライバシー援護団体から問題視されている。

6月7日の日記で、「日本で独自にWebバグについてコメントした公式な発言は極めて少ない」と書いたが、上のZDNetの「プライバシーの保護は必要か?−Webバグ−」にそれがあった。しかし、この記事も間違ってはいないが、微妙に説明が足りないように思う。

これは「single pixel GIF」や「Webビーコン」などと呼ばれることもあり,多くのサイトで使用されているようだ。ただし,プライバシーの侵害といっても,世間で騒ぐほど重大な情報が,Webバグで漏れているわけではない(通常の閲覧時で悪意のあるものは省く)。...もちろん個人名やメールアドレスなど情報が漏れるわけではないため,個人を特定するものではないが,クッキーを使用して,同じユーザーが何回訪問したかなどの情報は得ることができる。

とある。これは、Webページに埋め込まれたWebバグのことなので、これでもよい。続く部分で、

これはHTMLメールでも同様に使用できる。HTMLメールを受信したユーザーが,そのメールをHTML対応メールソフトで閲覧すれば,メールを閲覧したユーザーのメールアドレスと,メールを閲覧したか否か,そしてメールを閲覧した場合は,その日時などの情報が得られる。

と一応は説明されている。しかし、この部分が目立たない。最後には、

ただし,ブラウザのセキュリティホールなどを利用する「悪意を持った情報収集」は別として,どのページを参照したかなどの情報は広告業者に限らず,Webサイトを作成,管理する側でも日常的に収集されており,それらの情報を元にWebページの改変などを行っている。つまりWebサイトを作成している側から見れば,これらの情報から個人が特定できるわけでもないので,なぜプライバシーの侵害と騒がれるのか,いささか疑問が残るのではないだろうか。

とまとめられているので、ここが目立ってしまう。続く部分に、

しかしHTMLメールでのWebバグは,スパマーが悪用すれば,どういったユーザーがスパムメールを読んでくれたか(つまり生きているメールアドレス)を教えてしまうため,あまり好ましい行為とは言えないのかもしれない

と書かれているが、「あまり好ましいとは言えない」という程度のものではないし、spamだけでなく事業者が個人を特定していることについて紹介しておく必要がある。(といってもこの記事は1年半前に書かれたものだ。)

追記

日経インターネットソリューション6月号のpp.89-103は読んでみたいなあ。でも周辺では誰も購読してなさそうだ。

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